第3話 不機嫌からのスキル
「俺はキミに借りが出来た。俺が勝手にそう感じてるだけだけど、その借りを返したいと思ってる。」
彼がそう言った時、私は少しがっかりしていた。私を看病してくれた不思議な男『サワタリ レン』。彼は、異世界から来たと言っていた。正直、嘘ではないと思った。この森は、昔から異世界人が現れるという伝説があったからだ。しかも、あの強さ。
初級ハンターレベルの相手であるとはいえ、一角猪を1人で倒してしまうなんて。
基本的に、一角猪は強力な突進攻撃を仕掛けるので、囮役と攻撃役の最低2人で狩るのが定跡。ましてや、一角猪を1人で狩るなんて、中級ハンターでもしないことを彼は成し遂げてしまった。少なくとも、中級より強い上級に近い力を持っていると感じた。それが本人の実力なのか、武器の性能なのかは、今は分からない。
そのうえ、お腹を空かせていた私に、彼は持っていた水や食料を分けてくれただけでなく、師匠の試験を手伝ってくれるという。師匠に弟子入りして、2年。その間、男性にここまで接することはなったので、私は彼に好意を持っていた。しかし、レンは私に対して作ってもいない「借り」を返すため手伝うと言った時、私に対する好意はないと思った。
それでも、この試験中は一緒にいてくれるので、今はそれでいいと感じた。
◇ ◇ ◇
剣を腰に装備し、腰にあった短剣を後ろにクロスさせて装備し直した俺は、今過去最大のピンチに陥っている。それは、森で出会った女の子、ミア・ケネディと一緒に俺が最初にいた小屋に向かって歩いていることだ。森を歩くとは、考えようによっては森林浴デートだ。マイナスイオンを感じながら彼女と森の中を歩く。インドア派の俺でもテンションは上がる。さて、こんな非リア充からすれば、爆発しろと言われそうなシチュエーションで何に困っているかというと、会話が全然続かないのだ。
さっきまでは、彼女の事情や自分のことを話すなどして何とかなっていたが、とうとうネタが尽きたのだ。元々、住んでた世界が違うので、共通の話題が全然見つからない。それ以前に女の子とまともに話すのも、久しぶりで、かなりテンパっている。
こうなったのは、ミアのせいというのもなんだが、彼女のことを意識してからだ。
まだ会って30分も経ってないが、俺は完全にミアに一目惚れしてしまったのだ。そのため、彼女の顔を見ると照れ臭くなり、今では彼女より前に歩いて完全に顔が見えないようにしている。ミアに下心で手伝っていると思われたくないので、この気持ちを隠している。
「俺、完全に変な奴だと思われてるよなぁ・・・。」
そんなことを考えていると、小屋が見えてきた。
「あっ、見えてきた。あれが拠点にしている小屋だ、よ?」
と、言って振り返ると、ミアは10mほど後ろにいた。
・・・やっちまった。
「もう!道が分からない人が居るのに1人で先々行くなんて最低ね!」
「ホントごめん!てっきり、すぐ後ろに付いてきてると思ってたから・・・。」
俺は、ミアに対して土下座で謝罪した。
正直、彼女のことを考えて周りが見えてなかったなど口が裂けても言えなかった。
「・・・もういいわ。それより、早く小屋に入れてくれない?」
「あ、あぁ。本当にごめん・・・。」
彼女は俺が土下座しているうちに小屋の入り口の前に立っていた。今思ったが、裏世界に土下座の風習ってあるのかな?
そんなことを考えながら、立ち上がって小屋の入り口に向かった時、あることに気が付いた。
そーいえば、俺、鍵かけてないよなぁ。そもそも、鍵なんて小屋の中にあったか?
「・・・ミア?このドア開けようとしたか?」
「何言ってんの?開けようとしたら鍵が掛かってたから、あんたを呼んだんじゃない?」
聴いててなんだが、なんで勝手に入ろうとしてるの?まぁ、それはいいとして。なんで、開かないんだ?鍵なんてかけてないし、持って出てすらない。もしかして、一方通行とか?もしそうならマズい。
背中に汗を掻きながら、ドアノブを握る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・開いた。
マジで焦ったぁ。あんなに「任せろ!」みたいなこと言っといて、ドアが開きませんとか、シャレになんないからな。
フゥーっと、一息つき小屋の中に入った。
「へぇー、これが異世界人の住む家かぁ。」
「正確には、ここは服や装備なんかを整える場所らしいけどな。」
「らしいって、どうゆうこと?」
「えっ?あぁ、ここに来る前、二つの世界を繋ぐ境界があってそこにいる番人って名乗ってる女性が用意してくれたから、詳しいことはよくわかんなくて。」
「・・・ふーん」
ん?なんか急に不機嫌になったな?
「あのー、どうかした?」
「別に。・・・ねぇ、その番人さんはどんな感じだったの?」
「どんなって、初めはなんか胡散臭かったけど。まぁ、ある意味命の恩人だからな。今では、いい人だと思ってるよ。」
「ふーん。」
なんか怖い!何で、出会って1時間も経ってない女の子にこんなに睨まれなきゃならないんだ!?
「あっ、そうだ!ミアは、鍛冶師の卵なんだよね?だったら、2階の武器庫、見に行かない?もしかしたら、俺には分からない掘り出し物があるかもしれない。」
「・・・それは、ちょっと興味あるわ。」
よかった。何とか機嫌を直せそうだ。
「言っとくけど、別に機嫌悪く無いから。」
・・・読まれてた。
「すごい!まさかここまでなんて!」
ミアは驚いてるようだが。俺には、全然分からん。
「ここにある武器って、そんなにすごいのか?」
「はぁ、ここにあるものの価値が分からないなんて、宝の持ち腐れよ。」
「そこまで、言わなくても。」
ミアの言葉にかなりショック受けた。そんなこと言われても、平和な日本で刃物と言ったら包丁くらいしか見たことないし。
「ここに置いてある武器や防具は、ほとんど100%鋼で出来ているものがほとんどだわ。普通は、鉄と鋼を混ぜて武器や防具を作るの。鉄だけで作るとすぐ折れたり、ヒビが入ったりするから。鋼は鉄より丈夫だけど、その分貴重だから、鋼だけで武器を作るなんて上級ハンターくらいなものなの。それが、こんなに沢山あれば、誰だって驚くわよ。」
マジか!!ここの武器ってそんなに凄かったのか!これ、持って町で売れば大儲けじゃね?・・・いや、やめとこ。出処とか言えないし、そもそも、アマテラスに申し訳ないしな。
「・・・じゃあ、俺が持ってる剣も鋼で出来てるのか。」
そう言い、腰の剣を抜いてみた。
「まぁ、多分そうだと思う、け、ど・・・」
ん?なんか固まってる?と思ったら、急に近づいてきて、剣を間近で観察している。
なに!?近い近い!?
「なんでこんなものがここに?そもそも、何でレンがこれを持ってるの?それに、よく見たらこの防具も・・・」
なんか、ブツブツ言ってるがなんのことだか、さっぱり分からなかった。
何?俺が持ってちゃいけないものだった?すると突然、ミアはこちらを向いてきた。
「レン!この剣と防具どこで手に入れたの?」
「どこって、この武器庫だけど。何?なんか不味かった?他に比べて、軽くて使いやすかったし、頑丈そうだったから、気に入ってたんだけど・・・」
「軽いって、当たり前でしょう!この剣、100%ミスリルで出来てるじゃない!それに、その防具はミスリル70%、オリハルコン30%だし、こんなの上級ハンターどころか、王宮の宝物庫にあるくらい凄い物なのよ!こんなの平気で使ってるなんてバカじゃない!」
この剣と防具が凄いのは分かったけど、バカまで言わなくても。
バカの一言で完全に落ち込んだ俺を見て、少し言い過ぎたと思ったのかミアは。
「・・・まぁ、レンはこっち世界に来たばかりだから知らなくて当然だよね。・・・ごめん。言い過ぎたわ。」
と、誤ってくれた。
「いや、こっちこそこんなことで落ち込んでごめん。」
「落ち込んでごめんって何よ。・・・プッ、アハハ」
「アハハハ」
俺に一言がミアのツボに入ったらしく、俺も釣られて、外に漏れるんじゃないかと思うくらい笑った。
「それにしても、どうやってこの剣と防具にミスリルが使ってあるのがわかるの?しかも、100%って?」
「あぁ、それは私のスキル【鑑定眼】の力なの。」
「【鑑定眼】?そもそも、スキルって?」
「えっ?スキル知らない?その番人さんから何か聞いてない?」
「・・・聞いてない。」
あいつ、マジふざけんなよ・・・。
静かに、怒りが沸いてくる中、ミアは少し嬉しそうにしていた。
「しょうがない、私が教えてあげる。スキルって言うのは、その人の才能を表しているの。スキルは、生まれてきた時点で最大5つまで獲得してるの。その後、努力次第でスキルを獲得する場合があるらしいわ。スキルの種類は様々で、例えば【鑑定眼】なら、物の名前、種類、何が付与されているか、どの素材がどれだけ使われているかが分かるの。レンの剣の場合、名前:ミスリルの剣、種類:武器(剣)、付与:なし、素材:ミスリル100%って見えるの。」
「なるほど、だいたい分かった。」
「・・・ほんとに?自分で言うのも変だけど、こんな下手な説明で分かったの?。」
「うん、つまり【料理】ってスキルがあれば、料理上手に。【剣士】なら剣術がうまくなるってことだろ?」
「・・・そうね。まぁ、剣士ってスキルは聞いたことないけど、【剣術】スキルはあるわ。」
少し驚いてたようだが、この解釈であっているようだ。
「すごいわね。まさか、あれだけの説明で理解できるとは思ってなかったわ。」
「そう?例え話もあったからすぐ理解できたけど?」
「私の場合、その例え話が原因で分かりづらいよく言われるから。」
あぁ、なんとなくわかる気がする。
「なんか、失礼なこと考えなかった?」
「い、いや。そんなことないよ。」
鋭いな!それもスキルだったりするのか?
「うーん、俺にもスキルあるのかな?」
「気になるなら、調べればいいじゃない?」
「出来るの?」
「後ろに、調べる魔道具あるけど?」
・・・あるなら、何で説明しないんだよ!
再び、アマテラスに対して怒りが沸いてきた。