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射手の統領079 トリトに凱旋

射手の統領

Zu-Y


№79 トリトに凱旋


 橙土龍の攻略に成功して眷属にできたので、まずは大砂丘で新たに得た土属性攻撃の震撃矢を試すことにした。


 シン鏑に通常矢で触れて土属性を纏わせた震撃矢を放つ。大砂丘での実験だったので、激しく砂が舞い上がり、地響きが起きた。これはかなりの破壊力だ。

 3倍震撃矢を試すと、舞い上がった砂も凄かったが、地響きが地震レベルになった。


 岩に震撃矢を打ち込んだらどうなるのだろうか?岩を粉砕するのかな?シンに聞いてみよう。

「なぁ、シン。震撃矢は砂を巻き上げるようだが、岩はどうなる?岩を吹っ飛ばすのか?砕くのか?」

『我が属性攻撃に耐えられる岩などないわ。砕くどころか粉々よな。』

「そうか、粉砕するのか。ならば土木や農地改良にも応用できそうだな!」

「アタル、何か思い付いたのね?」

「うん。まず、でかい岩が道を塞いでたり、川の流れを堰き止めてたりしたら、震撃矢で粉砕だ。石ころだらけの荒れた土地も、石を粉々にしつつ一気に耕せる。」

「それ…いい…かも…。」

「アタルは民思いなのだな。よき統領となろう。」


「以前、水撃矢で雨乞いができんか?と提案して来た家来のおかげだ。攻撃だけではなく、民の生活を助けるために使うと言う発想が、俺の眼を開かせてくれた。」

『余の力を便利屋として使う気か?』

「いいではないか。これからは畏れられるのではなく、崇められるぞ。」

『ふん。余は崇められるより、畏れられる方がよいのだ。

 ところでアタルよ。試したいことがある。余を先程の小娘に持たせよ。』


「さっき試したではないか?」俺は半信半疑でウキョウにシン鏑を渡す。ウキョウが橙色に光り出す。さっきと同じだ。

『アタル、どこでもよい。小娘に触れておれ。』

 俺はウキョウの肩に手を置いた。

「これでいいか?」

『よい。そのまま離すなよ。

 小娘、その桁外れの気力を余に流し込め。』

「こう?」ウキョウが応じて、シン鏑に気力を流し込んだ。

『そうだ。もっともっと流し込め。遠慮はいらん。』

 ウキョウが真剣な顔になり、ウキョウとシン鏑が呼応して、ウキョウとシン鏑の橙色の発光がどんどん強くなる。

『よし、余を正面に向けて高く掲げよ。』

 ウキョウはシン鏑を高く掲げた。

『そのまま、術を放出する要領でな、放て。』

 ウキョウが掲げるシン鏑から土の術が放出され、3倍震撃矢ほどの効果が出た。ウキョウは放心している。


『ふむ。思ったより効果が出たな。』

「シン、どういうことだ?」

『アタル、お前がまだ小娘を抉じ開けておらんから、小娘は土の術を放てん。ところが小娘は桁外れの気力持ちだ。その気力を余に流させて、余の気力と合わせて放出したのだ。』


「うちもできるやろか?」サキョウが乗り出す。

『できるぞ。やってみるか?』ウズの思念が飛んで来た。

 俺はサキョウにウズ鏑を渡して、肩に手を添える。サキョウとウズ鏑は呼応して青く光る。

『いいぞ。気力を寄越せ。』

 サキョウがウズ鏑に気力を流し込むと、青い発光がどんどん強さを増して行く。

『もっとだ。遠慮するな。そうだその調子だ。よし、余を高く掲げよ。』

 サキョウはウズ鏑を高く掲げた。

『放て!』

 ウズ鏑が水の術が放出され、やはり3倍水撃矢の効果が出た。

「「やったー!」」ふたりで泣きながら抱き合っている!


「ウズはん、何で今まで教えてくれへんかったの?」サキョウがぶー垂れ気味に聞いた。

『効率が悪いからだ。実戦には使えん。』

「どういうことだ?」

『この方法だと、気力の消費量が10倍なのだ。小娘が余に寄越した気力が10倍水撃矢に相当する気力量。余からも同量の気力を出しておる。合わせて20倍だ。これで放てるのは2倍水撃矢だが、小娘のバフの術の効果が5割増ゆえ、3倍水撃矢となった。』

『余の方も同じだな。』シンが相槌を打つ。

「なるほどな。20倍の気力で3倍ということは85%のロスか。確かにこれでは使えんな。」


『さらにな、小娘から余への気力の移動には、余を眷属にしているアタルが仲介せねばならぬ。』とシン。

「俺はいつ仲介したんだ?」

『肩に触れていたであろう?』とウズ。

 そこへライの思念が加わった。

『それぞれに鏑を渡して、小娘たちに触れておくのにアタルの両手が取られれば、アタルは弓矢の攻撃ができぬ。アタルの属性攻撃と引き換えに、小娘たちに術を使わせるなど愚の骨頂。攻撃には向かん。』

『以前、雨乞いの代わりに余の力を使うと言ったであろう?雨乞いをする際にはこの方法を教えてもよいと思っていたのだ。』

『アタル、分かったであろう?小娘たちは成長が抑えられていた分、成長が始まれば急速に成長する。そして成長は始まった。間もなく十分に成長するゆえ、そうなったら、変な拘りを捨ててとっとと小娘たちを抉じ開けるがよい。』

 ライからのトドメ。結局そこへ落ち着く訳なのな。しかし話の筋は通っている。


「ライはん、うちらはあとどれくらい待てばええの?」

『今の調子なら半年は掛からんな。アタルが念入りにかわいがればさらに加速するぞ。』

「念入りってなんだよ。」

『一部だけではなく、全身くまなくかわいがればよいのだ。さすれば、成熟の成長速度が増す。』

 キョウちゃんズがモジモジしながら期待の眼で見つめて来る。もはや総堀は埋められてしまった。万事休す。詰んだ。

 この際、戦力アップのためだと割り切って、成長具合でのみ判断し、年齢のことは目を瞑るように俺も腹を括るか。


 新たに得た土属性攻撃の震撃矢をひと通り試したし、それそろ昼餉時で腹も減ったので、ここらで帰るかな。俺たちは流邏石でトリトギルドに飛んだ。


 なんだがギルドの中が騒がしい。

 ギルトに入ると冒険者でごった返していたが、俺たちに気付くと、方々から声が上がる。

「濃紺の規格外や。」

「トリトの救世主や。」

 冒険者たちはさっとよけて、受付までの道が開けた。その先にはヨルハンがいる。

 そして、俺たちに気付いたヨルハンが凄い勢いで寄って来た。

「おい、橙土龍を倒したってホンマか?」

「ん?なんで知ってるんだ?」


「目撃者が何人もいるからや。アタルが矢を射たら、橙土龍が橙色の粒子になって霧散しよったとか、吸い込まれよったとか、消滅しよったとか、まったく訳が分からん情報なんやが、橙土龍がいのうなったっちゅーことだけは共通しとるんや。

 でもその後、小さな地震が何度か起きよったんで、取り逃がしたのではないかっちゅー憶測もある。どうなんや?」

「ここで話すのか?」俺は冒険者たちを見回した。

「あ、すまん。ギルマスルームに来てくれるか。」

「いいだろう。

 おい、お前ら。トリトの危機に臆して何もせず、それでいて高みの見物とはいい身分だな?冒険者が聞いて呆れるぜ。こんなとこで騒いでる暇があったら鍛錬せんか!」

 一喝すると冒険者たちはギルドから出て行った。素直に鍛錬に行ったのならいいがな。


 俺はヨルハンに橙土龍を攻略し、シンと名付けて俺の眷属としたことを報告した。攻略の証拠として、口外無用と念を押した上で、ヨルハンにシン鏑を見せた。

「その鏑に橙土龍を封印したのやな?その鏑は渡してもらえるか?」

「馬鹿なことを言うな。俺たちが攻略したのだからどうするかは俺たちの自由のはずだ。それにな、俺たちはシンを眷属にするためにわざわざ来たのだ。渡す訳ないだろう。」

「せやけど、封印が解かれたら元の木阿弥や。厳重に保管したいんやが。」

「俺がシンを逃がすとでもいうのか?」

「そうやないけどな…。」

「あのな、シンが暴れたのはお前らのせいだぞ。トリトの大砂丘はシンの縄張りだ。お前らそれを端から徐々に侵食してるだろ。これ以上、大砂丘を荒らすな。」

「なんでそんなことが分かるんや。」

『余がそう言ったからだ。』

「!」ぶっ魂消るヨルハン。


『しばらくの間、余はアタルと行動を共にする。余が戻るまでに侵食したところを元に戻しておくがよい。』

「なんやて?戻るて、橙土龍を開放するんか?」

「俺が死んだら俺の眷属じゃなくなるからそうなるな。まぁ、俺は当分死ぬつもりはないから、100歳まで生きるとして、あと85年は安泰だな。

 シンをすぐに開放したとしても、お前らが大砂丘の無謀な開発をやめさえすれば、シンは暴れたりしないぞ。」

「分かった。それは約束させてもらうわ。」

「ところで、行商の件はいいんだよな。」

「もちろんや。すぐに、地震が無うなったことを皆に告げ、セプトの活躍を知らしめたる。」

「シンを悪く言うなよ。地震は大砂丘を大事にしなかった神罰だからな。荒ぶる神は鎮まったが、大砂丘を大事にしないとまた現れて暴れると言っておけ。」

「それは分かっとるがな。今夜から、町を挙げて地震終息の祭や。」

「そうか。まあ楽しんでくれ。俺たちは明朝、トリトを発つから報酬はそれまでに用意してくれよ。」

「え?祭の間の3日間はいてくれんか?費えはすべて町で持つで。」

「次の予定があるんだよ。気持ちだけ貰っとくわ。」

「さよか。ほなら報酬はすぐ用意させてもらうわ。」


 昼餉を摂って宿に帰ると、とんでもないことになっていた。正面の門柱にでかでかと「セプト御一行様御本陣」と掲げられているではないか!御本陣ってなんなんだよ。苦笑

 野次馬どもの人だかりも凄い。これじゃぁ宿に入れねぇじゃねえか。夕方の祭までゆっくり休ませろよな。


「すいません。ちょっと通してください。」最初は下手に出た。

 とにかくキャーキャーうるさい。

「疲れてるんで宿で休ませてください。」2度目も下手に出た。

 それでもキャーキャーうるさい。

「入れないからいい加減にしてください。」3度目も下手に出た。

 やっぱりキャーキャーうるさい。

 仏の顔も三度までって諺、知ってる?

 俺は雷撃矢を「セプト御一行様御本陣」の看板に射込んだ。バリバリバリという物凄い音の後、看板は落雷を受けたように黒焦げになった。シーンとなる野次馬ども。

「じゃまだ!どけ!」と大声で一喝すると、宿屋の門までの道が開けた。


 黒焦げになった看板の横で固まっている従業員。

「俺たちは宿の宣伝道具じゃねぇんだよ。ゆっくり休ませねぇなら宿を変えるぞ。」俺は従業員に文句を言った。

 部屋に入ると女将がすっ飛んで来て、這い蹲って土下座した。ひたすら平謝りなので、もういいからゆっくりさせてくれ。とだけ伝えた。

 俺たちのために、今日の日帰り営業は打ち切ったらしい。宿泊客は昨日から連泊の俺たちと、忍の者8人組だ。


 俺は大浴場の男湯に行って浸かった。橙土龍攻略の疲れを落とすのだ。すると、忍の者3人組が入って来た。

「急に跡を継いだシエンに有能な側近はいるか?」

「はい。3名程おります。守役とそのお子たちです。」

「されば、シエンに伝えてくれ。

 明日トリトを発つ。アーカに着くのはトリトを出てから3日後。病気療養中の隠居に、サキョウとウキョウを通して湯治を勧める。湯治先はユノベ副拠。場合によっては本拠に連れて行く。

 シエンから見て邪魔な隠居派の家臣をすべて湯治に同道させよ。ユノベ副拠で翻意を促し、翻意しない奴は全員幽閉する。」

「承知。」ひとりが頷いた。こいつがシエンの所に行くんだな。


「隠居一行は、影の者を湯治に大勢連れて来ような。そ奴らを隠居から外してシエンに付くように工作せよ。可能か?」

「隠居は影の者を使い捨てにします。そのやり口には辟易してる影の者もおりますが、お約束はできかねます。」

「何とかならぬか。」

「全員ではありませぬが、工作費で動く者もかなりいるかと思われます。」

「いかほどだ?」

「大金貨5枚ほどは必要かと。」

「大金貨10枚を預ける。それでシエンに影の者が付いて、忍の者と影の者が敵対しないのであれば安いものだ。」

「「「!」」」要求額の倍額の提示に忍の者3人が驚く。

「ここが正念場ぞ。金で動くなら糸目は付けるな。ひとりでも多く味方に付けよ。そなたたち忍の者や、影の者が犠牲になるよりよっぽど安上がりだ。我が嫁の護衛を残して総動員せよ。」

「「「承知。」」」3人が頷いた。

「明日までに軍資金を用意する。それまで、ゆるりと湯に浸かって英気を養っておいてくれ。」


 夕方の祭に中央広場へ出た。

 俺とアキナはトリト支店へ行き、移動店舗証明書を使って、大金貨10枚を短期借入し、忍の者のアーカでの工作資金を確保した。

 他の皆はトリト営業所で北斗号を一旦引き取り、中央広場で出店準備をした。


 夕方の祭では、ギルマスの宣伝もあって30分で残りの在庫が完売。それから俺たちは祭で夕餉を済ませ、軽く酌を受けて、大いに楽しんで宿に戻った。

 トリトはこの晩から3晩続けて祭でどんちゃん騒ぎをするらしい。


 俺たちは程々で宿に戻り、日帰り営業を打ち切ってくれたお礼に、ガラガラの宿でもうひと部屋借りた。

 そう、今夜の輪番はサジ姉だ。サジ姉と夜遅くまで淫らな快楽に耽ったのだった。本番抜きなのだけが、残念ではあるが。

 例のアレの開発はまだか!


設定を更新しました。R4/6/19


更新は月水金の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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