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自殺しようとしたら、異世界救世主に!?  作者: Kouya
第1章 自殺と異世界と出会い
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第8話 ダンジョンベースからの野宿

 森を抜けた俺たちは、預けていた馬車を取りに国が運営している小屋に向かった。しかし、着いた場所は、小屋というより道の駅やパーキングエリア思わせるものだった。


「思ってたより、デカい建物だな。」

「そう?ダンジョンの施設は食料や装備を売っている他に、宿泊施設や医療設備まで管理されてるから、どこもこんな感じよ。」

 さすが、国営。表世界もこのくらい国民のために政府が動けば、色々と発展しただろうに。

表世界の政治家は、自分たちは高い給料を貰っているくせに、給料の低い保育士や介護士などの給料を上がらないっていうニュースを何度か観たことある。その上、人手不足なのに対し、保育園や介護施設を増やすとか無駄なことをやっていたなぁ・・・。


「・・・あぁ、止めだ止め。俺はもう裏世界の住人なんだ。」

 ただの高校生だった俺が、ましてや別の世界に来て、政治について考えてどうする?

そんな、どうでもいいことを考えながら歩いていた俺を、ミアが心配そうに見ていた。


「レン、大丈夫?さっきまでニヤニヤしてると思えば、今度は難しい顔をして?」

「・・・うん、大丈夫、大丈夫。」

「そう?なら、いいんだけど。」

 余計なこと考えてたせいでミアに心配されてしまった。それにしても、森やダンジョンだと人見なかったけど、ここには結構いるなぁ。


「なぁ、ダンジョンと違ってここには人多いけど。今日、何かあるの?」

「いいえ。ここは、ダンジョンに行く目的以外にも、商人やハンターが旅の中継地点に使うから、いつもこんな感じよ。」

 なるほど、ダンジョンのため建物にしては大袈裟だと思った。それに、ハンターがいるなら商人も安心して休むこともできるだろう。


「おぉ、ミアちゃんじゃないか!おかえり!」

 突然、小屋の方からデカい声で近づいて来る大男がいた。


「あっ、ダリアンさん!ただいま。」

 どうやら、ミアの知り合いみたいだ。


「心配してたが、どうにかなったみたいだな。・・・ところで、そっちのあんちゃんは?」

「彼は、レン。・・・武者修行の旅の途中らしくて、私の試験を手伝ってくれたの。」

「おぉ!そうなのか!」

ちょっと待て、武者修行の旅ってなんのことだ!?

すると、ミアがそっと近づき・・・。


「そういうことにしときなさい。あなたが異世界人って分かったら、厄介事に巻き込まれるかもしれないから。」

 あぁ、なるほどそういうことか。


「・・・初めまして。沢渡 蓮といいます。」

「サワタリ?先に苗字が来るのかい?珍しいなぁ。俺は、ダリアン。このダンジョンベースの管理人兼ハンターをやってる。あんちゃんの出身は二ホンか、ヒーナか?」

「まぁ、そんなところです。」

 二ホンは、聞いたけど、ヒーナは初めて聞く国名だな。


「そうか。わざわざ遠い所から良く来てくれた!」

 遠いどころか異世界から来ました。


「ところで、ミアちゃん。体の調子は大丈夫かい?」

「えぇ、大丈夫よ。」

ん?ダンジョンに行っただけでこんなに心配されるものなのか?そういえば、さっきも心配してたな。


「なんだ、聞いてないのか?ミアちゃんはダンジョンに挑戦する前にキラービーの毒にやられて、5日間も寝込んでたんだ。」

「5日も!?」

 ミアの方を見ると、少し恥ずかしそうにしていた。

なるほど、それで10日もあったのに時間が掛かったのか。・・・・・あれ?


「ちょっと待って、移動に1日、毒にやられて5日、これで6日だろ?俺と出会った時に残り3日。あと1日どこ行った?」

「・・・・・霧が出てて、道に迷った。」

 ミアは、顔を真っ赤にして、耳が垂れていた。なんか、可愛い。


「まぁ、仕方ねぇよ。ダンジョンベースだから早く回復したが、キラービーの毒は何もしなければ、10分で死。解毒剤を投与しても、人によっては半月くらい動くことも出来なくなるからなぁ。」

「そんなに掛かるんですか?」

「あぁ、この辺りの魔物の中ではもっとも強力な毒を持っているからなぁ。その上、素早い。素人じゃ、まず太刀打ち出来ない。」

 そんなに強いのか、ミアじゃあ勝てないわけだ。


「何見てんのよ・・・。」

「別に、何も。」

 ミアにすごく睨まれた。相当、気にしてるな。


「まぁ、生きてるんだからいいじゃねぇか!それより、お前さん達は、もう王都に帰るんだろ?馬車を用意しとくからゆっくりしときな!」

「ありがと。ダリアンさん。」 

「ありがとうございます。」

「おう!任せておきな!」

 そう言って、ダリアンさんは馬小屋がある方に向かって行った。


「いい人だな。少し、声が大きいけど。」

「あはは。でも、ダリアンさんは凄腕のハンターで『戦斧のダリアン』って言われるほど、斧での戦いが得意なの。」

 へぇ、見た目通り凄い人なんだなぁ。


「ところで、ゆっくりしろって言われてもどうする?必要な物は俺の【アイテムボックス】に入れてるし。」

「そうね・・・。せっかくだし、お昼食べて行かない?」

「いいな、それ。こっちの料理にも興味あるし。」

 こっちに来てから、食べたのは俺が作ったものだけだけだからなぁ。


「そうねぇ。それじゃあ、施設内のレストランにでも行きましょ。」

 向かったレストランは、表世界のファミレスみたいな感じだった。


「いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ。」

 案内された席に座り、注文をした。


「私は、パンケーキセットを。レンは、何にする?」

「そうだなぁ、鳥の香草焼きのセットをお願いします。」

「かしこまりました。」

 ウエイトレスが注文を取って、去って行った。

 さて、これからどうするか。ミアと一緒に旅をするって約束したけど、俺は裏世界について知らなさ過ぎる。王都に着いたら、まずは情報収集をしないとなぁ。


「ねぇ。レンは、こっちに来るまで何をしてたの?」

「えっ?・・・・・。」

 突然のミアの質問に答えるか迷った。話してもいい気分しないし、飯の前に話す内容でもない。どうするか迷っていると、注文した料理が来た。


「先に、飯にしようぜ。話はその後だ。」

「・・・まぁ、いいわ。いただきましょ。」

 ミアは少し不満そうにしていたが、何も聞かないでくれた。

 俺の頼んだ鳥の香草焼きは少しパサついていたが、臭みは無く、まぁ食べられる。おいしいかどうかと言われると、普通だ。というか、味付けが塩だけみたいでそれ以上の感想が出ない。

 ミアが頼んだパンケーキは、なぜか目玉焼きとベーコンがセットになっていた。気になってパンケーキを一口もらったら、甘くなかった。いわゆる、おかずパンケーキだった。


「はぁ、お腹いっぱい。レンはどうだった?」

「俺も満腹だ。」

「じゃあ、出よっか。そろそろ馬車の準備も出来てるだろうし。」

「あぁ、行くか。」

 俺たちは会計を済ませ(こっちのお金がないからミアの奢り)、外に出た。外に出るとダリアンさんが馬車の準備を済ませて待っててくれた。


「おう!馬車の準備は出来てるぞ!馬の調子もいい!」

「ありがとうございます。」

「ありがとうございます。今回は、色々とお世話になりました。」

「いいってことよ!それが俺の仕事でもあるからな!」

 俺達はダリアンさんにお礼を言い、馬車に乗り込んだ。ミアは御者席、俺は荷台に乗った。


「それじゃあ、達者でな!こっちに来ることがあれば、いつでも寄ってくれ!」

「はい。本当にお世話になりました。」

「ありがとうございました。」

 改めて、ダリアンさんにお礼を言い、ミアは馬車を走らせた。


◇ ◇ ◇


 馬車を走らせて2時間、荷台に乗っていたレンは顔を真っ青にしてうずくまっていた。


「うぅ、気持ち悪い。」

「ちょっと、大丈夫?馬車の中で吐かないでよ!」

「う、うん。頑張る・・・。」

 まったく、この程度でだらしないなぁ。戦闘では、あんなに頼りがいがあるになぁ。

 そんなことを考えてると、おもむろにレンは【アイテムボックス】を開き、バケツを取り出して、・・・吐いた。


「まったく。何やってんの?」

「ぞんなごと、言ったっで・・・。うぅっ!」

 レンは、私の問い掛けに答える余裕がなく、また吐き始めた。臭いは馬車を走らせてるから、大丈夫だけど、さすがに吐いてる姿を見ると私も気分が悪くなってきたので、レンが落ち着くまで話するのを止めた。

 それからしばらくたって、日が暮れになって来たので、野宿するための場所を探していると、ふと、あまりにも静かなことに気が付き、振り向くとレンは横になって寝ていた。


「あんなに、しんどそうにしてたのに。気持ちよさそうに寝て。」

 しかも、ちゃんと後処理してるし。

 適当なところに馬車を止めて、レンを起こすことにした。


「レン。起きて、野宿の準備するわよ。ほら、起きて。」

「ふぁぁぁあ、・・・よく寝た。」

「さぁ、準備するわよ。早く降りて。」

 私はレンを起こして、準備を始めた。


「まずは、結界を作動させて。」

 荷台に置いてあった箱の1つを開けて、魔物用の結界魔道具を起動させた。

 

「これで良し。」

「何したんだ?」

「魔物用の結界を張ったの。この魔道具を発動している間は、魔物や魔獣が近づいて来れないの。」

「へぇ、そんな便利なものがあるなら、ダンジョンの中でも使えばよかったんじゃない?」

「そうもいかないの。あくまで魔物が近づいて来ないだけだから、もし結界内に入れてしまったら襲われるし。そもそも、魔道具には蓄積された魔力があって、使うたびに減るから、いざって時に使えなくなるかもしれないから、ずっと使い続けるってことが出来ないの。」

「なるほど。そうなのか。」

 こんな感じで、レンに他の魔道具説明や焚火の付け方、ついでに火の番の順番を決めるなどをしながら、準備を進めていった。

 準備が出来たら、次は夕食の用意をする。とは言っても、お肉を焼くだけなのでそれほど手間は掛からない。このお肉は昨日食べた一角猪の残りをレンが【アイテムボックス】にしまっててくれていた。


「さぁ、出来たわよ。」

「・・・・・俺、少しでいい。」

 そういうとレンは、二口ほど食べたら、私のお皿に残りのお肉を入れてきた。そりゃ、あれだけ馬車酔いしてたら、食欲ないよね。とはいえ、私もそんなにたくさんは食べられないので、自分のカバンからお弁当箱を出してお肉を入れて、レンの【アイテムボックス】に入れてもらった。

 ちなみに、私のカバンは【アイテムボックス】と同じように多くの物を収納できるようになっているが、【アイテムボックス】との違いは、物の時間を止められないこと。【アイテムボックス】では、温かい物は温かいまま、冷たいものは冷たい状態のまま、中に入れたものの時間が止まっている。つまり、食べ物をいれると一生腐ることはない。しかし、このカバンではそうはならない。このカバンは時空間魔法で中を広げているだけだから、入れた物の時間も進む。一応、時間が止まるカバンもあるけど、私のお財布事情じゃとても買えない。

 夕食の片付けを終えた私は、ずっと気になっていた話題を切り出した。


「ねぇ、昼間の続き、レンは向こうの世界で何してたの?」


◇ ◇ ◇


 ミアからまたあの質問が来た。表世界での俺のこと。正直、話すのが辛かった。出来れば、聞かれたくなかったけど・・・。


「さっきは、人目を気にして話せなかったんでしょ。私が厄介事に巻き込まれるって言ったから。」

 ミアは少し申し訳なさそうに言った。

 あぁ、そういえば。あの時は、そんなことまで考える余裕はなかったなぁ。少し、ミアに悪いことをした。


「違うよ。俺がさっき話さなかったのは、少し嫌な思い出もあったから。」

 ミアの目が泳いでいた。聞いてはいけないことを聞いたと思ったのだろう。


「レン。私・・・!」

「でも、話すよ。少なくともミアには隠し事はしたくないから。」

 ミアの言葉を遮る形で、俺は答えた。ミアは少し驚いていたが、何度か深呼吸をした後、真剣な顔で俺の方を見ていた。


 俺はまず、表世界のことについて話した。馬車よりも早い乗り物があること。人が大空を飛ぶための乗り物を作ったこと。それどころか、月にまで行ったこと。成人した大人達が空にまで届きそうな程の高い建物で仕事をしていること。長い間戦争が無いこと。魔物や魔獣が存在しないことなどを話した。ミアは、初めこそ少し疑っていたみたいだが、だんだん目を輝かせて、尻尾まで振っていた。

そして、ある程度、表世界のことを話し終えたとき、俺は少し下を向いて自分のことを話し始めた。ごくごく普通の両親のもとで産まれたこと。海が見える穏やかな街に住んでいたこと。勉学に励むための学校に通っていたこと。そして、そこで俺がイジメにあっていたこと。

ここで初めて、ミアの顔が暗くなった。俺はそのまま、話を続けた。イジメの内容やイジメに耐えられなくなった俺が自殺を図ろうとしていたこと・・・。


「やめて!!」

 突然、ミアは大きな声を出して言った。顔を上げると、ミアが立ち上がって泣いていた。


「・・・・・ごめんね。レンがどんな気持ちか考えてなかった。話したくないことがあっても、そんなに酷いものじゃないって勝手に決めつけた、無神経だった。私、サイテーだ・・・。」

 ミアは、自分のことを酷く責めていた。仕方のないことだと思う。俺だって元の世界で異世界人とあったら、相手の気持ちなんか考えずに色々聞いたと思う。

しかし、ミアは俺の心に土足で入り過ぎたと感じているのだろう。そのせいで、俺のことを傷つけたと。


「気にすることはないよ。俺は大丈夫だから。」

「でもっ!でも、私はレンを傷つけた!そのことには変わりない!」

 ミアは、その場でしゃがみ込み、再び涙を流していた。俺は出来る限り優しい口調で話し始めた。


「・・・確かに、前の世界ではこの世に絶望しかないように俺は感じていた。でも、この世界に来て一番最初に希望をくれたのは、ミアなんだよ。」

 ミアはゆっくりと顔を上げてこちらを見ていた。


「俺は前の世界に比べたら、絶対にこっちの方がいいと思ったから、たった1人でこの世界に来た。でも、1人でいることに不安を感じていたんだ。そんなとき、ミアが現れた。いや、目の前で倒れたか。多分、普通に現れていたら目も合わせなかったと思う。」

「・・・なによ、それ。」

 ミアは目を腫らしながら、少し膨れていた。というより、少し笑ってる?

俺はそのままの口調で話を続けた。


「目の前で倒れられて、看病して、魔法習って、ご飯食べて、ダンジョンに行って、王都へ向かう。俺の人生の中でこれほど楽しかったことは今までなかった。それこそ、これまでのことが無かったことになるくらいに・・・。」

 ミアの顔には、もう涙も暗い表情もなかった。


「だから、もう気にすんな。ていうか、これ以上引きずるなら・・・・・。」

 俺は、ミアの顔に向かって【アクアストレート】を放った。


「ケホッケホッ、な、なにすんのよ!!」

「いつまでも辛気臭い顔してるからだろ。」

「だからって、水をかけることないでしょ!!」

 その後、ご機嫌取りをしているといつの間にか眠っていたので、ミアを抱きかかえ、馬車の荷台に用意された簡易ベッドに寝かせ、俺は夜が明けるまで火の番をしていた。


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