黒猫クロン
ジンバに見送られ神社を後にした私は、しばらくして歩みを止めた。
やり残したこと、思い残したことを置きに行く旅。
やり残したこと。まずはやっぱり、コウとの結婚の報告をしに田舎に帰る。
だけど‥·猫になってしまった以上普通に電車に乗るのは難しいだろうな。前回の件もあるし。
でも、歩いて行ったら何日かかることやら‥·。
それより何より、既に日は暮れて真っ暗だ。今が何時かわからないけど、これから動くのはいかがなものか?
無我夢中で逃げ出したせいで、自分が今何処にいるのかも分からない。
今日の所はとりあえず何処か寝床を探して、日が明けたら動き出そう。
考えをまとめた私はまた歩き出した。
寝床と言っても普段他の猫達はどこで寝ているのだろう? 公園でもあればいいのだけど。それとも神社に戻ろうかな?
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから突然声をかけられた。
「ねぇ、あなた」
振り返ると一匹の猫がいた。
全身真っ黒だが、お腹だけが真っ白。
「この辺じゃ見ない顔だけど。迷子?」
「迷子といえば迷子、かな?行きたい所があるんだけど、自分が今何処にいるのかわからなくて。とりあえず日が明けたら動き出そうと思って寝床になりそうな場所を探してたんだけだど」
私は苦笑いしながら言った。
「そうなの?可哀想に。じゃあ、ワタシに着いていらっしゃい。ワタシが寝床にしてるトコで休むといいわ」
「え?!いいの?」
「構わないわ」
そう言って歩き出した猫の後を遅れて付いて行く。
「ワタシの名前はクロン。アナタは?」
「ネコ」
私は短く答える。
「ネコ?まんまね」
そう言ってクロンは笑った。
しばらく歩いて私達はクロンの寝床に着いた。
窓ガラスがあちこち割れているボロボロの一軒の廃屋だった。
開けっ放しになっている玄関から中へ入る。
「なんにもないけど、他の猫が来ることもないから。気にしないでゆっくり休むといいわ」
そう言ってクロンは「ファー」と、伸びをした。
「ありがとう。ホントに助かったわ。右も左も分からない所でどうしたものか困っていたから」
お礼を言う私にクロンは「気にしなくていいわよ」と笑った。