93:一人一泊40万円ってナニ?
レニフォルミス女王陛下に一礼すると、ボクは、シムランス王子の部屋を出た。
そして、テイラーの案内で転移魔法使いのハミルさんの部屋へと通された。
その部屋は、正直言って病人臭かった。
ボクは、部屋に入ると早速、窓を開けた。
「ハミルさんですね」
「貴女は?」
「トオル・マイトナー。ドロセラ王国から来ました」
「もしかして、聖女トオル様ですか?」
「そう呼ぶ人もいるようですが、薬屋のトオルです。既にシムランス王子には薬を処方しました。ハミルさんにも薬を処方しますので、飲んでください。今日分は今すぐに、明日からは朝食の後に一錠服薬してください。一週間分の処方になります」
「分かりました」
一応、彼女のステータス画面を見て体重をチェックした。
子供の場合は、服薬量が多過ぎるとマズいとかがあるかも知れないから、1 mg/kgを遵守した方がイイんだろうけど、大人の場合は一律60 mg錠とかにしても大丈夫だと思う。
でも、念のため、指示通り1 mg/kgで行くことにする。
彼女の体重は……、ン~キロ。
なので、
「出ろ!」
ン~mg錠を一週間分出して渡した。
「これを飲んで、早く良くなってください」
「ありがとうございます」
「副作用としては、ふらつきと軽度の腹痛があります。その点、ご了承ください。それと、換気のために窓を開けましたけど、寒くはないですか」
「ちょっと寒いです」
「では、窓を閉めますね」
「済みません」
そして、ボクは窓を閉めると、
「じゃあ、失礼しました」
と言ってハミルさんの部屋を後にした。
次の患者達が待っているからね。
「では、テイラーさん。寺院の方に移動したいのですけど、場所をルイージにお伝え願えますか?」
「えっ? 私の転移魔法で移動できますけど?」
「済みませんが、それは、ご遠慮ください。ボクの身に万が一のことが起きますと、テイラーさんが責められてしまいます。ですので、ボクの移動はドロセラ王国の転移魔法使いに一任してください。国の方で、そう言う決まりにしているんです」
「分かりました。ではですね、ここから見える、あの赤い三角の屋根をした建物なんですけど……」
本当は、テイラーが責められるとかじゃなくて、ボクが他国の転移魔法使いに拉致されないようにって理由なんだけど、それを馬鹿正直に話すと角が立つ。
それで、敢えて今回みたいな説明にしたんだ。
一応、テイラーの説明でルイージさんも寺院の場所が分かったみたいだ。
彼女の説明能力には疑問を持っていたけど、ここから見える赤い三角屋根の……ある意味、目立つ建物の説明が出来ないほど低レベルではないようだ。
「じゃあ、トオル様、行きますよ」
「お願いします。それと、テイラーさん」
「何でしょうか?」
「ボクとルイージの二人で先に行っていますので、あと、よろしくお願いします」
「は……はぁ……」
「じゃあ、ルイージさん。お願いします」
「承知しました。転移!」
ボクとルイージさんは、転移魔法で目的地に向けて瞬間移動した。
でも、あの様子からすると、テイラーは、敢えてボクが別行動にした理由が分かっていないんじゃなかろうか?
彼女は、ボクが寺院で患者を診るってアナウンスを王都中に出すって役目がある。
だから、単独行動で頑張ってねって意味だったんだけど……。
寺院前に到着。
その門前には、一人の女性が立っていた。多分、この寺院の人だろう。
ボクは、その女性に声をかけた。
「済みません。こちらの寺院の方ですか?」
「そうです。アメティスチナと申します」
「トオル・マイトナーです」
「トオル様ですね。ついさっき、お城からの使いの人が来て、御使いトオル様がいらっしゃると伺っております」
「そうですか」
「では、中で患者達が来るのをお待ちください」
「はい」
ボクは、その女性の案内で、寺院の中へと通された。
寺院の中には、女神フィリフォーリア様の大きな像が置かれていた。
フィリフォーリア様は、本来、固定した姿が無いから、像の制作者が勝手にイメージした姿で作られているんだろう。
そう言えば、アメティスチナさんは、ボクのことを女神とは呼ばなかったな。
やっぱり、寺院の人にとっては、女神と呼ぶのはフィリフォーリア様だけってことなんだろう。
この場でボクは、予想通り、しばらく暇を持て余していたけど、それから一時間くらいすると、チラホラと寺院に人が集まって来た。
ただ、みんな辛そうな表情をしていた。
熱も高いし、本当は外出すること自体、キツイんだろう。
でも、一応、患者達へのアナウンスは、キチンと出されていたみたいだ。
ここからボクは、気合を入れて患者達を診て行く。
「ここまで来るのも大変だったかと思います。ドロセラ王国のトオルです」
「モナントス様に聞いて、ここまで参りました。聖女様。よろしくお願い致します」
患者第一号はモナントス氏から連絡が行った人か。
ボクは、その患者のステータス画面で体重を確認すると、その人用の錠剤を一週間分出した。
服薬の説明は、ルイージさんがしてくれる。
その辺は、彼女も既に手慣れたものだ。
「一週間分です。薬代は国の方で負担してくれますので、皆様からのお支払いは不要です。今日は、お帰りになられましたらすぐに、明日からは朝食の後に一錠服薬してください。あと、副作用としてふらつきと軽度の腹痛がありますことをご了承ください」
シムランス王子とハミルさんに処方した際、ボクが話したことを聞いていたからね。
ルイージさんの方でも、患者に何を話すか分かっている。
なので、ボクは患者を診る&体重チェックだけに集中できるし、非常に助かるよ。
ただ、患者達を診ていて、ちょっと気になったのは、患者第二号も、
「モナントス様に聞いて……」
患者第三号も、
「モナントス様に聞いて……」
その後もずっと、患者達からは、
「モナントス様に聞いて……」
って言われたんだけど?
テイラーはどうしたぁ?
サボって無いよね?
ただ、最初のうちは、患者数も少なかったから、一人一人体重をチェックする余裕があったけど、途中で人数が一気に増えた。
そう言えば、患者数って、全部でどれくらいなんだろう?
この世界の総人口は、ボクが一回目の異世界帰還をした時、つまり、二百年前の呪縛から解放した時には五千万人程度だった。
今は、あの当時と比べれば人口は増えているけど、まだ六千万人には到達していない。
その中でも、ビオブラリア王国は、決して大国とは言えない。
むしろ小国だ。
総人口は二十万人程度と少ない。
日本の大都市の方が、間違いなく、この国よりも人口が多いだろう。
二十万人のうち、三割くらいが王都及び王都周辺で暮らしているみたいだけど、罹患しているのは、そのさらに二割程度。
約一万二千人になる。
急いで配布するためには、やはり、体重チェックを省略したい。
ボクは、それが可能か、チャットボット機能に確認することにした。
『Q:薬の処方の際、原薬量を固定して配布できない?』
『A:12歳以上の場合は60 mg錠で良いが、体重が軽い者では副作用が若干強めに出ることがある』
『Q:副作用は致死性?』
『A:違う』
『Q:12歳未満の処方は?』
『A:30 mg錠で良いが、体重が重い場合は効き目が悪いことがある。二日経っても頭痛が引かなければ1 mg/kgの処方に切り替える』
なら、60 mg錠と30 mg錠で一先ず固定しよう。
と言うわけで、
「出ろ!」
ボクは、一気に治療薬を量産した。
これを近くで見ていた患者さん達は、
「嘘……」
「こんな、薬が出て来るなんて、奇跡……」
かなり衝撃を受けていた。
「ルイージさん。ここから説明が少し変わります。服薬方法は今までと同じ。副作用は、ふらつきと軽度の腹痛ですが、体重が軽い人は、若干副作用が強く出る場合があります。あと、12歳未満は30 mg錠、12歳以上は60 mg錠になります」
「承知しました」
「あと、12歳未満で二日経っても頭痛が引かなければ薬を切り替えますので、ボクのところに改めて来てもらうことにします」
「はい」
とは言っても、一人一人に話していたら時間が足りない。
なので、
「お願い、シリシス。融通利かせて! 出ろ!」
ボクは女神様からいただいたペンダントにお願して、服薬方法を記載した紙を大量に出してもらった。
今までも、色々と特例で出してもらっているモノが多いけど、今回も、シリシスは状況を理解してくれたようだ。
これを薬とセットで配れば良い。
「薬と説明書を取って行ってください」
「一人ワンシートです。同居人が罹患していて、ここに来られない場合は、同居人の分も、お持ちください」
「12歳未満は、こっちの錠剤です。12歳以上は、こちらの錠剤になります」
とにかく、ボクとルイージさんでガンガン薬を配布していった。
これで、かなり配布スピードが上がったよ。
それからしばらくして、テイラーが寺院に来た。
そして、
「トオル様。宿を手配致しました。お一人、一泊40万トールになります」
って言って来たんだけど、宿泊料取るの?
しかも、やたら高くない?
二人分で、毎日80万トール(日本円で80万円)だよ?
「あのう、何故ボクが、この国に来ているのかは分かっていますよね?」
「重々承知しております」
「正直なところ、そんな(お高い)宿に泊まる必要はありません。すぐにキャンセルしてください」
「しかし、そう言われましても……」
「ええと……。その宿泊料は、誰が支払うんですか?」
「それは、勿論、宿泊されるトオル様と、そちらのお方が……」
「アナタはレニフォルミス女王陛下の顔に泥を塗るつもりですか?」
「えっ?」
コイツ、全然分かっていないっぽいな。
もし、これがボク個人の旅行で、たまたま行った先で患者に遭遇したのなら、ボクが宿泊料を支払うべきだって思っている。
元が個人の用事だからね。
それでも、こんな高い宿に泊まるつもりは無いけど。
でも、今回は、ビオブラリア王国から依頼されて来たわけだし、それにレニフォルミス女王陛下も既に関与している。
それでいて、ボクに宿泊料を支払えと言うのは、レニフォルミス女王陛下のメンツに関わるんじゃないかなぁ。
他国の人に知られたら、
『ビオブラリア王国ってドケチ~!』
とか言われかねないよ。
もっとも、これが貧困な村とかからの依頼だったら、ボクだって相手側に宿泊代を出せとは言わないけどね。
薬代だけでも厳しいと思うからさ。
そう言えば、ヘテロ盆地のピリドン村の時は、その村の転移魔法使い、フラザンさんの家に泊まったんだっけ。
懐かしいな。
それはさておき、今回の場合は、事態がある程度落ち着くまで、この国の王都に連泊したい。
なので、この寺院の人……アメティスチナさんに相談だ。
「アメティスチナさん」
「何でしょうか、トオル様?」
「ボクとルイージを、この寺院に泊めていただくことは可能でしょうか? ボク達の食事と布団は、ボクの方で調達しますので」
「それは構いませんが、十分なおもてなしは出来ませんけど」
「全然問題ありません。では、よろしくお願いします」
「分かりました。女神フィリフォーリア様も、御使いトオル様がこの地に泊まられることを、きっとお喜びになられるでしょう」
と言うわけで、今日は、この寺院に泊めてもらう。
フィリフォーリア様を祀っているわけだし、巷で女神だの御使いだの聖女だの言われているボクが、この寺院に泊まること自体は、周囲の目から見ても、余り不自然には思われないだろう。
これなら、ボクが高級宿に泊まらなくても、女王陛下のメンツが潰れずに済むんじゃないかな?
少なくとも、テイラーお勧めの高額な宿に『自腹』で泊まるよりはさ!
ただ、テイラーは、
「では、せっかくとった宿ですけど、キャンセルしてきます」
って言いながらムスっとした顔をしていたけどね。
「じゃあ、お願いします。それと、テイラーさんから患者達へのアナウンスは、どのような状態です?」
「えっ?」
ボクに聞かれて、テイラーは表情が固まった。
もしかして、コイツ、宿の手配だけで手いっぱいで、患者達へのアナウンスの件をすっかり忘れていたってこと?
それって、お城で働く転移魔法使いとして大丈夫か?
たしかに、これが転移魔法を使えない人だったら、ボクの宿を手配するだけでも苦労するのは理解できる。
電話が無い世界だし、移動手段だって限られている。
しかも、宿を確保してから、ここまで来るのだって一苦労だ。
でも、コイツは転移魔法が使えるわけだし、宿の予約くらい、そんな大変な作業とは思えない。
だから、女王陛下はコイツに宿の手配をお願いしたんだと思うんだけど?
いったい、コイツは今まで、何処で、何をして時間を潰していたんだろうって思うよ。
「これは、致死率の高い伝染病です。なので、明日は王都周辺の街にも一気に配布したいんです。一旦、モナントスさんと合流して効率良く動く方法を考えてもらえますか?」
「そんな、面倒臭い……」
「あのですね。一日も早く患者全員の手に渡らせる必要があるんじゃないんですか? だったら、どうすべきかを考えてもらわなくては困りますよ」
「……」
テイラーは、ボクの言葉に対して何の返答もせずに、この場から転移した。
先ずは、宿のキャンセルをしに行ったんだと思うけど。
ただ、あんな人間でも、こっちの言っていることを理解して、なんだかんだ言いながらも、キチンと動いてくれるって信じるしかない。
正直、怪しいけどさ。
一方のボクとルイージさんは、それこそ余計なことを考えず、来てくれた患者達に片っ端から薬と説明書を配布していった。
本来なら薬の受け渡し時に、住所と名前を患者達にノート記載してもらいたいところなんだけど、もはや、そんな余裕はない。
こうなったら、どれだけの薬が出たかは、ボクが何錠出して何錠余ったかで逆算するしかないだろう。
それが無いと、ビオブラリア王国への請求額が計算出来ないからね。
どんな形でもイイから何錠出たかの記録が必要なんだよ。




