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射手の統領049 キノベへ入門

射手の統領

Zu-Y


№49 キノベへ入門


 爽快な目覚めだ。今朝はキョウちゃんズの乱入もないな。なんか、ちょっと寂しい気もする。いやいや、何考えてんだ、俺!


 朝餉で皆と合流する。いつも通り、両隣にキョウちゃんズが座って来た。向かいには嫁3人。もう間もなく、ここにアキナとタヅナが加わるんだな♪


「アタル兄、昨日はうちらが行かなくて寂しかった?」

「ああ、寂しかったぞ。」

「やった、効果抜群やー。」

「ウキョウ!それ、内緒やろ。」

「あ、しもた。」

「ん?何の効果だ?」

 嫁3人が苦笑いをしながら眼を逸らした。そう言うことか?何か吹き込んだな。焦らし戦法とか、そんなところだろ。


「俺は今日、キノベのミーブへ行くけど、皆はどうするの?」

「私たち5人で、東都ギルドのクエストをこなして来るわ。」

「野盗退治とか、危ないのはダメだぞ。」

「何か…獣狩の…クエストに…しておく…。」

「まぁ、私たち5人の腕試しと言ったところだな。」

 剣士のサヤ姉、医薬士のサジ姉、盾槍士のホサキ、デバフ陰士のサキョウ、バフ陰士のウキョウ、この5人なら十分強いな。


 俺たち6人は流邏石で東都ギルドに飛んだ。5人は北西の原野で猛鹿3頭の討伐クエストを受けてすぐに出発しようとしたが、獲物の運搬に収納腕輪があった方がいいだろうと言うことで、金貨を渡して装備屋に行かせた。収納腕輪はホサキが身に着けるそうだ。

 その後、タヅナがやって来て、渡していた流邏石にミーブを登録して来た。やはり、俺が馬の技を学びに来ると言うことで、許可が下りたそうだ。


 タヅナと一緒にミーブのキノベ本拠に飛ぶ。

 早速、表座敷に通された。主の座にキノベの統領、主の座から一段下がった所の、向かって馬手側の上手に座る若い女がハミ、弓手側の下手に座る若い男がトウラクであろう。タヅナは、客の座の俺の横に座っている。


「父上ぇ、こちらがユノベの次期統領のぉ、アタルどのですぅ。

 アタルぅ、父上、姉上、兄上ですぅ。」

 俺はキノベ統領、トウラクの順に深々と辞儀をし、ハミには最後に軽く会釈をした。


 俺が席次を無視して、ハミより先にトウラクに挨拶をし、なおかつ、トウラクには深い辞儀、ハミには軽い会釈だったことに、トウラクは明らかに驚いていた。そして、トウラクはハミの様子を窺った。ハミは何事もなかったように澄ましている。

 もちろんハミにはタヅナを通して内々に話を通してある。しかしそんなことはトウラクは知らない。キノベ統領も知らない。


「この度は、馬の技の修行を受け入れて頂き、ありがたく存ずる。恥ずかしながら、馬の技は不得手ゆえ、本場のミーブで学び、人並み程度には上達したいと考えている。よろしくお願い致す。これは当面の費え、不足したらご請求願いたい。」俺は金貨5枚を差し出した。


「次期統領自らお運びとは、その向上心に感服致しておる。馬の技を存分に修めて行かれよ。馬の技の教授はこちらに控えおる、トウラクが担当する。」

「おお、トウラクどのと言えば、無双のキノベ騎馬隊をまとめておられる、ご嫡男の御世継ですな。素人の私がそのような方にご教授頂けるとは恐縮に存ずる。よろしくお願い致す。」俺はトウラクへ頭を下げた。

「こちらこそ、ユノベ次期統領のアタルどのに指南できるとは光栄にございます。」トウラクは慌てて頭を下げた。


 あちゃー、トウラクの奴、いきなりやっちまいやがった。

「これはこれは、トウラクどのは何とご丁寧なお方かな。されどトウラクどのは馬の技のわが師匠。敬語はご無用に願いたい。」

 笑顔を向けるとトウラクも微笑み返して来た。

「承知致した。」トウラクはギリギリで面目を保った。


「されば、トウラクどのには早速ご教授願おうか。御一同、これにて失礼致す。トウラクどの、いざ。」

 俺はキノベ統領とトウラクに深く辞儀をし、最後にハミには軽い会釈で済ませて、座を立った。


「えっ?」とトウラクは驚いた。

 最初の挨拶もそうだが、席次を無視して姉上より先に自分に深い辞儀をし、姉上には軽い会釈、あまつさえ、姉上とは言葉を交わさず切り上げた。しかも俺のことを騎馬隊の責任者と知っていたし、御世継と言った。師匠とも言った。

 席次を間違ったのではない。あいつは俺が姉上より上だと思っているのだ。


「タヅナ、馬が見たい。案内せよ。」

「はいぃ。」

 ふたりがぴったり寄り添って表座敷を出て行くのを、キノベ統領とトウラクは呆気に取られて見ていたが、ハミは下を向いて必死に笑いを堪えていた。


~~ハミ目線~~


 なるほど、あのタヅナが惚れるだけのことはあるわ。挨拶だけで、トウラクを半ば落として行ったもの。しかも、私を不快にさせないように、私にだけタヅナを通して予め種明かしをしている。

 そして、最後のは明らかにわざとだわ。わざとふたりの仲を見せ付けて行ったわね。婚姻を認めよと言う圧力、いや、抗っても無駄だと言っているのね。認めるしかないのだぞと。食えない!まったく食えない奴だわ。憎たらしいぐらい太々しい。

 でも…頼もしいわね。


 思い出したようにトウラクがふたりの後を追って表座敷から出て行った。


 そう言えば、父上が呆気にとられたところなど見たことがないわね。アタルどのは父上すら手玉に取って行った。ユノベの一派とは、いや、あのアタルどのとは、キノベのために強固な婚姻同盟を結ばねばならないわ。


「トウラクはもう反対せぬであろうな。」

「そうですね。」

「しかしそなたが反対に回るか?」

「なぜです?」

 キノベ統領とハミが視線を交わす。


「ちっ、そう言うことか。そなたにだけは種明かしをしておったのだな。俯いて震えておったのは、怒りを堪えていたと思ったが、そなたの演技か?」

「父上とトウラクの呆気にとられた様子に、笑い出すのを必死に堪えていたのです。」ハミは微笑んだ。

「そなたはとんだ食わせ者だ。すっかり謀られたわ。」

「何を仰います。食わせ者はこの絵を描いたアタルどのですよ。昨日、タヅナが相談に行ったら、すぐにこの手立てを思い付いたそうです。」


「咄嗟にトウラクの失態を救った件といい、機転は利くようだの。」

「そのようですね。」

「ふん。わしを落としたかったら、トウラクの陸運軽視を改めさせよと伝えておけ。」

「父上、ずるいですわ。」

「わしはトウラクを意固地にさせてしまっただけだが、アタルどのならできるかもしれんのだ。トウラクが陸運軽視を改めねば、そなたにキノベを継いでもらうしかないではないか。」


~~アタル目線~~


 俺とタヅナとトウラクは厩舎にいる。

 俺は、タヅナとトウラクから、様々な馬を見せてもらっているところだ。さすがキノベ、馬が非常に多い。馬の世話をしている家来も多い。牧場には放牧されている馬がいる。馬場では調教されている馬がいる。厩舎や馬場や牧場はいくつもあり、広大な敷地だ。


 ひと通り見学してから、俺は小さな馬場でトウラクの稽古を受けた。

「アタルどの、馬の技を取得するにあたって心得ておいて欲しいことがある。馬に言うことを聞かせると言う考えは捨ててくれ。的確な指示を出して、こちらの思い通りに動いてもらうんだ。」

「トウラクどのも同じことを言うのだな。」

「ん?」

「御者の技を教わるときに、タヅナや、アオゲたちに同じことを言われた。昔の俺は、無理やり馬に言うことを聞かそうとしてそっぽを向かれていたのだ。」

「まぁそれは仕方ない。素人が一番陥りやすいミスだからな。

 さて、この馬は気性がおとなしい。指示もよく聞いてくれる。早速乗ってみるか?」トウラクが俺の練習用に1頭選んでくれた。


 俺は騎乗用の踏台に上り、鐙に足を掛け、ひょいと馬に跨った。馬の耳が俺の方を向いた。俺に注目しているようだ。俺は首をポンポンと叩いた。鐙の長さを調整して、背筋を伸ばす。馬に乗ったのはいつ以来だろう。


「最初は常歩(なみあし)からだ。両脚で馬の腹を抱えて、軽く締める感じだ。踵で腹を蹴るなよ。蹴ったら走り出すぞ。手綱はむやみに引かず、馬に任せるんだ。」

 俺の指示で馬が歩き出した。

「おお、いいじゃないか。その調子だ。」

 馬場の外ではタヅナが見ている。


 トウラクの指示は非常に的確で、俺の悪い癖を次々に指摘してくれる。

「背筋を伸ばして、頭は背骨の上だ。油断すると頭が後ろに行く傾向があるぞ。」

「両脚が突っ張って鐙が前に流れる傾向があるな。ほら今流れた。」

「手綱を引くなよ。緩めろ。馬を自由にするんだ。締めたらだめだ。大丈夫。言うことを聞いてくれている。うちのタヅナも締めると暴れるぞ。」

「兄上ぇ!」なんか、指示に冗談が混じって来た。笑


 約2時間の稽古で、常歩での方向転換、斜め歩き、スラロームをこなせるようになった。

「アタルどの、筋がいいな。」

「トウラクどのの教え方が上手いからだ。とても分かりやすい。指示が的確だし、まずいところをその場で指摘してくれるからすぐ直せる。」

「兄上がぁ、あんなに教え上手とはぁ、思いませんでしたぁ。」

「何を言う。お前にも同じように教えてやったではないか。」

「怒鳴るだけのぉ、鬼教官でしたよぉ。」

 3人で大笑いだ。


 俺たちはそのまま一緒に昼餉を摂った。昼餉を摂りながら、俺たちは、アタル、トウラクと呼び合う仲になっていた。

「アタルは馬車で旅をするのだろう?どうして騎乗の技を学ぶんだ?」

「敵との交戦になったら、馬車を止めて迎撃の基地として使う。そのとき馬を外して、騎乗攻撃ができるようにする。ひとつは、馬車を止めるので、馬を敵の標的にしないため、もうひとつは、騎乗による機動性が戦闘で非常に有効だからだ。」

「ほう、馬車を止めるから、馬を守るために馬車から外すのか?そして馬の機動性を生かすと。馬を守るために外すと言う発想が気に入った。馬は仲間だからな。使い捨ての道具ではないのだ。」


「なぁ、トウラク、走ってる馬の上で手綱を持たずに、馬に指示を与えるにはどうしたらいい?」

「両脚を使うんだが、高等テクニックだぞ。」

「それができねば、射手の俺は騎乗で使い物にならん。習得にどれくらい掛かるかな?」

「それはアタル次第としか答えようがないな。ただし、アタルは筋がいいから早いと思うぞ。」

「トウラクにそう言ってもらえると励みになるな。」

「アタルぅ、私も言ったわよぉ。」

 また3人で大笑いだ。


「そう言えば馬車は4頭立てにするのだろう?2頭はアタルとタヅナが乗るとして、残りの2頭はどうするのだ?」

「パーティーの何人かには馬の技を身に付けてもらうつもりだ。いきなり大人数で押し掛けてもキノベが迷惑だろうから、まず俺が来たんだ。」

「何人だ?」

「最低でも3名、最大なら6名だな。」

「そうか、その人数ならキノベでの受け入れも可能だが、こちらからユノベへ何人か派遣してもいいな。そいつらが馬の技を教えつつ、弓の技を習って来れば、こちらとしてもありがたい。」

「兄上ぇ、私が行きますぅ。」タヅナが勢いよく手を挙げた。

「タヅナはキノベへ帰って来んのだろう?帰って来る奴を派遣しないとキノベの旨味がないではないか。」そりゃそうだ。


 馬車の騎乗メンバーの話といい、ユノベへの派遣の話といい、トウラクの話っぷりは、タヅナがセプトに加わる前提になっている。来た甲斐があった。


設定を更新しました。R4/4/10


更新は月水金の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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