第9話 リズバーン王国からの入国
翌日、結局、ミアはあれから起きてくることは無かった。予め、交代時間を決めていたが、俺はミアを起こすことはなく、一晩中1人で火の番をしていた。
昨日は、俺が表世界にいた時の話を聞いて、そのことに無神経過ぎたと泣いていた。俺のことを傷つけたと。俺的には聞いて欲しかったことだし、昨日聞かれなくても近いうちに話していたかもしれない。だから、あまり責任を感じないで欲しいのだけど。
ミアはとても優しく、そしてとても傷つきやすい子だ。大人っぽく振舞おうとしているが、ちょっとしたことで怒ったり、拗ねたり、会ったこともないアマテラスのことでやきもちを焼いたりする。でも、明るく笑ったり、食べることが好きだったり、感情が耳や尻尾にでることもある。俺たちは出会ってまだ2日しか経ってないけど、彼女のことを知るには十分だった。
俺にとってミアは大切な人だ。ずっと、笑っていてほしい。だから、俺に出来ることは何でもやってやる。
「とりあえず、後片付けからだな。」
裏世界に来たばかりの俺に出来ることなんて無いに等しい。今は、こんなことしか出来ないが少しずつ出来るようになればいい。そう思いながら、焚火の後始末やテーブル以外の道具の片付け、朝食の準備などをした。
「えっと、朝食は卵とベーコンとパンでいいか。」
【アイテムボックス】から食材と調理器具を出していると、後ろからズドーンという音がした。慌てて振り向くと、そこには尻餅をついて倒れているミアがいた。
「ぶっ!」
「今、笑ったでしょ!!」
昨日の泣き顔から想像できな登場の仕方だったので、思わずミアを見て笑ってしまった。
「・・・気のせいじゃない?フフッ。・・・そんなことより、朝から何してるの?」
何とか笑いを我慢しながら、会話続けようとした。
「・・・目が覚めたら外が明るくなってたから、慌てて起きたんじゃない!どうして、起こしてくれなかったの!」
「ごめん、ごめん。気が付いたら朝になっちゃって。それより、朝食すぐに作るから馬車で待ってて。飲み物はコーヒーでいいよね。」
「あっ、ちょっと!」
ミアの質問を適当に答え、朝食作りを再開した。ちなみに、調理道具のコンロも魔道具で、魔力を通してスイッチを入れると魔法陣から火が出るようになっている。しかし、なぜかフライパンとコンロが合体していて、フライパンを振るとコンロまで動くので、自分の方へ寄せた時に、熱くて仕方ない。ポットの方は魔力を通してスイッチを押すと、1分程でお湯が沸いた。もう完全にティファールにしか見えなかった。
出来た朝食を持って馬車に行くと、ミアは頬を膨らませていた。
「・・・・・口内炎でも痛いのか?」
「違うわよ!怒ってんの!」
そんな、可愛い起こり方してるヤツ初めて見た。
「なんで、怒ってんの?火の番で起こさなかったから?それとも、さっきの質問適当に返したから?」
「それと、私が馬車から落ちたのを笑ったことも!」
ミアは俺がいる方と反対側を見て答えた。あれに関しては、仕方ないと思うんだけど。
「本当にごめん!ミアが疲れてるみたいだったから、ゆっくりして貰おうと思って。」
「言い訳は聞きません!」
あらら、まいったなぁ。こんなことで、こんなに起こるなんてなぁ。
「じゃあ、どうしたら許してくれるの?」
「・・・私の前に来て座って。」
「わかった。」
どうにか、機嫌を直してもらうべく、ミアの言う通りにした。
「じゃあ、目をつぶってジッとして。」
「えっ?」
えっ?目をつぶるって、えっ?そういうこと?
「何してるの?早くして。」
「は、はい。」
ミアの支持通り目を閉じる。
ヤバい、緊張し過ぎて、心臓飛び出そう。まさか、初めてを異世界ですることになるなんて。
ドキドキとワクワクの両方が混じり合った状態で、その時を待つ。
その時、バッチン!っと強い衝撃を受け、次に額が熱くなるのを感じた。
「痛ってーーーーー!」
俺は、額を押さえ馬車の中を転げ回った。
強烈なデコピンを貰ったのだ。
「アハハハハ、これで許してあげる。さぁて、朝ご飯たべて来よーとっ。」
そう言いながら、馬車を降りって行った。
「くっそー、キスされるのかと思って油断した。」
まだ、痛む額をさすりながら、ちょっと残念な気持ちになりながら、馬車から降りるのであって。
朝食食べ、リズバーン王国に向けて出発した。
道中、盗賊に襲われて・・・、なんてこともなく城の門が見えてきた。
後でミアに聞いてみたところ、リズバーンの軍は優秀で王都周辺には盗賊はおろか、魔物もほとんどいないらしい。
門に近づくにつれ、多くの馬車が並んでいるのが見えた。
「あそこで、検問をしているの。リズバーンでは、商人やハンターとかなら自身所属しているギルドのギルドカード見せるとそのまま通ることが出来るんだけど、レンは持ってないから通行税を払う必要があるわ。」
そう言うと、ミアは財布から銀で出来たメダルを二枚渡してきた。
昨日のレストランで、ミアに奢ってもらった時に、裏世界のお金について聞いてみた。
この世界のお金は、鉄貨・青銅貨・銅貨・銀貨・金貨の五種類あり、表世界で例えるなら、鉄貨は1円、青銅貨10円、銅貨100円、銀貨1000円、金貨1万円くらいになるらしい。
王都の通行税が銀貨二枚つまり2000円もかかるのである。
そんなことを思い出していると、俺達の番になった。
「次の馬車どうぞ。って、アイラさんの所のミアちゃんじゃないか。おかえり。・・・後ろの彼は誰だい?行きに居なかったと思うけど。」
門番の男は、俺を怪しむように見ていた。
「ただいま、門番さん。彼はレン。武者修行の旅をしてるらしくて、危ないところを助けて貰ったの。今回ハンターギルドにギルドカードの発行のために王都に行く予定だったらしくて、助けて貰ったお礼にここまで乗せてあげたんです。」
「・・・なるほど、そういうことでしたか。なら、ミアちゃんはギルドカードの提示を。後ろのキミは通行税とこちらの用紙の名前を書いてください。」
ミアは、ギルドカードを見せるだけすぐに終わり、邪魔になるからと馬車を移動させに行った。
俺は、門番に言われるままにミアから貰った銀貨を払いと、紙に名前を書いた。
この時、気付いたのだが、俺は日本語で書いてしまった用紙を見ても門番は何も言わなかった。ミアも覗いていたが何も言わなかった。これもスキル【翻訳】の効果なのだろうかと考えていたが、分からないので考えるのを止めた。
その時、タイミングよく門番が話かけてきた。
「確認できました。では、こちらをお付けください。」
っと、門番はブレスレットを差し出してきた。
「これは?」
「この魔道具は、この町で犯罪を犯すとすぐさま我々のもとに知らされます。また、犯人が逃走したとしても、この魔道具が位置を教えてくれるのです。ちなみに、それを外すには我々が持つ鍵が無ければ、決して外せません。」
つまり、通報兼発信機ということなのだろう。
門番の説明を聞き、ブレスレットを右手に付けた。
「あと、ギルドカード発行するときにも説明があると思いますが、カードにはその魔道具に似た機能があるので、発行後に外したくなった場合は近くの駐在所に行けば外してくれますので、その時は忘れずにギルドカードを持参してください。」
「分かりました。」
ギルドカードにも、通報と発信機があるのかぁ。でも、カード捨てたら分からなくならないか?
そんな、疑問を持ったがそれはギルドで聞けば良いだけの話なので後にすることにした。
「・・・では、説明は以上ですので、入国を許可します。ようこそ、王都へ。」
「ありがとうございました。」
俺は、門番にお礼を言い、門をくぐりミアの待つ馬車へと向かった。