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12 ゲスト36の事業計画

コンベンションセンターに到着したワゴン車から降りてきたヨハンは、少し不機嫌だった。


「スーツを着るなど、私の性に合わないのだが」

「いやいや、流石に神父様の衣装では、会場に入れませんよ」

「ヨハン様。スーツ姿もカッコいいですわ」

「そうかい?マリアがソウ言うのなら・・」


車から降りた四人は、招待状を見せて、センター内の大ホールへと入っていった。


建前は、このホールで事業計画発表会を行う会社の取り引き先会社社長と、秘書、部下二名と言う役割りだ。


実際の取り引き先会社の人間は社長のみで、他は会社の株主である教会の関係者だった。


「ココとの取り引き損害分は、本当に補填してもらえるんでしょうね?」

「枢機卿が、更に大きな企業との取り引きを約束して下さってますから、御安心下さい」


社長の問いに、秘書役のマリアが簡潔に答える。


ホールで案内されたテーブルは、最後尾と言える場所だ。


「ご指定通りに破格値で契約を結び、何とか取り引き先として潜入できましたが、まさかコノ会社の躍進に悪魔が関わっていたとは・・・」

「悪魔は、先ずは人間に利益をもたらし、深く関係性を持ってから、逃れられない破滅へと陥れるのです。今のうちに芽を摘むのが、この会社の為でもあります」


社長とヨハン神父の会話は、開会前の雑踏にかき消されて、余人の耳には届かない。


「リアナ様。お手並みを拝見致します」

「そなたもな、シャールトン」


シャールトンとは、フルカスが現世で使っている名前だ。

二人の目が、薄暗いホール内で赤く輝いた。


やがて、場内に音楽が流れ、事業計画発表会が始まる。


社長挨拶に始り、役員の紹介へと続き、実積報告と展望へと進行が進む。


「あの社長が魔術師で、息子で専務をやっているのが悪魔王子ストラス。薬学と鉱物に詳しい奴です」

「ほう、それで近年に新薬や新素材で名を馳せてきたと言う訳ですな?」


マリアの説明に、社長が頷く。


「で、マリア。今回も聖水を使うのかい?」

「いいえ、ヨハン様。今回は、この【協力者】の力を借りようと思っています」


マリアの横に座るシャールトンが頭を下げる。


「【協力者】かぁ。何人か見たが、区別がつかないな」

「ヨハン殿とマリアナ様の御活躍は聞き及んでおります。今回は、御力になれると存じます」


ヨハンの眉間にシワが寄っているのはシャールトンが悪魔だからではなく、席順がヨハン、社長、マリア、シャールトンの順になっており、マリアの横に座れなかった為だ。


ヨハンはビデオカメラの調整もあるので、あまりウロウロできない。


「どのタイミングで仕留めますか?」

「そうですね。専務が立ったタイミングでお願いします」


リアナには、この会社の専務が心筋梗塞で死ぬ姿が、能力によって既に見えている。


「では次に、新素材の開発について、事業推進部の専務から御説明致します」


室内放送により、紹介された専務が席を立ち、壇上へと向かった。


「シャールトン」

「行きます!」


リアナの声に、シャールトンが小さく返事すると、彼の体に重なる様にして、馬に股がったナイトが出現する。


ヨハンにも社長にも、ゴーストの様なソノ姿は見えていない。


テーブルを避けながら、迅速に壇上へと向かうナイトが見えていたのは、シャールトンとマリアナ、壇上の専務の三人だけだ。


向かってくるナイトに、専務の目と口が大きく見開かれている。


「なぜ?」


その一言を残し、騎士の長槍で心臓を撃ち抜かれた専務は、その場に崩れ落ち、騎士の姿は消えた。


「いったい、何が起きた?」

「彼の力です」


ヨハンの問いにマリアが答え、社長が青ざめた顔で二人を見つめる。


「き、教会の法力とは、こうもあっさりと悪魔を倒せるのですか?」

「も、勿論です。こうして、人知れず世界を守っているのが教会なのです」


やや動揺していたヨハンが、神父としてフォローする。


「彼は、特に秀でた者ですから、教会の者が誰でもと言う訳ではありません」

「いえいえマリアナ様。こうして万全の状態で力が振るえるのは、教会の支援があればこそです。でなければ、罪の無い子羊まで葬ってしまいますから」

「に、人間もですか?」


マリアとシャールトンの会話に、社長がガタガタと椅子を鳴らして下がった。




壇上では、胸を押さえて倒れた専務に人々が駆け付け、救急車を呼んで心臓マッサージや人工呼吸をしている。


「そ、そんな!この子が死ぬなんて有り得ない。私の王子プリンスが」


父親である社長は、訳がわからず動揺している。

召喚できたのは【王子】だ。

そんじょそこらの魔導師や悪魔に倒せる訳がないと考えていたのだ。


愛娘をプリンセスと呼び、息子をプリンスと呼ぶ親は皆無ではない。

だが、この言葉は一部の関係者には自白に等しかった。


「申し訳ありませんが、不慮の事故が発生した為に、発表会は中断とさせていただきます」


場内アナウンスが流れ、多くの招待客がざわめき始めた。

一部には首を横に振りながら席を立つ者達も居る。


「ヨハン様。ビデオは、もうよろしいのでは?」

「あ、ああ。ソウだな」


公衆の面前で、合法的に相手を仕留めるさまに、ヨハンも動揺を隠せない。


「死因は【心筋梗塞】となるのでしょう。他に【脳梗塞】もできますから、現代では成人の突然死トップというやつなんでしょう?」


これらの病気は、一部の壊死から判断されるもので、原因となった血栓が発見される事は希だ。


逆に体質上で血栓ができやすい家系を【呪い】と呼ばれていた事も、事実としてあるが。


「我々も、そろそろ御暇オイトマしましょうか社長。既に退室した客も居ますし」

「そうですね」


ヨハンに急かされて、社長が席を立った。


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