13 ゲスト71の移籍
アイドル歌手の周りには、常にファンやパパラッチと呼ばれる芸能記者が徘徊し、なかなか近寄る事ができない。
加えて、スケジュールがハードなので関係者でも余人を交えぬ接触は不可能だった。
「正体が分かっているのに手出しができない【悪魔】が居るのですか?」
シャールトンは、今回もヨハン達に同行している。
「リオナ・クーマって知ってますか?」
「14、5歳の歌手で、最近は映画にも出てるって女の子ですよね?いや、むしろヨハン様が御存知なのに驚きを感じます」
同年代ではあるが、堅物で世情に疎いイメージがヨハンにはあるのだ。
「彼女には【秘密の計画を暴露できる】って厄介な能力が有るから、危険視されていて何回か暗殺を試みたんだけど、【他者の考えを読む】って能力で、回避され続けているらしいわ」
リアナの説明によると、なかなか厄介な相手らしい。
「今回はファンクラブに同行する形で、かなり近くまで近寄れるらしいけど、どこまでできるか分からないな」
ヨハン達二人の装いは、いつもの神父とメイドではなく、一般人の服装だ。
「ちょ、ちょっと待って下さいヨハン様。ファンクラブにコネがあるって事は、ファンクラブの上層部にバチカン関係者が居ると言う事なのですか?」
「いや、シャールトンさん。その辺りは詮索しないでいただけるとありがたい」
痛い所を突かれて、ヨハンはあからさまに顔を背ける。
時間通りに待ち合わせのテレビ局前に行くと、既に十人ほどの人が集まっていた。
ヨハンはスマホのメールに添付されていた写真を表示して、同じ人物を探した。
「あのぉ、リチャード・スンさんですよね?ヨハン・ガードナーと言います。叔父の紹介で・・・・」
「ああ、会頭補佐から聞いているよ。今日はリオナちゃんの魅力を存分に堪能して行ってくれ」
20代後半の男は、気さくに話してくれる。
勿論、【叔父】と言うのは嘘である。
「【会頭補佐】って誰ですか?」
「聞くなマリア!」
ニヤニヤしているマリアをヨハンが睨む。
テレビ局の案内に従って、局内を進む一団は、やがてガラス張りの通路に差し掛かる。
廊下から撮影スタジオが覗き込める様になっており、スポンサーや外賓が撮影を邪魔しない様に見れる仕組みの様だ。
ファンの者達が、ガラスに貼り付く様にして中を覗いている。
合間から見ると、渡された資料にあるリオナ・クーマと言う少女が、舞台でリハーサルをやっていた。
「シャールトンさん。ココから出来ますか?」
「無理ですね、ヨハン様。ガラスに段差、障害物が多すぎます」
ヨハンは、フルカスの騎士を見ては居ないが、話からライフル銃で狙う様なタイプではなく、移動を阻害する障害物が有ると無理なタイプだと認識した。
「ではヨハン様。ココは私がやりましょう」
「できるのか?リアナに」
「お任せ下さい」
マリアナの目が赤く輝く。
「ヒーッ!」
「リオナちゃん!」
ステージを見ていたファンから悲鳴があがる。
バン!
見ると、舞台セットの一部が欠落し、ステージ上のリオナに向かって落ちた様だ。
幸いにも、辛うじて避けれたので、彼女には傷ひとつ無い。
手を振って無事をアピールしているので、ガラスに張り付いていたファンから安堵の声が漏れている。
「完全に、こちらの動きを読まれていますね」
覚醒していないリアナには、物理的な力は負担が大きいらしく、マリアに戻っても壁に手をついていて顔色も悪い。
「大丈夫かマリアナ?」
「少し休めば大丈夫です。ヨハン様」
「リアナ様の御力でも無理ですか・・・」
ステージでの撮影は中止となり、見学会も御開きとなった。
テレビ局を出て、三人は対策を練るべく帰路につく。
毎回の事だが、周辺には工作員が満載のワゴン車と、トドメを刺す為の救急車しか来ていない。
事件の直後に立ち去る車両ほど怪しいものは無い。
トボトボと歩道を歩いていると、窓が総フイルム貼りのマイクロバスが彼等の真横で止り、側面のドアが開いた。
「少し、御話しをしませんか?」
顔を出したのは、リオナ・クーマだった。
車内には他のスタッフも居り、強行手段もままならない。
ましてや、リアナやシャールトンの能力が使える環境にはない。
「リオナさん、その方々は?」
「故郷の知人です。久しぶりなんで、御話しをしたくて」
リオナがスタッフに、その様に説明している。
「確かに、同郷には違いない」
一番年長のシャールトンが言葉を重ねた。
「御二人がみえているのは、感じていました。でも、そちらの方は普通の方なのですね?」
「問題ない。関係者だ」
「その様ですわね」
しばし、睨み合う四人だったが、しばらくしてから一斉に力を抜いた。
「私が、里に関する秘密を暴露する事を懸念なさっているんでしょう?」
「まぁ、そう言う事だな。メディアに顔が利いている現在は、その危険度が更に増している」
ヨハンとマリアナは黙ったまま、シャールトンがリオナに返答する。
「でも、それは私自身も狂人扱いされかねないし、逃げようもないテロの対象に成りかねない行為でしょう?」
「だから、端的に処置してしまおうと言う者も出てくるんだよ」
リオナも頷く程に、分かりやすい話だった。
スタッフ達にも聞こえてはいるが、故郷の風習についての話にしか聞こえない様に話している。
「では、私がソチラの王に仕える事を【契約】し、命に従うのでは如何でしょうか?」
リオナはマリアナの方に視線をやった。
「今の地位を捨てると?」
マリアナが、はじめて口を開いた。
「現世では意味を持ちませんし、配下も既にチリジリになっておりましょう。これで安全が買えるなら安いものです」
公爵と言う立場は、王家の親戚だから成り立つ。
別の王に仕えると言うことは、下位の貴族に落ちる事を意味する。
そして貴族にとって、いや【精霊】にとって【契約】とは、存在を揺るがす程に重要なものだ。
「良いのだな?」
「はい!」
マリアナとリオナの目が赤く耀く。
「分かった。受理しよう。我の事は【マリアナ】と呼ぶ様に」
「以後、よろしくお願い申し上げます、マリアナ様」
マリアナがヨハンにアイコンタクトを取り、教会に敵対しないのであればとヨハンが頷く。
「リアナ様は、なかなかの手駒を手に入れられましたな。それに私の活躍の場も数多くありそうですし・・・・」
シャールトンは、マイクロバスを降りながら呟いた。
これまで様々な王に同行して、行動や理念を見たり、仕事の手伝いをしてきた。
だが、末端で働いているコノ王の行動が、一番に己の能力を発揮できる様な気がする。
特に権力や領地に固執しないのも、余計な配慮が要らないので気楽で助かる。
相手の手を読み、攻撃力を手に入れれば、権力や領地が無くとも無敵だろう。
他の者からすれば、必要な時に利用して放置しておけば良いのだから。
シャールトンは、仲良く腕を組んで歩く二人の後ろ姿を見ながら、その様な事を考えていた。




