第0話 自殺?からの異世界へ
目の前に見えるのは長い長い階段と風に揺られる竹林、それに階段には幾つもの鳥居が連なっていた。そんな風景を見ながら俺はただひたすらに階段を登っていた。
一体、どれだけの段数を登っただろうか。そもそもなぜ俺はこんな所にいるのだろうか。
高校3年の俺、沢渡 蓮は、学校の帰りに地元にある神社に行った。それは竹林に囲まれ、階段には幾つもの鳥居が連なっているどこにでもあるようなこの神社は、地元ではある意味有名な場所である。
さて、なぜ俺が神社に来ているかというと、大学受験の合格祈願!という訳でなく、まったく別の目的のためである。ここは、昔から自殺者が多いと噂されている。何年か前に地震で本堂が崩壊してから、人の手入れがされなくなり、自殺する者が増えたという、今では呪われた土地とまで言われている。
俺がここに来た目的も自殺するため、理由は家での不満や受験でのストレスなど色々あるが1番はイジメだ。俗に言う陰キャである俺はイジメグループの的となった。始めこそは、止めようとしたヤツもいたがすぐに殴る蹴るなどの暴力を振られ、次第に誰も助けなくなった。イジメの内容はシカトや暴力はもちろん、物を盗まれたり、今日にいたっては階段から突き落とされ死ぬ思いをした。その時、俺は死ねばこの地獄から解放されるそう思った。
そこで学校の帰りに近くにあるホームセンターで2mほどのロープを買い、この神社に来たのである。
◇ ◇ ◇
「・・・おかしい」、そう思ってからおそらく2時間はたっただろうか。
自殺しようと神社の階段を登り始めてすぐに辺りが霧に包まれ、5分ほどで晴れたがそこから見えたのが果てしない階段だった。この時点で違和感を感じ引き返そうと振り向くと、一番下が見えないほど階段が続いていた。それを見た瞬間、引き返すという選択肢は消えた。
次にスマホを確認したが電波が届いておらず、時間も0時00分で止まったままだ。
「くそっ!どうなってんだ。」
突然のことでパニックになったが、降りないのであれば進むしかないと、階段を登り始めた。あれから、どれくらいの時間がたっただろうか。ゴールの見えない階段をひたすら登った。
しばらくすると、あることに気が付く。
「・・・あれから大分経ってるのに全然疲れねーな」
下りならともかく登りで何時間も歩いて疲れないなんて生きてる人間ならまずありえない。
「ていうか、俺って生きてるのか?首釣った記憶がないから生きてるはずだけど。そもそも何で死のうなんて考えたんだっけ?」
自殺の理由を考えるとなんだか馬鹿らしくなってきた。だいたい、死ぬなんてただの逃げだ。もし死んでないのなら、今度こそ戦ってあいつら見返してやる。
そう思ったその時、階段の頂上が見えてきた。それを見た瞬間、俺は走って階段を登った。
頂上に着くと息が切れており、思わず膝に手を付いた。ここに来て初めて疲れを感じた。
「はぁはぁ・・・」
息を整え顔を上げると、そこには神社の本堂のような建物があった。
「なんだこれ?見るからに怪しさ満点だな。」
そう言いつつ、恐る恐る建物に近づくと、キィーと扉が勝手に開いた。
ビビりながらも、扉の向こう側を見ると黒髪を束ね、水色がメインの和服姿で、年齢はおそらく20代前半くらいの女性が出てきた。
てか、怖っ!!こんなところでそんな格好で出来たら、幽霊にしか見えんわ!
「幽霊とは失礼な!まぁ、今回は許して上げましょう。さぁ、早く中へお入り。」
そういうと、女性はちょっとうれしそうに振り向き建物の中に戻ってゆく、このままついて行って大丈夫なのだろうか?とはいえ、付いていくしか他に選択肢ないし、などと考えていると。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だから早く入って来なさい」
と、女性は振り向き少し呆れたような顔でそう言った。
俺は、少し警戒しつつ建物の中に入った。建物の中はまず1番最初に見えたのはごく普通のリビングと髪はポニーテールに縛って青いワンピースに着替えた女性の姿だった・・・。
いや、どう考えてもおかしいだろ!なんで、神社の中入ってリビングだよ!普通、畳が広がって仏壇の置いてある部屋だろ!てか、いつの間にか着替えてるし!と心の中でツッコミをいれていると
「だって、仕方ないじゃない。畳だけの部屋だとお客にお茶も出せないじゃない?」
と突然、女性はしゃべり出した。
何で、思っていることがわかった!?そう言えば、さっきも何も言ってないのに幽霊のことバレてたな、もしかして・・・。
「そう。私は人の心を読めるの。だから、さっきレン君が幽霊とか失礼なことを言った時はさすがにちょっとイラッとしたけど、20歳に見えるっていうのは嬉しかったから、これでプラマイゼロね!」
っと女性は笑顔で説明してくれた。
俺の名前まで知ってるのか。てか、20歳で喜ぶって実際は何歳・・・、いやこれ以上考えるのはやめよう殺される。
さっきまで笑顔だって女性は、殺気を込めた目でこちらを睨んでいた。
俺は、咳払いを1つし、話を切り出した。
「あなたは一体誰なんですか?だいたいここは何処なんですか?俺は、死んだんですか?」
「そんなに一度に質問されても答えられないわよ。まぁ、そこに座って落ち着きなさいよ。今、コーヒー淹れるから。」
女性は、テーブルを指で刺しそう言った。俺は、落ち着くために深呼吸して席についた。
しばらくすると、コーヒーを運んできた女性も席付き、お互いにコーヒーを一口飲んだ。
このコーヒー、うまっ!
「まず、私の名前はアマテラス。ここは、あなた達の世界と隣り合った異世界への道の丁度中間地点。簡単に言えば、関所みたいなところかな。私は、ここの番人をしているの。で、レン君が生きてるか、死んでるかで言うと生きてるよ。」
アマテラスと名乗る女性の言葉に思わず、フリーズしてしまう俺。
「いや待て待て、いきなり異世界とか、番人とかよくわかんないんだけど・・・。そもそも、なんで俺はここにいる訳?あの神社に行くとみんなここに来るの?」
「もう、キミ質問多いよ。順番に説明するから、ちゃんと聞いて。それとレン君まだ自己紹介まだでしょ!いくら、私が心を読めるからって楽しない!」
うっ、自分の事でいっぱいで忘れてた。てか、名前知ってんじゃん!
「・・・挨拶が遅れました。沢渡 蓮って言います。よろしくお願いします。」
「よろしい。じゃあ、説明するね。」
棒読みで名乗ったが、アマテラスは特にツッコム様子はなく、説明を始めた。
まず、この世界は2つに分けられており、それを時空の壁で隔てられる。基本的に、2つの世界は関わり合うことはないが、例外がいくつかある。
例えば、どちらかの世界で震災級の地震や大型台風などの大きな力が生じると時空の壁に歪みが生じ、そこに偶然人が入り込んでしまう、いわゆる神隠しや、俺から見て向こう側の人間による異世界への召喚。または、死んでもう1つの世界で蘇る転生などがある。
「じゃあ、俺もそのどれかなのか?」
「いいえ、レン君の場合は私が呼んだの。キミは死ぬには惜しい逸材だと思ったから。」
「どういうことだ?」
「うーん、それを説明するには2つの世界の違いについて話さなきゃね。」
そう言うと、アマテラスはコーヒーを一口飲んで、話を続けた。
「レン君の世界と向こうの世界・・・。あー、面倒だから、君の世界を表、向こうを裏って言うね。で、その2つの世界何だけど実は神々がある実験をしているの。」
思わず息を飲んだ。神々の実験っていったい何が?
「その実験っていうのは、1つに科学の文明、もう1つに魔法の文明を与え、どちらがより発展するかというものなの。」
「・・・内心ほっとしたよ。神様の実験っていうからもっと、天変地異みたいなものを想像したよ。」
「そうでもないよ。文明の発展って時には天変地異より酷いことになるの。レン君は今まで平和な世界で生きてきたけど。表世界だって2回も世界大戦してるじゃない。裏世界でも今のところ1回で済んでるけど、大魔道戦争っていう大きな戦争があって人類が滅亡寸前の頃だってあったんだよ?それ以外にも人を襲う凶暴な魔物なんかもいるしね。」
それを聞いた瞬間、背筋が凍った。
そうか・・・。魔物はおそらく対して問題じゃない。それよりも、魔法は人間が使うんだ。使い方次第で1つの国滅ぼすこともできるんじゃないか?
「血筋や才能にもよるけど、魔法は誰でも使えるし、それに上位魔法一発で地形が大きく変わることもあるしね。これを戦争で使わない手は無いわよ。」
「・・・それで、そんな危険な世界になぜ俺を送ろうとしている?」
俺は、アマテラスを睨み言った。
「勘違いしないで欲しいけど、私はレン君が神々の実験を軽く見てるから、あえて大げさに言ったけど。大魔道戦争が終結してからは、どこの国も休戦協定を結んでいるから日本と同じくらいには平和だよ。それに魔物も油断は出来ないけど、レン君が考えてるように大きな脅威じゃない。」
「・・・・・。」
「それに言ったじゃない。死ぬには惜しい逸材だって。レン君、キミは魔法に愛されてるって言って良いほど魔法の才能に溢れてるの。そんな、ダイヤの原石みたいな子を異世界行ってすぐ死なせるなんてことする訳ないじゃない?何のために階段無限ループで自殺を思いとどませたと思うの?」
「やっぱり、あれはアンタの仕業だったか!結構、大変だったんだぞ!」
予想はしてたがやっぱりこいつだったか。ホントに信用して大丈夫なのか?
「まぁ、そう怒らない怒らない。それに異世界行きだって強制じゃないから、ここからはレン君の意思で決めてもらう。異世界に行き第2の人生を歩むか、それとも元の世界に戻りイジメと戦うか。」
「・・・・・。」
ここまで来て、最後は俺の意思って無責任にも程があるだろ。死ぬつもりで神社に来たのに、永遠に続く階段を登らされて、自殺を思いとどまらせて、挙句の果てに異世界に行け?どんだけ自分勝手なんだ・・・。けど。
「・・・わかった。行ってやるよ異世界に。元々あの世界には未練なんてねぇ。俺は新しい世界で生きていく。」
「・・・そっか。よかった。それじゃあ外に出よっか。」
そう言うと、アマテラスは席を立ち、入り口に向かった。俺も残っているコーヒーを飲み干し、外に出た。外に出ると、アマテラスは最初の着物姿に戻っており、鳥居の前にいた。
「ちょっと、待って。今、ゲートを開くから。」
そう言うと、アマテラスは鳥居に手をかざした。すると、みるみる鳥居が光り出した。
「ここをくぐれば、転位者用の小屋に着くわ。その格好だと目立つから、ささやかながら色々な装備品を用意してあるから、好きなの持って行っていいわ。まぁ、魔法の武器なんかは無いけど。」
「随分と準備がいいんだな。」
「異世界人を送り出すんだもん。これくらいは当然よ。」
とドヤ顔を決めていた。いやいや、威張るところじゃないから。
「そういえば、表世界での俺の存在はどうなるんだ?」
「えっ?あぁ、忘れてた。」
忘れるなよ。
「正直、どうとでも出来るわよ。レン君の予定通り、自殺したことにも出来るし、あなたの存在を最初から無かったことにもできる。まぁ、どうするかはレン君の自由に出来るの。」
そんな、大事なこと言い忘れてたのかよ。
「・・・じゃあ、・・・・・・・・・・・・ってことにしてくれ。」
「・・・分かったわ。」
アマテラスは理由も聞かず、承諾してくれた。
「じゃあ、行くか!」
「神々のご加護がありますように・・・」
そう最後にアマテラスは祈りを捧げてくれた。そして。俺は鳥居をくぐった。
初めて書いたので、個人的にも下手だなぁと思いますが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。