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91:ムンプスウイルスって何?

トオルは、一応全魔法が使えますので、復元魔法も使えますが、化石を生きていた当時まで復元できるレベルではありません。

 バイルシュタイン子爵のことは置いといて。

 フルオリーネ女王陛下は、ルビダスとベリルを何とかして独り立ちさせたいって、心の底から思っていらっしゃるようだ。


 イイ年をした大人が、しかも人様の税金で生きている人間が、いつまでもニート状態ってわけにも行かないってことだろう。


 要は、二人ともキチンと働けってことだ。

 でないと、さすがに王族へのアンチ・ヘイトに繋がる。



「それから、ルビダスとベリルを公爵として独立させ、城を出てもらうにあたって、それぞれに転移魔法使いと護衛の騎士をあてがわなければならないわね。他にも、世話をしてくれる人とかも必要だし。まあ、その辺は、私の方で何とかしないといけないわね。あと、トオルちゃんに確認したいことがあって」

「確認ですか?」

「化石に復元魔法をかけたらどうなるのかなと思って」



 これは、ボクの方で即答できない内容だ。

 ボクは、例の如くチャットボット機能を立ち上げて確認することにした。


『Q:化石に復元魔法をかけたら生き返る?』

『A:化石として残った部分のみが生きていた当時の状態に戻るだけであって、生き返ることはない』


『Q:化石を復元できる人は、この世界にどれくらいいる?』

『A:五人くらい』


『Q:化石を生き返らせる方法はある?』

『A:モノによって可能』


『Q:どうやったら生き返る?』

『A:化石に復元魔法をかけて、骨を生きていた当時の状態に戻し、そこから骨髄を取り出して再生魔法をかけることでクローンを作れば良い』


 つまり、完全復元は不可能ではないと言うことだ。

 これはこれで、恐ろしい回答だ。



「どう? トオルちゃん」

「御使いシリシスからの回答ですと、復元魔法だけでは復活しません。化石が生きていた当時の骨とか殻に戻るだけです」

「そう……」

「それから、化石を生きていた当時の骨とか殻に戻すだけの復元魔法が使える者は、この世界に五人しかいないそうです。でも、骨を生きていた当時の状態に戻したところに再生魔法をかければ復活可能なようです。貝殻とかからは出来なさそうですけど」


 面倒なので、骨髄がどうこうって話は端折った。

 要は、可能か不可能かだけが重要な話だと思うからね。



「じゃあ、限られた五人の誰かとトオルちゃんが組めば、滄竜の化石を生きていた当時の状態に戻せるってこと?」

「そうなります。でも、古代生物を復活させたら現在の生態系への影響も出るでしょうし、滄竜みたいに獰猛だったと思われる化石を復活させたら人命が危ぶまれます」

「まあ、そうなるわね。それに、化石を復活出来たら、それを生物兵器にして、どこかに戦争を仕掛けようとか考える人も出て来るでしょうし……。まあ、この話は、ここだけにして頂戴。復元できる人の数も考えると、そもそも現実的な話じゃないし」

「はい。ボクも、その方がイイと思います」


 アクティスもそうだけど、フルオリーネ女王陛下が危ない人じゃなくて本当に良かったと思う。


 もし、危険な人がトップに居たら、間違いなく、

『ティラノサウルスとかを復活させて生物兵器に仕立て上げろ!』

 とか言い出すだろうからね。

 手懐ける前に、こっちの命が危ないよ!



 今回は、ボクとルビダスとベリルの件まで。

 さすがにスティビアのことは、女王陛下もまだ考えていないようだ。

 十歳にも満たない少女だからね。


 それに、スティビアは男児が生まれるようになった年代と歳が近い。

 厳密には、スティビアの方がちょっと年上だけど、男児達にとって、結婚相手としては許容範囲の年齢だろう。

 なので、他国の王族に嫁ぐ可能性だって当然ある。



 これが、二百年前の奇病が流行る前だったら、今のスティビアの年齢でも政治的理由とかもあって、早々に婚約させるって話が出ていたと思う。


 でも、王族貴族に生まれた男児の扱いは、多分、どの国でも、まだアクティスと大同小異だろう。

 女王陛下の方が、そう簡単に自分の息子の相手を決めたがらない。

 せっかく生まれた男児だからね。



 しばらく自分のところに囲っておきたいって気持ちもあるだろうし、女王自身が納得できる相手じゃないと……ってのもあるだろうし。


 そう言う意味では、よくボクがアクティスの婚約者として選ばれたものだ。

 いずれにしても、二百年前のようになるまでには、まだ十数年はかかると思う。



「コンコン」


 誰かが会議室の扉をノックした。

 側近の人達は、多分、フルオリーネ女王陛下がボクと秘密の打ち合わせをしていることを知っているはずだ。

 それを中断してまで入って来たいってことだから、相当急ぎの用件なんだろう。


「誰?」

 こう聞いたのは女王陛下。


「ルイージです。大変失礼致します」

「入って」

「失礼します」


 扉が開き、ルイージさんが会議室に入って来た。

 この時、彼女は、もの凄く深刻な表情をしていた。

 毎度の如く、どこかの国で奇病が発生したとか、そんな類な気がするんだけど……。



「何があったの?」

「西側大陸南端の国、ビオブラリア王国から緊急の依頼です。使者が来ています」

「そう。それで、緊急用件って言うのは?」

「その国の王都周辺で原因不明の奇病が発生し、死者が出ているとのことです」

「使者の割合は? それと、その奇病の症状は?」

「どちらも伺っておりません。ただ、せっかく誕生した王子も罹患したとのことです」

「まあ、王子がってのは大変ね。じゃあ、トオルちゃん。一応、謁見室まで一緒に来てもらえるかしら?」

「分かりました」



 一先ず、ここでボク達とフルオリーネ女王陛下との密談は強制終了され、謁見室へと場を移すことになった。


 もっとも、女王陛下がボクに話したいと思っていたことは、基本的に全て話し終えている気がしているけどね。



 謁見室に入ると、女王陛下は最上段の豪華な椅子に腰を下ろした。

 ボクは、女王陛下の隣に立つよう指示された。

 ここで使者の話を聞いて欲しいってことのようだ。


 それから、謁見室にはルイージさんの姿もあった。

 ボクがビオブラリア王国への出張を命じられても、すぐに転移魔法使い兼騎士兼ボクのお世話係として対応できるようにってことだと思う。



 あと、ルイージさんの隣にはエリカさんの姿もあった。

 多分、ボクが海外出張になったことをマイトナー侯爵に連絡する係とか、ボクの出張用荷物を後から届ける役目とかを毎度の如く言い渡される予定ってことなんだろう。


 つまり、ボクの海外出張は、既に確定的ってことだ。

 別に、覚悟しているからイイケドね。



 それから間もなく、謁見室に一人の女性が入って来た。

 この人が、ビオブラリア王国からの使者だ。


「フルオリーネ女王陛下。大変お忙しいところ、お時間を頂戴いただきまして、感謝申し上げます。ビオブラリア王国の使者、テイラーと申します」

「ルイージから聞いたが、病が発生していると?」


 女王陛下は、ボクと話をする時と他国の使者と話をする時では、全然、雰囲気が違う。

 ボクに対しては家族向きの顔だけど、他国の使者に対しては威厳ある女王陛下として振る舞うんだ。

 もはや、演じていると言ってもイイ。



「はい。死者まで出ております。大人でもかかりますが、子供の方が感染率は高いようです。現在、王都近辺は、一部の者達を除いて全員出入り禁止としています。また、出入りする場合は、消毒を徹底することが義務付けられております。はい……」


 もしかして、それで説明終わり?

 これじゃ、病気の背景がロクに分からないんだけど?


 女王陛下も判断できなくて困っているよ。

 正直言って、事前にルイージさんから王都近辺で発症しているって聞いていなかったら、出入り禁止の真意だって分からない。


 王都から病原体を持ち出さないようにするためなのか、王都以外で発症していて王都に病原体を持ち込まないようにするためなのかの判別ができないからね。



「……そうですか。で、トオルちゃん」

「はい?」

「その病気の対処法を、御使いシリシスに問い合わせてもらえるかしら?」

「少々お待ちください」


 早速、ボクはチャットボット機能を立ち上げ、質問を開始した。

 ボク自身には病原体を特定する知識も能力もないけど、そもそも、今回は症状すらキチンと報告されていない。


 分かっているのは、子供の方が感染しやすいんじゃないかってことと、どれくらいの割合かは分からないけど死者が出ているってことくらい。

 これでは、医師免許を持っている人だって、病名を当てるのはムリじゃないかな?



 多分、優秀な使者は、病気で倒れているんだろう。

 それで、伝達能力には難があるけど、転移魔法に優れた者……テイラーさんを、やむなく使者として送ったって気がする。

 それでも、ボクの方で何とかしてくれるって、思われているんだろうなぁ。



『Q:ビオブラリア王国王都周辺で流行している病気は伝染性?』

『A:伝染性』


『Q:病原体は?』

『A:地球で言うムンプスウイルスが近い』


 ウイルス性か。

 このところ、寄生虫感染が多かったから、ウイルス性って聞くと、なんだか新鮮な気がするよ。

 でも、ムンプスウイルスって何?



『Q:ムンプスウイルスとは?』

『A:流行性耳下腺炎(おたふく風邪)を引き起こすウイルス』


 おたふく風邪ね。

 それなら分かるよ。


 ウイルス名で言われても、ボクは医学が専門ってわけじゃないからね。

 薬学専攻だったけど、本当の意味での専門は有機化学だし。



『Q:流行性耳下腺炎を治す薬は、地球には無かったと記憶しているけど、今回のウイルス性疾患の薬物治療は可能?』

『A:可能』


『Q:構造式は?』

『A:以下に提示する』


 チャットボット機能が示した構造式は、マクロライドだった。

 取り急ぎボクは、その構造式を紙に描きながら記憶する。

 最悪の場合は、その紙を見ながら物質創製魔法を発動するけどね。



『Q:用法用量は?』

『A:1 mg/kgを一日一回が目安で一週間朝食後に経口投与』


『Q:副作用は?』

『A:ふらつきと軽度の腹痛』


『Q:今回の伝染病の症状は?』

『A:高い発熱と頭痛、悪寒、倦怠感、耳下腺の腫れ』


『Q:感染している人の数は、どれくらい?』

『A:王都周辺の人口の二割』


『Q:致死率は?』

『A:五割程度』


 意外と致死率が高いな。

 もっとも、地球のおたふく風邪とは原因ウイルスが完全に一致しているわけじゃないし、それに、この世界ではインフルエンザに対しても、地球人より数段弱かったからね。

 基本的に、ウイルス性疾患に対する抵抗性が地球人よりも弱いのかも知れない。



『Q:男性の場合、精巣炎を起こす?』

『A:三人に一人の割合で発症する』


『Q:年齢は?』

『A:問わない』


『Q:精巣炎を発症した場合、生殖機能への影響は?』

『A:年齢問わず精子を作れなくなる』


『Q:生殖機能が出来上がっていない子供でも、このウイルスの感染で精巣炎になった場合は、将来的に精子が作れなくなるってこと?』

『A:その通り』


 これは、マズいね。

 おたふく風邪のウイルスよりも、さらに男性に対してキツいウイルスって気がする。


 特に、今回は王子が感染したって話だったからね。

 さすがに王子を種なしにするわけには行かない。

 ソッコーで、ボクが現地に行く必要がある。



「女王陛下。御使いシリシスからの回答ですと、これは、本当に急ぐ必要があります。罹患者は王都周辺の人口の二割、致死率は罹患者のうち五割とのことです」

「それは、早急な対応が必要ね」

「はい。それと、症状としては、高い発熱と頭痛、悪寒、倦怠感、耳下腺の腫れとかがあるのですが、実は、男性が罹患しますと男性機能に影響が出る場合があります」

「もしかして、勃たなくなるとか?」

「いいえ。子種が無くなります」

「それって、かなりマズくない?」

「非常によろしくないと思います。今回の場合、ビオブラリア王国の王子が罹患しているとなりますと……」

「トオルちゃん。今すぐ出張をお願いします。ルイージには、何時もの通りトオルちゃんの警護とお世話を」

「はい」

「ただ、食べ過ぎないようにね」

「……」


 ルイージさんは、さすがに返答に困ってしまったみたいだ。

 彼女には、ボクとの出張で、ボクが出したデザートを毎日食べまくって太った前科があるからね。


 先回の出張の際には、ルイージさんは自重していたけど、他の人達が太っちゃったし。

 それで、女王陛下も再発防止のため、先に釘を刺したって感じなんだろう。

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