第15話 7日目からの祭り
ミアと恋人になって5日、試験開始から1週間が経った。
未だにミアと2人でいると誰かしらにからかわれている。今朝にいたっては、偶然ミアと食堂に入るとまだ眠そうなアイラさんから「朝からイチャつくな。」と言われ、周りから笑われた。
マリア姉さんとの特訓にも動きにも大分慣れてきて、今日はマグレだが一撃入れることが出来た。また、武器が無い時、または使えないような狭い場所でも戦えるようにと、新たに格闘術も学んでいる。
内心、ただのサンドバッグになっているような気がするのは気のせいだろうか?と疑問に思う日もある。
また、アメリアさんの魔法の習得も再開された。
相変わらず、見事な果実に見とれてしまうがミアからの冷たい視線を感じると背筋がピンッと伸びる。まぁこれも一種の愛情表現と思えば可愛く想える。
以前、そのミアから説明されたように魔法は基礎・下位・中位・上位の4段階ある。実は、この基準は魔法の威力によって決められており、膨大な魔力を操る魔力制御とその魔力をどう使うかのイメージ出来ていれば、誰でも上位魔法を使えるらしい。
実際、俺はアメリアさんが手本で見せてくれた上位炎魔法【エクスプロージョン】を模倣することができた。威力は集めた魔力が少なかったらしく、少し弱かった。
しかし、威力の高い上位魔法は汎用性が低いことから、しっかり下位から順番に教わることになった。
そして今日、一般的に使われている全属性の中位までの魔法を全て会得した。
これにはアメリアさんも空いた口が塞がらなかったようだ。普通、どんなに早くても1年は掛かるらしい。まぁ、こっちは魔法の才能があるという理由で自殺を止められ、異世界に来ることになったので特に不思議には思わなかった。
明日からはいよいよ上位魔法の特訓!と思っていたが、マリア姉さんとの特訓を見て、【強化魔法】を習得した方が良いとアメリアさんに言われたのでそっちを習得することにした。
店では変わらず、こき使われている。
荷物の重さに慣れたのか運ぶのが楽になったと感じた頃、アイラさんの命令で、今までは鉱石の50㎏箱を運んでいたが、これからは1度で運ぶ量を倍の100㎏にしろと言われた時は、絶望した。
しかし、ミアを守れる強さのために「これは修行。これは修行」と、また自分に言い聞かせながら働いた。
そのミアはというと、作る物の方向性が決まったらしく、自分の部屋と工房を行き来している。
昨日、採寸をさせて欲しいと言われたので俺の部屋に招こうとしたらが断られ、照れた様子で自分の部屋に来るようにと言われた。まだ、俺の部屋のベッドで寝たことに恥ずかしがっているらしい。
測ったのは手、前腕、下腿部だった。さて、どんな装備が出来上がるか今から楽しみだ。
夕暮れ時、いつもより外が騒がしくなってきた。お店も少し早い時間に店じまいをして、みんな慌ただしく出掛ける準備をしている。
今日は年に4度ある四季の神様を祝うお祭りがあるそうだ。
それぞれの神は、「春の神フリューリングは暖かな風で大地を起こし、夏の神ゾマーは実りの雨で作物を育て、秋の神ヘルプストは山を赤く染め人々に味覚を分け与え、冬の神ヴィンターは雪の布団で再び大地を眠らせる」という言い伝えがあるそうだ。
今日は夏の神ゾマーを祝うものだ。
みんなそれぞれの一張羅を着て、出掛けるのを見送っていると、1人の少女に声をかけられた。
「あれ?レンさんはいかないんですか?」
「ん、ああ。アーシャか。俺はミアと一緒に行こうと思って。」
彼女はアーシャ、ミアと同じ16歳で同じ日に弟子入りした。ミアのライバルであり、何でも話せる親友だ。
普段はお客が何を求めているかをより知るために接客をしているが、時間を見つけては腕が鈍らないよう工房に入っている。
「ミアなら着付けに手間取っているようですよ。マリア姉さんがいるからもうすぐ出てくると思いますが・・・。」
すると、上からバタンッと扉の閉まる音がした。
やっと出てきたかと思うと、カタンッ、カタンッと聞き慣れない、しかし懐かしい足音が聞こえた。
降りてきたミアを見て俺は驚いた。なんと、浴衣を着ていたのだ。
赤を基調に薄いピンクや白の花が描かれており、それが黄色の帯で強調されている。ミアの琥珀色の髪に似合った浴衣だった。
「どうかな?変じゃない?」
「ううん。とても、綺麗だ。」
心配そうに訪ねてきたので、素直な感想を言った。
ミアは照れ臭そうに、しかし尻尾はブンブンと振っていた。
すると、「いいなぁ。私もこんな彼氏欲しいなぁ。」とアーシャはニヤニヤしながな言った。
ミアは「もう!」と顔を赤くして怒っていたが、なんとも可愛かった。
「はいはい、その辺にしときなさい。早く行かないと人混みが激しくなるわよ。」
マリア姉さんの一言にアーシャは走って店を出ていった。
「まったく、相変わらずのお祭り好きなんだからぁ。」
と言っているが、ミアもさっきからそわそわしている。
「それじゃあ、俺達も行こうか。」
俺はそう言うと、そっと手を取った。ミアは驚いていたが、ギュッと握り返してきたので、俺達も店を出て祭りの会場へと向かった。
祭りは街の中央で行われている。ちょうど、貴族街と平民街の境で行われていることもあり、祭りの参加客には平民だけでなく、貴族も参加している。
この祭りの日だけは、「神の前では人は等しく平等」という精神から貴族に対しの多少の無礼が許される日、逆に言えば、貴族は平民だからと手を出すと、容赦なく逮捕されるということである。
祭りには多くの出店が出ていた。輪投げに、くじ引き、たこ焼き、とうもろこし、フランクフルト、綿菓子にかき氷まである。
「って、ここは日本か!」と思わずツッコミをしてしまい、ミアをビックリさせてしまった。
俺がツッコミをしてしまった理由を話すと、「もしかすると、この国の初代国王が勇者だったのが理由かもしれない。」とミアが話してくれた。
この国は元々500年前に襲った《災悪》から、突如現れた勇者が世界を救ったことで誕生した国らしい。
勇者は見たことも聞いたこともない知識をたくさん持っていた。その知識を元に連携の取れた軍隊や、軍や警備の標準装備の警防と手錠、今回の祭りなどを取り入れていったそうだ。
ミアの話を聞く限り、その勇者は間違いなく日本人だ。名前も「コタロウ・ヤマダ」と名乗っていたらしい。
この話を聞いて、裏世界に来た人達がどう過ごしてきたのかに興味が出てきたか。
他にも表世界の人間はいくらでも居るはず、この国の王様のように偉業を成したり、逆に世紀の大犯罪者の人もいるかもしれない。そういうのを調べる旅っていうのもアリかもしれない。
一通り、見て回るだけで夜も大分更けて来た。そろそろお開きかと思っていたら、どこからか太鼓の音が聞こえてきた。
「あっ!もうそんな時間をなんだ!レン!あの音が鳴る方へ急ごう!」
「え?どういうこと?」
「もうすぐフィナーレの躍りが始まるってこと!」
と、走るミアに必死について行きながら聞いた。
躍りって、もしかして・・・。
そう思いながら着いていくと。そこでは、10mほどの矢倉が組まれ、その周りをみんなで踊っている。つまり、盆踊りだ。
ていうか、太鼓の鳴らしてるのアイラさんだし・・・。
褐色肌とサラシがこの場の雰囲気と良くあってるなぁと思った。
良く見ると、お店のみんなはもう踊っていた。
「さぁ、私達も踊ろう!」
そう言いながら、ミアに手を引かれ盆踊りの輪に入った。
盆踊りなんて、小学校以来だが周りを見ながら何とか踊ることが出来た。
ミアは俺の前で踊っており、その姿はとても綺麗だった。
盆踊りが終わり、「ここからは大人の時間だー!」と誰かが叫んだと同時に、子供とその母は帰路につき、その他の大人達は酒を飲み始めた。当然、その中にはアイラさんも入っていた。
この国では18歳から飲酒が認められているので、俺も参加出来たのだが、ミアは未成年のため、俺だけ参加するのはミアが可哀想なので一緒に帰ることにした。
ミアは、少し申し訳なさそうにしていたので「ミアが成人したら、一緒に朝まで飲もうな。」と言うと、「そんなに飲めないわよ。」と嬉しそうに言った。