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9:アルコールは大量摂取すると危険だよね?

 バイルシュタイン子爵の一件から十日が過ぎた。

 この日、ボクの店にはアリアとミサが来ていた。彼女達がサボっているんじゃなくて、ボクが休日営業しているだけなんだけどね。


 あと、二人が来たのは客としてじゃなくて、友達としてね。

 三人で、ずっとおしゃべりしていた。



 最近、ボクは、二人とは互いに『さん付け無し』で呼ぶようになった。

 つまり、名前を呼び捨て。それだけ仲良くしてもらっているとも言う。


 前世では、こんな風に綺麗な女性と話をすることなんてできなかったな。

 女神様が少しボクの性格を変えてくれたのかもしれないな。



「そう言えば、この間、バイルシュタイン子爵が来たよ!」

「ホント? 性格悪かったでしょう」

 いきなりそう言うか、ミサは。

「で、何かあった?」

 アリアは興味津々だ。


「いきなり店に入ってきて、この店の薬を全部三割値で卸せって。三割引じゃなくて三割値だよ。ムリに決まってるジャン!」

「でも、どこに行ってもそんな感じらしいよ。それが原因でつぶれた店もあるって噂を聞いたことあるもん!」

「うわっ。最悪!」

「トオルのお店大丈夫? つぶれたりしない?」

「この間は、運良く巡回していた警備兵が追い返してくれてね。でも、また来たら、どうしようかな?」

「死んでイイよね、あいつ」


 そんな感じで、バイルシュタイン子爵の悪口で花が咲いていた。

 でも、水素風船の話とか鉄の塊の話はしなかった。魔法が使えることをムリにバラす必要は無いからね。



 しばらくすると、店の前に馬車が止まった。

 何かイヤな予感がする。

 そして、数えること数十秒。噂の子爵が女従者を連れてボクの店に入ってきた。

 やっぱりボクの薬を諦めていないっぽい。


 勿論、今回も開口一番、

「この店の商品を二割値で私のところに卸しなさい!」

 ムチャ振りしてきた。


 全然、進歩が無いね、この人。

 しかも卸値がさらに下がっているよ。何を考えているんだか?

 だけど、ボクの回答は、変わるわけがない。


「先日も申し上げましたとおり、それはできません!」

「私は子爵だぞ!」

「相手が貴族でも関係ありません。前回も申し上げましたとおり、相手が誰とか言う問題では無いんです。二割値でも三割値でも、作れば作るほど赤字になりますよ!」

「そこは工夫すれば良いだろう!」

「原材料費だけで足が出ますよ」

「そんなの知ったことか!」


 やっぱりダメだ、この人。

 これじゃ、いくつも店をつぶすよ。

 やっぱり死んでもらった方が世の中のためかな?



 アリアが心配そうな目でボクの方を見ていた。

 一方のミサは、顔を伏せていた。

 まあ、ミサは美人だけど目がキツイからね。下手に、この子爵と目が合ったらヤバイことになりそうだもん。

 ミサも、それが分かっているんだろうな。



 この子爵には、正直、頭きた。

 もう、強硬手段を取らせてもらうよ。殺したりはしないけどさ。


 別に転移魔法を使えば、ここから逃げられる。

 勿論、ボク一人で逃げるんじゃなくて、アリアとミサも連れて転移できる。


 でも、逃げるだけじゃ問題解決できない。

 なので、物質創製魔法を使って、ボクは、子爵と従者の胃の中に99.9%エタノールを発生させてあげた。


 でも、まあ、それぞれ20ミリリットルほど。

 この量なら大丈夫と思うけど、万が一、急性アルコール中毒を起こしたら、体内のアルコールを転移魔法で除去してあげることにするよ。



 子爵の顔が真っ赤になった。一気に酔っ払ったっぽい。

 そして、剣を抜いて振りかぶると、

「お前、分かってんのかぁ、おらぁ」

 そう言いながら子爵は、カウンターの上に振り下ろした。


「ガシャッ!」

 あーあ。カウンターが傷ついちゃった。


 しかも、この子爵、目が据わっている。

 傍目には怖いかもね。


 ボクの隣では、

「「キャー!」」

 アリアとミサが大声で悲鳴を上げていた。

 そりゃそうだよね。

 きっと二人とも、殺されるんじゃないかって思ってるよ。


 でも、その後すぐに、

「ウゲゲゲゲ……」

 子爵は、その場で胃の中のモノを口からお出しになった。

 マジで酒臭い。

 余りお酒には強くないのかもしれないね、この子爵。



 ボクは、ここで今まで検証できなかった魔法を使うことにした。

 実は、相手を眠らせる魔法が使えるはずなんだ。


「(二人とも寝ろっ!)」

 心の中で、ボクはそう強く唱えた。


 魔法は巧く発動したようだ。

 子爵は、その場に倒れて寝てしまった。

 しかも、出したモノの上に突っ伏しているよ。

 最悪だね。

 後で掃除しなきゃ。


 従者も、その場に座り込んで寝ていた。

 あとは、この二人をどうやって店の外に出すかなんだけど……。


 そうしたら、先日と同じ警備兵が、

「大丈夫ですか?」

 と言いながらボクの店に飛び込んできた。

 アリアとミサの悲鳴を聞いて駆けつけてくれたんだろうな。


 その場にいるのは剣を抜いて酒臭い汚物の上に突っ伏して寝ている子爵に、酔っ払って眠りこけている従者。

 カウンターの上には剣の跡。


 第三者視点では、多分、子爵が酔って剣を抜いて暴れたとしか思えないだろうね。

 現象面だけは、事実、そうなんだけど。

 でも、子爵は酒を飲んだわけじゃないんだけどね。

 警備兵は、仲間を呼ぶと、子爵と従者を担架に乗せて外に連れて出してくれた。



 その後、ボク達は警備兵達に事情聴取を受けた。

 当然、アリアとミサが、

「あの子爵がカウンターに剣を振り下ろして脅したんです!」

 と証言してくれているし、ボクも、

「先日よりもヒドくて、二割値で全商品を卸すよう子爵からムチャ振りされたんです。ムリだと話しましたら剣を抜いて振り下ろしてきたんです」

 と話した。


 しかも、子爵は泥酔状態で暴れたと思われている。

 理由はともあれ、子爵は完全に言い逃れできないね。

 完全に子爵は悪人認定された。


 警備兵からは、

「いくら貴族でも、酔って剣を抜いて暴れて他人に迷惑をかけたとなると、タダでは済みませんからね」

 と言われた。


「爵位を奪われるとかあるんでしょうか?」

「まあ、そこまでは行きませんけど、少なくともこの町には、しばらく来ることは許されないでしょうね。多分、二~三年は……」


 出禁ってことか。

 まあ、これがこの世界のルールってことだね。


 子爵にとってもイイ薬になったでしょ。

 酒は万病の薬とも言うし。

 ちょっと違うか、この場合は。



 それと、実はボクは、もう一つの魔法を子爵にかけていた。

 ボクは、他人の夢を操れるんだ。

 子爵には、これで死刑になった夢でも見てもらうことにする。



 この後、ボクの店には近隣の町からも客が来るようになった。

 子爵は関係ないよ。普通に口コミで『良く効く薬がある』って噂になったんだ。


 それこそ、王都から足を運んで来る人もいたし、開店して半年くらいした頃かな、わざわざ他国からボクの薬を買い付けに来る商人まで現れた。

 って言っても、まだ近隣の国の人くらいだけどね。


 ただ、他国の人が大量に買って行って、税関とかで引っかからないのかな……とか思ったけど、実は、この世界には税関がない。

 転移魔法で持ち運び出来てしまうので、税関を設置する意味が無いんだ。



 そして、開店して一年が過ぎた。

 ボクは記録上17歳になった。

 あれ以降、バイルシュタイン子爵はボクの目の前には現れなかった。

 本当に出禁なんだね。うーん、平和だ。


 そんなある日のことだ。

 侯爵様……正しくは女侯爵様が転移魔法を使う女従者と一緒にボクのところに来た。どうやら、女王陛下からの依頼らしい。


「私は、マイトナー侯爵。折り入って、お願いがあって来たの。至急、城まで同行して欲しいんだけど」

 それにしても、いきなりお城って?


「何があったのでしょうか?」

「実は、王都レギアで高熱の病が流行っていて、死者も多数出ているのよ。姫様も……ベリル様も、その病に罹患されたようで……」


 つまりボクに、お姫様の病気を治せってことだね。

 お姫様の名前はベリルか。カワイイ娘だとイイな。


「でも、何故ボクが?」

「あなたの薬は非常に良く効くって聞いているし、近隣の国でも売られているくらい有名だしね。もっとも、今回は王族お抱えの占い師があなたを指名したわけだけどね」


 占いね……。

 多分、本当に預言の能力でも持っているんだろうな。

 ここでは預言魔法か。


 ボクは預言魔法を与えてもらえなかったけど。

 多分、ボクに未来が見えてしまうと、女神様にとって何か不都合があるのかも知れない。

 でも、話を戻すけど、病気って、いったい何なんだろう?


「用意をしますので、少々お待ちください」

 ボクは、そう言うと、一旦店の奥に引っ込んだ。そして、女神様の端末に、

『Q:お姫様の病気は何?』

 って入力した。念じるだけで文字が勝手に入力される。

 一問一答形式で、キチンと答えを出してくれる優れものだ。


 回答は、

『A:インフルエンザ』

 と出た。

 ボクは、さらに質問を続けた。


『Q:ベリル姫の年齢は?』

『A:14歳』


『Q:ベリル姫はカワイイ?』

『A:トオル好み』

 うん。これは嬉しい。


『Q:死者が沢山出ている理由は?』

『A:この世界の住人はインフルエンザウイルスへの抵抗力が地球人よりも数段弱い』


『Q:この世界の人々にオセルタミビルは効く?』

『A:確実に効く』


『Q:異常行動の懸念は?』

『A:問題ない』


 今では、異常行動は因果関係無しってされているけどね。一応、念のため。

 まあ、これなら何とかなりそうだ。

 ちなみに、オセルタミビルのリン酸塩として薬にしたのが有名なインフルエンザ治療薬だからね。


 時は一刻を争いそうだ。

 ボクは、大きなショルダーバッグを肩にかけて店の奥から出てくると、店を閉め、扉には臨時休業の張り紙を付けた。


「では、侯爵様。急いで参りましょう」

 そして、ボクは従者の転移魔法で一気にお城へと向かった。

後からふと思ったのですが、トオルをベリルを治療する薬師に指名した占い師って、結局、一回も登場しておりません。

取り敢えず、政治の方がメインの人で、トオルとは接点が無いってことにしておいてください。

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