第2話 初戦闘からの出会い
小屋を出て30分がたったと思う。ここまで、特に問題はなかった。魔物はおろか、動物も出てこない。強いて言えば、鳥が飛んでるのを見たくらいだ。それよりも心配があるとすれば、道に迷うことだったが、木に目印を付けることで解決した。
俺みたいな異世界人が初めに来る場所だから、アマテラスが魔物なんかを減らしてくれているのか?
しばらくすると、開けた所に出た。木々に囲まれていて見えなかった太陽が出てきた。
ここで俺は少し休憩することにし、水筒の水を飲んだ。
「結構歩いたけど、ほんと何もいないなぁ。」
そう考えていると、茂みで何かが動いた。俺は、咄嗟に立ち上がり剣の柄を握った。
茂みの奥から出てきたのは猪だ!いや、俺の知ってる猪とは違う。色が灰色で額には角が生えていた。これが、魔物ってヤツか?
そんなことを考えていると、猪はこちらに気づき一直線に突っ込んできた。俺は、咄嗟に横に避けた。猪は、そのまま木に突っ込んで、その木をへし折った。
「おいおい、嘘だろ・・・。」
あんなの食らった即死だぞ。
あまりの破壊力に俺は啞然とした。その間に猪はこちらを向き、前足で土を蹴り、また突進しようとしている。
俺は、再び柄に手を掛けて剣を抜こうとした。しかし・・・。
「なっ!剣が抜けない!?」
厳密には、鞘から刀身が半分しか抜けないのだ。アニメとかだと、簡単に抜けているのに、何で?
そうこうしているうちに猪が突っ込んできたので、横に飛んで避けた。
「くそっ!」
もう一度、剣を抜くために柄に手を掛けようとしたが、柄がなくなっていた。
「えっ?どこ行った?」
辺りを見渡すと猪の前に剣が落ちていた。避けた瞬間に抜け落ちたのだ。
俺は、腰の短剣の一本を抜き構えた。とにかく、あの剣を拾わないと。あの猪の攻撃は突進のみ、うまくタイミングが合えば倒せる。猪は、前足で土を蹴り突進の準備をしている。俺は、短剣を猪に目掛け投げた。短剣は猪の足元に刺さり、その瞬間、猪は走り出した。
「今だ!!」
俺は、突進を避けて武器の方走り、剣を拾いそのままの勢いで振り向く前の猪に切りかかった。剣はまるで空振りを疑うほど何の抵抗もなく振り下ろせたが、猪には確かに切り傷があり、そしてゆっくりと倒れた。
なんつう切れ味!この剣、かなりの業物だろ!俺が持ってて良いものなのか?
改めて、切り傷見て吐き気を催しながらも、背中にあった鞘を外してから剣を収め、手に持ったまま、短剣を拾った。その時、後ろの茂みから物音が聞こえた。
「なんだ!また魔物か!」
そのまま短剣を構えて、茂みを見つめる。すると、そこから出てきたのは女の人だった。
しかし、俺の目には人間に見えなかった。長く琥珀色をした髪に、ぱっちりとした目、背は俺より少し低く可愛らしい顔をしている。服は、黄色い長袖の服に赤いズボン、服の上から皮の鎧を着ていたが、頭と背中の方から見える物に比べれば、そんなのどうでもよかった。
「耳と尻尾?」
そう、頭にはフワフワ耳、背中には狐の様な尻尾が生えていた。
「獣人か?」
ラノベのファンタジー作品によく出てくる人間と獣の姿が合わさった種族。ヒト種に比べ、身体能力が高いことでも知られている。けど、なんでこんなところにいるんだ?
そう考えていると突然、獣人の女の子は倒れた。
「おっ、おい!」
短剣をしまい、近づくと彼女に触れると熱を発していた。
「おい!大丈夫か!」
「うっ、ううん。」
意識はあるようだ。この症状、熱中症か?
今の気温は体感で22、3度くらいだが、水分補給せずにいたら熱中症になってもおかしくない。春に熱中症になる人は、気温が上がっても水分補給を怠ることで起こりやすいってテレビで言っていた。
「とにかく、木陰に運んで水分を取らせないと。」
彼女を木陰で寝かせると、俺はコートを脱ぎ畳んで枕の代わりにし、猪が倒した木の丸太に足を置いた。こうすることで、足に溜った血液を脳へと送ることができる。その後、水が器官に入らないよう首を少し曲げ、ゆっくり水を飲ませた。ちなみに、首を曲げることで器官が閉じて、むせにくくなる。これらの応急処置もテレビでやっていた。
最後に、少しでも体温が下がるように皮の鎧と腰に平衡になるように装備した短剣を外し、余った水をタオルに濡らし、首周りに巻いた。このタオルは表世界から持ち込んだ物の1つで汗を拭くために持ってきていたのが役に立った。あとは、彼女の回復を待つだけ。
改めて彼女の顔を見るとかなりの美少女だった。正直、表世界の初恋の相手以来の感情だがグッと我慢した。気絶している女の子に手を出したら社会的に死ぬ。・・・裏世界でも同じなのかな?そんなことを考えながら、周りを一人で警戒していたが猪が出てきて以来、特に何も出て来ることなく、10分が経った。
「・・・ここは?」
「気が付いた?」
獣人の子が目を覚ました。彼女はまだ意識が朦朧としているみたいだ。
「もう少し休んだ方がいい。」
「・・・あなたは?」
「少なくとも敵じゃない。だから、安心して休め。」
「いえ、そうもいきません。私にはやるべきことが・・・。」
そう言って起き上がろうとしたが、頭を押さえて苦しそうにした。
「おい、だから無理するなって。」
「けど、私は試験の途中なんです。急がないと時間が。」
試験?その言葉に疑問を持っていると。
「・・・ごめんなさい。せっかく、助けてくれたのに自分勝手こと言って。」
「・・・いや、そっちにも事情があるんだろ。もし良かったら、話してくれないか。」
彼女を座らせるため、木にもたれさせた。
「私は、ここから少し離れたリズバーン王国の王都にいる鍜治師の弟子なんです。師匠は私を一人前にするため、ある試験を出しました。その内容は、10日間以内にこの近辺にあるダンジョンから鉱石を取って来るというものです。」
「なるほど、そのダンジョンを探してこの森をさまよって、倒れたってことか。」
「いえ、ダンジョンの入り口は見つけたんです。」
あれ?違ったか、恥ずかし。
「でも、食料が切れてしまって。ひとまず、食料を探しに森に入ったら、一角猪に襲われて、そこにあなたが現れて一角猪を倒した所で私は倒れてしまいました。」
・・・こいつのせいで俺は襲われたのか。
溜め息を吐きながら、質問を続けた。
「一つ聞いていいか。その試験が10日間以内って言ってたけど、あと何日残ってるんだ?」
「・・・今日を入れて、あと3日です。」
今日入れて3日って、実質2日しかないじゃん!
「それ間に合うの?」
「取りに行く鉱石は、ダンジョン第1層にあるから明日入って、その日うちに王都に向かえば何とか。でも、その前に水と食料を何とかしないと体の方が持たないかもしれません。なにせ、もう2日ろくなもの食べてないので。」
そう言うと少し元気がなくなった気がした。2日間も何も食べてないのなら、倒れるのも無理もない。出来ることなら何とかしたい。
「・・・なぁ、その試験って誰かの力を借りるのはダメなのか?」
「いえ、私が現地に行くのなら、ハンターを雇うのもありですが?」
俺の質問に不思議そうに答える。ハンター・・・、狩人か。魔物対策にはなりそうだな。
「そのハンターってのは雇ったのか?」
「いえ、出来るだけ自分の力でやりたかったので、雇ってません。」
よし、それなら何とかなるか。
「なら、力になることが出来るかもしれない。この近くに俺が拠点にしてる場所があって、そこには食料もある。よかったら、そこに来ないか?」
俺の言葉に彼女は驚いていた。
「けど、私は一人で・・・」
「なら、こうしよう。・・・俺に魔法の使い方教えてくれないかな?」
「えっ、どういうこと?」
と、彼女はまた不思議そうにしていた。
「実は俺、異世界から来たんだ。俺の世界には魔法がなくて使い方が分からないんだ。そこで、キミは俺に魔法を教える代わりに、俺はキミの試験を手伝う。」
「ちょっと待って!あなたは異世界人だというのですか?」
「あぁ、そうだ。信じられないかもしれないけど。」
彼女は黙り込み、何かを考えてる様子だった。
「仮に、あなたが異世界人だとして、初対面の私に何でそこまでしてくれるんですか?」
その質問の回答に俺は困ってしまった。正直、困っている人は見捨てられないなんて言える人間じゃない。むしろ表世界じゃ、電車でお年寄りに席を譲らなかったり、彼女みたいに倒れてる人が居ても見て見ぬフリをするだろう。だけど・・・。
「俺はこの世界に一人で来て不安だったんだと思う。けど、キミと少し話をしただけで元気になってきた気がするんだ。だから、俺はキミに借りが出来た。俺が勝手にそう感じてるだけだけど、その借りを返したいと思ってる。だからキミの力になりたいんだ。」
これが俺の正直な気持ちだ。一人で裏世界に来て、一角猪に襲われ命の危機を感じた。不安になったが、彼女と出会い、話すことで不安が少し晴れたような気がしたのだ。俺は彼女に助けられた。だから、助けたい。まっすぐ彼女の目を見てそう答えた。
「・・・ミア。」
「えっ?」
彼女の突然の言葉に理解が出来なった。
「私の名前。自己紹介がまだだったでしょ。私は、狐の獣人族のミア・ケネディ。16歳よ。」
ミア、それが彼女の名前か。俺より年下なのに、こんな所まで一人で来るなんて、なんて無謀で勇気ある子なんだ。
「ちょっと、アンタも名前教えなさいよ。私だけ、なんか恥ずかしじゃない。」
「あぁ、悪い。」
少し頬を赤く染めながら、彼女は問いかけた。
てか、いつの間にか、ため口になってるし。ちょっと呆れながら、ミアの方を向き。
「俺は、沢渡 蓮。歳は今年で18だ。よろしくな。ミア」
俺はそう言うと手を差し出し、ミアと握手を交わした。ミアは少し照れ臭そうに笑っていた。
俺は彼女の笑顔に見惚れてしまっていた。その美しさに胸がギュッとなった気がした。そう思った瞬間、俺は顔が熱くなってきた。
「さ、さぁ、そうと決まれば、一度小屋に戻ってダンジョンに行く準備を整えるか!」
そうして、俺は顔を赤くしながら、ミアと共に小屋へと戻るため、歩き始めた。