04 ゲスト20とバイブル
よく間違われているし、既にソレで定着しているのだが、【バイブル】とは【聖なる書物】と言う意味でも、ある宗教の聖典を指す言葉でもない。
本来の意味は【本の中の本】【book of book】なのである。
マリアナは、東洋の某国に来ていた。
世界大戦の敗戦国であるにも関わらず、急成長をして世界でも屈指の生活レベルを誇っている。
治安は良く、自衛の為でも武器の所持は許可されていない。
繁華街だけではなく、住宅地にも保安の為のカメラがセットされており、人間の住む場所にはライトが灯っていて、深夜でも暗闇を探すのが困難なくらいだ。
ただ、現地語しか通じないのと、電気器具の電圧が諸外国より低い為に、翻訳機の所持と携帯の充電器をはじめ多くの電気製品を買い足さなくてはならない。
現地コーディネーターの話では、首都圏に有名な電気製品街があり、ほぼ何でも揃うらしい。
「家電品の町と聞いていたけど、カルチャータウンみたいね?」
確かに電気店は多く有るが、その間にマガジンや玩具、飲食店などが数多く並んでいる。
よく見ると、なぜか街頭にメイド服を着た女性が何人も公報活動をしていた。
「あんなメイド服も有るのだな?と言うか人前で、あんなに脚を見せて良いものなのか?ヨハン様になら兎も角・・・ムフフフ・・」
裏路地でもないのに、まるでコールガールの様に露出の多いものが目を引く。
だが、飲み屋やギャンブル、風俗業の店は見当たらない。
試しに入った本屋に、メイドのコーナーが有ったので、少し目を通してみた。
「漫画か。な、なんだ?コレは!メイドが縛られ、凌辱されて性欲の捌け口にされている?」
確かに主従関係と金をネタに、主と肉体関係を持つメイドの話は、無いこともない。
だが、コレでは・・・・
思わず、タイトルを翻訳機に掛けてみた。
この国の言語は、発音と文字の組み合わせが多く、文字単体でも意味を持つので分かりにくい。
「【萌衣奴】?発音は【メイド】だが、文字の意味は【興奮する】【ドレス】【奴隷】?【セクシードレススレイブ】って意味か?確かに男性を刺激する破廉恥なメイド服だが・・」
翻訳機には誤訳が有るが、内容からすると間違いない様だ。
引き裂かれるメイド服、自由を奪い乳房や股間に食い込む縄、引っ張られる乳首。
白目を剥く瞳と、力なく垂れる舌。
そのイラストを自分とヨハンに重ね合わせ、若妻マリアナの体の芯を、熱いゾクゾクがかけ上る。
「【愛の奴隷】と言うが、まさにコレが!いや、コレこそがメイドの有るべき姿なのかも知れない。このバイブルを是非にも手に入れなくては!」
マリアナは、自由にできるお金で、十冊ほどの同種の薄い本を入手した。
「あっ、電気製品を買うのを忘れた・・・」
あいにく、この国での悪魔憑きは単なる精神病の様で、魔導書に関係した物では無かった。
だが、この国で『本なら、アノ町を』と紹介された古本屋街で、意外な成果を手にする事となった。
「ヨハン様、この店です。ここに魔導書があります」
「まだ、使われずに流通していたとは驚きだ!」
この国の本ではない【洋書専門店】に、古書として例の魔導書が売られていた。
マリアナは魔導書に触れられないので、ヨハンを呼ぶしか無かったのだ。
「確かに魔導書だ!被害者を出さずに済んで、本当に良かった」
「ナンバー20の大王プルソン、かなりの大物です。この国に来たのが、無駄骨に成らずに良かったですね」
魔導書の処分の為に、少し滞在期間を延ばさなくてはならない。
「フムフム、口や胸、お尻まで使い、文字通り【全身全霊/オール オブ ボディ&オール オブソウル】を尽くして御主人様に御奉仕しなくてはならないのね?」
ホテルに帰ってコーディネーターと話すヨハンをよそに、本を読みふけるマリアナの瞳が赤く輝く。
『背徳と欲望、快楽に身を委ねる事こそ悪魔の本分』
文字の翻訳に時間が掛かったが、マリアナとヨハンの夜は、長いものになりそうである。