21 侵攻の段階
悪魔は人間を騙して不幸にするだけでなく、乗り移ったり、人間を魔界へと引摺り込んだりするものとされている。
悪魔の存在が囁かれてから数千年。
地上侵略を目指していた彼等が、地上で生きる術や人間を魔界で活かす術を研究していないわけがなかった。
そこは相対的に見て、別天体に相当する【異世界】なのだから。
ソロモン王が召喚した悪魔と言えど、魔法陣の外に出る事はできずにいた。
特殊な方法で受肉した者だけが、人間を襲ったりできていたのだ。
その方法が新生児の遺伝子を弄り、魔女や生贄の子として地上に生を受ける方法などだ。
精神体を受け止められる受け皿を作り、記憶を転写する。
現代的に言えば、【転生】となるのだろう。
【召喚】の時同様に、現世で使える能力には制限が加わるだろう。
その個体差が、召喚時の位階と能力のアンバランスさに出ているとも言える。
「現世と常世が統一された際に、そのままでは人間が存続不能なのは、周知の通りだ。だから」
「だから、その為の人間改造計画だと?」
王と呼ばれる者達が集り、開かれる会合で、一柱の王が前に出て説明をしている。
現世と常世は本来は同じ世界で、過去の所業により、現在は平行して存在する別世界となっている。
だが、その呪いにも限界はある。
遠くない将来、別け隔たれた二つの世界は再び一つに戻る事が観測されていた。
「人間の大半が死滅した下界を支配するのも一興でしょうが、皆さんはソレを望んでいるのでしょうか?」
「統一の兆しがあった段階で、あの【保護の首輪】を・・・・と言うのは現世では無理か!」
その案は、全員が無理だと判断した。
【保護の首輪】とは、偶然に常世へと転移した現世人が、常世で生きる為に開発された道具である。
だが、現世では魔力を使う道具は作れないし、魔力不足で殆んど作動しない。
統合が始まってから入手と分配を始めても、たいした量を実装できないだろう。
「それで、あの様な学者達を集めた訳か」
「で、その【進化】の概要は?」
「数ステップに分けて行うが、現在の人間に遺伝子を追加し、常世でも生存が可能な肉体に変えていく。過去にも人間によって試みられた方法だが、感染力の強い人工のウイルスを世界規模でばら蒔き、そのワクチンとして普及させる物に遺伝子追加のRNAを組み込んで配布する」
「遺伝子を追加する?常世なら生体改造も可能だろうが、この現世で可能なのか?」
常世から現世と言う異世界に分離する際に、主に人間とソレに都合の良い生物以外を排除する為に環境を大きく変えた。
そして選ばれた生物だけ、新環境に適応する様に生体情報【遺伝子】を細工した経緯があるのだ。
旧約聖書などの洪水伝説で、高い山に逃げるのではなく、一組の生物だけが選ばれ、隔離されたのを考えれば、想像に難しくはない。
「人類も、1970 年代に発見された【逆転写酵素】と呼ばれるものを使って、遺伝子操作を行っている。この技術を発展させ、ワクチンと言う名のmRNAに組み込む事により、人間のDNAに介入が可能だ。詳しくは資料に書いてかる」
後ろに控えていた者によって、資料が配られる。
「ワクチンとしての能力は無いわけか?」
「いや、ワクチンとしての能力も有るが、ウイルスが変異しやすいので、数回は射つ必要性がある。これは以前のワクチンと変わりない。協力者達には、より持続する抗体が作れるワクチンを別ロッドで作り、個別に提供する。だが、彼等には遺伝子に影響する事は告げない」
資料を読み進む一人が、笑みを浮かべた。
「【進化】と言ってはいるが、実際には有史以前に戻る【退化】な訳だがな」
「開発者も結果的には人類を救う救世主になるのだ。本望だろう」
このまま放置していれば、彼等悪魔が何もしなくても、人類は滅びる。
自らの祖先が起こした【改革】と言う名のものの限界によって。
だが、一人の王が眉間にシワを寄せた。
「我々に対する影響は?」
「我々の肉体に対しては、ウイルスもワクチンも影響は無い。我々と我々の子孫には、このmRNAに対する防御能力が備わってる。そう言う逆転写酵素を選んで使用してある。発病したフリやワクチンの副反応が出たフリは、各位の判断に任せるが」
「では、ソレを計画の第三段階としよう。異論は無い様ですな?」
「問題無いだろう」
参加した王達が皆、頷いている。
「で、第二段階の方の結果は?」
「王子が誕生したそうではないか?」
前に立っていた者が変わり、ダンタリオンが立った。
「我が主、ヴィネに代わり報告いたします」
ダンタリオンは王ではないが、産後のヴィネの代行だ。
彼女は思考を読むので、周りの王達は顔を歪めた。
「王子は大知に対する先槍の意を込めて【グランス】様と命名されました。能力の制限なし、現世での存続安定、疑似常世での存続安定、魔素対応良好、生殖能力有り。されど寿命は五千年程と見込まれております」
新たに配布された資料に、各王達が見入っている。
「相性が良かったのか、初回にしては成功のうちだな。過去の実績では三割前後だったか」
「ああ。だがヴィネ様が、この手の肉体で実績を出して下さったお陰で、我々も踏み切る事ができる」
実験には常に失敗が付き物だ。
以前にも常世からの転生と生殖実験は成功しているが、今回は転生肉体に更なる改良を加えている。
「ただ、王子様には、未だに魔力の制御が不安定な上に、御子様ですから、現世での養育には魔力を込めた魔法陣による結界が必要になりました」
「はっはっはっ!ヤンチャな王子様には現世で力を振り撒くのを御自重して頂かないとな」
「いや、お元気そうで何よりです」
ある意味で、後に続く者への注意事項だったのだが、笑いがこぼれていた。
「では、我々も子作りに精を出しますか?」
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1970 年代、二つの研究チーム、ウィスコンシン大学のハワード・テミン率いるチームと、マサチューセッツ工科大学のデビッド・ボルティモア率いるチームが、それぞれ別々にレトロウイルスと呼ばれる RNA ウイルスの複製に関与する新しい酵素を発見した。
これらの酵素は、ウイルスの RNA ゲノムを相補的な DNA (cDNA) 分子に変換し、宿主のゲノム/DNAへと組み込ませることができる。
これらは RNA依存性DNAポリメラーゼであり、逆転写酵素と呼ばれている。
1975 年、テミンとボルティモアは逆転写酵素の発見という先駆的な功績によってノーベル生理学・医学賞を受賞した。




