92:ネームバリューって大事なんだね!
ボクは、早速、ルイージさんの転移魔法でビオブラリア王国の王都へと向かった。
先導役はテイラーさんだけど……、正直言って、この人には不安がある。
この人は、ボクに、
『奇病が発生した!』
『死者が出た!』
とは言っていたけど、症状も感染者数も死者数も感染死亡率も報告していない。
国家間をまたいで依頼するわけだから、普通、それくらいの情報が提示されて当たり前な気がするんだよ。
これじゃ、単に上司から、
『急いでトオルを連れてこい!』
って言われて、それで、ただボクのところに、
『来てください』
って言いに来ただけだよね?
ボクがチャットボット機能で状況を確認できたからイイけど、普通なら即座に、
『出直してきな!』
って女王陛下から言われて終わりだろう。
一応、女王陛下は、ボクにビオブラリア王国行きを命じてくれたけど、普通は、
『そんな使者が相手で、よくトオルを他国に貸し出す気になったな!』
とか周りから言われても、おかしくないレベルだって思う。
多分、ビオブラリア王国の王子が種なしになっちゃマズいって女王陛下も判断してくれたんだと思うけどね。
同じ息子を持つ身としてさ。
ビオブラリア王国王都に到着。
転移して出たところは、お城の前。
ドロセラ王国との時差は、だいたい三時間くらい。
ここで、先ず、門番にサクッと通してもらわなければならない。
早速、門番から、
「何の御用でしょうか?」
って聞かれたけど、テイラーさんは、何故かボクの後ろに隠れていて前に出ようとしていない。
普通は、彼女が門番に説明する係だと思うんだけど?
「ドロセラ王国、マイトナー侯爵家の長女、トオル・マイトナーと申します。ビオブラリア王国の使者に依頼されて参りました」
「通行許可証が必要になりますが?」
「私は持っておりませんが、こちらのテイラーさんからの依頼でして」
ところが、この時、テイラーさん……もう、コイツのことはテイラーでイイや。
テイラーは、私を通すために通行許可証が必要ってことを知らなかったのか、それとも忘れていたのか、その場ですっかり固まっていたよ。
全然使えないヤツだな!
「ええと……。では、ドロセラ王国のトオル製薬の会長、トオル・マイトナーが王子様の診察・治療のために参りました」
「それって……、もしかして、女神トオル様?」
「女神かどうかは分かりませんが、薬屋のトオルです。城内の方にご確認ください」
「分かりました」
やっぱり、ここでも薬屋……と言うか、女神として名が通っているようだ。
女神じゃないんだけど。
でも、これで門番の態度が変わったわけだし、一先ず良しとしておこう。
やっぱり、通り名は何であれ、結局のところネームバリューは大事ってことか。
ただ、この世界には電話が無いからね。
門番が近くにいた兵士に言って、ワザワザ城内まで確認して来てもらうことになる。
非常に効率が悪い。
でも、たまたま門番に依頼された兵士の足が速くてね。
幸いにも、少し待たされただけで済んだよ。
「確認が取れました。トオル様。お通りください」
「ご確認、ありがとうございます」
「ただ、ちょっと済みません」
「何でしょうか?」
「申し訳ございませんが、これにサインをお願いできますか?」
門番は、こう言うとボクにハンカチとサインペンを差し出して来た。
と言うか、城内に確認しに行ってきた兵士に言って、ついでに、ハンカチとサインペンを取って来てもらったようだ。
オーキッド王国ククラタ町でもそうだったけど、ボクって完全に芸能人扱いだな。
悪い気はしないけど。
ちなみに、サインペンは、本体が金属製だった。
この世界には、ボクが薬のシートで出すモノ以外に、プラスチックは存在しないからね。
ボクは、門番からハンカチとサインペンを受け取ると、ハンカチにサインを書いて門番に渡した。
門番は、
「ありがとうございます! これ、家宝にします!」
って言って喜んでいたよ。
ボク達は、そのまま入城。
しかも、謁見待ちの人達を全員すっ飛ばして、いきなりボクは女王陛下と面会することになったらしい。
ソッコーで謁見室に通された。
「ドロセラ王国から参りました。トオル・マイトナーと申します」
「其方が女神トオル様ですね。ワザワザ来てもらえて感謝しているわ。私は、ビオブラリア王国の女王レニフォルミス」
レニフォルミス女王陛下は、少しおっとりした感じの方だった。
ボク……つまり治す係りの人間を相手にしているので、印象が悪くならないよう、そう言うキャラを敢えて作っているだけかも知れないけどね。
「早速ですが、ビオブラリア王国の王子様が発病されたと聞きました。御使いシリシスからの情報ですと、患者のほとんどは、高い発熱と頭痛、悪寒、倦怠感、耳下腺の腫れがあるとのことでしたが」
「その通りです。現在、王都近辺では人口の二割が発症しておりまして、しかも発症したら五割の確率で死を迎える恐ろしい病です」
「そのようですね。ただ、この病には、もっと恐ろしいことがございます。大変申し上げ難いことですが、王子様の睾丸に腫れはございませんか?」
「へっ?」
さすがに、こんなことを聞かれるとは思っていなかっただろう。
レニフォルミス女王陛下の目が、一瞬点になったよ。
でも、睾丸が腫れると言うことは、生殖機能に影響が出る可能性がある。
レニフォルミス女王陛下は、それに気が付いたらしく、次の瞬間、急に慌てた表情に変わった。
「それって、もしかして」
「今回の病は、男性三人に一人の割合で睾丸に感染することがあります。その結果、子種が失われることもあるとのことです」
「ああ……せっかく男児が生まれて来たのに、何と言うこと?」
「ですので、一刻も早く治療をと思い、急いで参りました」
「分かりました。其方のこれまでの実績からして、嘘を吐くとは思えません。王子シムランスのところへと急ぎましょう」
せっかく生まれた王子が種なしでは困る。
レニフォルミス女王陛下に連れられて、ボク達はシムランス王子の部屋へと通された。
ただ、驚いたのは、部屋に入る前に女王陛下も侍女達もマスクを着用したことだ。
それを失念していたのはテイラーくらいだね。
なので、一応ボクは、マスクを二つ、カバンから取り出す振りをして、女神様からいただいたペンダントにお願いして出してもらった。
そして、片方はボクが着けて、もう片方はルイージさんに着用してもらった。
ボクは病気にならない身体を与えられているからマスク不要なんだけど、傍から見たら、
『なんでトオルはマスクを着けていないの?』
って言われそうだからね。
それで、今回は珍しく着けることにしたんだ。
ボクは、患者の状態を確認するため、他人のステータス画面を見ることが出来る。
シムランス王子のステータス画面を見たところ、彼は、まだ五歳だった。
おたふく風邪に似た病気に罹患しているとの記載もステータス画面で確認できた。
でも、不幸中の幸いだ。
精巣炎の発症は無かった。
体重は二十キロ。
これもステータス画面で確認できた。
なので、例の薬は、一日一回20 mgの経口投与となる。
ただ、ボクがステータス画面を見ることが出来るなんて、レニフォルミス女王陛下は知らないからね。
シムランス王子をベッドから起こすと、寝間着を脱がそうとした。
多分、ボクにシムランス王子の睾丸を見せようとしたんだろう。
「ええと、脱がせなくて大丈夫です。寝間着の上からでも診断できますので」
「そうなんですか?」
「はい。見たところ、睾丸の腫れはありません。では、薬を処方します。出ろ!」
ボクは、物質創製魔法で七日分の薬を出した。
女神様が設計した薬だからね。
効かないはずは無い!
ただ、何も無いところにいきなり薬が湧いて出て来たからね。
ルイージさん以外は、全員驚いていたよ。
「本当に、薬が出せるんですね」
「はい。では、これを今日は今すぐ、明日からは毎朝、朝食後に飲ませてください。服薬期間は一週間です」
ボクは、薬を隣にいた侍女に渡した。
この人はテイラーとは違ってダメっ娘じゃないと信じよう。
「承知致しました」
「副作用としては、ふらつきと軽度の腹痛がありますことをご了承ください。それから、城内には、他にどれだけの患者がいるのでしょう?」
「転移魔法使いのハミルだけね」
こう答えたのは女王陛下。
多分、本来は、そのハミルって人が転移魔法を使って他国に飛ぶ係りなんだろう。
だから、このタイミングで発症していなければ、ボクを呼びに来たのは、その女性ってことになる。
「では、レニフォルミス女王陛下。ハミルさんの治療を行った後、王都と王都周辺の患者を診ることと致します」
「そうですね。よろしくお願いします。それと、薬代は?」
「一回服薬分につき、銀貨一枚でよろしいですか?」
「そうね。それが妥当なところかしら」
過去の例では、世界的パンデミックの場合、一人当たり銀貨二枚だけど、それ以外は、一回服薬分が銀貨一枚のケースが多い。
だから、レニフォルミス女王陛下も、それくらいの値段になるって想定していたんじゃないかって思う。
ただ、精巣炎の話が追加で出て来たから、少し割高になるんじゃないかって、一瞬、思われたかも知れないけどね。
「あと、薬代は国の方で持ちますので、国民には無償配布でお願いします」
「承知しました。それと、しばらく王都に泊まりたいと思います。宿泊先は追って連絡致しますので、何かありましたらご連絡ください」
「でしたら、宿はこちらで手配します。では、テイラー。先ずトオル様をハミルのところにご案内して、その後、トオル様を寺院の方にお連れしなさい。寺院の方には、至急使いを出して連絡を入れておきます。それから、患者達を寺院に連れてくるよう、先ずは王都全体にアナウンスを」
「は……はい……」
「あと、トオル様の宿泊先の手配もお願いします」
「わ……分かりました」
ただ、テイラーに任せるんだと正直心配だな。
既に、今の依頼内容だけで、半ばテンパっているみたいに見えるんだけど?
ハッキリ言って、テイラーに患者達へのアナウンスを任せるのは不安だ。
絶対に漏れが出そうだし。
下手をすると、漏れの方が多いんじゃ?
それじゃマズイ!
確実に患者達にアナウンスできるよう、ヘルプを出してもらおう。
「患者は、相当な数になると思います。テイラーさん一人では対応が難しいでしょう。どなたかを補佐でつけていただけると有難いのですが」
「たしかに、トオル様の仰ることにも一理ありますね。では、クェルティ。モナントスに至急、私のところまで来るよう伝えて頂戴」
「転移魔法使いのモナントスですね。分かりました」
クェルティは、ボクの隣にいた侍女ね。
ボクの不安を察知してくれたのか、レニフォルミス女王陛下は、取り敢えずテイラー以外の転移魔法使いにも仕事を割り振ってくれるようだ。
これで少し安心したけど、そのモナントスって人、大丈夫だよね?
ボクのところに使者として遣わされたのがテイラーってことは、モナントスは、もっとボケた人だったりしないよね?
今は、そうでないことを祈ろう。
あと、受診されていない患者の数は、ボクの方でもチャットボット機能を使ってキチンとチェックするようにしよう。
その方が、より確実だ。




