謎の黒く光る球体、説明係の【セツ】登場
その声が聞こえた時、フラッシュバックするかの様に一瞬にして、『今迄生きてきた中で記憶に無い過去の映像や音声等』が俺の頭の中で、文字通り“超光速”で再生された。
──まるで刻と情報の海を漂う感覚…。
──時間にして刹那の疾さ…。
あまりの出来事に理解が追いつかず、暫く混乱し、放心状態になる俺。
しかし、気が付いたら無意識に天高く手を掲げて、呟いていた…。
「有象無象の塵芥共が…。貴様らなんぞ【爆炎王】の“権能”だけで十分だッ!!」
───【業火爆烈】!!
俺がそう発した瞬間、辺り一面を眩い光と強烈な爆発音と共に、灼熱の真っ赤な炎が染め上げていた…。
俺に襲い掛かってきていた魔物達は、断末魔の叫び声を上げる間もなく、先に骸になっていた魔物諸共、塵も残さず跡形も無く焼滅していた。
不気味な静寂が、焼け野原になった周辺を包み込む…。
「うむ…。かなり威力を抑えたつもりなのだが…。まあ良い。覚醒したばかりではこれくらいのミスは致し方あるまい!」
・・・・・って、えええええッッ?!?!?!
何この喋り方!?
これ俺が喋っているの?!
めちゃくちゃ激渋イケボなんだけど!!
(激渋イケボってなんだ?)
兎に角落ち着け俺っ! 状況を整理しよう。
ええっと……俺はアベル。
歳は十八で、好きな食べ物は肉料理系全般。
身長は……アレ? 俺、身長伸びてね?
目線がかなり高くなった気がする…。
確か前測った時は172ぐらいだった筈…。
今は目線的に190ぐらいあるぞ!
次は試しに自分の身体を触ってみる。
俺……こんなに手が大きかったか?
めっちゃゴツゴツしてる…。
百戦錬磨の達人の手みたいだ…。
それに……腕や脚が長っ!!
鎧越しでも分かるぐらい、筋肉の量が凄ッ!!
・・・・ん? “鎧”越し……?
てゆーか、服装も変わってね? ──いや、明らかに変わっているな…。
さっきまでは簡素なレザーメイルを基軸とした軽装備の格好だったのに、今はなんて言うか……ゴテゴテしている。
黄金を基調とした、とても鮮やかな彩虹色の鎧。
頭以外の全身から、キラキラと無駄に綺麗な光沢を放つ。
所々、宝石みたいなのが装飾されていて、更に紅蓮の炎を連想させる真紅のマントを羽織っている。
そのマントにも魔法陣みたいな模様が刺繍され、一言で言うなら『超ド派手』である。
なんだろう…。もう一言加えるなら、なんか……『痛々しい』だ…。
違う方向性で『中二病』を患ったクソガキが、『僕が考えた最高にイカして格好良いデザイン!』ってな感じで、見ててちょっと……いや、かなり居た堪れなくなる…。(中二病ってなんだ?)
端から見たら、とても怪しい男が爆心地みたいな所で、独り可笑しく狼狽えている姿はなんともシュールな光景だが、これこそ『致し方あるまい』状況である。
突然、自分の姿形が変わったら誰だってビックリする筈だ。
そんなアホ面を晒す俺に先程のように、優しい声が脳内へ直接語り掛けてくる。
『お見事です、全王様! 流石の一言です。──改めてお帰りなさいませ! この時を心からお待ちしておりました!』
気が付けば、俺の周りを妖しい黒い光を放つ球体が飛び回っていた。
その球体は、長年待ち続けていた主人に漸く再会出来てとても喜んでいる忠犬が如く、縦横無尽に動いて俺の眼前で静止する。
「貴様は一体…? それに俺は……」
『……どうやらまだ完全には思い出していないみたいですね…。無理もありません、つい今し方覚醒したばかりですから…。──私は貴方様の力によって創り出された知的情報思念体です。一種の補助役みたいな存在だと思って下さい。貴方様が覚醒した時に色々サポートやアシストするよう設定されています』
フヨフヨと浮いて俺を見詰める(目があるかは不明)謎の黒い物体。
話はまだ続く。
『名前は……まだありません。ここは便宜上、説明係の『セツ』とでもお呼び下さい。可愛らしく『セッちゃん』でも構いませんよ♪』
微かに微笑んだ様に見える(これまた口があるかは不明)妖しく光る球体───『セツ』。
ちょっとコイツ馴れ馴れしいなぁ…。
と思いながらも、俺はセツに問いかける。
「ではセツ。お前に問おう! 俺は一体どうなってしまったのだ? 突然変貌してしまった身体に、この喋り方…。それにあの凄い“力“はなんだ? 自分では無意識に【爆炎王】だの『権能』だの言っていだが、あれは……」
『……』
「どうしたセツ? 何故なにも答えない!」
『………』
「聞いているのかッ!! ええいっ! 何かしら反応を見せろッ!!」
『…………』
「───セッちゃん…」
『はいっ! 何でございますか! 全王さま♪』
ええぇ…。何なのこの娘…。
自分で『セツ』でも良いって言ったのに…。
いきなり出て来たうえに、愛称で呼ばないと返事しないって……。
だけど何で俺はこの意味不明物体を『“この娘”』なんて表現したりしたんだろう…。
確かに声質は優しいし、雰囲気的に女性かもしれないけど、男だって可能性もあるわけで…。
そんな事を不思議に思いながらも、俺はセツ……セッちゃんとの会話を続けた。