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87:背骨!

「ルイージさん。ありがとうございます」

「こっちこそ、御手間を取らせて申し訳ございません」

「別にイイですよ」

「それと、化石の組み立てが終わったらお声がけください。では、私は現場に戻りますので」


 ルイージさんは、王家に使える身だからね。

 アクティスとベリルを放置して、ここで油を売るわけにも行かない。


 多分、彼女としては、ゆっくり首長竜の化石を見て行きたいところだと思うけど、結果的に首長竜の化石を見ずに、そのまま現場へと戻ってしまった。



 ボクは、アリアと一緒に多目的ホールに戻ると、アイテムボックスに収納した化石を順に出して行った。


 すると、出している途中なのに、早速アリアが、

「早く組み立てよう!」

 とボクを急かして来た。

 余程、やってみたいんだね。



 今回、持ち帰っているのは、『四肢がヒレになったワニ』の全身と、巨大魚の頭、それから、アンモナイトっぽいのが多数。


 アンモナイトっぽいのは、それで完成形だから組み立てる必要は無い。

 魚類の方は、興味はあるけど頭だけだしね。

 やっぱり、ワニモドキの化石からスタートしたい。



 ただ、化石を全部出して並べたけど、パーツとしては結構な数だ。

 それに、ボクは、その化石の組み立て完成形を知らない。


 当然だけど、今回もチャットボット機能に指導と言うか指示を求める。

 ボクとアリアは、その指示に従って、組み立て作業を開始した。



「ねえ、トオル、これは?」

「こっちだってさ。それから、そのヒレの骨を」

「分かった。これは?」

「そっち……」


 ボク達は、食事を取ることも忘れて組み立て作業を続けた。

 気が付くと、すっかり夜中になっていたよ。


 でも、前回と違って二人での作業だからね。

 思っていた以上にハイペースで進められたよ。



 一先ず、結構イイ時間なんで、今日のところは、ここで一旦区切る。

 アリアは、まだ組み立て作業を続けたかったみたいで、

「早く完成形が見たいし!」

 って言っていたけど、明日は休みじゃないからね。


「早く帰って寝よう」

「でも、続けたいしぃ」

「明日も授業があるんでしょ!」

「そうだけど」

「講師が授業中に寝ちゃマズいじゃん!」

「うぅぅ……」


 とにかく強制終了したよ。

 このまま続けさせたら、完徹しそうな勢いだもん。


 …

 …

 …


 次の日。

 ボクは朝から、一人で多目的ホールに籠り、組み立て作業の続きをやっていた。


 そろそろお昼になろうって頃のことだ。

「トオル、ズルい!」

 って言いながらアリアが多目的ホールに入って来た。



「授業は?」

「今日の担当はもう終わった。それより、私のことを待たずに、一人で勝手にやっていて、トオルのペナルティね!」

「何なのさ、そのペナルティって?」

「つまり、美味しいお昼をお願いってこと!」


 それ、すなわち、女神様からいただいたペンダントで何か出せってことだね。

 いつものことだけど。



「で、ナニが食べたいの?」

「チョコレートクリームとチョコチップがたくさん入ったデニッシュとか、アーモンドチョコとか、生地もクリームもチョコレート味にしたダブルチョコレートシュークリームとか、あとチョコレートケーキ!」


 なんだか、チョコレートばっかりだな。

 最初に『デニッシュ』って言わなかったら完全に主食無しじゃない?


 それに、チョコデニッシュだって菓子パンだし、主食とするかしないかで意見が分かれそうな気がする。



 まあ、別腹メニューオンリーなのは、今に始まったことじゃないけどさ。

 渋るとうるさいし、一先ず、全部出してあげますか。


「出ろ!」


 ボクは、アリアの要求に沿って、女神様からいただいたペンダントにお願いしたよ。

 次の瞬間、チョコレートだらけになったけどね。



 これを見てアリアは、

「美味しそう! ありがとう!」

 順にバクバク食べ始めた。


 こっちの方が、見ているだけで鼻血が出そうだし、お腹いっぱいになりそうだし、胸焼けしそうだし、血糖値までが上がりそうだよ!


 でも、マジで嬉しそうだし、イイ顔している。

 ボクが、もし、この世界に男として転生していたら、多分、アリア狙いになったんじゃないかなって今更ながらに思う。

 勿論、第二ターゲットはミサね。



 そして、昼食を終えると、ボクは組み立て作業を再開した。

 アリアが手伝ってくれるから、かなり作業効率が上がってね。


 普通じゃ有り得ないスピードかもしれないけど、その日の夜に、ワニモドキの化石の組み立ては完了した。



 見るからに獰猛そうな感じだ。

 ボクは、その化石のことを、改めてチャットボット機能に質問した。


『Q:この化石の正体は?』

『A:地球で言うモササウルス科に近い生物』


『Q:獰猛な肉食獣?』

『A:その通り』


『Q:生息していた時代は?』

『A:約一億年前』


 まあ、ボクが予め想像していた通りだ。

 まさに、当時の生息域では頂点捕食者だったんだろう。

 この化石のことを、『滄竜(そうりゅう)』と呼ぶことにする。


 ボクの隣では、この滄竜の化石を見詰めながら、アリアがうっとりした顔をしていたよ。

 相当、古代の巨大生物に興味を持ったみたいだね。



 ボクとアリアが、再び気合を入れて巨大魚の頭部化石の組み立てを開始しようとした、丁度その時だった。


「トオル! ここにいたか」

 そう言いながら、アクティスが多目的ホールに入って来た。


 その後には、ルイージさん、エリカさん、ベリル、ルビダス、スティビアに、さらにはフルオリーネ女王陛下の姿まであった。



 何気にアリアが、ボクの後ろに隠れた。

 アクティスのことは、しょっちゅう私に会いに来るから見慣れているけど、さすがに女王陛下と、これだけの至近距離でお会いできるのは、普通は滅多に無いからね。


 ボクが地球からの二度目の帰還で、イットリア山の山頂に降り立った時だって、互いに半径百メートルのところにはいたはずだけど、多分、ここまで接近していない。

 アリアとしても、恐れ多いんだろうね。



「皆様。ワザワザこんな時間に、こんなところまでご足労いただき有難うございます」

「別に、そんなにかしこまらなくてもイイのよ、トオルちゃん。こっちが勝手に来ただけだから。それより、これが一億年前にイットリア山に住んでいた生き物の化石?」


 そう言うと、フルオリーネ女王陛下は滄竜の化石に近付いて行った。

 さすがに、女王陛下もこのようなモノを見るのは初めてだろう。



「はい。今、女王陛下の前にある化石が、先日、ベリル姫が発見された滄竜の化石です」

「滄竜?」

「はい。出向先でも、同様の化石が発見されておりまして、そのように呼ばれることも有りました。それから、その奥の首の長いのが……」

「首長竜ね」

「はい」

「どっちも、四肢がウミガメのようになっているのね?」

「はい。それで海に生息していたと考えられますし、そのことから、一億年前にはイットリア山は海底にあったと言えます」

「なるほどね。なかなか信じ難いけど」

「そうですね」

「あと、この、ベリルが見つけたモノって随分と口が大きいけど、もしかして捕食者?」

「御使いシリシスからの回答ですと、そのようです。まさに、一億年前の、この海水域の中で最強だったようですので」

「まさに、泳ぎを身に付けた巨大ワニって感じだものね。今は絶滅しているんでしょ?」

「はい」

「それは幸いね」


 たしかに、こんな輩が今の世界で生きていたら恐ろしい。

 とは言え、海の生態系が根底から変わるほどのことは無いんじゃないかって、ボクは勝手に想像しているけどね。



 今だって、巨大なサメは存在するし、シャチだっている。

 動物種が変わっただけで、獰猛なヤツは生息しているわけだからね。


 コイツが生きていようと絶滅していようと、結局のところ、頂点となる動物が変わるだけで、他は大差無いような気がしているんだ。



 それはそうと、せっかく、お越しいただいたのだ。

 何の接待も無いわけには行かないだろう。


 それで、ボクは、

「出ろ!」

 女神様にいただいたペンダントにお願いして、テーブルとトレー、さらにテーブルの上にはワイン数本とグラスを人数分、それからスティビアの分としてジュースを出した。


 そして、ワインをグラスに注ぐと、ボクは、それをトレーに乗せて、フルオリーネ女王陛下の前に差し出した。



「陛下。どうぞ」

「あら。ワザワザありがとう。トオルちゃんに気を遣わせちゃったみたいね」

「いいえ。お気になさらないでください」


 女王陛下は、グラスを取ると、早速ワインを口にした。

 ご感想は、

「美味しいわね。これって、前にトオルちゃんが来た時に出したのと味がそっくり。もしかして、同じのを出してもらった?」

 とのこと。



 地球時代に、ボクは、ワインとか余り飲まなかったんで地球産のワインには全然詳しくないんだけど、こっちで飲んだモノは全部覚えている。


 それで、お城で出されたワインなら無難だろうって思って、それと同じのをペンダントにお願いして出してもらっていたんだ。


「やっぱり、分かりますか?」

「ええ」


 ただ、それをちょっと飲んだだけで分かっちゃうんだからね。

 さすがだよ。



「それとね、こっちの都合で悪いんだけど、今度、私の方でまとまった時間が取れそうな時にエリカを迎えによこすから、ちょっと相談に乗ってもらえないかしら?」

「相談ですか?」

「ええ。ちょっと、ここでは話し難いので……」

「分かりました」

「じゃあ、よろしくお願いね」


 でも、いったい、相談って何だろ?

 アクティス関連かな?

 早く結婚しろとか。

 まあ、その時になれば分かるか。



 それで、そのアクティスなんだけど、今日は珍しく、全然グラスを取ろうともしていないんだけど。

 どうかしたのかな?


「王子も、ワインは、いかがですか?」

「いや、俺は、今日のところはジュースにする」

「勤務中だからですか?」

「いや、最近、酒が美味しく感じられなくてな。特にエールとかは、全然……」


 これって、この間、ふと思い出した教授の件と同じじゃない?

 ボクが有馬透時代に在籍していた研究室の教授と。

 一時期、酒がマズく感じるようになって、それから、またちょっと思い出したけど、肝機能値も上がっていたとか言う話だったような気がする。



 でも、整体に行って背骨を矯正したら、肝機能値も正常値に戻ったし、酒も急に美味くなったとか言ってね。


 ボク自身が経験したことじゃないから、ハッキリとは分からないけど、あの教授が嘘を吐くとも思えないからなぁ。



 それで、ボクは、

「診断!」

 アクティスに診断魔法を放った。

 すると、たしかに脊髄から肝臓に続く神経が圧迫されているっぽい。


 血液検査したわけじゃないけど、診断魔法で確認する限り、ASTもALTも基準値をちょっと超えているよ。

 でも、まだ、壊滅的な数値じゃなくて良かった。



 もしかすると、背骨を矯正すれば肝機能は回復するかも知れないなぁ。

 念のため、チャットボット機能にも確認!


『Q:アクティスの肝機能値低下は背骨を矯正したら治る?』

『A:基本的には正常に戻る』



 なんか、意味ありげな雰囲気のある回答だけど……。

 でも、今は荒療治に見えると思うけど、矯正してあげるのが最善だろう。


 ボクは、

「出ろ!」

 ペンダントにお願いしてソファーを出してもらった。

 さすがに専用の台は……ボクも見たことが無いし、良く分からない。



「王子。ソファーに腹ばいに寝てもらえますか?」

「ああ。しかし、何をするんだ?」

「背骨の矯正です。多分、背骨が曲がっていて、そのせいで身体の機能に狂いが生じているんだと思います」

「それで、酒が元通り美味く感じられるようになるのか?」

「多分ですけど……」

「珍しく自信無さげだな」


 鋭いな、アクティスのヤツ。

 さすがに整体はね……。

 ボク自身、全然詳しくないんだ。

 そもそも、薬での治療とは全然違うしね。



 一応、矯正することで神経とか内臓の圧迫が解消されて機能が正常化するってところはイメージできる。

 でも、整体の施術を受けたこともないし、整体のことを勉強したことも無いからね。

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