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射手の統領025 スッキリ

射手の統領

Zu-Y


№25 スッキリ


 おかしい!悶々として眠れなかった。軽く微睡んだだけだ。昨日はぐっすり眠れたのに。


 朝餉を済ませて商隊は予定より早くヌーマの港町を発った。今日は海岸沿いを延々とズオカの町まで行く。平地が続き、起伏がほとんどないので、タヅナの横に座って、御者としての馬の扱いの特訓を受けた。


 一昨日でなんとなくコツを掴み掛けてたんだが、そのおかげか、今日もいい感じだ。馬を無理やり従わせるんじゃなくて、信頼関係を結んで言うことを聞いてもらう。と言う、タヅナの言葉がしっくり来る。

 もちろん甘やかすだけではダメで、明確に分かりやすい指示をしっかり出すことが大事だ。以前の俺はこの加減を誤っていたと思う。そのつもりはなかったのだが、明確な指示を出すのではなく、無理やり従わせようにしてるが如く、鞭を振り回してたのだ。


 だいぶ慣れて来て、タヅナやアキナと会話を楽しみながら、御者をこなせるようになっていた。

「アタルはほんとにぃ、筋がいいわねぇ。」

「タヅナの教え方が上手だからだよ。」

「でもほんとに馬がよく言うことを聞いてくれてますね。」

「そうなんだよ。こんなに違うものかって、正直驚いてるんだ。」


 昼餉の後の行程は、馬手側の山がかなり近付いて来た。平地が狭くなっている。しばらく進むといきなり先頭車両が停止した。

 襲撃か?俺はタヅナに手綱を渡し、先頭車両の様子を窺った。やがて巡回警備の騎馬、アシゲがやって来て先頭の状況を伝える。

「ケガ人です。親子連れで子供が負傷しています。襲って来たのはスズメバチです。もしかすると大型化か獰猛化、あるいは妖化してたかもしれません。」

「後尾車両も並んで停止し、サヤ姉とサジ姉が駆け付けて来た。」

「サジ姉、スズメバチに襲われた子供がいるそうだ。至急解毒の術を頼む。行こう。」


 先頭車両の横で子供が倒れており、父親らしき男性が狼狽えている。

「とりあえず、デバフで毒の巡りを遅くした。しかし、俺のデバフでは解毒はできない。」

 ジュピから引き継いだサジ姉が解毒の術を掛けた。子供の体内から毒が消えて行く。よかった間に合った。


「ありがとうございます。ありがとうございます。」父親はひたすら礼を言うばかりだ。

 事情を聴くと、キノコ狩りに山に入ってすぐ、いきなりスズメバチに襲われたと言う。かなり巨大化してて獰猛で、編隊を組んで襲って来たそうだ。編隊攻撃をして来たなら、スズメバチが妖化したキラーベスパだ!

「アキナ、スズメバチは編隊攻撃をして来たと言うから、妖化したキラーベスパだろう。放置しては非常に危険だ。巣はすぐそこにあるらしいから、なおさら危険だ。駆除したいがいいか?」

「両方を出すことはできません。サンファミは商隊警護に残ってもらいます。セプトにお願いできますか?」

「ああ、任せろ。」

「アタル、待て。俺とプルとマズで山に式神を飛ばす。山に入って巣を探すより、巣の場所を特定してから退治に行った方がいい。」

「そうだな。頼む。」


 式神による探索でキラーベスパの巣はすぐに見つ付かった。街道にせり出した山の端から60mの所だ。こんなに近い場所にあって、これまで犠牲者が出なかったのだろうか?

 俺たちが山へ出発するとき、ジュピが、移動力、攻撃力、防御力のそれぞれに上昇の術を掛けてくれた。

 俺たちは山に入り、距離を詰めてから雷撃矢を放って、一撃で巣を作ってた木の洞ごとキラーベスパを退治した。木の洞から巨大化した巣を回収し、キラーベスパの死骸も大量に回収た。山に入ってから、回収物を収納腕輪に仕舞うまで、その間およそ15分。


 その後の行程は順調で、夕方には予定通りズオカの町に到着した。山髙屋ズオカ支店に荷馬車を入れ、俺は冒険者ギルドへと向かった。ギルドの受付で事情を話すと、やはり結構な被害が出ており、キラーベスパの討伐クエストが出ていた。

 俺は討伐して来た巣と、サンプルとして回収した大量のキラーベスパを収納腕輪から出した。すぐに鑑定され、討伐認定されて賞金の金貨2枚が出た。

 俺は、討伐は山髙屋の商隊で行なったことをギルドに告げ、ズオカ支店に戻って、討伐賞金の金貨2枚をアキナに渡した。


 夕餉はこの賞金で、みんなでズオカ名物のゾーカおでんを食いに行くことになった。ゾーカはズオカが訛ったものだ。ゾーカおでんの特徴は、牛スジや鶏などの肉でダシをとって濃口醤油を入れた黒い煮汁に、串を刺したおでんダネを入れていることだ。それと、削り粉や青のりを掛けるのも特徴だ。

 おでんダネには魚介も肉類も使うが、何といってもその代表は黒はんぺんだ。黒はんぺんは、材料がサバやイワシのため灰色で、普通の白いはんぺんに対してこの名が付いている。おでんの具では、つみれが大好きな俺としては、黒はんぺんはつみれに近いので気に入っている。


 皆で囲む夕餉は旨い。特に旅先での地のものを頂くのはなおいい。今夜の夕餉の軍資金となったキラーベスパの討伐で、俺は改めてオミョシの式神の有用性を認識した。皆はサジ姉の解毒の術を褒め称えている。

 そしてサンファミのヒーラーが妊娠で休業中の話になり、その原因を作ったジュピが弄られ、ジュピが満面の笑みでもうすぐパパになると宣言し、皆が拍手すると言う、いつもの流れになった。笑


 俺はやはり考えてしまう。欲望に任せて嫁3人を抱けば、いつかは誰かが妊娠するだろう。それはそれで喜ばしいのだが、今のセプトから嫁3人のうちの誰かが抜けてもセプトの戦力は大幅にダウンする。と言うのも、セプトの一番の特徴がバランス型パーティだからだ。誰かが抜ければバランスが崩れ、結果としてセプトの戦闘力は大きく落ちる。

 やはり、サヤ姉、サジ姉、ホサキのお預け同盟は、残念ではあるが、非常に理に適っている。


 一番いいのは、抱いても妊娠しない方法を見つけることだ。マイドラゴンがホワイトブレスを吐き出す直前に抜くと言う手も考えたが、完全に放出する前に少しずつ漏れるそうなので、この手は効果が薄いらしい。

 ふむ、何かいい手を考えよう。もし上手い手があれば、和の国中で俺と同じ悩みを持つ男や、色街の女たちには大いに役立つことだろう。


「…アタル、アタルぅ。」

「ん?何だ?」

「どうしたのぉ。ボーとしてたわよぅ。何か悩み事かしらぁ。」

「あ、いやなんでもない。」

 今、考えてたことを言える訳ないじゃないか!汗


「それにしてもぉ、アタルの上達ぶりはぁ、凄いですぅ。」

「姫から聞いたのだが、一昨日と今日だけで、もうひと通り、御者の技をこなせる程になったんだってな。」カゲが言う。

「そうだな、巡回のときに見ているが見事な上達ぶりだ。」騎馬で巡回護衛をしているアシゲが太鼓判を押した。


「アタルは馬の技を学んだことはあるのか?」アオゲが聞く。

「昔な。そのときは馬がまったく言うことを聞いてくれず、早々に諦めたよ。」

「力任せか?」クリゲが入って来た。

「だな。」

「初心者がよく陥るミスだ。」


「顔合わせの直後にタヅナから聞いた、馬に言うことを聞かせるのではなく、信頼関係を築いて明確な指示で言うことを聞いてもらう。と言うアドバイスのおかげだ。」

「それはわれらキノベでは初歩の初歩だ。初歩の初歩でありながら、人馬一体となるための究極奥義でもある。アタルはいったいどこで馬の技を学んだ?」

「流れのキノベがしばらくうちに滞在していて、そいつから学んだ。」

「流れのキノベにはでたらめなモグリも多いぞ。ユノベの御曹司が相手なら、キノベからは優秀な教え手を専属で派遣したものを。」

「親父どのが逝って間もない頃だったからな、急遽、統領代行を引き受けることになった叔父貴どのたちも混乱していたのだろう。」


「なぁ、姫も言ってるのだが、この護衛が終わって東都に帰ったら、しばらくキノベに来て、馬の技を修行し直さないか?」とアオゲ。

「そうだな、おそらくモグリだろうが、仮にもキノベを名乗った奴のせいで、ユノベの次期統領が、馬の技を苦手としたとあっては、わがキノベの沽券に関わる。」とアシゲ。

「うん、そうだな。馬の技を身に付けることができれば、流鏑馬ができるようになるしな。」

「「「「そっちかい!」」」」タヅナ隊隊員全員がハモって、一同が爆笑した。

「でもぉ、常に弓の技を第一に考えてるのはぁ、ユノベの次期統領としてはいいことよぉ。」タヅナ、ナイスフォロー。グッジョブ。

 この夕餉も仲間との懇親が深まった。


 宿屋に戻り、俺たちは部屋割り通り分かれて行く。当たり前だが俺は生殺し部屋…じゃなかった、セプト部屋だ。今日はホサキ、サヤ姉、サジ姉、俺の順で入浴だ。一刻ほどたってから俺の番になった。

 湯船に浸かると3人の残り香がして、マイサンがマイドラゴンに変わる。湯を舐めてみるとほんのり3人の味がする。いかん、いかん、これじゃあまるで変態ではないか!

 俺は水シャワーを頭からかぶり、その後マイドラゴンに掛けて収めようとしたが、マイドラゴンはなかなか言うことを聞かない。ったく、しょーがねーなぁ。


 風呂から上がってベッドに入る。やはり悶々として眠れない。何度か寝返りを打っていると、サヤ姉が声を掛けて来た。

「ねぇ、アタル、眠れないの?」

「うん。一昨日はぐっすり眠れたんだけど、昨日はダメだった。今日もダメっぽい。」

 え?嫁3人が起きて来た。何事だ?


「アタルは…そのまま…寝てれば…いい…。」

 いきなりズボンを下された。マイドラゴンが天に向かって屹立し、咆哮を上げた…気がする。

「ちょっと、何するの?」

「大丈夫、任せときなさい。」

「ホサキ…、アタルの…ドラちゃんは…いい子いい子が…好き…。」

 サジ姉がマイドラゴンの頭を撫でる。

「はうぅ。」思わず声が出ちゃった。

「こうか?」ホサキに撫でられた。

「はうぅ。」


「そうそう、それから喉をくすぐられるのも好きよ。ね、ドラちゃん。」サヤ姉に指でこちょこちょされた。

「はうぅ。」

「こうか?」ホサキにこちょこちょされた。

「はうぅ。」

「ちょっとアタル、いちいちうるさいわよ。お黙んなさい。」


「耳の…後ろを…軽く…掻いて…あげるのも…好き…。」

「はうぅ。」

「こうか?」ホサキにコリコリされた。

「はうぅ。」


 その後も、あんなことやこんなことをされて、早々とマイドラゴンはホワイトブレスを吐き出して果てた。

「ちょっと、サヤ姉、サジ姉、いつどこでそんなことを教わって来たの?」

「こないだアタルで試したのよ。自学自習ね。」

「え?」

「アタルが…ビールで…へべれけに…なった…夜…。」

「知らなかった。」

「あら、『気持ちいい。もっと。もっと。』っておねだりしてたわよ。覚えてないの?」

「…覚えてません。」

 俺は二度と酔い潰れることはしまいと、固く心に誓った。


「これで今夜はぐっすり眠れると思うわ。」

「アタルも…年頃の…男の子…。仕方ない…。」

「ふたりのおかげで、アタルのドラちゃんの扱い方がだいぶ分かった。ありがとう。」


 悔しいが、ぐっすりと眠れてしまった。ちくしょう。


設定を更新しました。R4/2/13


更新は月水金の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


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