第5話 修行からの晩ご飯
自分のスキルを知ったはいいが、分からないことが多い。まずは、確認が必要だ。
「なぁ、このレベルがあるのと無いのがあるけど、どういう意味?」
「あぁ、このレベルって言うのは熟練度を表してて、使えば使うほどその数字が上がって、能力が向上するの。レベルの有無はいろんな機関で研究されてるけど、何で分けられてるかは分かってないわ。」
「なるほど。やっぱり。」
当たり前なことだけどレベルが上がれば、上がるほど能力が向上する。まぁ、【筋力強化】はこれ以上、上げるととんでもないことになりそうだな。あと、(常時)もそのままの意味で、常に発動している状態のことだ。このおかげで【通訳】は意識しなくても、言葉や文字が理解できるようになっている。
他には、魔法のことを聴いた。【属性魔法】には基礎・下位・中位・上位の4段階に分かれている。さっき、俺が使った魔法は基礎魔法の【アクアストレート】。ただ、まっすぐに水を放つだけの魔法である。基礎魔法は魔法を使えるようになるための練習用魔法で、威力がとても弱い。そのため、基礎を飛ばして下位や中位の魔法を覚えようとする者が多いが、ほとんどの場合、発動しない。したとしても、コントロールが効かず自分や周りに被害が出ることが多い。もし、暴走せず、魔法を習得しても基礎から始めた者より、1ヶ月以上の差が出るという。なので、もし他の属性魔法を覚えたい場合は必ず基礎魔法から始めるようにと言われた。
「なら、使えるかどうか分からないけど、明日のために今日できるだけ多くの基礎魔法を習得したい。基礎でも、使い方次第で役に立つかもしれないし。」
「そうは言うけど、あまり時間は無いわよ。練習する順番を決めた方がいいんじゃないかしら?」
ミアのアドバイスを元に俺は、火→光→風→土→闇→聖の順に修行することにした。なぜ、この順番かと言うと比較的、習得が簡単な順に並べただけである。ちなみに、光属性と聖属性の違いは、光属性はライトのようなあたりを照らすものやフラッシュのように目くらましに使う「光」のよる魔法、聖属性は回復魔法や浄化魔法が主で、神の加護による魔法と言われている。
まず、初めに火の基礎魔法【スパーク】。手に魔力を集めたら、小さな粒をイメージして放つと同時に火の粉に変換する魔法。ちなみに、名前的に電気をイメージする人が多いだろうが、スパークは火の粉や火花という意味を持つ。
次に、光の基礎魔法【ライト】。これは、電球をイメージしたらすぐ出来た。
3つ目、風の基礎魔法【ブリーズ】。意味は、そよ風。手の中で優しく風が流れるようなイメージ。
4つ目、土の基礎魔法【サンドドール】。土人形を作る魔法。これがなかなか難しく、気を抜くとすぐ崩れてしまっていた。修行を始めて、3時間。日も暮れてきてこれ以上は危険とミアに判断され、ここで終了した。結局、出来たのは風魔法【ブリーズ】までだった。
土魔法に1時間以上使ってしまっていた。【サンドドール】は、人形の形はすぐに出来るが、固めるのにコツがいるらしく、かなり難しい。土魔法は、壁なんかにすることが多いから、しっかりと固めないと意味がない。これで挫折して土魔法を断念する人もいるらしい。
「はぁはぁ、結局4つまでしか出来なかったか・・・。」
「いや、十分凄いからね!普通1日1種類出来たら上出来だから!」
「えっ?そうなの?」
ミアの言葉にビックリした。そんなに成長が早いのか。そういえば、アマテラスが俺には魔法の才能があるって言ってたなぁ。
「とにかく、今日は止めなさい。過剰な魔法の使い過ぎは身体への負担が大きいんだから。まぁ、基礎魔法だから問題ないと思うけど。」
「そうなのか?自分の体内の魔力をほとんど使って無いから大丈夫だと思ってた。」
「そんな訳ないでしょう。魔力の融合は、要は異物を体内に入れてるのと同じのに何のリスクもない訳ないじゃない。」
なるほど。自分でウイルスを入れてるってことか。気を付けないと戦闘で足手まといになるかもしれない。
「分かった。十分に注意するよ。」
「そうしなさい。それよりも、早く中に入りましょ。お腹がペコペコなの。」
「確かに、俺も腹減ったぁ~。」
表世界では午後6時を過ぎたくらいだろうか。風は肌寒く、空は暗くなり始め、一番星が見えていた。
「さて、晩ご飯は何作るかな。」
メインは一角猪の肉を使う。この世界の魔物は大きく二種類に分けられ、1つ目は今日狩った一角猪のように動物が魔力の取り込み過ぎで魔物に進化する場合、2つ目は魔力の濃度が高い場所で人の邪念や怨念により生まれる場合がある。どちらの魔物の場合でも、魔物の魔力は人体に有毒で普通食べられないらしいが、1つ目の方法で魔物化する際、その前段階で動物は魔獣へと変わる。一角猪は魔獣に当たる。魔獣は体内にある魔力量が少ないらしく食べることが出来る。むしろ、おいしくなっているらしい。そのため、狩った一角猪もどうせならおいしくいただこうということで持って帰って来たのだ。どうやって持ち帰ったかというと、ミアがスキル【アイテムボックス】と同じ能力が付与されているカバンを持っていたのでそこに入れた。
ちなみに、魔物と魔獣の一番簡単な見分け方は魔法を使うか使わないからしい。
「ミア、悪いけど一角猪出してくれない?」
「はーい。ちょっと待ってね。」
そう言うと、ミアなカバンから次々と紙に包まれた肉を出していく。解体したのもミアで、俺はほとんど何もできなかった。
「さて、ミアは何か食べたいものなる?作れるかは分からないけど。」
「そうね。どうせなら、あなたの世界の料理作ってくれないかしら。興味あるわ。」
「そんなのでいいの?そうなると、豚肉料理なら何がいいかなぁ。うーん。」
肉は結構大きめのブロックになっている。どうせなら、贅沢にいきたい。俺は、ブロック肉を厚さ2㎝程に切り、油身と赤身の間に5、6箇所浅く切れ目を入れて、筋を切る。両面に塩こしょう少々をふり、薄力粉をまぶし、余計な粉をはたく。肉に溶き卵をまんべんなくつけて、パン粉を全体につける。鍋に油をいれて加熱し、パン粉を入れると泡立って散り、焦げ色はつかない状態になったら、豚肉を入れる。パン粉がカリッとなり、油の中で泳ぐようになってきたら裏に返す。 4~5分間たって、揚げ色がつき、泡が小さく少なくなってきたら揚げ上がり。最後に食べやすい大きさに包丁を上から一気に押し付けて切る。これで、一角猪のとんかつ完成。
続いて汁物、鍋に昆布(のような海藻)を入れ火に欠ける。冷蔵庫からニンジン、大根、ネギを取り出し、ニンジンと大根はイチョウ切り、ネギは小口切りにする。次に肉を薄く切り、よく熱した別の鍋に油をひき、切った肉を入れよく炒める。肉の色が変わってきたら、野菜を加えてよく炒める。昆布?のダシ汁を具の入った鍋に移し、沸騰させ、沸騰したら、アクを取る。具材が柔らかくなってきたら火を止め、味噌を溶いて入れて、一角猪の豚汁完成。冷蔵庫の横に米があったので、ミアに頼んでキッチンにあった炊飯器型の魔道具で炊いてもらった。これで、沢渡 蓮特性、とんかつ定食の完成だ!
「これは・・・確か、とんかつ?だったかしら?」
「とんかつ知ってるの?前の世界の料理振る舞うつもりが失敗だったかなぁ。」
「うんん、西の大陸付近にある国で食べられるって、本で見たことがあるわ。実際に食べるのは初めてだけど。」
へぇ、こっちにも同じような食べ物があるんだなぁ。まぁ、当たり前か。表世界と同じ食材が結構あるしな。
そんなことを考えていると、ミアは手を組んで無言でお祈りを始めたが、神にささげる言葉みたいのは無かった。お祈りが終わると、ミアはナイフとフォークでとんかつと一口食べた。
「なにこれ!衣はサクッとお肉はジューシーで美味しい!」
と、なんともベタな感想だったが、彼女の素直な言葉が俺にはとてもうれしかった。
「あ、そうだ。とんかつにレモンと塩を少しかけると油っぽいさが中和されて、もっと美味しくな・・・」
全て、言い切る前にミアが「早く言いなさいよ」言い、とんかつにレモンを絞り、塩を一つまみかけ、食べた。
「さっきより、油がしつこくなくてすごく美味しい!」
「喜んでもらえてよかった。」
そう言い、俺もとんかつを食べた。うん、うまい。ホントは、とんかつソースにマヨネーズ混ぜた特性ソースに付けて食べる方が俺は好きなんだが、とんかつソースが無かったので諦めた。汁物に用意した豚汁も好評でミアな3杯おかわりしていた。
「ホント美味しかったわ。ありがとうレン。よかったら、また作ってね。」
「こんなので良ければ、いつでも作ってやるよ。」
「うふふ、楽しみにしてるわ。」
食事が終わってすっかり打ち解けた俺とミアは、たわいない話をして過ごした。ふと、さっきミアが言っていたことが気になったので聞いてみた。
「そういえば、さっき言ってた西の大陸付近にある国ってどんな所?」
「どんな所って言っても、実際に行ったこと無いから詳しくは分からないけど。そうねぇ、ここから西にある小さな島国で二ホン国っていうの。その国には、カタナっていうこっちの大陸で作るものより丈夫で、切れ味のいい剣を作ったり、海で取れた新鮮な魚を生で食べる変わった食文化を持った国ね。鍛冶師としては、一度は行ってみたい国でもあるの。」
話を聞く限り日本のことで間違いなさそうだ。こっちにも存在してたんだな。
「そういえば、二ホン国は数十年前まで国内各地で戦争があって、その時突如現れた1人の青年が全ての戦争を終戦させて、その後の政治の最高責任者になったっていう伝説があったわね。噂だけど、その青年はまだご健在だとか。」
スゲーな、その人。戦争を終わらせただけじゃなく、政治にも口を出せるほど頭が良いなんて、表世界なら妬まれるぞ。
「いつか、俺も行ってみたいな。もしかしたら、俺の居た世界似た文化かもしれないし、すごく興味がある。」
「なら、一緒に行きましょ。私は師匠から今回の試験で認められたら旅に出るつもりなの。さすがに、認めてもらってすぐって訳にはいかないけど。ハンターズギルドで資金集めや実力を付けようって考えてからすごく時間がかかるかもしれないけど。よかったら・・・。」
ミアは、少し顔を赤く染め、けど目はまっすぐ俺の方を向いて、俺の返事を待っている。俺は、ラノベ主人公とは違って、そこまで鈍感じゃないつもりだ。多分、ミアは俺に好意を持っている・・・。自分で言っててなんだけど、ナルシストみたいでキモいなぁ。けど、アマテラスが女の人だって言った時の態度や今の感じからそうだとしか考えられない。それとは別に、俺は彼女のことが好きだし、向こうがそう思ってなくてもここで初めて知り合った彼女との縁は出来れば切りたくない。とりあえず、好きとかは別にして、一緒に旅をしてくれるならありがたい。
「もちろん、その時は一緒に行こう。」
「ホントに!」
ミアは、満面の笑みで喜んでいた。その表情が可愛くて、照れ隠ししてしまった。
「ほら、鍛冶師が一緒なら武器や防具の手入れがしやすくなるしな!」
「えっ、あぁそういうこと・・・。そうね、それは大切よね。」
ミアは、一瞬暗い顔をしていたが、すぐに笑顔になった。しかし、さっきより寂しそうな表情にも見えた。
やべぇ!これだから陰キャは!
「あっ、いや!別に鍛冶師としてだけじゃねーよ!ミアは、俺に魔法の基礎を教えてくれた師匠でもあるし、この世界で初めてできた友達だけど、まだ知らないこと多いし、ゆっくりお互いの気持ちとか知っていければと思ってるから!って、何言ってんだ俺!?」
訂正することばかり考えていた俺は、かなりの早口でとんでもない爆弾発言をしてしまった。
俺が勝手にミアこと好きで、ミアも俺のこと好きだと勝手に思ってるだけなのに、お互いの気持ちとかそんなこと言ったら、何勘違いしてんのよ!とか、キモイんだよ!とか言われるに決まってんじゃん!ホント何してんだ俺!?
恐る恐る、ミアの顔を見ると呆気に取られていた。すると、突然「ぷっ!」と、ミアは笑い出した。
「うふふ、ほんとレンっておもしろいわね。ふふふ」
ミアは笑いを堪えながら話し始めた。
「レンが私のことどう思っているとかは、この試験が終わるまで考えないようにしてたから、一緒に旅をしてくれるって言ってくれたあとに、鍛冶師として必要みたいなこと言われてショックだったって言うのはホントよ。」
「うっ、ごめん。」
「別にいいわよ。そんなつもりで言ったんじゃないってことは分かったから。・・・にしても、あんな恥ずかしいセリフうふふ、よくあんな、真剣な顔でうふふふ。」
さっきのことを思い出してしまったようで、また笑い出した。
「いや、さっきのは言葉のあやというか、なんというか」
「えっ、じゃあさっきのは嘘だったの?」
ミアは涙目のなりながら聞いてきた。
「嘘じゃないです!嘘じゃないけど・・・」
絶対にいま俺、ゆでダコみたいな顔になってる。
「うふふ、冗談よ。これから長い付き合いになるんだから、そんなんじゃ、持たないわよ。」
「誰のせいだよ!」
「あら、お互いの気持ちを知っていくんでしょ?私がイタズラ好きって新たな魅力に気づけたんだからよかったじゃない。」
「自分で言うか・・・。」
こうして、なんとも残念な形で2人が両想いであることが確認できたが、連とミアが付き合うのは少しだけ先の話。