射手の統領011 東都のギルドマスター
初作品なので、不慣れですがよろしくお願いします。
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
射手の統領
Zu-Y
№11 東都のギルドマスター
冒険者ギルドの受付のなっちゃんがやっと戻って来た。
「アタルさん、お待たせしました。ギルマスが直接お会いになります。こちらへどうぞ。皆さんもご一緒に。」
サヤ姉と、サジ姉が続く。ホサキはどうするか戸惑っている。
「ホサキも来いよ。」
「うむ。」ホサキも素直に続く。
「ホサキもセプトに加わることになったんだが、手続きとか要るのかな?」
「大丈夫ですよ。さっきのパーティ申請書に名前を加えてもらうだけです。」
廊下を奥へ進み、階段を上がって2階に行く。
俺たちはギルマスルームに案内された。
「アタルさん、こちらがギルマスです。」
「お待たせした。ギルドマスターのタケクラだ。」
「俺はアタル。こちらは仲間のサヤ、サジ、ホサキ。」
「まぁ座ってくれ。」
俺たちは接客用のソファーに座った。3人掛けの真ん中が俺、弓手にサヤ姉、馬手にサジ姉、ソファーの横の予備椅子にホサキ。向いのソファーにギルマスのタケクラが座り、その横に受付のなっちゃんが座った。
「さて、チナツ。忙しい俺に時間を割けと言うのだから余程のことだろうな。」
なっちゃんはチナツと言うのか。
「はい。先程、冒険者登録をしたアタルさんたちですが、チカラワザに絡まれまして…。」
「またあいつらか?次は出禁だと言っておいたのにしょうもない奴らだ。で、アタルたちは、大丈夫だったようだな?」
「アタルさんひとりで4人を瞬殺でした。」なぜかチナツがドヤる。
さっきの舌打ちと言い、ゴロツキ4人組には手を焼いていたようだ。さっきは見事に捌いてたのにな。
「なんだと?あいつら、Dランクだぞ。」
「まぁ、あいつら、酔ってたからな。それに軽くちょっかいって感じで、本気じゃなかったと思うぞ。」
「それよりも、アタルさんが威嚇で放った矢に雷属性が付いてまして…。」
「弓矢の攻撃に属性付加だと?」
「私は弓矢に属性付加ができるなんて、見たことも聞いたこともありませんでした。アタルさんのオリジナルと言うことなので、報告に上がったのです。」
「まぁ、そんなとこだな。」
ギルマスのタケクラはしばらく考えてから、
「チナツ、すまんが最近の黄金龍の情報があったら些細なことでもいいから漏れなく持って来てくれ。大至急でな。」
「はい。」チナツはギルマスルームから出て行った。
ギルマスのタケクラは気付いたか?なかなか鋭いな。
「お嬢ちゃんたち、すまんがアタルとふたりで話をしたい。下で待っててくれないか?」
「ギルマス、この3人は俺の身内だ。サヤ姉とサジ姉はすべて承知しているし、ホサキにはすべてを話すつもりだ。そちらだけ人払いしてもらって悪いが、こちらの人払いは不要だ。」
しばしの沈黙。その後、了承の頷き。そしてギルマスが口を開いた。
「アタル、金剛鏑を探しているな?」
「東都ならあるかと思ってな。」
「いや、少なくとも商店には出回ってないぞ。あれは商品としては需要がない。」
「なんとか手に入らんか?」
「いくつ要るのだ?」
「取り敢えずは最低1個、先々のことを考えると予備も含めて6個は欲しい。」
「すべてを狩るつもりか?」
「まぁそうだな。」タケクラはお見通しか。優秀だな。やっぱ、東都でギルマスをやってるだけのことはある。
「度を過ぎて力を持つと滅ぶぞ。」
「今のところ俺ひとりの力にしかならんから、脅威とは言えんな。しかし、将来的に力を分け与える手立てが確立されれば、話は別だな。もしそうなれば、ユノベは他の勢力から頭ひとつ抜けることになる。そして、オミョシの陽士には脅威にはなるだろうよ。属性攻撃が彼らの占有ではなくなるからな。」
「そうであろう?間違いなく警戒されるし、場合によっては、オミョシ本家からから敵視され兼ねんぞ。」タケクラがズバリ懸念を言い当てる。
「しかしだな、それでも陽士の存在価値がなくなる訳ではないし、陰士の領域には入れん。トータル的には、オミョシの術に関する優位性は、多少は弱まるとしても、そんなには変わらん。」
オミョシ本家は属性攻撃術を使う陽士を輩出し、オミョシ分家はバフとデバフの支援術を使う陰士を輩出する武家だ。なお、属性攻撃術も支援術も操るようになると陰陽士と呼ばれるようになる。
ちなみにオミョシ=陰陽師は武家の名であり、陰陽士はオンミョウシと読んで、術士のジョブ名である。
「理屈は確かにその通りだが、皆が皆、そう思うとは限らんぞ。出る杭は打たれると言う。下手をするとユノベが孤立するかもしれんぞ。」
「警戒はされような。だからこそ、積極的に有力家と誼を結ぶのだ。すでにトノベとヤクシとは強固な同盟関係にある。」
「そしてタテベも引き込むのか?」
「こちらからではない。タテベ側がきっかけを模索しているようなのだ。ここに来る直前に、ホサキから聞いた。ホサキと知り合えたのは俺たちには僥倖だった。もっともタテベはまだこちらの詳しい事情を知らん。もちろんホサキにはすべてを教えるからじきに知れるがな。」
「それでもタテベはついて来ると?」
「当たり前だ。手を結ぼうかと考えていた相手に強力な隠し玉があって、アプローチをした途端、その重要な情報を流して来たのだぞ。極秘情報を流すことは信頼の証だ。心証がよくなりこそすれ、悪くはならん。」
「なるほど、確かにそうかもしれんな。」
またギルマスは考え込んだ。
そこへチナツが戻って来た。
「ギルマス、すみません。黄金龍の最新情報は残念ながらありません。フジの霊峰で休眠に入ったままではないでしょうか?」
「そうか、すまんな。ありがとう。業務へ戻ってくれ。」
笑顔で視線を交わすサヤ姉とサジ姉。ホサキはよく事情が飲み込めていないままだ。チナツは再び出て行った。
「話を戻すが、金剛鏑はここに1個と、西都ギルドに1個ある。これは確実だ。あとは古都の帝家宝物殿に1個あるはずだが不確実だ。他にもどこかにあるかもしれんが、俺は知らん。
それ以外は、大きな金剛石を見付けて、超級の職人に製作を依頼するしかないな。それと、西都のギルマスには、紹介状を書いておこう。ここの金剛鏑は持って行け。」
「いくらだ?」
「いらん。預かっていただけで、ギルドのものではない。託すに相応しい者が来たら渡す。そのように、代々のギルマスに引き継がれて来たのだ。」
「ならば、その見返りは?」
「黄色に輝く金剛鏑が見たい。それと、Sランクまで上り詰めて、ギルドに貢献してくれ。」
アタルは胸元から、懐にしまっていたライ鏑を取り出した。ライ鏑は黄色く輝いている。
「これは想像以上に見事だ。」溜息を漏らすギルマスのタケクラ。
「これは何なのだ?」状況がつかめてないホサキ。
「これは金剛鏑と言ってな。もとはこうだ。」
俺は戻りの箙から、金剛鏑がついた方の封龍矢を取り出してホサキに見せた。
「こちらの鏑は色もないし、輝いてもおらんな。」怪訝な表情のホサキ。
「こちらの輝いている方には黄金龍を封じている。」
「なんと!」ホサキが魂消た。
「俺の弓は操龍弓と言う。そしてこの矢は封龍矢。封龍矢にはこの金剛鏑がついている。金剛鏑を装着した封龍矢を操龍弓で射ると、神龍を封じることができる。そうして黄金龍を封じたのがこちらに黄色く輝いている金剛鏑だ。封じた黄金龍をライと名付けたので、この金剛鏑は、ライ鏑と呼んでいる。」
俺は戻りの箙から、残りの1本の封龍矢も取り出して見せた。こちらには金剛鏑がついていない。
「ライ鏑はもともとこの封龍矢に装着していた。これで黄金龍を射て封じたのだ。黄金龍は金属と雷を司る。ゆえにライ鏑は黄色く輝いている。ライ鏑に通常矢をかざすと雷属性を帯びる。これが雷撃矢のカラクリだ。」
「まさかそんな、俄かには信じ難いな。」
『ほぅ。アタルに用心深くせよと言われて、学んだと見える。』
「「!」」いきなりのライからの念話に、驚くギルマスタケクラとホサキ。
「ライからの念話だ。」
『小娘よ。これで信じたであろう。』
ライ鏑の黄色い光が、ライ鏑の中で黄金龍の姿を取った。さらに驚くタケクラとホサキ。
「いいものを見せてもらった。すまぬが明日、もう一度来てくれ。わがギルドで保管する金剛鏑と西都のギルマスへの紹介状を渡す。」
ギルマスのタケクラが立ち上がり、手を差し出して来たので、俺も立ち上がり、握手を交わした。
そのままギルマスの部屋を辞してギルドの個室を借りた。ホサキにいろいろ説明するためだ。
「ホサキ、俺たちはお前を仲間として受け入れた。よってこれから仔細を話す。御父上には話してよいが、それ以外は他言無用だ。御父上にもそのことを伝えてくれ。」
「委細承知した。」固くなるホサキ。
「そう身構えんでもいいだろ。楽にしろよ。」
それから俺は、
ライを封じた経緯と、ライを眷属にしてライと名付けたこと。
ライからいろいろ教わっていること。
俺にとってライは、眷属であり仲間であり師匠であること。
七神龍のことと、武者修行と称して七神龍を眷属にする旅に出ること。
最初の目的地は蒼碧龍が棲むビワの聖湖であること。
を、ホサキに話して聞かせた。
さらには、サヤ姉とサジ姉との婚約、その政治的な意義、などなど…。
「まず、本日帰還したら御父上に面会し、俺の名を出して、御父上に俺たちの仲間に入る許可を申し出てくれ。俺の読みが正しければ、御父上は叱るのを忘れて、褒めてくれるだろうよ。
まわりに家来がいたら、たとえ側近や重臣であってもライと七神龍にまつわる話だけはしないでくれ。ライと七神龍について話すときは、必ず御父上とふたりきりのときに頼む。それから、ライと七神龍のことは極秘であることを、御父上に、念を押すのも忘れずにな。」
ホサキは眼をキラキラさせて頷いていた。
ホサキは、庶子と言っていたから、もしかするとタテベでは肩身が狭かったのかもしれない。冒険者を希望してるのも、そんなところが発端だろうか?
その自分がお家の重大事項に絡んで、御父上とふたりきりで密談する訳だからな。
まぁでも、庶子だからって虐げられてるとしたら、ホサキはこんなに素直じゃなくて警戒心丸出しになるはずだ。だったら、実際のところは末娘としてかなりチヤホヤされてるんじゃないかな。
うん、そうでなければ、ホサキをこんなに自由にはさせないよな。肩身が狭いと言うよりは、ホサキの自身の遠慮だな。
ま、そのうち分かるだろうよ。
ホサキと別れ、俺たちは予定通り、東都で宿を取ることにした。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
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カクヨム様にも投稿します。




