射手の統領010 新しい仲間
最初の部分に、設定を追加しました。R4/1/9
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
射手の統領
Zu-Y
№10 新しい仲間
「あの、申し訳ないがちょっとお時間を頂けないだろうか?」
冒険者ギルドの受付のなっちゃんに、ちょっと待ってろと言われたので、ロビーで待っていると、たった今、懲らしめてやったゴロツキ4人組に、さっきまで絡まれてた女性冒険者が話し掛けて来た。
よく見ると、女性と言うよりは俺たちと同じくらいの年頃の女の子だ。背は俺より少し低いくらいだから、女の子としては高い。
スラっとした体型だが、おそらく筋肉質だろう。と言うのも、体にフィットする重鎧を身に着け、盾と槍を背負っているからだ。典型的な盾槍士の装備である。
それにかなりの美人だ。サヤ姉やサジ姉に匹敵するな。道理でゴロツキに絡まれるよな。
「別に構わんぞ。」俺たち3人と盾槍士の女の子は1つのテーブルを囲んで座る。
「今の弓の技は見事だった。ユノベ家の方とお見受けするが?」
「何と言うか、関係はあると言えばあるのかな?その…まぁ、なんだ…。」
「すまない。詮索するつもりではなかったのだ。」
「気にしなくていい。それで用件は?」
「今しがた、冒険者登録をされたようだが、実は私も今日、登録したのだ。」
話し方が固いな。タテベ家の身分が高いお嬢様かもしれんな。当主一族か重臣クラスだろう。
「そうか。奇遇だな。」
「決して盗み聞きした訳ではないのだが聞こえてしまってな。射手に剣士に医薬士とか。どうだろう、私は盾槍士だが、パーティに加えてもらえないだろうか?」
「確かにバランス的にはいい話だが、俺たちは間もなく西へ発つ。東都で活動するつもりなら、期待には沿えんな。」
「西…か?」しばらく考え込む美人の盾槍士。
「ところで、何であいつらに絡まれてたんだ?」
「私が迂闊だったのだが、あいつらにパーティに加えて欲しいと持ち掛けてしまったのだ。」
「なるほどな。」
「冒険者は荒くれだが、気持ちのいい奴らばかりだと思っていた。しかし、ああ言う下種どももいるのだな。言うに事欠いて、この私に夜伽をせよなどと…。」
「それは…私たちも…言われた…。ね…?サヤ…。」
「そうね。アタルが懲らしめなきゃ、私たちでやっちゃってたわよね?サジ。」
こくり。
「アタルどのに、サヤどのに、サジどのか。申し遅れたが私はタテ…あ、いや、ホサキと申す。」
「どの、はいらん。アタルと呼んでくれ。
明日は買い物に行くが、クエストをこなす練習もしたいから、1週間程度は東都に滞在する予定だ。短期間でよければ組もう。」
「うむ。先程の話だが、お家の…いや、家族の許可が取れたら私も西に向かいたい。よいだろうか?」
「それは構わないが、タテベの姫が、簡単に遠出の許可を取れるとも思えないな?」
タテベは、盾での防御と長槍での攻撃に特化した武家だ。図星を刺されてホサキの顔色がみるみる変わる。
「な、なぜそれを?あ、いや…。」
「ホサキ、バレバレだぞ。身元を隠したいなら、まずその口調を改めよ。」
「そうか。…面目ない。」シュンとしょげるホサキ。かわいいな。
「言ってるそばからこれだ。まぁ、そうはすぐ慣れねぇよな。」
「しかし西へ行く許可は取って来るぞ。武者修行と言えば許してもらえると思う。」
「そうかな?話し方から察するに、ホサキは重臣クラスの姫か、場合によっては当主一族の姫であろう?ならば護衛なしでは出してもらえないのではないか?」
「私は庶子なのだ。」
「それでも政略結婚には使われよう?それだけの美貌だからな。政略結婚を考えているなら余計に遠出はさせないだろうよ。」
「び、び、び、美貌とな?殿方にそのようなことを言われようとは…。」カーっと真っ赤になるホサキ。
「アタル、あんたねぇ。私たちの目の前でよくもしゃあしゃあと…。」
「何…口説い…てるの…?」
「別に口説いてねぇよ。美人なのは事実だろうが?それも飛び切りクラスの美人さんだぞ。」
ますます赤くなってモジモジしだしたホサキ。おい、しっかりしろ。
しばらくしてモジモジ&カーっとから復活したホサキが、
「アタルどの、そなた、事情に通じておるな。やはりユノベか?…ん?ユノベのアタル…。そなたはユノベ・アタルどのか?」
「いかにも俺はユノベ・アタルだが、しかし、タテベの姫がなぜ俺を知っている?」
「父上がな、私の嫁ぎ先としてアタルどのを考えていたのだ。アタルどのが数日前に婚約を発表されて、それがトノベとヤクシの姫だと言うので、父上も諦めたようでな。それで昨日、私が以前から願っていた冒険者ギルドへの登録の許可が下りたのだ。改めて嫁ぎ先が決まるまでは自由にしてよいとの思し召しだろうと思う。」
「ふーん、ところで御父上は冒険者になるならパーティを組めと言ったのではないか?」
「その通りだが?」
「それならば、新人の冒険者のパーティと組めとも言ったであろう?」
「そう言えば…言っていた気がするな。」
「何だ、ちゃんと覚えてないのかよ?」
「冒険者登録の許可が下りて舞い上がってしまったのだ。」
「なるほどな。それならパーティのメンバーとして俺の名を出してみろ。おそらく許可が下りるだろうよ。御父上の思う壺だからな。」
「思う壺とな?」
「そなたの御父上がユノベとの婚儀を諦めてないからよ。婚約発表と同時に、俺の統領内定と武者修行を発表した。されば東都で冒険者登録と言うのは可能性としてあり得る。新規の冒険者登録は、毎日ある訳ではないから、このタイミングでホサキに冒険者登録させれば、俺たちが絡む可能性が高いと見たのだろうな。」
「あ、そうか。ではおふたりはトノベとヤクシの姫君か?」
「そうね。」
こくり。
「まぁでも、御父上のお目玉は覚悟しておいた方がいいな。
御父上からの、新人パーティと組めと言う大事な指示を、忘れてか聞かずかは知らんが、結果的には無視して、最初にゴロツキパーティに自ら声を掛けたのだからな。」
「う、うぅ…。」
「愚か者、世間知らずめ、と叱責されような。
ひょっとするとギルドにもタテベの息の掛かった者が監視のためにいたかもしれんぞ。案外ゴロツキどもがそうだったりしてな。」
「アタル、あんたいい加減にしなさいよ。あのゴロツキがタテベの訳ないでしょう?」
「アタル…意地悪…。ホサキが…可哀想…。」
「サヤ姉、サジ姉、よく考えろ。あいつらがホサキを手籠めにする気なら、まずは優しげに接して油断させ、パーティに迎え入れるはずだ。ハナから夜の相手をせよ。などとは言わん。
まぁ、冒険者に油断するなよ。と言う警告も兼ねてあのように言った可能性だって十分考えられるぞ。」
「でも…私たちにも…言った…。」
「それはカモフラージュだな。ホサキをからかって、サヤ姉やサジ姉をからかわないと不自然だろ?3人とも飛び切りの美人だし、やつらは所詮ゴロツキなんだからな。」
「「「え?」」」」モジモジ×3、ちょろい×3。笑
「えっと、アタルに仕掛けて来たのはどうしてかしら?」
「ついでに俺の力を測ったんだろ?まぁ、雇い主への手土産ってとこか。
奴らはここの常連だっつーから、タテベに雇われてたんだろうな。今頃はご注進!だろうよ。それで、俺に殺されそうになったとか大袈裟に吹聴して、手当を弾めって交渉中だったりしてな。」
「アタルどの、その洞察力、感服致した。」
「さっきも言ったが、どの、はいらん。アタルと呼んでくれ。
ほとんど当てずっぽうの予想だからド外れかもしれないぞ。御父上に尋ねれば分かることだ。それと、そんなにすぐに真に受けない方がいい。そのうち騙されて痛い目を見るぞ。」
「ご忠告痛み入る。父上にもよくそう言われるのだ。自分としては気を付けてはいるのだが…。」
ホサキは頷いて小さくなった。こいつ、素直だな。
「ホサキは素直だな。好ましいぞ。」
「え?」ポーっと赤くなった。またか。ほんとに素直だな。
ちなみにサヤ姉とサジ姉からのジト目攻撃は、華麗にスルーしておいた。この辺のあしらいについては、コツが分かって来たのだ。笑
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2050hk/
カクヨム様にも投稿します。




