射手の統領104 北の島半周
射手の統領
Zu-Y
№104 北の島半周
翌日、山髙屋ビヒロ支店で二の島の産物を仕入れた。羆皮や鹿皮の敷物とか、鹿角の工芸品などがたくさんあり、どれも素晴らしい逸品だったので、大量に仕入れた。
これらは、和の国の民とは異なった文化を持つ、北の民の文化の特産品である。実は二の島は和の国の歴史の中では比較的新しい。それまでは二の島という呼び名はなく、北の島として北の民だけが住む島だった。
北の民は、北の島の他、和の島の東北和の北部にも住んでいたが、昔は氏族単位で生活しており、北の民としての統一国家を持たなかった。
いち早く統一国家を作った和の民は、北の民と争った時期もあったが、統一国家の軍と氏族単位の戦闘では、一方的となり、まともな戦いにはならない。もともと戦闘を好まない北の民は、和の民との融和を選ぶ氏族が多く、融和する形で和の民に溶け込んで行った。
と言うのも、以前から和の島の東北和では、和の民と北の民は近隣の村々で互いに行き来して交流があったし、そんな関係にあると、和の民だとか北の民だとかの区別などは、末端のレベルではあまり意識されなかったのだ。和の民だの北の民だのと言っていたのは、中央政府の朝廷だけだったようだ。このため、和の民と北の民は、いくつかの衝突はあったものの、全体としては比較的スムーズに融和して行ったのだった。
そんな歴史の中でも、北の民はおそらく無意識のまま、独自の文化を守って継承し、このように素晴らしい特産品を生み出している。
このような経緯で、和の民と北の民が共存していた和の島の東北和から、和の民が北の島にも移住し、北の島の北の民と融和して、北の島は和の国になっていった。
その証拠に、古い和の国の地図には、二の島は北の島として、函府周辺だけが描かれているに過ぎない。今は北の島全土が描かれており、その大きさから、和の島に次ぐ広さの二の島として定着している。
余談だが、和の国の首都は東都と西都で、帝の御代替わりの際に首都を交代しているが、ずっと昔は西都が首都だった。と言うのも、和の国で成立した統一国家の礎となる勢力が古都で興っており、その勢力が西都に出て統一国家を形成し、西都を首都にしていたからだ。そのうち、海路の発達に伴って商都が経済で栄え、西都と商都と古都で西三都と呼ばれている。西三都をまとめて、広域な首都とみなしてもよい。なお、この統一国家の王族が現在の帝家の祖先である。
このため、ずっと首都機能を果たしていた西三都に近い南の島や、和の島の西和のさらに西にある西の島は、穏やかなセットの内海で容易に西三都と往復できることもあって、古い時代から和の国の地図に描かれていた。
時の武家政権が、抗争に敗れて、いったん南の島や西の島に逃れて再起を図ったこともある程だ。
北の島を二の島と言うようになってから、それに呼応して、西の島の三の島、南の島の四の島という呼び名も広く使われるようになった。
函府もそうだが、三の島の宰府や四の島の屋府が、島の中央ではなく和の島寄りに位置するのは、統一国家との連絡拠点だったからだ。
東北和の賀府は、北の民を傘下に収めようとしていた頃の朝廷の前線基地が起源である。
西和の雲府は歴史が非常に古く、和の国を統一した勢力が古都で興る前から、都市国家として栄えていた。統一国家ができる前の和の国は、都市国家が散在していたが、その都市国家の中で最有力で、かつ盟主だったのが雲府だ。
雲府には雲府大社があり、今でこそ普通の神殿だが、都市国家の盟主だった当時は、地上50mの大神殿だったと言う伝説がある。
ちょっと信じられない話だが、雲府から大神殿の柱跡が発掘されており、その柱は、大木3本を束ねていたらしいことが分かっている。地上50mの神殿と言うのは誇張ではないのだ。そんな大昔に、その規模の建築技術があったと言うだけでも、当時の雲府が突出した勢力だったことが容易に想像できる。
しかし不思議なことに、その雲府は、統一国家の礎となった勢力にあっさり恭順した。そして他の都市国家も雲府に倣ったため、和の国の統一事業はスムーズに進んだのだが、このエピソードは、雲府の族長から帝家の祖先への、国譲り神話として語り継がれている。
西和や三ノ島の首府は、交易拠点、侵攻拠点、防衛拠点といった側面も合わせ持ち、和の国海を挟んだ大陸にある異国との関連が強い。
このように和の国の歴史は、非常に興味深い。
さて、いささか脱線してしまったが、俺たちは二の島で北の民の逸品を多量に買い込み、北の島廻船の寄港地であるオッツォの港町に向かった。
オッツォからビヒロに行くときにキラームース5頭の群れを退治したから、帰りの行程は順調そのものだった。
夕方にはオッツォの港町に着いて、北斗号を山髙屋オッツォ支店に預け、近場の宿屋を探した。宿屋には皆で泊まれる大きめの和室があったのでそこを取った。皆で泊まると、むふふな展開にはならないが、それはそれで楽しい。
この宿屋は、部屋出しで海鮮料理の夕餉が出るそうだ。流石、港町の宿屋である。宿屋で夕餉が出るなら、食いに出るのも面倒だし、宿屋で夕餉も頼んだのだが、これが大当たりだった。詳しく聞くと、宿屋の亭主が漁師で、その日の漁によって夕餉が決まるのだとか。ラッキーなことに今日は大漁で、船盛の刺身が出て来て驚いた。
二の島はジャガイモが取れるが、ジャガイモで作った焼酎があり、産地は二の島の東部だが、ここオッツォにも北の島廻船で運ばれて来る。
俺と嫁たちはジャガイモ焼酎で盛り上がった。大人嫁だけでなく、最近はキョウちゃんズも酒盛りの輪に入っている。成長モードに入って、嗜好も大人びて来たのかもしれない。そう言や、また背が伸びた気がする。そろそろ大人嫁たちに追いつくんじゃないだろうか?
肴はシカオのチーズだ。ブルーチーズ、カマンベール、ミモレット、ゴーダ、チェダー、フロマージュ、モッツァレラ、カチョカバロ、燻製、などなど多種多彩だ。
俺たちは夜まで大いに盛り上がった。
翌日、朝餉を摂りながら、ワカナへの行き方で作戦会議となった。
北の島南東岸南寄りのオッツォから、北の島北端のワカナまでは、北の島を半周する。つまりどっち回りでも行けるのだ。
ひとつは時計回りに進むルートで、オッツォから、北の島航路の南東回りを、函府方面に向かって、リモ、トマコと往路とは逆に進むのだが、函府まで行かずにトマコで下船して、陸路を行く。二の島の南西の把手の部分を陸路でショートカットし、トマコから、エニャの農村、サホロの町を経由して、北の島航路の北西回りの、イッカリの港町に出るのだ。イッカリの港町からは、北の島航路の北西回りを使って、イモルの次に、ワカナに到着だ。これだと、船中2泊、陸路で2泊、さらに船中2泊だから、合計6泊で、ワカナ到着は6日後だ。
もうひとつは、反時計回りに進むルートで、オッツォから北の島航路の南東回りを、オム行に乗って、アシケ、ムネロ、ロート、オムと、終点のオムまで行き、そこで北西回りの函府行に乗り継いで、ワカナだ。こちらは、船中5泊で5日後に着く。
こう考えると反時計回りがよさそうだが、流氷が接岸すると話は変わって来る。流氷が接岸すれば、廻船は航行できなくなるからだ。流氷が接岸する可能性があるのは北の島の北東岸なので、ムネロ、ロート、オム、ワカナが引っ掛かる。もしすべてが閉ざされたら、北の島の東の頂点のムネロから、北の頂点のワカナまでを、陸路の雪中行軍となってしまう。陸路なら10日は掛かるだろう。
「とまぁ、こんな訳で皆はどう思う?」
「全行程が流氷に閉ざされる訳ではないと思いますが?」
「船旅は…シケなきゃ…楽…。」
「レイの攻略はぁ、終わったしぃ、急がなくてもぉ、いいわよねぇ。」
「流氷で航路が閉ざされてもうたら、戻ればええんやないの?」
「せやね。ムネロで折り返しても、時計回りで10日くらいやろ?」
「アタルの行きたい方でいいわよ。」
「どっちにすっかなぁ。うーん…。ワカナから函府までの帰りは北西回りだから、南東回りで行くか?二の島一周ってことで。」
結局そうなった。
宿屋を出て、北斗号を引き取り、昼前にオッツォに着いた北の島航路のオム行の廻船に乗船した。船室はいつもの和室だ。6人用和室に追加布団2組を入れて8人皆で泊まる。雑魚寝だがこれが和むのである。
船中1泊して、翌日の午前中にアシケ。例によって停泊中に皆で、昼餉を摂りに港へ降りると、アシケは二の島でトップのカキの産地だとかで、港にはカキを食わせる店がいくつもあった。廻船の船員お勧めの店に入り、生ガキを注文。海のミルクとはよく言ったもので、とぅるんと頬張り、くにゅんくにゅんと噛むと、でゅわーと濃厚な味が口いっぱいに広がって、にゅるるっと言うのど越しでいくらでも入る。旨すぎる。やっぱ生だよなー、カキは。
なお、アシケはアサリも二の島でトップだそうで、アサリの炊込飯も旨いとのことだった。夕餉用にアサリの炊込飯をしっかり買い込んで廻船に戻った。
その翌日はムネロ。ここはサンマの水揚げが、和の国でも有数の港で、焼サンマ寿司が名物だ。三枚に下ろしたサンマを芳しく焼き上げて、酢飯に蒲焼風のタレを掛け、ガリを乗せてその上から焼サンマの切り身をびっしり隙間なく乗せている。ひと口頬張って噛むと、焼サンマの風味とタレと酢飯がいい塩梅に調和し、サンマの臭み消しのガリがいいアクセントで…、おっと、酢飯にまぶされてる甘煮椎茸の小さな切身もいい味出してるじゃんよ。
ムネロは二の島東部の拠点となる港町なので、流邏石をひとつ登録した。
それとムネロからは、北東の外海へ続く島々がある。これらの島々は、ざっくり二列になっており、南の列島が、シブ等を中心とした群島、その先のイロニ島。北の列島が、コクゴ島、タクソク島である。ムネロを起点とした外海航路のイロハ航路が南の列島、ゴソク航路が北の列島を結んでいる。
さらにその翌日はロート。店先には「ブドウエビあり〼」「ブドウエビ入荷」「幻のブドウエビ」などのうたい文句が掲げられている。ブドウエビ、イチ押しなのか?じゃぁ食って行くか。刺盛とともにブドウエビを人数分注文。
いやー、随分結構なお値段でしたが、その甲斐はありましたよ。
なんでもブドウエビは、正式にはヒゴロモエビと言うそうだが、色が紫なので通称ブドウエビなんだとか。結構深い所に棲んでるので、水揚げ自体があまりないらしい。このため、ほとんどロートで消費されるので、函府やサホロにも出回らないそうだ。
ひと口食ってみると…魂消た。むっちゃ濃厚で、物凄く甘い。これに比べたら甘エビの甘さなんて甘いうちに入らないぜ。うー、こいつを丼飯に敷き詰めて搔っ込みてぇが、いったいいくらになるのやら。
なんかのこのブドウエビが食えただけで、こっちのルートを選んで正解だった気がする。
ロートを出たところで、船中泊5泊の中日となるので、たらい湯を注文した。これで体を拭くのである。嫁たちは大喜びだったが、俺はその間、船室から追い出されていた。泣
なぜだ?今更ではないか?一緒でいいじゃんかー!じゃんかー!じゃんかー!3回も脳内エコーしやがった。ふん!
「さっぱりしたわ。アタルもいいわよ。」と言って嫁たちが船室を出て行くと、仕方ないことではあるが、湯は冷めていた。
キター!嫁エキス入り残り湯。『変態』の文字が頭をよぎるがまあいい。テイスティングから初めて、俺もいろいろな意味でさっぱりしたのだった。むふふ。笑
で、4日目は終点のオム。北の島航路は、函府とオムが起点で、南東回りと北西回りに分かれている。ここで、北西回りに乗り換えて、明日がワカナだ。心配された流氷は、この間、進行方向の馬手側の沖にずっと見えていたが、接岸はしてなかった。ただし、結構な北風が吹くと接岸するかもしれないそうだ。
北斗号を乗せ換えて、オムの港に繰り出す。さてオムの名物は…、毛ガニだそうだ。そう言えば、二の島に来て、まだカニは食べてなかったな。満場一致で昼餉は毛ガニに決定。
店に入って注文。毛ガニは当然ひとり1杯ですわ。
ふんどしを親指で引き揚げて、パカっと甲羅を外すと、当たり外れが分かる。カニミソたっぷりが当たり、スカスカが外れである。まぁ、産地の店だけあって外れはなかった。ちなみに俺は名前の通り、アタル=当たりであった。
ダメだ、こんなに旨いカニを食ったら昼から吞みたくなる。カニミソがまだついている甲羅に、程よく燗した和酒を入れて、きゅーっとやるのだ。
「兄ちゃん、これで炙るべさ。」店の大将が小さな七輪を出してくれた。中で炭がいい塩梅に落ち着いている。そう、真っ赤な炭じゃダメなのさ。
俺は、カニミソ燗酒を堪能したのだった。
オムを出航し、二の島北東岸を北西に進む。明日はとうとう目的地のワカナなのだが、オムを出てしばらくすると北風が強くなり、海は荒れ気味になった。
俺は船の揺れには強いから平気なのだが、嫁たちは皆、ダウン気味だ。サジ姉の定期的な酔止の術で、ひどいことにはならないが、嫁たちは布団を敷いて寝たまんま、食事もできなくなっている。
甲斐甲斐しく全員の面倒を見てやったのは言うまでもない。ここでドバっとポイントを稼ぐのだ!俺はひと晩、寝ないで頑張った。嫁たちに猛烈に感謝されたのは言うまでもない。俺、グッジョブ。
翌朝になっても、北風は止まない。そう言えば、北風は流氷を運んで来るのだったな。ワカナに着く前に流氷が接岸したら、廻船は身動き取れなくなるんじゃないだろうか?ちょっと甲板に出て情報収集をして来よう。
甲板に出ると流氷は結構近くに寄っていた。ひと晩でこんなに動くのか!
「随分北風がきついな。流氷も随分近付いて来てるし、流氷が接岸すると廻船は流氷に挟まれないか?」
「そだなー。でもこの距離だと、ギリセーフでワカナに逃げ込めそうだべさ。」
「風が強くなったらやばいか?」
「そんときゃ、奥の手があるべさ。心配しないでいいっしょ。」
「奥の手って何だ?」
「すまんね。一応マル秘なんで、俺からは言えねぇんだべさ。まぁ、危なくなったら見られるっしょ。」そんな言い方されたら、余計に気になるだろ!とも言えねぇしな。苦笑
「ふーん。頼りにしてるぜ。」
「おうよ。」船員はドンと胸を叩いた。
北風が強まって、いよいよ流氷がやばいレベルで近付いて来て、これ以上廻船が岸によると座礁するかもしれない段になって奥の手が出て来た。
なるほど、そう言う手か!
何のことはない、火の陽士が、火球をバンバンぶっ放して、流氷を溶かしたのだ。気力切れを起こすと、高価な気力薬を惜しげもなく飲んで、再び火球をぶっ放していた。
でかい流氷が来たら、俺も震撃矢を使うかな。そう思っていたが、結局俺の出番はなかった。
じきに廻船は無事、ワカナに入港したのだった。
設定を更新しました。R4/8/21
更新は月水金の週3日ペースを予定しています。
2作品同時発表です。
「精霊の加護」も、合わせてよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n2050hk/
カクヨム様、アルファポリス様にも投稿します。




