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射手の統領087 タテベ副拠

射手の統領

Zu-Y


№87 タテベ副拠


 爽快に目覚めた後、朝イチでナワテのタテベ副拠のシルドに、ホサキと一緒に本日訪ねるとの早馬を出し、トノベ副拠のシリタとヤクシ副拠のエノウにも近日中に訪ねるとの早馬を出した。


 皆での朝餉の席では、今日の段取りの確認である。

 今日から俺は副拠巡りで、まずはホサキとタテベ副拠のナワテに行く。流邏石で商都に飛べば、ナワテは商都から徒歩でも3時間と近い。

 サヤ姉とサジ姉はガハマに残って隠居の監視をしつつ鍛錬。

 キョウちゃんズとアキナとタヅナは、北斗号で西都に骨董品の不良在庫を売りに行く。場合によったら商都まで足を延ばすかもしれない。

 もし完売したら北斗号の積荷は空になる。東に帰るとしたら西都で産物を仕入れるから、北斗号をキノベ陸運西都営業所に預けて来ることにした。


 そう言う訳で俺とホサキは、朝餉の後、一休みしてから商都へ飛んだ。

「ホサキ、キノベの営業所で馬を借りるか?3時間も歩かなくていいぞ。」

「いや、せっかくだからゆっくり徒歩がいい。アタルとふたり切りというのはあまりないからな。」

 おー、顔を赤くしてモジモジしながら言うのが何ともかわいいではないか。こんなこと言われたら徒歩一択しかないな。

 俺たちはのんびり、商都からナワテへ歩いて行くことにした。


「ホサキ、せっかくだから手を繋ぐか、腕を組んで行こうぜ。」

「いや、それは流石にまわりの眼と言うものがあろう。」うーん、予想通りの返事だ。いかにもホサキっぽい。俺はイジることにした。笑

「なんだ、嫌なのか?」敢て寂しそうに言う。

「嫌な訳ないであろう。」焦るホサキ。

「ならば照れることではない。まわりに見せ付けてやろうぞ。」さっとホサキの手を握った。恋人繋ぎと言う奴だ。ホサキは真っ赤になって俯いた。

 夜の肉食ホサキはどこへ行ったやら。俺のテンションは上がる。これこそまさにギャップ萌えと言う奴だ。笑


 そんなこんなしてるうちに3時間などあっという間だ。ナワテの町に着いて、そのままタテベ副拠に向かった。

 副拠の正門では警備の者が誰何して来た。

「タテベにご用でっしゃろか?」

「ユノベのアタルだ。シルドどのに取り次いでもらいたい。」

「では、こちらのお方は二の姫さんで?」

「なんだ、ホサキは副拠では顔が売れてないのか?」

「実はナワテに来たのは初めてなのだ。」

「ふむ。コスカの本拠の深窓のお姫様という訳だな。」

「そ、そ、そんな訳なかろう。私がお姫様などと!」

「あのー、二の姫様と違ゃいますんで?」門番が俺たちのやり取りに半分呆れて突っ込んで来た。

「いや、私がホサキだ。兄上に取り次いでくれないか?」

「さいでっか。ほな少々お待ちくだされ。」と言って館に伝令に行った。


 しばらく後、俺とホサキは表座敷に通されていた。そこへシルドがぞろぞろ取り巻きを連れて入って来た。

「アタル、紹介しよう。正室のトライと側室のデントだ。ふたりとも重臣の娘でな、従姉妹同士だ。それから妹でホサキの姉のシヅキ。」

 それぞれと挨拶を交わす。

「それとシヅキの夫で、俺の側近のバクラだ。」

「そなたは…。」

「その節はお世話をお掛けしました。」東都から名府へ向かう廻船の中で、キョウちゃんズに呑まされ、潰されて、シルドに戒めとして頭を刈られた3人のうちのひとりだ。


 ツルツルの丸坊主だったのが、イガグリ頭にまで髪が伸びている。

「いや、こちらの方こそ身内が煽ってすまなかったな。」

「確かにあのおふたりには乗せられました。はっはっは。」

「バクラ!」きつい口調でシヅキどのがたしなめ、場の雰囲気が固くなった。

「シヅキ、控えよ。」シルドが半分呆れてたしなめたが、シヅキはぷいと横を向いてしまった。

 こりゃ何とも我儘なお姫様と見える。面倒臭ぇな。


 バクラは頭を掻いて苦笑いをしており、全然動じていない。こいつ、なかなかの大物だな。

 まあ、廻船の中でも、酔い潰れた戒めに翌朝丸坊主にされた日の晩でさえ、反省するどころか、「もう失うものはない。」と言って、再びキョウちゃんズに挑み、潰されていたがな。

 根が能天気なのだろう。こういう奴はなんと言うか、愛嬌があって好ましいではないか。笑


 シルドはこの後に公務があるので、シルドの側近のバクラとシヅキどののふたりが副拠内を案内してくれることになった。

 ホサキは久しぶりと言うこともあり、姉のシヅキと話していたので、必然的に俺はバクラと話すことになる。

 バクラは俺と話しつつも、何かとシヅキのことを気遣っており、どうもベタ惚れのようであるが、シヅキはいわゆるツンデレと言う奴で、バクラをうるさそうにあしらっていた。

 こうなると俺のイタズラ心にスイッチが入ってしまうではないか。ツンのシヅキをデレさせてやる。


 ふたりの馴れ初めなどを聞いてみた。すると得意気にバクラが語り出した。

「幼少の頃、殿の側近候補としてコスカの館に上がった折に、私が姫に一目惚れしましてね。」

「バクラ!」シヅキである。しかし相変わらず夫扱いしてねぇな。

「まぁまぁ、いいではありませんか。私たちの馴れ初めも後でお話しますから。

 で、どうやって口説き落としたんだ?」

「いくら一目惚れでも主家の姫ですからね、高嶺の花と尻込みしていた訳ですが、殿に見抜かれましてね。殿が取り持ってくださったんですよ。」

「ほうほう。」

「私が年下ということもあり、姫はまったく相手にしてくれませんでした。最初のうちはまるで子供扱いでしたがね。そりゃぁもう殿が猛プッシュしてくださったんですよ。」

「それで上手く行った訳だ?」

「はい。」

「と言うことはシヅキどのも満更でもなかった訳ですな?」

「そんなことはありませぬ。」ぷいと横を向く。

「では意に添わぬと?」ぶっ込んでみた。

「左様なことは申しておりませぬ。」

「おっと、さりげなくデレましたか?ご馳走様です。いわゆるツンデレと言う奴ですな?」ホサキが袖を引いている。やめろってか?笑

「違いまする!」シヅキに睨まれた。笑


「ときにバクラ、タテベに伝わる夫婦円満の秘訣を知っておるか?」

「「な!」」シヅキとホサキがハモった。ということはそう言うことか。笑

「ああ、大奥方様直伝のあれですか?」バクラもシレッと答える。深く考えてないな。

「バクラ!」シヅキの狼狽えぶりが面白い。笑

「ふむ。そうか、存じておるか。姑どのはよき知恵を授けてくれたものよ。しかし、安心したぞ。わが盟友、シルドの無二の側近が夫婦不仲のせいで、忠勤に差支えがあっては困るからな。シルドが側近と妹の間で頭を悩ますなどあってはならぬことだ。」


「私がベタ惚れですから大丈夫ですよ。」バクラが笑う。

「今はそうであってもいつまでもそうとは限らん。俺の家来にも妻のツンデレに些細な思い違いが重なってな、ダメになってしまった夫婦があったのだ。」

「…。」無言で俯くシヅキ。おっと地味に効いたか?実はこの話ははったりの作り話なのだがな。笑


「姫、私は大丈夫ですよ。」バクラが気遣う。

「そこだな。シヅキどのは人前でも平気で夫のバクラを呼び捨てにし、バクラはシヅキどのを姫と呼ぶ。そなたらは夫婦というより主従に見えるわ。危うい、危うい。」

「そうは言いましても姫を呼び捨てにするなど畏れ多くてできませんよ。」

「シヅキどの、そなたは恐ろしいそうだ。旦那に恐れられるほどの恐妻には見えぬがな。人は見掛けによらぬとはよく言ったものよ。」

「ちょっ!アタルどの!」ふむふむ、能天気なバクラが焦りやがった。面白れぇじゃないの。笑


「俺たちは互いに呼び捨てだぜ。対等だからな。なぁホサキ。」

「うむ。確かにそうだ。私も最初はアタルどのと呼んでいたのだがな。何度もアタルと呼べと言われて、いつの間にか普通にアタルと呼んでいるな。」

「なぁ、シヅキどの。シヅキどのはバクラの主筋で、バクラの一目惚れで、しかも姉さん女房となりゃあ、バクラは頭が上がらんな。

 力関係はシヅキどのが一方的に上だ。それを隠そうともせず、人前でその力関係を無頓着に晒しておる。今はバクラが気にしておらぬからよいがな、気にし出したら耐え忍ばせることになろうな。まぁバクラに甘えておるのだろう。

 しかしな、耐え忍び出したらそのうちバクラは嫌気がさすかもしれんぞ?そのときになって後悔しても、後の祭りよな。」

「!」目を見開くシヅキ。


「アタルどの、いい加減にしてくだされ。私が姫に嫌気がさすことなど、断じてありませぬ。」

「ふむ、左様か。ならばそちらの話はもうよいな。では今度は俺たちの馴れ初めだがな…。」

 それからたっぷりと聞かせてやった。俺が露骨にのろけるので、横で聞いているホサキが真っ赤になっていた。笑


 シルドは泊って行けと言うが、副拠にはオミョシ分家の隠居を軟禁しているので、夕餉を馳走になって流邏石で帰ることにした。


 ナワテでの夕餉は、シルドと奥方ふたり、俺とホサキ、シヅキどのとバクラで囲んだ。

 シルドは自慢のバイツェンを振舞ってくれた。フルーティなビールで実に旨いのだが、和の国ではラガーの方が圧倒的人気で、我らヴァイツェン派はマイナー勢力である。


「アタル、実はな、近々俺はコスカに戻ることになった。」

「ほう。…もしや正式にタテベを継ぐのか?」

「おお、これだけで分かるか。流石よな。」

「シルドがナワテを任されていたのは、タテベを継ぐための修行であろう?コスカに戻るとなれば、相続となろうな。」

「アタルのせいなのだぞ。いや、アタルのおかげと言うべきだな。」


「俺の?…ということは次ノ宮殿下か?」

「うーむ、やはりアタルは鋭いな。次ノ宮殿下の『アタルの義兄弟ならそなたも帝家の忠臣』と言うあのひと言でな、父上が決意されたのだ。」

「舅どのはどうされるのだ?」

「しばらくは俺の後見だな。」

「ナワテは誰が見るのだ?」

「バクラに任せようと思ってるのだがな…。」

「殿、私は殿のお傍にお仕えしますからね。」バクラが入って来た。

「と言うことなのだ。」シルドが溜息をつく。

「なるほどな。」


「シヅキ、バクラを説得せよ。」シルドが何気なく言ったのだが…。

「旦那様の御心のままに。」

「は?今、何と申した?」シルドが驚いて聞き返す。

「旦那様の御心のままにと申しました。」

「姫、旦那様はおやめくだされ。」

「ではシヅキとお呼びくださいな。」

「アタルどののせいですぞ!」バクラが俺に食って掛かる。

「旦那様、違いまする。アタルどののご忠告に私が得心致したのです。」

「アタル、シヅキに何を言ったのだ?」シルドが興味津々で聞いて来た。


 俺が顛末を語ると、シルドは感心して頷いていた。

「アタル、それは忝い。俺も気になって注意はしていたのだ。」

「ときに、奥方おふたりも姑どのから夫婦円満に秘訣を伝授されておりますか?」俺はシルドのふたりの妻、トライとデントに聞いた。

「「はい。」」

「やはり姑どのはタテベの要か。」


 夕餉を馳走になって、ホサキ用にナワテで1個の流邏石を登録し、俺たちは流邏石でガハマに帰館した。シルドがコスカに帰るのなら、俺の分は登録しなくてもよいしな。


 ガハマでは、皆が夕餉を終えていた。

 サヤ姉とサジ姉からは隠居の動向について「変わりなし。」との報告を受けた。相変わらず側室と盛っているようだ。何ともお気楽な極楽蜻蛉である。

 一方で、アキナたちからは骨董品完売と、北斗号をキノベ陸運西都営業所に預けて来たとの報告を受けた。

「完売か?流石だなぁ。」

「古都は古物商が多いですからね。懇意にしているお店もいくつかあります。」

「いやぁ、ホンマに凄い駆け引きやったんよ。」

「どいつもこいつも値切って来よったけどな、アキ姉はまったく負けへんかってん。」

「ちなみにおいくら万円で売ったのかなー?」軽く聞いてみたのだが…、

「ノーベソでの評価額ですね。吹っ掛けてはいませんから負ける必要もありませんよ。」

「ノーベソでは評価額の半値で買い叩いたよね?」

「こちらとしては欲しくもないものを融資の代として買って差し上げたのですから半値は妥当です。ですから融資分がそっくり倍になりましたね。」

 頼もしい!この一言に尽きる。


 その後、ホサキと入浴して、姑どの直伝のお背中流しを堪能した。


 部屋に戻ると、今夜の輪番のサジ姉が待っていた。

 俺は待てないよ。そのままサジ姉を押し倒して貪った。サジ姉も超が付く肉食だから貪って来た。本番なしでのひと通りの貪り合戦の後、心地よい疲れが俺とサジ姉を快適な眠りに誘ったのであった。


設定を更新しました。R4/7/10


更新は月水金の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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