射手の統領084 湯治へ、ゴー
射手の統領
Zu-Y
№84 湯治へ、ゴー
両腕が痺れて目覚めると、両腕を枕にしたキョウちゃんズがあどけない顔で寝ていた。
こうして見るとまだ半分子供なのに、昨夜の俺はなんてことをしてしまったんだ!と言う罪悪感が押し寄せて来たが、残り半分は大人なんだからいいんじゃね?と言う気がしないでもない。
まあ、男として責任を取るつもりだからよしとする。
朝の生理現象もあるが、昨日、出番のなかったマイドラゴンはその分も含めて頗る機嫌が悪く、いきり立っている。
じきにふたりそろって目を覚ました。昨夜ふたりを散々嬲りに嬲ってそのまま寝たので、俺たちは3人とも裸である。布団をはがすのが妙にこっ恥ずかしい。
ふたりもさすがに朝からすっぽんぽんは恥ずかしいようで、布団の中に潜ってしまった。
と、思ったら全然違った。いきなりマイドラゴンを構い出したのである。
「おい、朝から何やってんだ?」
「昨日はドラちゃんを構ってあげる余裕がなかってん。」
「これからふたりでドラちゃんのお世話をするんや。」
「いや、朝からいいから。」
「アタル兄は黙っとき。」
「天井の節の数でも数えとって。」
「いや、それは男が女に言うセリ…ふぁうぅぅぅ。」
じきにマイドラゴンはホワイトブレスを吐いて力尽きたのだった。やっぱり次は我慢できないかもしれない。
ってゆーか、こいつらやっぱ子供じゃねーし!俺の罪悪感に苛まれた心を返せ!
朝餉を摂って宿屋を出発し、キノベ陸運アーカ営業所で北斗号を受け取って、そのままオミョシ分家本拠へ向かった。
本拠では馬車が大小各1台、計2台が用意されていた。騎乗の10人程度は護衛だろう。残りは徒歩で、その人数はざっと50名と言ったところか。
大きい馬車には前の権座主=隠居、奥方、側室、重臣らしき3名が乗り込んだ。小さい馬車にはシエンが乗り込んだ。領地の東端までの見送りである。
オミョシ分家の馬車大、小の順に続いて北斗号を配置し、騎馬がオミョシ分家の馬車2台を取り巻く。
徒歩は半々に割れて、馬車列の前後にそれぞれ隊列を作った。なかなか、眼を引く一行である。
一行は商都を目指して東進を始めた。
アーカの東端で休憩し、見送りのシエンと別れを告げると、オミョシ分家の馬車大で騒動が起きた。
奥方と側室が揉めて…、と言うか、奥方が一方的に側室を罵っており、側室は蒼褪めて今にも泣きそうになっている。隠居はふたりの間に挟まれて右往左往するばかり。情けねぇ。
怒りまくった奥方が、シエンの馬車小に乗り込んでもう帰ると、喚いていた。実はこれ、予め示し合わせた出来レースである。笑
これで隠居は、ガハマでの湯治が、お気に入りの側室とふたりきりになると同時に、機嫌を損ねた奥方がアーカにいる。これですぐにはアーカに帰りにくくなるだろう。と言う計画だ。
奥方はすでに隠居を見限って、シエン側に付いている。アーカでのシエン体制の確立に、オミョシ本家出身の奥方の存在は、心強い味方になるだろう。
休憩を終え、シエンたちと別れて東進を再開した。予定通りだ。結局オミョシ分家からガハマへ湯治に行く一行は、隠居、側室、重臣3人の馬車組と、騎乗が5名に徒歩の護衛20名となった。
この日は順調に進んで夕刻には商都に着いた。
商都ではオミョシ分家一行が、オミョシ分家の定宿に入ったので、俺たちもそこに泊まることにした。よって、夕餉は宿屋で隠居、側室、重臣3名と、俺たちセプトで一緒に摂ることになった。
夕餉までまだ少し時間があるので、商都に流邏石を登録していないタヅナに、商都ギルドへの登録を勧めると、商都で登録するならギルドよりもキノベ陸運の商都営業所がいいと言うので、新品の流邏石をひとつ渡して商都営業所へ登録に行かせた。
アキナは商都西本店へ山髙屋専務兼商都西本店店長の叔母様のところへ挨拶に行かせた。ついでに俺の発案の例のアレ~避妊具~の開発状況も確認して来てもらうのだ。
アキナとタヅナが宿屋に戻って来た。アキナによると、例のアレはもう少しで試作品に行けそうとのことで期待が膨らむ。
ふたりが帰って来てすぐに隠居達との夕餉となった。
夕餉が始まってすぐ、
「隠居どの、奥方どのはどうされたのだ?」いきなり爆弾を投げてみた。重臣3名の顔色がさっと変わる。
「それが分からんのや。いきなりこれに絡みだしよったんでな。」
「側室どのにか?側室どのは奥方どのと確執でもあったのか?」
「いえ、普段はあまり接点がおまへん。会うたときはよくしてくれはりましたよって、何でご機嫌を損じてしもたか、さっぱり分からへんのですわ。」
「悋気かのう?」隠居が呟く。
「悋気?隠居どのは悋気を起こさせるようなことをしたのか?」
「まぁ、馬車ではこれとばかり話していたかもしれんなぁ。」
「それはいかんなぁ。隠居どのともあろうお方が抜かったのではないか?妻も妾も分け隔てなく平等に扱わねばな。
ところで奥方どのは本家の出よな。大丈夫なのか?継いだばかりのシエンに余計な手間を掛けてくれるなよ。」
「そこまでは行かんやろ。」
「もし本家と揉めたらユノベは分家に付く。ユノベが付けば、トノベ、ヤクシ、タテベ、キノベ、そして山髙屋も分家に付く。」
「すまんの。」
「シエンは盟友だからな。そして分家はサキョウとウキョウの実家でもある。昨日、勘当も解かれたのでなおさらだ。」
「なんやて?勘当を解いたて、どういうことや。」
「なんだ、隠居どのはまだ知らなかったのか?シエンが勘当を解いたぞ。権座主として出す最初の命令だと言ってたな。頼もしかったぞ。
それに隠居どのもよかったではないか。これだけ優秀なふたりを勘当したのは隠居どのの判断ミスだ。シエンはそれを正した。親の尻拭いを立派にやってのけたのだ。」
重臣3名が引きつる。
「掟ゆえ仕方なかったんや。」
「それはシエンも同じだろう?バカな掟を越えられなかった隠居どのを始め、歴代の当主と、就任早々バカな掟を廃したシエンとの器量の差であろうな。」
「アタル様、権座主にお言葉が過ぎるのとちゃいますか?」重臣のひとりが噛み付いて来た。
「おい、権座主はシエンだ。勘違いするなよ。それから俺は新たな権座主であるシエンの器量を褒めているのだ。隠居どのを貶めるつもりはない。そなたがそのように受け取ったのであれば、そなたの心に隠居どのを蔑ろにする本音があるのではないか?」
「な、な、な、何ちゅうことを言いますのや!」
「よく考えてみよ。本人に面と向かって貶めるようなことを言う訳がなかろう。貶める意図があれば、本人のいないところで陰口を叩くものぞ。
掟を越えられなかったのは隠居どのだけではなく、歴代の当主も同じであった。俺は隠居どのが劣っていたとは言っておらん。歴代当主と一緒で並だと言っただけだ。
長い因習に囚われた害のある掟を、権座主就任早々、見事に廃したシエンが、果断で優秀なのだ。」
「くっ。」
「そなた、隠居どのの重臣よな。重臣にも拘わらず、隠居どのに何か含むところがあるのか?」
畳みかけてやった。上手く行けばこれでこいつと隠居は拗れるかもしれん。
「め、滅相もありまへんがな。」
「左様か。それならよいがの。それにな、跡取り息子を褒められて嬉しくない親はおらんぞ。
のう、隠居どの。」
「…。まぁ、そうやな。」隠居は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「シエンは非常に優秀だ。隠居どのもシエンに任せてゆっくり湯治をしてゆくがいい。とにかく焦らずに健康を取り戻すことだ。」
それから酒などを酌み交わしながら夕餉は和やか?に進んだ。
俺が、陰の術の有用性を散々語ったときは、隠居も重臣も満更でもなかったようだが、その話の流れで、パーティ内でのサキョウとウキョウがいかに優秀であるかを語り出すと、セプトの面々がこぞってふたりの優秀さを褒めちぎり、隠居も重臣もすっかり黙り込んでしまった。
今夜は4人部屋2部屋になったので、お楽しみはなしだが、隠居たち分家の動向に警戒せねばならぬのでちょうどいい。忍の者も接触してくるかもしれない。
案の定、夜半に忍の者が来た。
「今宵、影の者が隠居に呼ばれまして、主様を襲撃するように命じられました。」
「ほう、よく早々に情報を掴んだな。」
「命じられた本人から聞きましたゆえ。」
「なんだと?」
「影の者はすでにシエンどのに付いており、シエンどのから影の者へ、隠居が主様に対して敵対行動を企てたら、隠居の命は一切聞かずに、われら忍の者を通じて主様へすぐに知らせよ。との命が下っておりますれば。」
シエンの奴、抜かりないなぁ。頼もしい限りだ。
「しかし襲撃しないと隠居に怪しまれるのではないか?」
「警戒が厳重ゆえ、抜かりない準備をするのに1日欲しいと申したそうでございます。それで明日の晩も襲撃はせず、さすれば明後日の朝に召し出されましょうが、そのときにはもうアーカへずらかっており、シエンどのに委細を報告するとのことです。」
「そうか。では今宵、こちらから先に仕掛けるか。重臣ひとりを絡めておけ。今宵の夕餉で俺に食って掛かって来た奴だ。あ奴なら、いなくなっても、夕餉のときのやり取りで、バツが悪くなって出奔したと思われよう。」
「始末はどのように。」
「警告ゆえ殺めぬでよい。それより殺さぬ程度に痛め付けてな、顔を腫れ上がらせて丸坊主にし、下帯1枚で手足を縛り上げ、ガハマの桟橋にでも転がしておけ。湖船から下船したときの隠居の顔が見ものよな。」
「承知。」
忍の者が下がって、俺は部屋に戻ってそのまま寝た。
翌朝の朝餉の席で、オミョシの一行が何やら慌ただしい。重臣がふたりしかいない。忍の者が昨夜の打ち合わせ通りに、例の重臣を上手く拐かしたようだ。
俺は何食わぬ顔で隠居に聞いた。
「隠居どの、何やら慌ただしいがどうかしたのか?」
「それがな、重臣がひとりおらんようになっての。」
「ひょっとして隠居どのを蔑ろにしていた奴か?本音を見抜かれたゆえ、いたたまれなくなって出奔したのではないか?」
「蔑ろにしてたと決まった訳ではないやろ。」隠居が庇う。
「隠居どのも案外、人がいいな。そんなことでは奸臣に出し抜かれていい様に操られようぞ。
俺は昨日探りを入れたつもりだったのだが、あの慌て様は尋常ではなかったではないか。」
「せやろか?」
「出奔でなければ拐かしか?まさかオミョシ分家の定宿に?それに拐かしなら部屋に争った痕跡があるのではないか?そもそもあ奴はひとり部屋だったのか?」
「わしらと同室でおます。寝るまで一緒だったんですわ。部屋は荒らされておらんですし、荷物ものうなっておりましたんや。」重臣が答える。
「それならばやはり出奔であろうな。」
「うーむ。」
隠居も残りの重臣ふたりも首を傾げている。出奔というのが俄かに信じられないのだろう。
「出奔でなければじきに戻って来るだろう。行先はガハマと分かっているのだしな。今日はオツまで行くから朝餉を摂ってさっさと出発しようぞ。」
「せやな。」隠居が渋々同意した。
商都からオツまでの行程は非常に順調だった。実際に商都と西都の間は獣は出ないし、西都とオツはすぐ隣だ。
昼餉休憩の後に、隠居を北斗号に呼んだが、体調不良を理由に来なかった。その代わりに残ったふたりの重臣を寄越した。まったく隠居の奴、しょうもない。今頃側室とふたりきり、オミョシ分家の馬車の中でしっぽりやってるのだろう。
俺は重臣ふたりを北斗号のメイン車両屋上、すなわち見張台に上げ、キョウちゃんズとアキナの式神による警戒を見せた。
普通の術者は式神1体を操るのが限界だか、キョウちゃんズは3体ずつ式神を飛ばすことができる。さらには、キョウちゃんズの無尽蔵な魔力による、休みなしの継続的な警戒と、まったく疲れを見せぬ様子に、重臣ふたりは舌を巻いていた。
「姫さんたち、凄いやおまへんか。」
「アーカでは、式神3体飛ばせても、だからなんやって言われとったけどな。」
「いや、式神をこういう使い方をするんやったら、そらもう凄うおまっせ。」
「式神のこういう活用法を考案したのはうちのアキナだ。
それとな、サキョウとウキョウがうちのパーティで主力なのは、式神よりも陰の術の効果なのだ。5割だぞ、5割!サキョウが敵を半減してウキョウが味方を5割増しにする。この意味が分かるか?敵は50%、味方は150%、つまり3倍有利になるのだ。
隠居はこれが分からずにふたりを勘当したが、シエンはそこを見逃さなかった。あいつは本当に凄い!あれでまだ成人前の14歳なのだから恐れ入る。将来、いかほどの人物になるか。間違っても敵にはできん。」
俺のシエン評に隠居の重臣ふたりも頷いている。こいつらもシエン側に取り込めるといいがな。
宿屋に着いて夕餉を摂る頃には、隠居も側室も消えた重臣が出奔したものと決めつけていた。残る重臣ふたりが北斗号に視察に来てる間に、そう言うことになったのだろう。
重臣ふたりは黙っていた。まだ重臣仲間を信じているに違いない。隠居の文句に対して、明らかにテキトーな相槌を打っている。笑
キョウちゃんズの有能さを示してキョウちゃんズを勘当した隠居の判断ミスを目の当たりに見せた直後での、重臣仲間に対する隠居の懐疑的な態度は、残る重臣ふたりの隠居に対する忠誠心を削ぐことになる。実にいい展開だ。
ちなみにオツのこの宿屋は、アキナとタヅナと結ばれた宿屋だ。で、そのときの部屋、デラックスダブルが空いてたのでもちろん迷わず取った。あとは4人部屋だ。サヤ姉、サジ姉、ホサキと、キョウちゃんズを半人前計算してちょうどだ。
あのときと同じように、アキナとタヅナと3人で部屋風呂を堪能し、あのときと違って俺は躊躇うことなくふたりをまとめて押し倒した。その後はむふふな展開である。
とことんふたりを堪能した。もちろん、本番は抜きで。
あー、例のアレ、早く開発されねぇかな。
設定を更新しました。R4/7/3
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2050hk/
カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。




