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射手の統領069 クエスト道中

射手の統領

Zu-Y


№69 クエスト道中


 翌朝、朝餉を済ますと早々に名府を出立した。いよいよ本格的な北斗号の旅立ちだ。

 俺はこの日のために用意したセプトの旗を、メイン車両の中央の指揮所に掲げた。白地の布に墨字で「7」と大書しただけのシンプルな旗だ。嫁たちからは、そのまんま単純で素朴なところがいい。と好評だった。


 最初の御者はタヅナ。ホサキがタヅナの隣に座っている。後部座席にサヤ姉とサジ姉。それぞれふたり掛けのシートにゆったり座っている。

 俺とアキナとキョウちゃんズは、メイン車両屋上の見張台に登り、クエストの獲物を探している。

 サキョウは左から前方、ウキョウは右から前方に3体ずつ式神を飛ばしている。


 キョウちゃんズは式神の使役が得意で、1体なら15kmまで飛ばせる。2体ならその半分の7.5km、3体なら1/3の5kmまで飛ばせるのだ。巫女の訓練を母上から施されたアキナも、キョウちゃんズの指導により、式神1体を飛ばせるようになっていた。


 合計7体の式神による索敵で、原野の大狐3頭のうち、1頭を早々に見付けた。幸先がいい。

「アタル兄、1時の方向、1キロ。単独行動やね。」ウキョウからの報告だ。ウキョウの各種バフの術が次々と皆を包んで、様々な能力が5割上がった。


 警戒されないように北斗号の進路とスピードはそのままだ。100mまで引き付けたところで、サキョウの各種デバフの術が続けざまに大狐を襲う。威嚇しながら逃げようとするが、5割の能力減でスローモーションのようだ。俺が雷撃矢を引き絞ると、御者台後部座席から術が飛んだ。サジ姉だ。大狐は走りながら硬直してすっ転び、そのまま動かない。そこへ雷撃矢でトドメだ。


「サジ姉、今のは何の術?」

「麻痺…。実戦は…初めて…。上手く…行った…。」

「こないだ練習中って言ってた奴か?」

 こくり。

「うちは遠距離攻撃が強いから、近距離攻撃の出番がないわ。」サヤ姉がぼやき、

「まったくその通りだな。防御も出番がないぞ。」ホサキも相槌を打つ。

「安全第一でぇ、いいと思うわぁ。」タヅナが獲物の回収のために、北斗号の進路を少しだけ右に変えた。


 仕留めた大狐を回収してしばらく行くと、猛烏4羽に率いられた烏の群れをサキョウの式神が見付けた。

「アタル兄、11時の方向、1キロちょっと。烏の群れやわ。100羽くらいやろか?地上に降りて固まっとるから餌でも食べとるんちゃう?大きいのが4羽やな。」


 ウキョウの各種バフの術が皆に掛けられ、戦闘態勢に入る。こちらが近付いても逃げる気配がない。

「逃げないですね。」

「猛烏が4羽もいるし、大きな群れだから慢心しているのだろうな。」

「好都合ですね。」

「だな。」


 サキョウが各種デバフの術を群れに向かって連続で飛ばした。烏の群れが騒ぎ出し、猛烏がこちらに向かって飛び立った。どの猛烏も、もたついている。速度のデバフ効果だ。キョウちゃんズの陰の術が凄いのは、効果5割と、複数にまとめて掛けられる範囲効果、そして気力量の圧倒的な多さで繰り返し掛けられることだ。


 サジ姉が術を放ち、先頭の2羽を捉えた。だが、眼に見えて変化はない。

 さっきのとは、また違う術だ。俺は水撃矢を遠めから次々に放った。当たらなくても、びしょ濡れにして飛行能力を落とすのが狙いだ。猛烏4羽は水撃矢を避けて飛散した。よし、これで各個撃破に行ける。と、いきなり2羽の飛行がふらふらになり、血のようなものを吐いて落ちた。どうした?

 アキナが続けざまに10本近く射放って1羽を仕留めた。デバフで遅くなってるとは言え、初心者にしては優秀だ。最後の1羽は俺が仕留めた。


「もう、また遠距離攻撃で仕留めちゃったじゃないの。こっちにも回してよね!」

「サヤ姉、近距離攻撃で飛んでる猛烏を仕留めるのは無理だろ?」

「うるさいわね!」サヤ姉はご機嫌斜めだ。こういうときは逆らわない方が身のためだ。笑

 獲物を順に回収に行くと、最初に落ちた2羽は、やはり血を吐いて瀕死の状態だったので、俺がトドメを刺した。

「サジ姉、ひょっとして毒薬?」

「そう…。でも…だんだん…弱るから…倒すまで…時間が…掛かり…過ぎ…。」

「確かにな。でも長期戦になる相手には有効だぞ。」

「簡単な…相手なら…眠りか…麻痺が…いい…。食材に…なる…獲物も…毒は…ダメ…。」

「そうだな。」


 いきなり閃いた。

「なぁ、サジ姉、杖と薬嚢だけど、もうワンセットあった方がよくないか?回復薬と状態異常薬で使い分けよう。」

 こくり。

「よし、じゃぁ、西都か商都で買おう。」

「ありがと…。」サジ姉の眼がキラキラしている。


 その後、残りの大狐2頭は、キョウちゃんズの陰の術を掛けて、サヤ姉があっさり屠った。そのとき俺たち遠距離攻撃組は、サヤ姉から出場停止を言い渡されていたのだった。笑


 途中から御者はホサキに代わったが、ホサキも御者の技を身に付けてるので、お手のものだ。

 夕刻にはオーガに着いた。

 冒険者ギルドでクエスト2件の達成報告をして、獲物の素材買取もしてもらった。代金は明日受け取ることにして、オーガにはキノベ陸運の営業所はないので、山高屋オーガ支店に北斗号を預けた。


 前回、山髙屋の商隊護衛での商都への旅の途中で泊った宿屋に入った。

 前回の旅のオーガでは、ちょっと仮眠のつもりが、寝不足のせいで朝まで爆睡したんだっけ。

 そう言えば、あの晩、俺が居ないところで、サヤ姉、サジ姉、ホサキが、アキナとタヅナを焚き付けたんだよな。おかげで今はこうやって、アキナとタヅナを迎えている。

 あの晩の夕餉は確かこの宿屋の食堂で摂ったはずだよな?ホサキに確認するとやはりそうだった。この宿は料理自慢の宿で、ここの食堂は宿泊客以外も受け入れており、結構な人気店らしい。

 大人嫁たちも、ここは旨かったと言うので、今夜はここで食べることにした。

 お勧め定食は、ハンバーグとエビフライで、洋食の鉄板だと思ったが、確かに旨かった。


 明日は、ビワの聖湖に向かって峠越えだ。

 前回は、峠の盗賊一味を壊滅させたんだったな。もし、残党や新たな盗賊がいたら、また一網打尽にしてくれるわ!

 あと、峠のクエスト2件だな。明日に備えて、今夜はゆっくり寝よう。


 翌朝、爽快に目覚める。今朝もマイドラゴンがいきり立っていた。まぁ、いつものことだ。

 朝餉を摂ってオーガのギルドへ行くと、アキナがEランクへ昇格した。アキナとタヅナのセプト加盟は同時だが、俺とタヅナでキノベ本拠のミーブへ行ってる間に、アキナたち残りのメンバーはクエストをこなしてたから、その分の差が、少しだけついている。

 と言うことは、タヅナもEランクへの昇格間近と言うことだ。報酬は、金貨1枚、大銀貨8枚、銀貨3枚だった。なかなかの稼ぎだ。


 オーガ支店で北斗号を受け取り、オーガを出立して西に向かう。

 じきに峠のセキガの原野に差し掛かった。セキガの原野を越えると山峡越えだ。今日、最初の御者は俺。キョウちゃんズとアキナは式神を飛ばして索敵している。


 セキガの原野に入ってすぐ、大鳶4羽が索敵に引っかかった。ウキョウの各種バフの術で皆が強化され、大鳶が射程内に入るとサキョウの各種デバフの術が大鳶4羽をまとめて襲う。大鳶4羽の飛行が不安定になった。デバフの効果だろう。俺たちは馬車を止め、攻撃態勢に入った。


「ウズ、3倍。連射する。」俺は3倍水撃矢を続けざまに射放った。射落とすのよりも、水で濡らして重くして飛行を妨害するのが目的だ。

 ウキョウのバフで、俺の視力が上がり、しかも射程も伸びている。サキョウのデバフで、大鳶の回避行動が緩慢になっていたのも幸いしたのだろう。

 射落とす目的ではなかった3倍水撃矢の連射が、次々と3羽の大鳶を直撃して撃墜。残りの1羽も水浸しにして体勢を崩させて、飛行をさらに不安定にさせた。ふらふら飛行してるところにトドメの雷撃矢を射放って撃墜。

「アタル、あんた、ひとりで全部持ってくのね。」サヤ姉が不満気だ。でも近距離攻撃は、上空には届かない。

「サヤ姉、上空の攻撃は遠距離攻撃の俺たちに任せてくれ。猛熊は頼むよ。」と、機嫌を取った。


 獲物を回収して行軍再開。キョウちゃんズによる索敵も再開。

 キョウちゃんズの気力量は桁外れに莫大な量なので全然平気だが、アキナはそろそろ気力が底を尽くので、気力の回復に少し休ませることにした。サジ姉の気力回復の術もあるのだが、キョウちゃんズが全然余裕だから、アキナを酷使することもない。


「すみません。続かなくて。」

「いや、それが普通だよ。サキョウとウキョウが規格外なんだ。」

「あのなー、規格外のアタル兄にだけは言われとうないわ。」

「せやで。さっきもひとりで大鳶4羽を瞬殺で片付けてしもうたしな。」

「いやいや。サキョウとウキョウの陰の術のおかげだぞ。」

「「え?」」

「なんだ、意外そうだな。サキョウのデバフで大鳶がヘロヘロになって回避行動が緩慢だったし、ウキョウのバフのおかげで大鳶がよく見えて矢勢も上がって射程が伸びたから射落とせたんだぞ。ふたりは本当に頼りになるな。」

「「おおきに。」」モジモジ×2、真っ赤っか×2。あらら、ふたりとも照れてら。別にお世辞じゃないんだけどな。


 オーガの宿で購入した弁当を、交代で使いながらセキガの原野を進む。

 セキガの原野を抜けて、山峡に入る手前で猛熊が索敵に掛かった。

 師の月だから普通の熊なら冬眠してそうなものだが、妖獣キラーベアや猛熊になると、稀にではあるが冬眠期間の短い奴がいる。こいつもその類だろう。ウキョウのバフ、サキョウのデバフの後、猛熊が突進して来た。

「アタル、任せなさい。」

 はい、手を出すなということですね。ホサキが自在の盾を大きくして、鉄壁の防御で猛熊の突進を真正面から受け止めた。突進があっさり止められた猛熊は、立ち上がって前脚のぶん回しを始めた。ぶん回しから回転独楽に移行すれば、猛熊よりワンランク上の妖獣キラーベアだ。回転独楽への移行に移ったのだが、キラーベアは派手にコケた。サキョウのデバフの影響だ。


 その隙にサヤ姉の雷神の太刀と風神の脇差による二刀流剣舞と、ホサキの如意の槍による正鵠突きと、タヅナの偃月の薙刀による旋回切りが、一斉にキラーベアへ襲い掛かり、キラーベアはあえなく瞬殺された。

 こいつ、猛熊じゃなくてキラーベアだったよね?キラーベア相手に、いくら3人掛かりでも瞬殺はないなー。


「ま、こんなものね。ホサキ、突進を止めてくれて助かったわ。」サヤ姉はすこぶる上機嫌だ。

「いや、驚いた。なぁ、あんなに見事な連携をいつ訓練したんだよ。」

「してないわよ。でも、ホサキやタヅナがどう動くかは、分かるわね。以心伝心ってやつね。」

「そうなのか?」

「私もサヤやタヅナの動きは手に取るように分かるな。」

「私もぉ、おふたりの動きがぁ、大体分かるわぁ。」

 猛熊改めキラーベアは大き過ぎるので、解体して回収した。特に毛皮と、胆のうは高く引き取ってもらえる。熊の胆のうは熊胆と言って高級な薬の素材になるのだ。


 山峡では、前回この辺を縄張りにする盗賊団を壊滅させたので、何事もなく通過できた。

 マイバの原野に出て間もなくビワの聖湖の東岸に突き当り、そこを北上すると、ユノベ副拠のあるガハマの湖港町だ。ガハマの湖港町には14時に到着した。非常に順調だったのだ。


 ガハマの冒険者ギルドでクエスト報告と素材買取をしてもらった。特に猛熊については、その巨大さと、回転独楽に移行しかけたとの報告をしたので、猛熊改めキラーベアに上位認定された。金貨2枚、大銀貨1枚になり、オーガでのアキナに続いて、タヅナがEランクに昇格した。

設定を更新しました。R4/5/29


更新は月水金の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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