【コント】ゾンビに囲まれて
場所:どこかの喫茶店(ゾンビに囲まれてる)
役:男=ツッコミ 女=ボケ
ウーウー、とうなり声が聞こえる。からだをドアにたたきつける音もする。
男:
俺、結婚しようと思うんだ。
女:
え、いきなり、フラグ?
男:
お前と。
女:
私とかよ! いや、再会してすぐじゃん。私達、さっき再会したばっかで。
男:
う、いや、そうだけど。その……ごめん、気が動転してた。嫌だよな、そんないきなり。
女:
いや、いいけど。
男:
いいの!? え、ちょっ、いいの? え、本気で言ってるかい?
女:
告白してきたのはそっちでしょ! 何よ、大学は東京だ! って言って全然帰ってこないで。こっちはずっと待ってたんだからね!
男:
待ってた、といっても二年ぐらいしか経ってなくね?
女:
二年も随分だよ! あんな、田舎にずっと待ってて。ほんと、ずっと待ってて。
男:
あそこ、働く場所がないから俺は仕方なくだったんだが……お前、どうやって暮らしてたんだ。
女:
……警備してたよ。
男:
自宅?
女:
………。
男:
ちょっ、おまっ……二年もニートしてたのか?
女:
ずっとじゃないもん! 在宅の仕事も探してたもん!
男:
探してただけじゃないかよ! いや、お前の家は裕福そうだけど。
女:
パパは、気にせず好きなことしなさい、だって。
男:
お父さん、あれだな! 色々と、あれだな!
女:
はははっ……まぁ、こんな話してる場合じゃないのにね。どうするよ、私達。
男:
街をたまたま歩いてたらお前と再会して。で、何か急に辺りがざわつきだして、ゾンビが現れだしてパニックになって、で、気がついたら見知らぬ喫茶店に入っちゃったけど。
女:
ここの人達はどうしたんだろ。死んだのかな。
男:
俺、生きて帰ったら喫茶店の店主になる。
女:
落ち着きなって。あんたの人生で初めて聞いたよ、そんな夢。
男:
だって、ありえないだろ。ゾンビって……漫画や映画じゃあるまいし。なんでこんなことに。
女:
ニュースでも聞こうか。もしかしたら進展あるかもしれないし。……ここは、ゾンビ以外は誰もいなさそうだけど。
男:
俺、スマホ落とした。すまん、お前のはどうだ?
女:
私がスマホ持ってると思うのか。
男:
ま、まじか。
女:
伊達にニートじゃないんだよ。
男:
もう、堂々としてきちゃったな。おい。
女:
それにしてもどうする? ここなら多少は食料は――あるね。食パンとか卵、野菜も、お肉もある。しばらくは持つんじゃないかな。トイレも使えるし。
男:
確かにここにいれば、しばらくは……でも、いつ助けが来るかだけどな。もし、日本自体がダメになってたら。
女:
それこそ、漫画じゃあるまいし。
男:
でもよう。
女:
なるようになるよ。大丈夫、大丈夫。私、これでも運だけはいいんだから。
男:
お、おう……。
ニートなのに妙な説得力があるな。ちょっと、救われたよ。
女:
ちなみにさ。東京に来てから女性と付き合ったりしたの?
男:
え――いや? バイトで忙しかったし、そんなことは。
女:
ふーん……そう。
男:
いや、おい、待て。何故、包丁を手に取る。
女:
取り外し可能にすれば浮気しないじゃん?
男:
いや、何がだよ! ナニが!? ちょ、落ち着いて! 落ち着いて、ほんとに誰かと付き合ったりはって、何で俺がお前に言い訳しなきゃいけないんだよ!
女:
あー! 言い訳って自分で言った!
男:
ち、違うんだ。そもそも、俺らは付き合ってたわけじゃないし。
女:
私が告白したら、「こんなやべー女、無理に決まってるだろ」と言ってフリそうじゃん。
男:
そ、そんなことは。
女:
あるね! 私だって、自分のことやばいと思ってるもん!
男:
(え、自覚あったの?)
女:
だから……私のモノにするには、亡き者にしないと……。
男:
何でそーなるんだよ! て、さっき俺から告白したばっかだろ!
女:
どうせ、あれでしょ。極限状態で私しかいなかったから、手頃の女でいいやと思ったんでしょ。どうせ、ゾンビが終息したらポイッでしょ。
男:
そんなこと、しねーよ。
女:
嘘だ!
男:
嘘じゃねーよ……俺、昔から好きだったんだぜ。お前のこと。
女:
……え、マジ?
男:
マジマジ。
女:
だって、そんなそぶり。見せなかった。
男:
お前、やばい奴だったから迂闊に告白したら殺されると思ってた。
女:
私をなんだと思ってるのよ……。
男:
昔、告白してきた先輩を動画に上げてたろ。チャラそうな人だったから、そいつだけ炎上してたけど。
女:
……そんなこともあったね。
男:
さらりと言ったな、こいつ。
男と女:
………。
男:しかし、どうなるのかな。このゾンビの群れ。
女:このままだと、やまなし、おちなし、だね。ま、ゾンビだけに。
男:いや、ゾンビだけにってよく分からないけど。
終わり