主人公覚醒。その名は【全王】
それから俺はとにかく我武者羅に走って、この森を抜けるのもあと半分ってところで、魔物達と遭遇し、いつの間にか囲まれていて、そして今に至る。
「クッ…! もうどうしようもないのか…。 ──ええいっ! 来るなら来やがれってんだッ!!」
ジリジリと間合いを詰めて来る魔物達。
どうにか踏ん張って剣を構えて勇んでみるが、既に心身共に限界を迎えている俺の膝は嗤っていた。
それを見て数体のゴブリンが、俺を小馬鹿にする感じで口角を上げる。
「クソがッ!! お前らも俺を馬鹿にするのか! あのクズ野郎と裏切り者たちみたいにっ!!」
悪態を吐きながら、ふとその裏切り者達との思い出が走馬灯のように蘇ってくる───。
『アンタは何も気にしなくて良いの。いつもの感じでバカやってなさいよね! なんかあったら私が上手くカバーしてあげるから♪』
日頃は俺への態度がキツかったり、扱いが酷いのに、いざって時には面倒見が良い女友達──『シオン』。
『それってアベル悪くなくなぁ〜い? 絶対その場の空気に流されてるだけだって! アベルの代わりにあーしが文句言ってくるしッ!!』
普段はノリが軽く、おつむが少々弱い風に見えるが、時たま核心を突く発言をする、ちょっと生意気な年下少女──『ピーシェ』。
『貴方はもっと色んな事に挑戦するべきです。折角、才能に満ち溢れてるんですから、勿体ないですよ! ──ウフフ♪ 期待してますね!』
厳しい所もあるが、最後はいつも俺を激励してくれて肯定してくれる、母親みたいな心優しい可憐な乙女──『パトラ』。
『どうしたアベル、悩み事か? 私で良いなら相談に乗るぜ! まあ、美味い物でも食って元気出そうじゃないか! 奢ってやるからさ♪』
何でも打ち明ける事が出来て、親身になって聞いてくれる、頼りになる姉貴分──『ルリモネ』。
そして────。
『私……アベルの事が大好き…ッ!! この世界で一番好きっ! 皆みたいに身長も胸も大きくないけど、でもアベルの事が好きの大きさは誰にも負けない自信がある…! だから…だからね、大人になったら私と……。 ───アベル愛してる───』
イヴ…。俺もお前の事が……。
なのにどうして───。
そう言えば、イヴ達とパーティー組んで様々な場所に行ったなぁ〜。
んで、いろんな景色や音楽等を見て聴いて、沢山の美味い物食べて……。
あの頃は毎日が充実してたなぁ〜。
なのに、アイツが……あの“勇者”が俺達に声を掛けてきて…。
勇者さえ…勇者さえ居なければ……。
“勇者”にさえ出逢わなければ、今頃もっと──。
《ギギィイイイイッ!!!!》
遠い思い出に浸って油断していた俺に、容赦ない残酷な捕食者達の雄叫びが迫って来ていた。
「しっ、しまった! もう目の前にっ!? うわぁあああああッッ!!」
一斉に襲い掛かってくる魔物たち。
俺は咄嗟に身構えて、強く目を瞑る。
───俺はこのまま死ぬのか…。
───死んで楽になるのか……。
・・・・嫌だ! 死にたくないっ!!
こんな所で死んでたまるかッ!!
生きて、生きて、生きて、生き抜いて、
もっと美味い物や素敵な景色。
楽しい事や面白い事、感動する事。
兎に角もっと沢山の経験や体験をして、
この世界を満喫したい……。
復讐とかもうどうでもいいから、
自由気ままに───
《人生を謳歌したい……ッ!!》
その時、俺の脳内に直接機械的だが、どこか暖か味のある優しい声が響いた。
ピィーーーー。
『制約解除の要請を確認。──受諾。
これより一定の段階を踏まえ、全ての“称号”及び“権能”。それから記憶を、本来の所有者である
《“エグゼリアス”》
様に返還致します。
お帰りなさいませ。
この時をずっとお待ちしておりました。
───【全王】さま』