いきなりの追放
「悪い聞こえなかった。いま何て言ったんだ?」
あまりにも突然の事で理解出来ず、思わず聞き返す。
すると相手は溜め息を大袈裟に吐いて、再度発言する。
「お前ってホント人をイライラさせるの天才だよなぁ~。良いかよく聞け。三度は言わない。お前は今この瞬間、この場所でク・ビッ! ──OK?」
・・・コイツは一体何を言っているんだ?
ここまで来て追放…? 何で?
いままでこの勇者の命令は全部聞いてきた。
荷物持ちや雑用は勿論。
みんなが嫌がる事や面倒くさい案件も全て一人で片付けてきた。
時には囮にもなったし、危険な罠の解除だって進んでしてきた。
文句も言わずに。
それなのに追放? 何で?
それもこんな場所で…。
ダメだ、理解出来ない…。
前々からこの勇者とはあまり会話が成立しなかった。
だからヤツの周りにいる他の仲間──自分の幼馴染たちに訊いてみる。
長年一緒にいるコイツらならきっと、まともな答えをくれる筈だ。
だけど予想していた…期待していたのとは異なる答えが返ってくる。
「なあ、我等が“勇者様”の言っている事が分かるか? 分かるんなら、お馬鹿で無能な俺に説明してもらっても良いか?」
「そのままの意味よ、アベル。アンタにはこのパーティーを抜けてもらうわ!」
・・・へっ?
「今までおっつー! じゃあねぇ~。バイバァ~イ♪」
・・・・は?
「これも神が下した運命…。私達も辛いですが、どうか御元気で…」
・・・・・んんっ!?
「悪ぃ、アベル。そう言う事だからよ! 達者でなっ♪」
・・・・・・はぃいいッ?!
「ちょっ、待てよ! お前ら本気で言ってるのか!? 本当に俺に、今この場でパーティーを抜けろって言うのかよッ?! それもこんな場所でぇっ!」
大きな声を上げて抗議する。
けれど、幼馴染たちは然も気にしない風な澄ました顔でコチラを嘲笑う。
仕方なく、縋るような気持ちで……最後の希望に賭ける思いで、最後の一人に問う。
「イヴ、お前もか? お前も……コイツらと同じ意見なのかよっ!!」
自然と声が大きくなってしまう。
でも許してほしい。
それぐらい切羽詰まっていて、後がない。
コイツにまでここで見放されたら、俺は───。
でも大丈夫な筈だ!
コイツならきっと……。
幼馴染の中で一番長い付き合いで、誰よりも俺に懐いてくれていたコイツなら───。
しかし、そいつはトレードマークのとんがり帽子を深く被り、俺と目線すら合わてもくれず、
「ごめん…。ホントにごめんアベル! 私も…。──本当にごめんなさい……ッ!!」
少し震えた声で俺を拒絶する、青紫髪の小柄な少女───『イヴ』。
イヴは大好きな曾祖母から譲り受けたご自慢の杖を強く握り締めて、微かに震えている様に見えた。
「そんな…嘘だろう…お前まで……。──何でだよっ! 何でなんでなんでッ!?」
俺が幼馴染たちに失望し、憤慨しながら嘆いていると耳障りなヤツの声が聞こえてくる。
「ぎゃははははw これは滑稽だな! 頼りの綱の幼馴染たち全員から総スカンを食らうとは!」
下卑た笑い声を馬鹿みたいにあげて、俺を見下すクソ男──“勇者”。
勇者は一頻り高笑いをした後、俺に見せつけるように幼馴染達の尻や胸を触ったり揉んだりして、イヴの横に並び立つ。
「こいつら全員、とっくの昔に俺様の“女”なんだよ! ──勿論、イヴもな♪」
そう言ってイヴの肩に手を置き、自分の方に抱き寄せ、そして───。
チュッ!
イヴの血色の良い唇に口付けをしていた。
「!?!?!?!?」
「んんっ!? ──ちょっと、やめてっ!! アベルの前ではしないでッ!!」
「良いじゃねぇーか。昨日もベッドの中であんな可愛らしい姿を俺だけに見せてくれたんだからよ!」
再びイヴにキスをしようとする勇者。
イヴはそれを手で払い除け、顔を赤らめ俺に弁解する。
「ちっ、違うのアベル! これは勇者が勝手に…。あのっ…だから……違うのぉ………」
最後の方は語気が弱くなり、顔を伏せて黙り込んでしまう。それを見て俺は、
「分かった…。もういいッ!! 俺は追放なんだな? ──良いぜっ、こんなパーティーこっちから願い下げだッ!! てめぇら全員、ずっと猿みたいに盛ってやがれッ!!」
自分でも悲しくなる位の強がりを吐き捨てて、荷物を手に取って駆け出そうとする。しかし、
「待てよ! 最後に餞別だ。ここまでパシリをしてくれた哀れな負け犬君に、心優しい俺様からのプレゼントだ。有り難く受け取れよw」
勇者が投げてきたのは何の飾り気もない、小さいな十字架の形をしたペンダント。
俺はそれを乱暴に拾い上げる。
「何だよこれ…?」
「魔物除けが付与された御守りだ。カスみたいなレベルな上に、何のスキルも持たないお前じゃあ、この森の魔物達は倒せないだろう? それを持って前の村まで戻るんだな!w」
「チクショウ…! 最後まで馬鹿にしやがって……ッ!!」
悔しい…ものすごく悔しい……。
悔し過ぎて涙も出ない…。
勇者の言う通り、今の俺の強さじゃあこの森の魔物は倒すのは難しい。
仮に倒せても、かなりの時間が掛かる。
この森の魔物は集団で襲って来る事が多い。
だから一体一体にそんなに時間は掛けられない。
せめて、何らかの戦闘系スキルさえあれば…。
非常に悔しくて情けないが、ここは素直に貰っておくとする。
俺は最後に、今迄俺を散々コケにしてきた上、こんな所で見捨てて行くクセに、恩着せがましい勇者と、そんなヤツに寄り添う幼馴染達を恨みのこもった目で一瞥して駆け出した。
気のせいか、勇者の表情が僅かに歪み、恐ろしいぐらいの笑みを浮かべているのと、誰よりも信頼していた一番の幼なじみ───イヴの頬から綺麗な雫が伝い落ちているように見えた……。