第7話 身体強化魔法からの基礎魔法
攻撃を仕掛けようとした時、コボルトは目の前から姿を消した!!
次の瞬間、腹部に強い衝撃を受け、後ろに吹っ飛ばされた。
「ゲホッゲホッ!」
「レンっ!!」
「だっ、大丈夫。それより、なんだ今の?」
「今のは、多分、身体強化魔法【アクセル】。体の素早さを上げる魔法よ!」
そんなのありかよ!確かに、ミアから魔物は魔法を使うって聞いてたけど、身体強化魔法とか予想外だろ!
「てか、素早さを上げるって、視認出来ないものなのか?」
「・・・広い草原とかなら、そんなことないけど。こんな狭い洞窟だと、そう感じるのも無理もないわね。」
「クソっ!厄介だな。アイツの足を止めることが出来れば・・・。」
その時、コボルトがまた姿を消した。
「またか!」
後ろからの攻撃に備え、咄嗟に壁側に背を向け、辺りを警戒していると、「カーンッ」という音がした。音の方を見ると、石が転がっていた。
「今のは?・・・・・そうか!」
「きゃっ!!」
俺がコボルトの攻略法を思い付いた時、ミアが襲われていた。慌てて、ミアに近づきコボルト引き剥がした。
「ミア、作戦がある。下がっててくれるか?」
「レン。・・・分かった。」
「ありがとう。」
俺は、右手で剣を構え、左手に魔力を集めた。
「いくぞ!【アクアストレート】!!」
左手から水を出し、それはコボルトに直撃した。しかし、全くダメージは無かった。
「レン!基礎魔法じゃ、倒せないって!」
「分かってる。まぁ、見とけって。」
俺はそう言い、【アクアストレート】の発動を続けた。コボルトは攻撃を避けるため、ひたすら動き回っていた。
気付けば、辺りは水浸しになっていた。これで、こちらの準備が完了した。
「さぁ、来い!」
こちらの掛け声と同時に、コボルトは【アクセル】を使った!
◇ ◇ ◇
「マズイ、あれじゃあ、さっきまでと同じじゃない!」
私はレンの取った行動の意味が分からず、戸惑った。その時、「ピシャっ」と音がした。
「何の音?」
私は、音の方を見ると水しぶきが舞っていた。
ピシャっ、ピシャっ、ピシャっ
「違う、違う、これも違う。」
レンは、ブツブツ言っている。水しぶきの音で何かを狙っている?
その時、バシャンっ!と、一際大きな水しぶきが上がった瞬間、コボルトが姿を現した。
「今だ!!」
レンは、コボルトの方に振り返り、魔法を放った!
◇ ◇ ◇
俺は、水しぶきの音を利用して、コボルトの位置を把握していた。その時、一際大きな水しぶきの音が後ろから聞こえた!
「今だ!」
俺は振り返り、姿を現したコボルトに対し、魔法を放った!
「【スパーク】!!」
左手から舞った火の粉はコボルトの顔に掛かった。
「ギャアアアア!」
コボルトは、悲鳴を挙げながら体勢を崩した。その隙に、俺はコボルトに斬りかかった。
「はあぁぁぁ!」
一角猪の時と同じように斬った感覚はなかった。しかし、コボルトの首がゆっくりと地面に落ちた。
辺りを警戒し、他に敵がいないことを確認し、武器を収めた。
「ふぅ。」
「まさか、あんな方法で勝つなんて・・・。」
「言ったろ?基礎でも、使い方次第だって。」
昨日、魔法の練習中から寝るまでの間、ずっと基礎魔法で何が出来るか考えていた。
「【スパーク】の使い道はその時に思い付いたんだ。誰でも、目の前に火の粉が飛んで来たらビックリするからな。」
「それは、なんとなく分かるけど・・・。【アクアストレート】のあの使い方は、いつ思い付いたの。」
「あぁ、あれはついさっき、コボルトが石を蹴っ飛ばした時に思い付いたんだ。」
「石?」
【アクセル】はあくまで素早さを上げる魔法であって、別に瞬間移動などではない。必ず、地面の上を走っている。たまたま、コボルトによって蹴られた石を見て、そのことに気付かされたのである。ならば、相手の位置を把握するための仕掛けを地面に仕掛ければいいと考えたのが、【アクアストレート】での水浸し作戦である。
「なるほどね・・・。水浸しにした地面によって、コボルトが走った場所には水しぶきや水の音が聞こえることで位置を把握したって訳ね。」
「そういうこと。」
内心、上手くいくか不安だったことは黙っとこう。
「それより、鉱石の方は大丈夫?」
「えっ?えーと、試験の分は取れたけど、自分の練習用にもう少しだけ取りたいかな。」
「うん、了解!」
それから、10分ほど、ミアは採掘を続けた。その間、魔物の襲撃もなく、ミアの作業を終わり、無事ダンジョンから出ることが出来たのである。
「さて、これであとはリズバーン王国に帰るだけだな。王都までどのくらいで着くの?」
「えっと、森を出て、馬車で半日くらい。今からだと夜になっちゃうから途中で野宿かな?」
そんなに掛かるのか。まぁ今日除いてもあと1日あるから間に合うだろ。
「肝心の馬車はどこにあるの?」
まさか、無いなんて言わないよな?
「馬車は、森を出た小屋に預けてるの。ダンジョンの近くには探索に来る人ように国が管理してる小屋や施設が建てられてるの。そこでは、携帯食料や探索に必要な道具が売っていて、足りないと感じたら補充することが出来るの。」
へぇ、国でそんなことをしてるのかぁ。
「まぁ、私達はレンが居た小屋から色々持ってきたから、今回は利用しなくていいけどね。」
「確かにそうだな。」
ちょっと、興味があったんだけどなぁ。
そうこうしているうちに、森を抜けることができた。なんだか、久しぶりに太陽を浴びたような気がした。
そして、辺りを見渡すと、どこまでも広がる大地、富士山より高く聳える山々。それらを見て俺は・・・。
「本当に地球じゃ、ないんだなぁ・・・。」
この世界に来て、魔物や獣人、魔法など色々と見てきたけど、この景色が一番「異世界」に来たと感じた。
「どうしたの?」
「・・・いや、何でもない。」
ヤバい、ニヤニヤが止まらない。これから、本当の意味で異世界生活が始まるそう考えただけで、ワクワクする。
「ほら、そんなところでボケっとしないで、早く行くよ。」
「・・・あぁ!!」
高ぶる気持ちに身を任せ、俺はこの世界に足を踏み入れた!