第13話 1日目からの修行開始(続)
朝の修行が終わると、ミアは自室に籠り、試験で作る物の思案に取り掛かり、俺はアイラさんの工房の手伝いをする。
というのも、昨日からミアの試験が終わるまでの間、工房の一室を借りることとなり、その対価として働かされているのだ。
「ホラ!テキパキと動きな!そんなんじゃあ、スキルアップ出来ないよ!」
アイラさんに渇を入れられる。
というのも、昨日、食堂で夕食を食べている時にミアが俺のスキル【筋力強化】をアイラさんの前でうっかり口を滑らしたのだ。そのせいで、使えば使う程レベルが上がるからと、やたらと重たい物ばかり運ばされている。
いくら1.5倍の筋力でも、元が大したことがないので、かなりキツい。
「これも修行だ!そんなことじゃあ、強くなれないよ!」
と言われ、「これは修行。これは修行。」と自分にも言い聞かせながら、鉱石が入った1つ50㎏の箱を倉庫から工房へと運んだ。
午後は、昼休みの時間を利用して前回出来なかった残りの基礎魔法の習得に励んだ。
ミアは、俺が魔法の修行をすると聞くと「私が教える!」と言っていたが、アイラさんに「お前にはやることがあるだろ!」と自室に閉じ込められていた。
教えてくれると約束はしていたが、何故そんなに必死になっていたのか気になっていたが、理由はすぐにわかった。
「それじゃあ、レン君。そろそろ、始めましょうか。」
「はい。よろしくお願いします。アメリアさん。」
この人は、従業員のアメリアさん。
元第1級ライセンスの魔導士で、ハリのある肌は白く、髪は腰まである長い銀髪、ウエストは細く引き締まっていたが、それ以上に目を引くのがカラダにドンッとのしかかる、ふたつの大きな胸!表世界の金持ち姉妹タレントと同じくらいあるだろうその胸に俺も思わず唾を飲み込んでしまった。
おそらく、ミアはこれを警戒してたのだろう。
しかし、年齢は聞いて驚き210歳!
代々魔女の称号を持つ家系に産まれたらしく、そこでの研鑽により不老長寿の秘術を作った凄い人らしい。
今は家出中のため、家名を名乗ることが出来ないそうだ。
それにしても、不老長寿なんと素晴らしい魔法だろうと、アメリアさんの2つの果実を見ながら思った。
「そんなに見られたら、さすがに恥ずかしいわぁ。」
そう言いならが、両腕では隠し切れない胸を隠しながら言った。
両腕に挟まれ、さらに強調された胸についつい見とれていると、背後から背筋が凍るような気配を感じて振り返ると、窓からミアがものすごい形相でこちらを見ていた。
俺は顔が青くなり、アメリアさんは「あらあら」と笑っていた。
「それじゃあ、ミアの機嫌がこれ以上悪くならないうちに、始めましょうか。」
「・・・・・はい。」
あとで俺は死ぬんだろうなぁと思いながら修行を開始した。
修行は、前回の続き【サンドドール】から始めた。
これは、あることをひらめき、それを実践したら1回で成功した。その方法とは、陶芸である。
陶芸は、土で形を作った後、一度乾燥させてから竈の中に入れるとテレビで言っていた。
なので、最初に作った土人形を風で乾燥させて、その後、高温の熱で固めるイメージで行ったら少し欠けたが成功にすることが出来た。
昨日、工房を見学させて貰った時、火床を見て、この方法を思い付いたのである。
完成した【サンドドール】を見てアメリアさんや他の従業員は、かなり驚いていた。本来、この魔法は泥団子のような感じで固めるイメージが多く、陶器のようになっているのは初めて見たという。
それを聞いて、俺は何で泥団子を思い付かなかったのかと自分のバカさ加減に呆れていた・・・。
残りの2つ。闇魔法の【シャドー】は自分の影をただ動かすだけの魔法。しかし、本来ならば動きに合わせて動く影を魔力で動かすのはかなり難しいらしい。
「・・・出来た。」
開始5秒で【シャドー】をマスターした。動かすどころか影の形まで変えたことに周りはまた驚いていたが、俺は出来ると確信していた。
表世界の忍者が主人公の漫画に、影を操る忍者がいたので簡単にイメージできた。
最後の聖魔法【プチヒール】これはかすり傷治す程度の魔法で、子供がケガをした時にくらいしか、活躍しない魔法である。
さて、何故この魔法が1番習得が難しいかというと、自分の指をナイフで切り、それを治すからである。
この指を切るというところで、皆が恐怖し、習得出来ない人が続出している。
なので、この世界では聖魔法が最も使用者の少ない魔法になっている。
そして、今。俺はその恐怖に立ち向かおうとしている。
「ちょっとレン君っ!そんなに力が入っていたら指を切り落としてしまうわよ!」
そんな、アメリアさんの心配の声も耳には届かず、意を決して切ろうとしたら、突然持っていたナイフが消えた。
何が起こったか分からずにいると、いつの間にかアイラさんが目の前に居て、俺が持っていたナイフを握っていた、次の瞬間スッとナイフを振り下ろしたかと思うと、俺の指先が切れていた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うるさいねぇ!さっさと魔法を掛けな!早くしないと他の指もオレが切っちまうぞ!」
と意味不明なことを言われたので、俺は慌てて「【プチヒール】!【プチヒール】!【プチヒール】!【プチヒール】!」と連続で掛けていた。
切った指の状態を見て、アイラさんは
「やればできるじゃねーか。ホラッ!昼休みは終わりだよ。さっさと、仕事に戻りな!」
と言い、お店の方へ向かって行った。
「むちゃくちゃだ、あの人・・・。」
「けど、これで基礎魔法は全て習得でしたじゃない。おめでとう。」
「なんか、実感的沸かねぇ」
そう言いながら、俺は朝と同じように仕事した。
その夜、今日あったことをミアに話そうとしたが、昼間アメリアさんに見とれていたことにまだ怒っているらしく、ことごとく無視され、俺はひとりベッドで泣いていた。