07 ゲスト09と牡蠣フライ
遊びも、夜の営みもだが、食事も独りでするのと、知人とするのと、好きな相手とするのでは、同じ内容でも感じ方には雲泥の差がある。
だが今日の夕食は、好きな人と美味しい料理にもかかわらず、とても不味いものになった。
いや、【気不味い】と言うべきか?
「しょうがないから、食べてしまおう」
「申し訳ありません、御主人様・・・・・」
誰が始めたのか、最近の教会内では年末になると【挨拶回り】と称して、上司に【高級生牡蠣】を送るのが通例になっているらしい。
今までは、牡蠣を購入した足で挨拶回りに出ていたので、この妻の知らぬ事だったのだ。
「いや、夕方にしか手に入らなかったからと言って、包みから出して冷蔵庫に入れていた俺が悪い」
「いいえ。見慣れぬ食材が有ったのですから、御主人様に聞いてから調理をするべきでした」
教会内での贈答規模が徐々に広がっている為に、入手が困難となって来ており、既に年末も差し迫っている。
そして、相手を庇い合う二人の前には、上手にあがった牡蠣フライが並んでいた。
夫が牡蠣フライを口にするのを見て、妻も牡蠣フライに手を伸ばす。
とても美味しいはずなのに、感動が沸き上がらない。
甘味と共にくる、旨みである筈の牡蠣の苦味が苦痛にしか感じられない。
聞けば、夫が自由にできるお金で、そうそう買える物ではないらしい。
与えられた生活費を切り詰めて急ぎ再購入するしかないのだろう。
できなければ夫の立場を悪くする事になりかねない。
当然その夜も、淋しい就寝となった。
翌日、妻が教区で買い物をしていると、いきなり強い【気配】を感じた。
振り返ると、そこには手招きする教会関係者の姿があった。
マリアナの瞳が赤く輝く。
「なんと、驚きでございますよ。教区で気配を感じたと思ったら、なんと法王候補として名高い枢機卿様ではございませんか?」
「貴女が、なぜ生かされているか、納得がいきましたかな?」
彼は、三十代で枢機卿にまで駆け上り、尚且つエクソシストを取りまとめる有名人だ。
聞けば、二十歳で修道士になったと言うので、枢機卿すら異例の出世と言える。
エクソシストは教会内の汚れ仕事なので、その取りまとめが法王に成るのは無い様にも思われがちだが、アメリカ情報局CIAの長官から、副大統領を経て大統領にまでなったジョージ・H・W・ブッシュの例も有るので、強ち無理とは言えない。
ましてや彼の正体は、西の王と称された【悪魔】だ。
死海の東側アバリムの名家の出身で、スウェーデンにあるラバル工業の株主でもあると噂されている。
現世での勢力も、金も、能力も高い。
次回の法王選抜会議においても最有力と言われている。
「枢機卿様も、やはり現世での悪魔は少ない方が良いとお考えなので?」
「勿論ですよ。だから貴女の能力は、とても重要と言える。ただプルソンの件は、いただけなかった。不慮の事故とは考えていましたが」
「私にとっては同列に過ぎないのですが、やはり【王】は残しておくべきだと?もう少し早く接触をして下されば良かったのですが」
第三者が、この会話だけを聞いても、その内容は掴めないだろう。
プルソンと彼女の立場は【大王】。
この枢機卿の立場は【王】なのだが、彼女は破壊が専門で、人間を動かすのは得意ではない。
【餅は餅屋】と言う言葉が、先日行った東洋の国には有ったが、ある程度までは専門家に任すのも事を成すには必要だ。
「大王と王の10柱。今では9柱ですが、確かに、いささか数が多いとは思います。しかし、どう選らんだものか?」
「ただ、それでもアマイモン様の関係は残しておくべきですよ」
枢機卿は、顎に手を当て考え始めた。
「となると、アスモダイ様にゲアプ様ですか。ザガン様の能力も捨てがたいですから、残る大王には手を出さないという事ですな」
「残りの選択は枢機卿様に任せしますよ」
「セエレ殿以外は、著名だが秀でた能力は御持ちでないし、王位は片手(5)くらいで良いのではないでしょうか」
実際には、有能な者のリストアップは終わっている。
あえて、迷う振りをするのも、彼の戦術ではあるのだ。
「リアナ・・・・いやマリアナ殿。他に懸念は有りますか?」
「今、一番困っている点と言えば・・・・枢機卿様は牡蠣が御好きですか?」
その日の後、贈収賄の隠れ蓑になっていたとして、部所内の贈答が禁止になったのは、ある枢機卿の手腕によるものだった。
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ジョージ・H・W・ブッシュ
アメリカ中央情報局第11代長官
1976年1月30日 – 1977年1月20日
第43代副大統領
1981年1月20日 – 1989年1月20日
アメリカ合衆国 第41代大統領
1989年1月20日 – 1993年1月20日