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02 ゲスト17と必要悪

世の中には【必要悪】という言葉がある。


ソレは【正義】を成立させるもの。

ソレは【正義】で裁けない悪を裁くもの。

ソレは【悪行】を押さえきれない者のガス抜きの場。


人を束ねる政治にも、人を導く宗教にも【必要悪】は存在する。


人を守る為に、武道を習い人を殺せる武器を持つ警察や自衛隊が存在する。


十字軍や聖騎士と呼ばれる者達は、自分達の社会を守る為に、育った環境の違いだけで血塗られた剣を振り上げる。


一般には【自分の中の正義】を貫き、社会に負けた者を【悪】と呼ぶ。

【改革】ではなく【クーデター】と呼ばれて。


【自分の中の快感】に従い、理性に負けた者を【悪】と呼ぶ。

【自由】ではなく【犯罪者】と呼ばれて。


人と人が接して優劣を競う限り、争い事と、相対的善悪認識は無くならないのだろう。



私は、どの【悪】に相当するのだろうか?



昔の自分は【悪行】を押さえきれないだけの単なる【悪】だった。

だが、今は【正義】で裁けない悪を裁く【必要悪】だと信じたい。




「エドは、私達を【必要悪】だと思いますか?」

「知った事か!俺は殺す事しかできない人間だ。余計な事は考えるな!エリス、それより、ちゃんと誘拐してきたのだろうな?」


そう言われて私は、麻酔を嗅がされスポーツバッグの中で寝ている赤ん坊を見せる。


20代後半の女性が、赤ん坊を抱いていても不思議には思われないし、上着の色を変えれば、親の横を抱いて歩いても気が付かれない。


この口うるさいのは、Eセクションでパートナーを組んでいる先輩で、エドと言う40過ぎのオッサンだ。


幼い頃からギャングの下働きをさせられ、軍では特殊部隊で世界中を暗殺して回っていたらしい。

事が発覚した時に命令書は処分されて、【現場の暴走】として既に最盛期を終えた彼が電気椅子送りになった。


私もだが、以前の私達は死んだ事になっている。

顔は整形され、指紋も歯の治療痕もセンターのDNAデータも変えられ、改竄されている。


「早く、自分で殺せる様に成るんだぞ」


私にソウ言うとエドは、赤ン坊の体からパッチテストのシートを剥がし、その結果を見て首をひねっていた。


「どうして、あの娘はコレが遠くから分かるんだろうな?」


赤ン坊の腕には、パッチテストの為に黒く変色した痕が、鮮明に見てとれる。

我々のターゲットは、銀に対するアレルギーが共通点だ。


私は、詐欺や爆弾を専門にしていたので、いまだに【殺し】はできていない。

そろそろ踏ん切らないといけないのだが。


「用意は良いか?」

「OK!20○○年July.15。ターゲットナンバー17。パッチテスト結果を確認」


赤ン坊の顔とパッチテストの痕を撮影する。


エドが表情一つ変えずに、スポーツバッグに入れたままの赤ン坊にビニールを被せ、その首に特製ナイフを突き立てて、命を奪った。


儀式用のショートナイフだが、側面に銀のプレートが張り付けられている。


一瞬の痙攣の後に、グッタリとして、全身が赤みを失っていった。


全身の変色と刺し傷の炭化は、この手のターゲットの特徴だ。

しっかりと撮影して報告する。


「一次処理完了」


撮影を終了し、メモリーカードを封筒に入れて、スポーツバッグのポケットに入れる。


あとは、荼毘だびすだけらしいが、ソレはまた専門の担当が来る。


電話をすると、直ぐに牧師姿の二人組が到着した。


「ターゲット17だ。中身を確認してくれ」

「了解。確認した。いつもご苦労様」


赤ン坊の入ったバッグと、着替えた衣服やウイッグの入ったバッグを、担当者に渡す。


教会には火葬場も焼却炉も墓地もある。

無縁仏なども収容している。


我々Eセクションの仕事は、【悪魔認定】された者を殺害し、火葬するまでの行為だ。


怪しい人物や悪魔憑きを、エクソシストが霊的に調べ、既に生まれている場合は、我々Eセクションが行方不明や事故の形で処分し、復活しない様に遺体を教会が完全処分する。


実行犯に犯罪者を使うのは、犯行に迷いが生まれにくいからだそうだ。

更には何か信念があり、誘惑に強い者に限られると聞いている。


私の信念は【悪い奴、害になる奴を殺すのに手段は選ばない】だ。


「あのマリアナとか言う娘の鑑定は、間違った事がない。【天使】とか【悪魔】とかは分からないが、無差別殺人をしている訳では無い分、有意義と言えるだろう」

「私も試しに付けてみたけど、あのパッチで、あんなに変色するのは、やっぱり変な生き物なのよ」


現場でパッチテストによる確認ができる分だけ、エドは以前の仕事よりは良い職場だと感じている様だ。


因みに、拐えない程の大人は、事故に見せ掛けたり、狙撃したりして、病院で処置している。


警察の捜査は、時間との勝負だ。


普通の誘拐犯は、現場からの逃走を優先する。

だが、我々は二週間ほど滞在を続ける。


マークされるのは【金髪の女性】。


だが、赤ン坊と金髪は二人組の男が持ち去り、現場近くのホテルには、教会の依頼で宗派のリサーチをして回っている【茶髪の女性と金髪のゴッツイオッサン】しかいない。


「母体である教会にとっては、このリサーチも重要な仕事らしい」

「正直、幼児誘拐と殺害よりも、コッチの方が手間よねぇ」


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