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射手の統領073 キノベ副拠

射手の統領

Zu-Y


№73 キノベ副拠


 昨夜はあのバカ息子どもを、サヤ姉とサジ姉の拷問から救ってやった。いい行いの後は、気持ちよく眠れるものだ。


 朝餉を摂っているとアホ村長が詫びに来た。

「旅のお方、家中からかき集めて来ました。何とかこれで息子を救うてくれはりまへんやろか?」アホ村長は土下座している。

 吊るされているバカ息子はこれをどう見ているのやら。

「分かった。更生させればいいんだな?」

「はい。よろしゅうお願いします。」

「村人を全員呼んで来い。」アホ村長が村人を集めに行った。


「村人諸君。村長が、この金でバカ息子を救ってくれと言って来た。誠に殊勝な心掛けだ。俺はそれを引き受けてバカ息子を更生させることにした。

 まずは盗みや、カツアゲ、畑荒らしなど、バカ息子どもが、散々して来た悪さの弁償からだ。被害に遭った者は、その被害額を申告してくれ。村長が差し出した金で皆の受けた被害を弁償する。」村人がどよめいた。


 しばらくして、村人から申告された金額の総額は、アホ村長が持って来た額の優に5倍はあった。

「村長、これでは足りぬ。不足額をすぐ持って来い。」

 アホ村長はさらに金を持って来た。まだ隠してやがったんだな。しかしそれでも足りない。

「村長、まだ足りんぞ。」

「もうびた一文ありまへんがな。」

「そうか、仕方ないな。せっかくの村長の志だ。一肌脱ごう。アキナ、村長宅に行ってな、金になりそうなものをすべて持って来い。村長、相応額の半値で買い取ってやる。」

「へ?半値でっか?」

「そうだ。こちらは欲しくもないものを買ってやるんだ。仕方なかろう。」


 アキナが半壊した家や蔵の中から、いろいろな物を見繕って持って来た。

 壷やら掛け軸やらの骨董、茶器、絵画、それに、借金の証文が結構出て来た。なるほど、この証文で村長な訳か。


「村長、この証文だがな、あんた金貸業かい?金貸業の免許は当然持ってるよな?」

「それは村人たちの困窮を救うために個人的に貸したものですがな。」

「いや、これだけ大々的に金貸しやってたら、その言い分は通らんな。それと利息が法定歩合を越えてるぜ。こりゃ犯罪だな。」

「え?犯罪?」村長が蒼褪めた。

「あんた村長のくせに、こんな高利貸しで、村人を食い物にしてたのか?」

「食い物やなんて、天地神明に誓こうて違いますがな。」

「ほんとに村人の困窮を救うためなんだな。」

「そりゃあもう。人助けでんがな。見逃しとくんなはれ。」


「分かった。じゃあ見逃してやる。その代わり、人助けの金貸しなら利息は取らんよな。まず利息を返せ。」

「はい?」

「それとな、無免許の金貸しを見逃すには、金貸しがなかったことにするしかないよな。思い切って、証文を破いちまえ。」

「そんな!」

「お縄になるよりいいだろう。それともその証文を持って、何年も刑務所に行くか?」

「…。」村長、お口パクパク酸欠金魚。


「しょうがねぇなぁ、乗り掛かった舟だ。利息を精算する金も用立ててやるよ。」

「アキナ、査定を頼む。」

 結構な量の骨董、茶器、絵画を買い取ることになった。

「くそう、こんなガラクタばっかり。荷台の場所も取りやがるし、まったく割に合わねぇ。しかし引き受けちまったからなぁ。」


 村人の被害を全額弁償し、借りてた村人全員を確認して、アホ村長が取り立ててた高利貸しの利息を返済させ、証文を村長自らの手で破かせた。

「よし、村長、これでバカ息子の更生計画第一段階終了だ。それからあんたの犯罪の証拠隠滅もな。」

「第一段階でっか?」

「そうだ。やった罪は償わせる。そうしないと更生できん。

 でもな、村長が私財を投げ打って損害額を弁償したからな、大した罪にはならん。何ヶ月かの強制労働で済むだろう。バカ息子が反省するにはいい機会だ。」


「そら話が違いまっせ。」

「どこが違うのだ?俺はきちんと更生させると約束したんだぞ。

 それからな、村長、まさかあんたが黒幕じゃないだろうな?バカ息子どもを使って村人に被害を与え、経済的に追い詰められた村人に高利貸しをして、言うことを聞かせる。こんな筋書きだったりせんか?」

「いくら何でも、そら根も葉もないも言い掛かりや。」

「そうでなきゃ、なんでこんなデタラメなバカ息子を庇うんだ?疑いたくもなるぜ。村の衆もそうなんじゃないか?」

村人たちから「村長、今の話はホンマか?」と怒号が起きる。

「違うがな!そんなことはあらへん!」

「じゃぁ、バカ息子は衛兵に突き出して、更生させるんでいいんだな。」

 アホ村長は頷いてへたり込んだ。


 俺は村人たちに吊るした3人を下させ、北斗号に繋いだ。

「今日はアベヤまで行く。曳馬の速度だと軽く走ることになる。もしコケたら引きずられてあちこち擦り剝くことになるからしっかりついて来いよ。30分おきに水飲み休憩を入れてやるよ。

 じゃあ、村長、村の衆、達者でな。」


 俺たちはノーベソの農村を出発したのだが、しばらくして、後ろから呼ぶ声がする。何だ?

 村人が10数人程、追い掛けて来ている。北斗号を止めた。

「旅のお方、この度はホンマにおおきに。お名前を聞かせてもろでもいいやろか?」この村人たちは、アホ村長に借金してた連中だな。

「ああ、俺はアタル。パーティーはセプト。」


「アタル様のおかげで借金がのうなって、この通りや。」深々と頭を下げる。

「うちは、恥ずかしながら、娘を売ろかというところまで追い詰められとってん。」

「うちらは何度か一家心中を考えけど、その都度思い止まってん。ほんまに心中せんでよかったで。」

「それは難儀だったな。間に合ってよかったぜ。

 おい、聞いてるか?もとはといえばお前らのせいだぞ。」

 俺はバカ息子たちを叱り飛ばした。項垂れる3人。

「てめぇら、詫びのひとつも言えねぇのかよ!」一喝すると、3人とも土下座して詫びた。


「でな、昨日は何も買えなかってん。せめてものお礼にな、売り上げに貢献したいと思てな、皆で追い掛けて来たんや。」

「そんな気遣いはいらん。せっかく戻った金だ。大事にしろよ。余裕ができたら、そんときゃ買ってくれ。でもな、その気持ちだけはありがたく貰っとくぜ。」


 ノーベソから一旦北東に進み、川に出たらこの川に沿って進む。川は徐々に弓手側に向きを変えて行き、弓手側の山を巻き込むように北西まで方向を変えた。

 この後は、山の間を流れる川に沿ってひたすら北西に進む。バカ息子たちは、ジョギングより少し速いくらいのペースで走らないと引きずられることになる。

 この間、バカ息子たちのためにちょこちょこ休憩を取ってやったが、甘やかされて育ったアホ村長のバカ息子は早々に音を上げて、これ以上走れないと言い出した。だったら引きずられろよ。物凄く痛ぇぞ。と言ってやったら半泣きになったが、構わず出発した。


 しばらくして悲鳴が聞こえる。見張台のキョウちゃんズから、御者をやってた俺に伝声管で報告が来た。

「アタル兄、アホ村長のバカ息子がこけて引きずられとるよ。」

「悲鳴を上げてるうちは生きてるから気にすんな。」

 そのまま引きずり続け、悲鳴が聞こえなくなったところで、サジ姉に回復の術を掛けてもらった。

「おい、今日はアベヤまで行くんだよ。引きずることになっても死ぬ手前までは引きずり続けるからちゃんと走れ。引きずられて痛い思いをするのはお前だぜ。」

 バカ息子は哀願する目で見て来たが、俺は容赦なく出発した。その後、バカ息子はちゃんとついて来た。やりゃぁできるじゃねぇか。笑


 御者をサヤ姉と代わり、見張台に登って間もなくのこと。

「アタル兄、後ろから狼の群れが追って来よるで。」

「何頭だ?」

「10頭やね。結構な数やわ。」

「バカ息子どもがいるからスピードを上げる訳には行かないな。」

「あ、バカ息子たちが狼に気付きよったで。猛ダッシュになっとる。」

「ほんまや。えらい必死な顔してるで。」

 キョウちゃんズがケタケタと笑っている。こいつら、かわいい顔してるのに、たまに鬼だよなぁ。


 俺は水撃矢を矢継ぎ早に放ち、狼たちを次々と川に流した。バカ息子たちが眼を瞠っていたが、いつの間にか、頼もしそうにこちらを見てやがる。

 一旦狼の群れを追い払ったとこで馬車を止め、バカ息子たちを少し休ませた。なんたって死に物狂いの猛ダッシュだったからね。


「アタル兄、狼の奴ら、体勢を立て直してまた追って来よるで。」引きつるバカ息子たち。

「迎え撃つぞ。殲滅する。」

 ウキョウが皆に各種バフの術を掛け、ホサキが自在の盾を構えてバカ息子どもを庇う体勢を取った。

 狼の群れが射程に入り、サキョウの各種デバフの術で、接近する狼の速度が眼に見えて遅くなる。サジ姉の麻痺の術と俺の雷撃矢で、狼どもが次々と倒れる。

「ちょっと!何頭か残しときなさいよ!」サヤ姉の声が響いて、俺とサジ姉は肩をすくめる。

 サヤ姉の二刀流剣舞で戦闘終了。手分けしてトドメを刺しながら、狼10頭をすべて回収した。

 完全に度肝を抜かれているバカ息子たち。アホ村長のバカ息子が聞いて来た。

「自分ら、何者でっか?」

「俺か?俺はアタル。パーティーはセプト。」


 アホ村長とバカ息子たちのせいでノーベソの出発が、予定より2時間近く遅れ、バカ息子たちのためにちょこちょこ休憩を入れたり、狼の群れの襲撃を捌いたりしたせいで、アベヤ到着は日暮れ後になった。これじゃぁ、商売はできないな。


 俺たちは、バカ息子たちを衛兵詰所に連行して引き渡し、バカ息子たちの窃盗、カツアゲ、畑荒らしなどの罪状を伝えた。しかし、親が被害者には被害額をすべて弁償したので、そこのところを多少は斟酌して、強制労働半年ぐらいで勘弁してやってくれと頼んでおいた。


 冒険者ギルドで、狼10頭を素材換金し、その後、キノベ副拠に向かった。すでに辺りは暗い。

 タヅナの御者で北斗号が副拠に入ると、あちこちから、「二の姫様ー、お帰りなさいまし。」と声が掛かった。

 キノベ副拠を任されている代官が出て来て、迎えてくれた。


「二の姫様、お帰りなさいまし。遠路大変でしたな。」

「爺、久しぶりぃ。元気にしてたぁ?」

「はい。この通り元気ピンピンですぞ。

 ユノベ・アタル様ですな。キノベ副拠へようこそおいでくださいました。副拠の代官でございます。

 皆様も、いらっしゃいまし。

 道中何かございましたか?遅いので心配いたしておりました。」

「うむ。世話になる。出迎え大儀。いろいろあってノーベソを出るのが遅れた。心配を掛けて相すまぬ。」


 北斗号を預けて、まずは風呂!ということで湯殿に向かった。

 え、男湯と女湯?キノベは混浴の習慣がないらしい。実はタヅナも、混浴にはしばらく抵抗があったそうだ。今はまったくないけどね。

 ひとりで悠々と湯に浸かると、旅の疲れも抜けて行く。が、隣の女湯から楽しそうな笑い声が聞こえて来る。ちぇっ、なんだよ。

 おい、お前、いくら何でも声に反応するなよな!ドラゴンは嫁たちを探しているようだ。いねぇよ。ざまーみやがれ。あ、牙をむきやがった。俺はとっとと体を洗って風呂から上がった。


 夕餉の席では、キノベ副拠の代官と主だった家来衆が歓迎の宴を開いてくれた。

 キノベ副拠なので、二の姫のタヅナと婿の俺が主座で、皆はそのまわり。対面に代官、そしてそのまわりに主だった家来衆。

 代官自らが俺に酌をしに来た。


「アタル様、此度は若のお世継決定にご尽力頂きまして、誠にありがとうございました。それから、披露目で次ノ宮殿下にお目通りの際には、若のことを格別にお引き立て頂いたご紹介だったとか。アタルどのの一行がアベヤに寄ったら、必ず歓待せよと、早馬が届いておりました。」

「いや、大したことはしとらんよ。」

「何を仰います。私は先日まで、所用で本拠に行ってましたんでな、若のお世継ぎ決定にご尽力頂いた経緯は、統領からつぶさに聞いておりますよ。」

「ほんとに何もしてないぜ。トウラクとは気が合うのでな、いろいろ部隊の運用についての話をしたりしててな、その話の流れでトウラクが陸運の重要性に気付いたのさ。」

「統領は、アタル様が若の眼を開いてくれたと申されておりました。」


「いや、本当にトウラクは自分でその結論に達したのだ。

 そなたがどう思ってるかは知らんがな、トウラクはかなり頭が切れるぜ。もっともその切れの良さは、瞬間的なものではなく、熟考によってもたらされるがな。

 それに親分肌で鷹揚としてるからな、そのせいで、並の眼力だと、あいつの頭の切れの良さを、見落とすかもしれんな。」

「これは1本取られましたな。私もその凡夫のひとりでした。」


「それは相すまんな。しかしキノベどのも見誤っていた節があるからな、気にせんでいいぞ。トウラクの本質に気付いていたのは、俺が知るところでは、ハミどのとタヅナのふたりだ。

 能ある鷹は爪を隠すと言うであろう?トウラクはその口よ。相手を油断させてバッサリだ。」

「その切れ者のふた姫様のうちのおひとりを、アタル様はキノベから奪い去って行きましたなぁ。二の姫様の嫁入りには、キノベの若い衆の多くが落胆しましてな、恨まれておりますぞ。あっはっは。」

 同席している家来衆の何人かが、バツが悪そうに下を向く。おいおい、冗談じゃないのかよ。苦笑


「すると、若い衆は、今はハミどのが目当てかな?」

「いえいえ、一の姫様は仰る通り切れ者ですが、それが前面に出てましてな、怜悧な美人は怖いと、若い衆は尻込みしております。

 二の姫様も切れ者ですが、何分話し方がほんわかしてますんで、癒し系美人で人気抜群でした。」

「ちょっとぉ、爺ったらぁ、いい加減にしてよねぇ。」

「タヅナ、その話し方のことだぞ。絶妙のタイミングだな。くっくっくっ。」

「もう、アタルのばかぁ。」ポカポカやって来る仕草がかわいい。が、若い衆からの鋭い視線が痛い。


 その後も楽しく宴は続いた。最後に、東都で仕入れた交易品から、各々好きなものを1品ずつ選ばせて、宴の礼として与えた。

「意中の女への贈り物にいいぞ。」というと皆、真剣な眼差しで選んでいた。もちろんタヅナに思いを寄せてたらしい若い衆たちもだ。笑


 夕餉が終わって部屋に行く。部屋は4部屋。ふたりずつだ。

「アキナ、今夜はアキナの番だけど、タヅナと代わってくれないか?ごめん、流石にキノベでタヅナ以外と寝るのは気が引ける。」

「それは当然ですわ。」

「ありがとうな。その代わり明日は必ずアキナだから。」


 俺はタヅナとベッドに入り、まだ初々しさが残るタヅナを夜中まで堪能した。

 タヅナを何度も痙攣させ、タヅナはドラゴンあしらいが上達している。マイドラゴンはいたくご機嫌だった。

 本番抜きなのだけが残念だ。例のアレ、早くできてくれ!

設定を更新しました。R4/6/5


更新は月水金の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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