第12話 1日目からの修行開始
アイラさんからの再試験を受けるとこになったミアは早速試作に取り掛かる訳にはいかなかった。
何故なら道中安全だったことから、ミアはコボルト戦以降、俺の戦うところを見ていないからだ。
そのため、装備を作るにしても今の俺に何が足りないかが分からずにいた。
そこで、マリアさんの提案で朝から工房の庭で俺自身の戦闘訓練と兼ねてミアに戦うところを見て貰うことにした。
「しかし、マリアさんに稽古をつけて貰うことになるとはなぁ。」
「マリア姉さんは第2級ライセンス持ちだから、かなり強いよ。油断しないでね。」
ハンターには、9段階の階級があり、この階級はライセンス呼ばれている。さらに、9段階を3つのグループを分けて、仕事の振り分けを行っているらしいが、その話はまた今度にすることにした。
ちなみに、マリアさんの第2級は軍の小隊長を任せられる強さで、貴族からの依頼も受けられるらしい。
「分かってる。けど、何でそんな凄い人が店長なんてやってんだ?」
「さぁ?そのことについては、姉さん話したがらないから。」
「レン君、そろそろ始めるわよ。構えて!」
「あ、はい!」
マリアさんの指示で木剣を構えた。稽古とはいえ、実践を想定しての戦いになるので、いつもの装備に腰の後ろには木の短剣も装備している。
一方、マリアさんに動きやすそうな半袖短パンで、手にはグローブをはめていた。
「ホントにそんな格好でやるんですか?木剣とはいえ、傷痕が残るかも知れませんよ?」
「人の心配をするよりも、自分の心配をした方が良いわよ。気を抜いていると一瞬で終わるから。」
そう言うと、普段のマリアさんの穏やかな雰囲気は消えて、真剣な目をしていた。
「・・・それじゃあ、始め!!」
ミアの合図とともに、マリアさんは一気に距離を詰め、俺の腹部に目掛けて右拳を繰り出そうとしていた。
俺は、咄嗟に左に避けて間一髪避けることができたが、残念ながら読まれていた。
「あっぶ、ぐぁ・・・!」
避けたと思った瞬間、左腕に重い感覚が来た。殴りに来た勢いを利用して、回し蹴りを繰り出して来たのだ。
俺は蹴られた勢いに負け、2、3m程吹っ飛ばされてしまった。
そんな姿を見て、マリアさんは
「どう?これで少しは目が覚めたかしら?まだ、目の前にいるのが工房で接客業をしているただの女だと思うなら、次は確実に気絶させるわよ。」と言ってきた。
確かに、舐めていたのかもしれない。木剣を握り直し、今度は自分からかかって行った。
10分後、結局こちらの攻撃はカスリもしなかった。それどころか、息も切れていなかった。
一方、俺は息を切らし地面に倒れていた。
「あなたの攻撃は直線的過ぎる。だから読まれて躱される。
あなたの使っている武器なら魔獣やコボルト程度ならそれでも倒せるけど、それ以上の魔物が出たとき、手も足も出なくなるわよ。」
確かに、途中から当てることに気を取られていた気がする。
「けど、反射神経は良いから攻撃をギリギリまで引き付けてカウンターを狙うって感じのことをすれば、5級までならすぐ上がれるわ。」
なるほど、次はそこを意識してみよう。
それにしても、返事をする体力も残ってないとは、これは基礎体力も付けないといけないなぁ。
「それじゃあ私は仕事に戻るから、あなたは少し休んでなさい。」
俺は慌てて体を起こし、「あ、ありがとうございました。」と言った。
笑顔で手を振る彼女は、いつもの穏やかな雰囲気に戻っていた。
「お疲れ様、レン大丈夫?」
と、ミアが隣に座りながら言った。
「あぁ、俺は大丈夫。ミアこそ、何か掴めたか?」
「うーん、何となくは。でも、具体的に何を作るかは決まってないけどね。」
俺は「そっか」と言い、体を伸ばしながら、再び横になった。
「俺には、まだまだ足りないものが多い。ミアを守る力が・・・。俺、絶対に強くなる。」
俺がそう言うと、ミアは
「私も、レンを守れる武具を作れるようになるから。」
俺の修行も、ミアの試験もまだ1日目。
だけど、気持ちを固めることの出来た良い1日目であった。