射手の統領018 商隊顔合わせ
射手の統領
Zu-Y
№18 商隊顔合わせ
ギルドへ戻って来ると、俺たち4の他に、冒険者らしき5人のパーティがいた。
互いに軽く会釈を交わし、受付のチナツへ片手を上げた。チナツは微笑み返しながら手招きをして来た。なんだろ?
「アタルさん、先日のクエストが評価されまして、Cランクへ昇格です。こちらがブロンズカード、今までのスチールカードを返納して下さい。」
「え?あれだけで昇格するの?」
「何言ってるんですか、大猪は野生の猪が気を吸収して巨大化したもので、そのまま放置したら猛獣化するんですよ。それを引き受けたその日のうちに5頭すべてを仕留めたんですから十分昇格に値しますよ。
スズメバチの巣だって、この時期ですから大型化してましたしね。依頼の3つだけじゃなく、余分に見付けた巣まで駆除して頂いて大助かりです。それに4つとも気を吸収して巨大化してましたから、狂暴だったはずです。」
「いや、遠距離から狙い撃ったからな。こちらは被害なしだ。それに1つでも残したら依頼者にとって、スズメバチの脅威は去らないだろ?」
「そうなんですけどね、依頼の3つだけ取って来て、もう1つあったぞって報告することで、次のクエストにして稼ごうとする冒険者もいるんです。こないだの、チカラワザなんかはその口ですね。」
最後は吐き捨てるように言ったぞ。チナツはチカラワザを相当嫌ってるな。
「ああ、あのゴロツキ4人組ね。そう言えば、あれから見ないな。」
「アタルさんにコテンパンにやられましたからね、アタルさんたちが西に行くまでは来られないんじゃないですか?
それとサヤさん、サジさん、ホサキさんも昇格です。スチールカードを更新しますのでご提示下さい。」
俺たちはスチールカードを提出した。俺は新しいブロンズカードを受け取る。3人のスチールカードは更新されて返された。
「あら?私とサジはDランク?ホサキはEランク?3人とも一気に2ランクも昇格していいの?」
「ええ、スチールカードは飛び級ができるんです。」
「私は…何も…してない…。回復の…必要が…なかった…から…。」
「パーティでのクエスト達成は、パーティ全員が同様に評価されるんですよ。
それから皆さんの昇格で、セプトはDランクパーティになりました。」
どうでもいいが相変わらずチナツのはでけぇな。でもなー、なんかアンバランスなんだよなー。やっぱ俺は、うちの3人の小振り具合が好きだなー。
って、おい。このタイミングで何考えてんだ?俺!
思わず自分で自分の頭をドツいてしまった。4人が怪訝そうに俺を見る。ヤバい、超ハズい。汗
俺たちが受付から離れると、ギルドに、同じ制服の5人組が入って来た。
制服5人組は、4人のおっさんたちの中に若い女の子がひとりいる。俺たちと同じくらいだ。
しばらく待っていると、ドアが開いて3人連れが入って来た。
おっと、山髙屋の小父さんと、てきぱきした女の子、それと小父さんを迎えに来た社員ではないか。てことは、山髙屋が商隊の荷主か?
チナツが出てきて小父さんに挨拶し、親しげに談笑している。ふむ、小父さんは、上客のようだ。
チナツが仕切り出す。
「皆さん、お待たせしました。商隊の顔合わせを行いますので、ミーティングルームにご案内します。」
チナツについて、俺たちは別室へ移動した。
「グループごとに分かれてお掛け下さい。」
俺たち4人、冒険者風5人組、制服5人組、山髙屋3人組が、それぞれのテーブルに着いた。
チナツが紹介を始めた。
「こちらが、今回の商隊の荷主の山髙屋さんの社長さんです。社長さん、皆さんを紹介して下さい。」
「皆様、この度はご足労ありがとうございます。私が山髙屋です。そして、今回の商隊の隊長を務める娘のアキナ、副長を務める第3番頭のハンジョーです。山髙屋からはこのふたりが商都へ参ります。よろしくお願いします。」
社長=小父さんは、俺を見付けて驚いたようだったので、俺は軽く会釈しといた。小父さんが隣のアキナ=てきぱきした女の子に耳打ちしたら、アキナはこちらを見て微笑んだ。俺も微笑み返しておいた。
あのてきぱきした女の子が隊長か。重要な仕事を任されるくらい、信頼されてるんだな。凄ぇな。
「こちらは、キノベ陸運のタヅナ隊隊長、タヅナさんです。」
「隊長のタヅナですぅ。順に、アシゲ、クリゲ、カゲ、アオゲですぅ。今回は荷馬車3台で運びますぅ。」
へー、あの女の子が隊長なのか。ベテランっぽい4人のおっさんたちを従えて、大したものだなー。案外、キノベの姫だったりして。
でも何で荷馬車3台に5人の騎士なんだ?
「次は護衛の皆さんです。まずこちらが、5人組のCランクパーティ、サンズファミリーのリーダー、ジュピさんです。」
「サンファミのジュピです。陰士でバフもデバフも行けます。で、順に、風と氷の陽士のプル、火の陽士のマズ、盾槍士のネプとアステです。ガッチリ防御して遠距離攻撃特化です。男5人のむさ苦しいパーティですがよろしく。」
「ジュピ、お前がヴィーナを孕ませたからだろうが!」「医薬士不在は痛いぜ。」
わははは。プルとマズがツッコミ入れて、サンファミ5人が笑う。
「と言う訳で、もうすぐ父親になります。」
パチパチパチ。ジュピを除くサンファミ4人が盛大に拍手。釣られて皆も拍手。このパーティは、仲がいいんだな。そして、面白い編成だ。
「最後に4人組のDランクパーティ、セプトのリーダー、アタルさんです。」
サンファミの連中から、おお、と声が上がった。え?どうしたんだ?
「射手のアタルです。順に剣士のサヤ、医薬士のサジ、盾槍士のホサキです。よろしく。」
「では、商隊長のアキナさんから行程の説明があります。」
「商隊長のアキナです。明日から毎朝8時出発です。1日12~13里(50km程度)を目標に進みますが、峠の登りがあるときは、8~9里(35km程度)にします。
宿泊地は、チガサの港町…、」
俺とホサキは目を合わせて頷き合った。俺たちが初めて結ばれた港町だ。でもその後はお預けなのだが…。
「…コネハの温泉街、ヌーマの港町、ズオカの町、マエザ漁村の浜で野宿、ママツの町、トバシの町、ナルーの農村で野宿、オーガの町、ネビコの湖港町、オツの湖港町、商都です。
早く進めたとしても、翌日に馬の疲れが残るといけないので、余分に進むことはしません。
ここまでで質問はありますか?」
アキナは要点だけを、てきぱきと説明する。無駄がない。
ジュピが手を挙げて発言する。
「俺たちは仕事にありつけてありがたいんだが、山髙屋さんなら廻船がわんさかあるよな。なんで海運じゃなくて陸運なんだ?」
「第一には、積荷を潮風に晒したくないのです。あとは、万が一ですが、秋は台風が多いからです。今回の荷については、海で台風に行き会って、海の藻屑になるリスクを背負いたくないのです。」
ジュピが頷いた。アキナの説明に納得したようだ。
「続けます。タヅナさんからもありましたが、荷馬車3台編成です。騎士5名は、3名が荷馬車の御者です。残り2名は騎馬で、遊撃として必要に応じて斥候や伝令をお願いします。
私は中央車両に乗ります。よって指示は中央車両から出すことになりますから、タヅナさんは中央車両の御者をお願いします。中央車両から騎馬に指示を出す際には、私と連携して下さい。」
タヅナが微笑んで頷いた。ひょっとしてこのふたりはツーカーの仲だったりするか?
「サンファミの皆さんは先頭車両に乗って下さい。野盗の襲撃は待ち伏せが基本ですから先頭車両が一番危険です。
奇襲を避けるために、ジュピさん、プルさん、マズさんは、先頭車両で警戒の式神を、3交代制で常に飛ばして下さい。峠と山峡は特に危険ですから、峠や山峡のときだけは、ふたり掛かりで式神による警戒をお願いします。
野盗を発見したら、商隊は停止します。ネプさんとアステさんは、襲撃に備えて防壁体制を敷いて下さい。
ここまでで質問はありますか?」
誰も質問しない。ここまでのアキナの指令は、非常に理にかなっている。特にオミョシなら陰士でも陽士でも誰でも使える式神で、進行方向の警戒をさせると言う発想は素晴らしい。俺もオミョシを仲間にしたら、使わせてもらおうっと。
「では続けます。セプトの皆さんは後尾車両に乗って下さい。ただし、射手のアタルさんは、中央車両に乗って頂きます。その代わりに、ハンジョーを後尾車両に送ります。
射手のアタルさんを中央に配置すると、前後どちらからの襲撃にも対処できます。
前からの襲撃があったら、サヤさんとサジさんは、サンファミの助っ人に、疾風の靴ですぐに駆け付けて下さい。ホサキさんは、前には行かず、後ろからの別動隊の襲撃に備えて下さい。その際は、遊撃の騎馬の1名を、ホサキさんのもとへ送ります。
後ろから襲撃が来たら、セプトの皆さんで迎え撃って下さい。その際、ジュピさん、プルさん、マズさんは、セプトの助っ人に、ネプさんとアステさんは別動隊による前からの襲撃に備えて下さい。
また、後ろからの襲撃があった折には、ハンジョーはすぐに警笛で異変を知らせなさい。
ここまでで質問はありますか?」
まったく文句ない。と思ったのだが、ハンジョーが手を挙げた。
「私はお嬢のお傍で、お嬢をお守りするようにと、社長から言いつかっております。」
「ハンジョー、気持ちは嬉しいです。でもあなたは商人。あなたと入れ替わってもらうアタルさんの方が私の護衛には向いています。」
「お嬢、私は体を張ってお嬢をお守りします!」
「ハンジョー、あなたは優秀な商人なのですよ。未熟な私の代わりに、あなたが負傷する方が、山髙屋には痛手なのです。そうですわね、パパ。」
ハンジョーの顔を立てたアキナの断り方も見事だが、それ以上に小父さんに向けたアキナの目力が凄い。社長の父親に、余計な口を出すなと目で訴えているではないか!
でも小父さんも只者じゃない。ニコニコしながらアキナの視線を真正面から受け止めてまったく動じず、ハンジョーに向かって言った。
「ハンジョー、すまなかったね。私の指示は余計でした。アキナの指示通りにしなさい。」
小父さん、凄ぇ。社長なのに皆の前で社員に謝ったぞ。しかも、アキナに押し切られたんじゃなく、その要求を包み込んだ。こりゃ、只者じゃないどころか、とてつもない大物だ。
「しかし、社長。」
「ハンジョー、くどいですよ。弁えなさい。」
「申し訳ありません。」
おー、小父さん、言うときはビシッと言うんだな。しかも穏やかに、丁寧に、ニコやかに。穏やかな威圧感って、超怖ぇぇ。マジ、パネェ。小父さん、俺は物凄く見直しまくってるよー。
「ではそう言うことで皆様、よろしくお願いします。」
アキナが締め括って、商隊顔合わせは終了した。
設定を更新しました。R4/1/30
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2050hk/
カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。




