猫
どこをどう走ったのか。
ただ、『捕まりたくない!』その思いだけで、ひたすらに走った。
「ハァ、ハァ、ハァ」
息が上がる。
もう、大丈夫だろう。
喉がカラカラだ。何処か水が飲める所はないかしら?
私はゆっくりと歩き出した。
見上げた空はすでにまばらに星が輝き出していた。
「電車、乗りそびれちゃった‥·。多分、終電も行っちゃっただろうな‥·」
何が何だか分からない不安と、悔しさと、悲しさと、寂しさが混じり合って一気に吹き出してくる。
自分が今何処にいるのかも分からないまま歩いていると、寂れた鳥居が見えた。
おそらくはこの神社の名前が記されているのだろう木の板の文字も掠れて読み取れない。
「神社か·‥。随分古そうね。でもー神社なら手水舎があるはず。本来の目的とは異なるけど、お水、飲めるかも」
とにかく少しでも早く喉を潤したかった私は鳥居をくぐった。
石段を登り切ると砂利道が広がる。
私は薄明かりの中、手水舎を探して辺りをキョロキョロ見回しながら歩いていく。
本殿らしき建物が見えて来たとき、一本の大きな御神木が目に止まった。
引き付けられるようにその御神木の元へ近づく。
なんて大きくて立派な御神木だろう。
見上げながら歩いていたため、足元に気づくのが遅れた。
「冷たい!!」
足元に目をやると、そこには大きな水溜りがあった。
御神木の大きく広がった枝葉のせいで日陰になって、昨日の大雨で出来た水溜りが残っていたのだろう。
「?!‥·何これ‥·?」
私は言葉を失った。
何故なら、その水溜りに映し出されている姿が猫だったから‥·。