86:やることがあるって嬉しいことだよ!
「それはそうと、一つトオルに聞きたいことがあるんだ」
「何でしょう?」
「病原体の化石なんてモノもあるのか?」
「ええと……。病気を引き起こすかどうかは分かりませんが、地球では、十億年前の菌類の化石とかは見つかっています」
「そうか。まあ、石になっているだろうし、感染することは無いと思うが」
「たしかに、化石になってものでしたら、もう生きていませんので感染することは無いでしょう。ただ、地球では、氷河の中から一万四千年以上前のウイルスが見つかった、なんて報告もあったかと思います」
「氷河?」
「はい。要は、氷漬けになっていたってことです。しかも、それまで地球上で発見されていたウイルスとは別物でしたので、人類にとって未知のウイルスってことになります。一応、人に感染するモノではなかったようですけど」
「それは幸いだな。万が一、それが人に感染するモノで、致死性だったら大変なことになるからな」
「ボクも、そう思います」
ただ、少なくとも、今、この場で古代の細菌が復活……なんてことは多分無いだろう。
そんなことより、今は発掘中の化石の方が心配だ!
まさか、ルイージさんに作業を任せるなんて!
ボクは、アリアを連れて、遥か前方で発掘作業をしているルイージさんとベリルのところへと、大急ぎで移動した。
ただ、相変わらず御令嬢の服装なものでね。
ゴテゴテしていて走れないよ!
なので、転ばないように慎重に早歩きした。
アリアは普通の服装だから、余裕の移動だったけど。
何だか羨ましいな。
ただ、ルイージさんが発掘した化石を見て、ボクは正直驚いた。
随分と丁寧に取り出されていたんだ。
ルイージさんは、転移魔法使いだけど騎士でもあるからね。
当然、戦闘派の脳なんだよ。
細かい作業を行うよりも豪快な方が得意で……。
だから、絶対に化石の発掘には向かないって思っていたんだ。
あと、ルイージさんもベリルも作業着を着ていたよ。
こんなところに来るんだから、それが普通か。
むしろ、ドレスのまま来てしまったボクの方がおかしいってことだ。
「ルイージさん、ベリル。お疲れ様です」
「これは、トオル様。ワザワザお越しいただいてありがとうございます」
「それにしても、ルイージさんの方でも、エリカさんに、負けず劣らず、随分、綺麗に発掘していますね?」
「さすがにアクティス様から粗雑に扱うなとキツく言われていますので」
察し……。
たしかに、アクティスもルイージさんのことは良く分かっているか。
ボクよりもルイージさんとの付き合いが長いもんね。
「それと、ベリルは、探査魔法が使えたんだね?」
「はい。使えるって、今回初めて知りましたけど」
今まで使ったことが無かったんだ!
もっとも、戦地に向かうわけでもないし、使う必要が無かったんだろうけどね。
「でも、今まで使ったことが無い状態で、いきなり、これだけ凄い化石を連続で発見して、凄いと思うよ」
「そう言って頂けると有難いですけど、小さな化石は、全然、探査魔法に引っ掛からなくてですね……」
「ええと……。普通は、こんな大きな化石を見つけることの方が、ずっと大変なんじゃないかな?」
「そうなんですか? 大きい方が目立つと思いますけど?」
「ボクの出向先では魔法なんて無かったから、目で見て調査するしかなかったわけだけど、そうすると、個体数が多い化石の方が多く見つかるわけで、こんなに大きくて立派な化石が見つけられる方が、ずっと少ないんじゃないかって思う」
「そうなんですか?」
「うん。だから、ベリルが見つけたのって、かなり凄い発見だと思う」
「本当ですか?」
「うん」
「ありがとうございます!」
なんか、ベリルの笑顔が、やたらと眩しい。
やることが出来て、本当に嬉しいって感じだ。
王家の跡継ぎは、最初からアクティスって決まっていたわけだし、アクティスに万が一のことが発生してもルビダスがいるからね。
なので、ベリルは、帝王教育とは完全に無縁だったと思う。
かと言って、政略結婚のコマになるかと言うと、それは有り得ない。
そもそも、この世界の成人は、男女比が大きく女性に傾いていて政略結婚なんてモノも存在しなくなった状態だからね。
いずれ、政略結婚は復活するだろうけど、それは、十年から先の話だろう。
ただ、その時代に、ベリルが政略結婚の対象とされるかと言うと、その可能性は限りなくゼロに近い気がする。
男子側が、ずっと年下で、しかも同年代の女性も相当数いるわけだからね。
しかも、お城にいる限り、働かなくても衣食住が確保された人生。
当然だけど、普通ならニート化するだろう。
嫁ぐことも無いわけだから、お城から出て行く理由が無いし……。
多分……いや、間違いなくベリルは、ボクがアルセニコスに唆されて作り出した二百年間の黒歴史の被害者なんだよね。
そう思うと、非常に申し訳なくなってきた。
でも、ここでボクがベリルに謝っても、ベリルには意味が分からないだろう。
それ以前に、ボクとしても、二百年前のことは、絶対に誰にも知られたくないしね。
もっとも、この件に関しては、ベリルだけに謝っても無意味だけどさ……。
だから、全世界的な謝罪を含めて地球に二度に渡って研究出向して来たわけだし。
都合のイイことを言っているのは分かっているけど、それでみんなには、何とか許してもらいたい。
「それで、ベリル。こっちの化石は、あとどれくらいかかるの?」
「もうすぐ終わります」
「そうなんだ。王子のところにあったのと、大きな巻貝の化石はアイテムボックスに収納したので、こっちの化石も発掘作業が終わったら声をかけて。アイテムボックスに収納するから」
「了解です。それと、あっちに頭部だけの化石がありまして」
「頭部だけ?」
「はい。凄く大きな口で……。もし、全体が発見出来たら、とんでもない大きさになると思います」
「じゃあ、それを先に収納しておくよ」
「よろしくお願いします」
「それで、それって何処にあるの?」
「向こうに五十メートルくらい行ったところです」
「了解。じゃあ、収納して来るね」
ボクは、その頭部だけの化石に向かって移動した。
ただ、アリアは、発掘中の化石の方に興味があるようで、ルイージさんとベリルの作業の方に張り付いて見学していた。
なので、頭部だけの化石の方には、ボク一人で行く。
ただ、このゴテゴテしたドレスはマジで失敗だった。
ボクも、作業着に着替えて来れば良かったよ。
化石発掘現場だから、足場も悪いし。
何とか、頭部だけ化石の元に到着。
たしかに大きい。
それに、これって組み立てたら、とんでもなくない?
口を大きく広げたら、その口の上下幅の方が、ボクの背丈よりも高い気がする。
もしかして、これってメガロドンじゃない?
気になったんで、ボクはチャットボット機能を立ち上げて質問をぶつけてみた。
『Q:これって、地球で言うメガロドンに近い?』
『A:違う』
『Q:魚竜か何か?』
『A:違う』
『Q:この化石の正体は?』
『A:地球上に近縁種が存在しない大型魚類』
『Q:この種の生物の体長は?』
『A:成体で約三十メートル』
それって、メガロドンよりも大きいんじゃない?
まさに凶悪な海の支配者って感じだったんだろうな。
『Q:生息していた時代は?』
『A:約一億年前』
あの首長竜と同じ時代だ。
そもそも、ここの地層が一億年前の層ってことなんだろうね。
納得。
『Q:この種の近縁種とも言える生物は、現存する?』
『A:七千万年前に完全に絶滅しており現存しない』
この世界の生物進化は、地球とは必ずしも完全同一と言うわけでは無い。
でも、現時点で存在する生物の取捨選択は、地球に近いモノを感じている。
多分、その取捨選択が、女神様達の意思で行われているからだと思うけど……。
取り急ぎボクは、
「強化!」
大型魚類の化石に強化魔法をかけた。
そして、アイテムボックスの中に収納。
再びボクは、ルイージさんとベリルのところへと戻ったわけだけど、やっぱり、このドレスは移動が非常に面倒臭い。
次に来る時は、是非、作業着にしたいものだ。
現場では、まだ発掘作業が続いていた。
ただ、発掘する転移魔法使いがルイージさんからエリカさんに交代していた。
やっぱり、ずっと一人でやるのは、作業としてキツイようだ。
それから、アクティスも、こっちに来て発掘の状況を見ていた。
さっきまでは、足元にあった化石の見張り役だったんだろう。
ボクがアイテムボックスに収納したんで、こっちに来れたってことだ。
でも、見学しているのもイイケド、なんか手持無沙汰なのも何かなって気がする。
そろそろ、アリアも飽きて来たみたいだし。
自分で発掘するのなら別だろうけど、ここでは、ただ見ているだけだからね。
「アリア。一旦、会社に戻って組み立て作業をする?」
「うん。やってみたい」
「じゃあ、決まりだね」
やっぱり、見ているだけじゃなくて、何らかの作業がしてみたいんだよね?
それが普通だと思う。
「では、王子。済みませんが、ボクとアリアは、トオル製薬に戻って預かった化石の組み立てを行おうと思うんですけど」
「そうだな。じゃあ、ルイージ。トオル達のことをお願いできるか?」
「分かりました。では、移動します。転移!」
そして、次の瞬間、ボク達はルイージさんの転移魔法でトオル製薬へと戻って来た。
移動が簡単で済むって、やっぱり嬉しいことだね。




