表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/183

射手の統領020 伯母御たちにお灸

射手の統領

Zu-Y


№20 伯母御たちにお灸


 6時に叩き起こされた俺は、眠い目をこすりながらチェックアウトした。


 俺たちは7時には山髙屋に着いた。すぐにサンファミの5人も合流した。

 7時半には、タヅナがタヅナ隊に指示を出す。

「先頭はカゲぇ、後尾はクリゲぇ、騎乗はアオゲとアシゲよぉ。それからぁ、アオゲとアシゲはぁ、商隊の対角線に位置してぇ、時計回りに警戒してぇ。前後で10分警戒ぃ、時計回りでの配置換えにぃ、5分のローテでねぇ。分かったら、配置に着いてぇ。」


 タヅナの、間延びはするが的確な指示で、4人の隊員はキビキビ配置に着き、荷馬車隊の出発準備はすぐに整った。

 定刻30分前だが8時まで待つのも時間の無駄なので、小父さん=山髙屋社長以下、東都総本店社員の見送りの中、アキナの号令で商隊は出発した。


 ひょっとすると昼過ぎには、伯母御たちの馬車とすれ違うかもしれないが、午前中は大丈夫だろう。それに東都に近いこの辺は、野盗の心配はほとんどない。

 昨夜、アキナとタヅナのふたりを山髙屋まで送ったときにいろいろ話してから、俺たちはすっかり打ち解けていた。御者席にタヅナ、御者席の後ろの座席に俺とアキナ、3人でとりとめもない話をしながら、楽しく旅は続いていた。


 ふわ~。大あくびが出た。

「あら?アタルはもう眠くなったのですか?」

「いやいや、明け方まで寝付けなかったんだよ。」

「あらぁ、どうしてですのぉ?」

「宿屋が混んでてね、俺たち4人が同部屋だったんだよ。だから眠れなくて。」

「「え?えぇぇ?」」真っ赤になるふたり。

「4人でぇ、朝までぇ?」

「違う、違う、違うって。3人はちゃんと熟睡してたよ。俺が変に意識しちゃったんだ。」

「もう、脅かさないで下さいな。」


「でもさー、3人とも魅力的だからね、男としては襲いたい欲望は常にあって、それを理性で抑え込んでるんだよ。もちろん理性が勝つけどねー、欲望の抵抗も激しくてさ。それなりに大変なんだぜ。」

「男の人って、皆そうなんですか?」

「そうだよ。大差はないな。アキナもタヅナも超が付くほどかわいいから油断するなよ。」

「え?え?え?どう言うことですか?」

「か、か、かわいいだなんてぇ。」

 真っ赤になるふたり。

「ちょっとタヅナ、振り向かない。前を見て。その流し目、ドキッとするからやめて。

 アキナもその上目遣いは、かわいすぎてドキドキするからやめて。」

 モジモジ×2、耳たぶまで真っ赤×2。


「ふたりとも、そう言う仕草は狙ってやってるのか?それとも素なのか?

 気を付けないとマジで男に誤解されるぞ。俺もそう言う仕草を繰り返されたら誤解するからな。」

「何を誤解するんですか?」

「俺を好きなのかな?って、誤解する訳さ。するとふたりのような超美形に好かれたかも。と思ったバカな男どもは、単純だからその場で恋に落ちるんだよ。そしたら面倒なことになるんだよ。今までそう言うことなかった?」

「「ないです(ぅ)。」」

 あー、超かわいい女の子ふたりと恋バナかぁ。俺って幸せ過ぎる。ってか明らかにモテ期到来じゃね?


 昼餉の休憩を終えて出発し、しばらくすると前方から来る馬車2台と行き会った。やべ、トノベとヤクシの馬車だ。

 仲良しの伯母御たちはどちらかの馬車に相乗りしてて、もう1台に付き人を乗せてるだろうな。俺は荷台の中に潜り込んで隠れた。アキナが怪訝そうにこちらを見ている。無事に2台をやり過ごして座席に戻った。

「どうしたんですか?」

「いや、大したことじゃないんだが…。」


 突然警笛鳴り響く。商隊副長のハンジョーから緊急連絡だ。後尾車両に危機が迫った合図だが…。

 タヅナは手筈通り、中央車両を停止させ、俺は荷台の屋根に上がって後尾車両の様子を見る。先頭車両からジュピ、プル、マズが駆け付けて来た。ネプとアステは別動隊を警戒し、先頭車両の防御を固める。アオゲとアシゲは中央車両に来て、タヅナの指示で遊撃体制を取れるように控えた。


 トノベの馬車が後尾車両の右前方から詰め寄って、窓からどちらかの伯母御が乗り出し、サヤ姉、サジ姉と言い合いになっている。ホサキは自在の盾を大型化して、サヤ姉とサジ姉を庇うように位置取りしてるが、如意の槍による攻撃はしていない。

 ちっ、やはり伯母御たちか。サヤ姉とサジ姉が見付かったんだな。


「襲撃ではなく、対向車とのトラブルのようだな。」

 中部車両の荷台の屋根に上って来たジュピが耳元で囁いた。

 しかし、もうひとりの伯母御が反対の窓から後ろのヤクシの馬車に何か言うと、ヤクシの馬車は後尾車両と中央車両の間に割り込もうと動き出した。こりゃ完全に進路妨害だ。仕方ねぇな。威嚇するか。

「明らかに進路妨害だ。まず俺が威嚇する。プルとマズには攻撃を待つように言ってくれ。」


 ジュピに頼んでから、雷撃矢をヤクシの馬車の右後部車輪に射込んだ。

 バリバリバリと凄まじい音を立てて閃光を発した右後部車輪は、その1/4が粉砕され、残り3/4も黒焦げになって、ヤクシの馬車は傾いた。馬がパニックになって暴れたが、すぐにサジ姉が鎮静の術を掛けておとなしくさせた。


 俺はヤクシの馬車の御者に向かい、大声で怒鳴った。

「貴様、悪意ある進路妨害なら、襲撃とみなして皆殺しにするぞ。そうでないなら全員馬車から降りて、両手を頭に地面に跪き、頭を垂れよ。」

 あたりがシーンとなる。

「待て、アタル、わらわじゃ。誤解なのじゃ。」トノベの馬車から声が掛かった。どっちの伯母御だ?双子だからよく分からん。

「知らぬ、言う通りにせよ。」

と一喝し、まわりこんで、トノベの馬車の左後輪にも雷撃矢を打ち込んだ。

 再び凄まじい轟音と閃光、黒焦げになって半壊する左後部車輪。傾くトノベの馬車。暴れる馬にサジ姉の鎮静の術。

 自画自賛になるかもしれないが、見事な連携だと思う。


 伯母御たちの一行は、全員が黙って、両手を頭に馬車から降り、地面に跪いて頭を垂れた。商隊の全員も成り行きをうかがっている。

「俺はこの商隊の護衛隊の1つであるセプトのアタルだ。責任者は面を上げよ。」動の伯母御と静の伯母御が面を上げた。

「不思議だな。そなたたちはわが愛する伯母御どのに似ておる。」

「アタル、わらわじゃと言うに。」

「アタル、分からんのか?」

「たわけ!わが伯母御どのは、おふたりとも聡明なお方ぞ。このような無体を働く訳がないわ。

 さては狐狸の類か?おのれ、よくも伯母御どのに化けて、わが愛する伯母御どのの評判を、地に落とすようなふざけた真似をしてくれたな。」

 睨み付けてやると、伯母御たちは息を飲んで俯いた。おー、シンクロしてる。さすが双子!


「アタル様、誤解なのです。私が奥方様のご指示を誤解して、割り込もうとしたのです。」ヤクシの馬車の御者が申し出る。

「おう、お前はヤクシの家来だな。見覚えがあるぞ。

 あのような割込みはの、悪意ある進路妨害と取られれば、戦闘になりかねんのだ。戦闘になれば、討ち果たされても文句は言えぬ。大事な伯母御どのたちが討ち果たされたら何とするぞ。」

「申し訳ありません。」

 俯くヤクシの御者。俺は畳み掛けた。

「いくら主の指図でもな、そなた御者であろう。御者の矜持をもってな、あのような無体な指図は、今後跳ね除けよ。それが真の忠義ぞ。よいな。」

「ははっ。身に染みてございます。」御者は這い蹲って詫びた。


「さて伯母御どのたち、此度はおいたが過ぎましたの。われらの旅については手紙に認めて、トノベとヤクシにそれぞれ送っておりますゆえ、お帰りの後、よくご覧あって、しっかりご分別なされよ。」

「「アタルどの、すまなんだの。」」ふたりとも涙ぐんでシンクロしている。それにアタルに「どの」が付いた。それなりには効いたようだが、このじゃじゃ馬双子は、いつまでこのしおらしさが持つことやら。


「馬車が壊れましたゆえ、この後、徒歩で帰ることになりますが、一歩一歩踏みしめながらよくよく反省なされて、今後の糧にして下されよ。

 それから緊急用にこれをお貸しします。使い方は家来に聞いて下さい。」

 俺は、トノベ本拠を登録した流邏石を動の伯母御へ、ヤクシ本拠を登録した流邏石を静の伯母御へ渡した。

 サヤ姉とサジ姉は、すっかり萎れているそれぞれの母を慰めていた。


 さて、もういいだろう。俺は商隊メンバーを見渡して言った。

「皆さん、ご迷惑をお掛けしました。商隊長、出発のご命令を。」


設定を更新しました。R4/2/6


更新は月水金の週3日ペースを予定しています。


2作品同時発表です。

「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n2050hk/


カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ