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82:素案?

「ねえ、トオル。この入浴剤をさ、各種薬のオマケに付けるってのはどう?」

 アリアがボクに提案してきた。


「オマケ?」

「例えば、便秘薬一ビンに二個とか。トオルとしては、特定の人だけじゃなくて、一般の人にも使って欲しいわけでしょ?」

「勿論、そうだね」

「でも、現状では、一般人は買う余裕がない。だったら、オマケにすれば薬を買った人は全員使えるじゃない?」

「たしかに、それも一つの方法だね。ただ……」

「ただ?」

「中には、オマケを付けるくらいなら、その分、少しでも薬の方を安くしてくれって言い出す人もいないかな?」

「そっか。たしかにそうね」

「それに、薬を買わない人には行き渡らない」


 中には、

『薬は必要無いけど入浴剤は欲しい。でも、お金を払う余裕はない』

 って人もいるだろうからね。

 前々世のボクなら、絶対にそう言いそうだよ。



「そうしたら、この街にトオルが初めて来た時みたいに、少しの間だけ無償配布して様子を見るってのはどう? 今回、アンケートを取らなかった人達の中には、ちょっと高くても買うって人がいるかも知れないし」

「それなんだけど……」

「何か問題ある?」

「ボクも同じことを考えたんだ」

「じゃあ」

「でも、全世界でそれをやるとなると、絶対に無償配布しないで着服する薬屋が出て来るんじゃないかな。もしくは、それを勝手に売りに出す人とかも」

「たしかに……。あの時は、この店だけだったからトオルの好きに出来たけど、今回は、トオルが直接人々に販売するわけじゃないもんね」

「あと、トルリシティだけで配布するって手も考えたけど、絶対に、大量にくすねて他国で転売する人が出て来る気がして」

「まあ、間違いなくあるわね、その展開」



 ここは、腹をくくって決めるしかないんだろうな。

 ボクの方針に反する決断だけど、仕方が無い。


「先ずは国内外問わず富裕層だけをターゲットにしよう」

「やっぱり、そうなるか」

「販売する以上は、赤字になっちゃ困るからね。いくら原材料費はタダでも、それ以外にかかる経費もあるし……」


 トオル製薬内で、これを製造するのはボクか、もしくはミサ達だ。

 そこには、当然だけど人件費がかかって来る。

 でも、直接製造する人達の経費だけを考えれば良いってわけじゃない。


 これは、以前、アクティス達が調整してくれたことだけど、流通に関わる大店商人達の儲け分も末端価格には乗っかって来る。

 加えて、流通の方からは、嵩張るけど単価が安過ぎるモノは、正直言って好まれないだろう。



「それで、いくらくらいにするの?」

「現状、アンケート結果からだと、一回分が100トール(小銀貨一枚)で、一週間分セットの包装には、少し割引をかけて500トールってとこかな?」

「まあ、そんなところが妥当ね」

「でも、一応、価格設定会議をトオル製薬内で設けるよ。アンケート結果は重要視するけど、ある程度の根拠のある素案は出さないとイケない気がする」

「根拠って?」

「いくら原料価格ゼロでも、ボク達の立場からすれば、最低限、社内の人件費や利益も考慮しなくちゃいけないからね。アンケート結果だけで値段を決めて、それが噂として流れたら、面倒になるよ」

「だねぇ。トオル製薬の薬の価格について、第三者が勝手にアンケートを取って、そのアンケート結果を基に、もっと価格を下げろなんて話になりかねないか」

「それで、オゼンピックさんに相談できないかなぁと思って」


 オゼンピックさんは、ドロセラ王国のお城からトオル製薬に派遣されてきた女性で、経理を担当している。

 少なくとも、ボク達よりは、何にどれくらい経費が掛かるとか詳しいだろう。


 なので、彼女と相談すれば、ある程度の根拠を持った価格素案を提示できるんじゃないかなって勝手に思ったんだ。


 その上で、価格設定会議を行い、そこでシュライバーさん達にも相談する。

 もしかすると、その会議の場で価格は決まらないかも知れないけど、だったら各自持ち帰って考えてもらえばイイ。



「それで、アリア。オゼンピックさんにはサンプルを配っていないよね?」

「そうね。社外の人の意見を多く取りたくて、社内の方の人数を少し減らしたから」


 でも、そのアリアの判断は間違っていないと思う。

 だから、一般市民達の意見が得られたんだからね。



 と言うわけで、先ずは、

「出ろ!」

 入浴剤のサンプル一週間分を作った。


 これをオゼンピックさんに使ってもらう。

 そして、ボクとアリアはオゼンピックさんのところへと急行した。



 オゼンピックさんは、総務・労務の部屋にいる。

 その部屋に入ると、早速ボクは、

「済みません、オゼンピックさん。知恵を貸してください!」

 とお願いした。


「何なんでしょうか? いきなり」

「実は、入浴剤を作ってみましたが」

「入浴剤?」

「はい。温泉の元と思って頂ければよろしいかと思います」

「そんなモノがあるの?」

「はい。これを一個、お風呂に溶かしていただければ、それで家のお風呂が温泉モドキに大変身します」

「本当に?」


 すると、ボクに代わってアリアが、

「はい。しかも、美肌効果と保温効果がありますので、肌のしっとり感が得られますし湯冷めしにくくなります」

 と答えて……と言うか、自身の感想を述べてくれた。



「そうなんだ。面白そうですね。それで、トオルさん。知恵を借りたいって言うのは、この温泉の元と何か関係があるんですか?」

「実は、温泉の元の客層や価格について相談したいんです。一月ほど前に、入浴剤を数十人に配布しましてアンケートを取ったんです」

「私には来ていなかったけど?」

「済みません。色々な層の人にアンケートを取りたくて、社内では余り配布しなかったんです」

「そう。でも、私にも声をかけて欲しかったわね」


 なんか、ちょっとムッとしている気がする。

 オゼンピックさんも、マジで入浴剤には興味があったんだね。


 と言うことは、『面白そうですね』って言ってくれたのは、リップサービスじゃなかったってことだ。



「次回からは、是非、そうさせていただきます。それで、トオル製薬や流通センターで働く人達は、一回分を小銀貨一枚でもOKと言ってくれますが、彼女達はボクが出すモノを贔屓目に見てくれているでしょうし、ある程度以上お金を持っています。しかし、アリアが家の近所の人にも配って感想を聞いてくれたのですが……」

「反応が今一つだったってこと?」

「そうなんです。もらえるなら使うけど、買ってまで使おうとは思わないって。それで客層を富裕層に限定して販売するのはどうかと考えているのですけど……」

「そう言うことね」

「マイトナー侯爵からは、一回分が小銀貨二枚、王族ですと一回分が銀貨一枚って回答を貰っていますけど……」

「侯爵様はともかく、王族は例外ね。金銭感覚が異常だから」

「まあ、そうなんですけど……。それで、オゼンピックさんにも実際に一週間程度使って頂いて、その上で販売戦略について相談できればと思ったんです」

「なるほどね。分かりました。では、今夜、早速使ってみますね。それで、一週間使い続けないと効果って分からないモノなんですか?」

「いいえ。保温効果とか、その場で感じられると思います」

「だったら、敢えて一週間使ってからにする必要は無さそうですね。では、商品化についての相談は、明日でもイイかしら?」

「はい。お願いします」


 明日には回答が聞けるってのは有難い。

 オゼンピックさんも、本件については結構、前向きかも。

 ボク達は、オゼンピックさんに会釈すると、その部屋を後にした。


 …

 …

 …


 翌日。

 この時、ボクは居室でピカドン王国に卸す薬を魔法で出していた。


 取り急ぎ、検査を受けた人数と同じだけの量……つまり一万五千錠が必要になる。

 一応、念のため、予備も併せて切りのイイところで二万錠を作り出したけどね。



 それから、犬の飲ませる駆虫剤も必要だ。

 こっちは、どれくらい必要なのかが分からないけど、余った分は第二倉庫か第三倉庫に保管しておけばイイ。


 あそこなら、扉を閉めると同時に時間が止まるからね。

 劣化せずに保管が出来る。



「トオル。イイ?」

「どうぞ」


 入って来たのはアリアとオゼンピックさん。

 多分、なんちゃって入浴剤の件だろう。


「ソファーの方に、どうぞ」

「では、失礼します」


 普段なら、アリアは何も言わなくても勝手にソファーに座っちゃうけど、オゼンピックさんが一緒にいるんで、余所行きの態度になっているよ!

 なんか、新鮮だなぁ。



「それで、オゼンピックさん。入浴剤の方は、使ってみてどうでした?」

「この寒い時期には有難いです」

「ですよね?」

「はい。しかし、先程、皆様のアンケートをアリアから見せてもらいましたけど、まさに、それに書かれている通りでして……」

「そうなんです。一般市民からは、ムリに買うつもりが無いとの回答でした。それで、昨日も言いましたけど、富裕層向けで行こうと思っております」

「私も、そうすべきかなと思います。これは、飽くまでも生活必需品ではなく、嗜好品ですので」


 この時代背景とか世界観を考えたら、一般市民に嗜好品を広めるのは難しい。

 一月前にアリア達と行った大衆酒場だって、大衆とは言いながらも、客層は少しお金に余裕がある人達になるからね。


 ここは日本と違う。

 本当の一般市民は、基本的に外食なんて滅多にしないんだ。

 そんな状態で嗜好品を買うなんて、普通は有り得ない。



「それで、オゼンピックさんでしたら、価格をいくらに設定します?」

「そうですね。一個当たり200トールで、七個セットで1,000トールってところではないでしょうか?」

「根拠とかってあります?」

「先ず、この入浴剤は、他の製品……つまり、薬と比べて嵩張ります。ですので、現行ルールに従った場合、余り安いと流通側が嫌がるでしょう」

「たしかに、それはありますね」

「ですので、流通側の負担も考慮しました。お通じの薬の各店舗での販売価格が、現在600トールです。これは、トオル様が、一旦、御隠れになる前の価格の半額ですが、少なくとも、この薬を運ぶのよりも、入浴剤を運ぶ方が面倒なのは間違いないでしょう」



 たしかに、流通側の負担を考えれば、オゼンピックさんの意見は、もっともだ。

 トオル製薬の商品の場合、他国店舗での販売価格の50%がトオル製薬に入り、5%が流通センターに、9%が各国の大店商人達に、25%が各販売店舗に入る。

 残る11%は関税となる。


 また、ドロセラ王国内に流通する分は、販売価格の50%がトオル製薬に入り、25%が流通センターに、25%が各販売店舗に入ることになっている。

 このルールは、ボクが地球に再出向する前から変わっていない。



 ただ、これに従うと、商品が高ければ高いほど、流通に関わる人達……つまり、流通センターも大店商人達も儲かることになる。

 逆に、安ければ安いほど利益が小さいことになる。


 今回の入浴剤は、ハッキリ言って嵩張る。

 なので、体積ばかり大きくて安いとなると、流通側としては、面倒が増えただけで旨味の無い商品と言うことになり、扱うのは余り嬉しくないってことだ。



「それに、相手が富裕層……王族貴族に大店商人達となれば、一週間分で1,000トールでも文句は言わないでしょう。彼女達の場合は、お金を使うことがステータスみたいなところもありますし」

「でも、それだとアリアやマルシェ、それにオゼンピックさんも購入するのは大変じゃないですか?」


 すると、ここでアリアが、

「じゃあ、安価で購入できるよう、トオル製薬社員には、社内販売を導入したらどうでしょう?」

 って提案して来たんだけど、

「それはダメです!」

 と、オゼンピックさんは、一刀両断の如く即刻却下した。

 当然、アリアとしては納得できないみたいだ。


「どうしてです?」

「社内販売で安く購入し、それを転売する社員が出てくるからです」

「たしかに、そうですけど……」

「しかし、トオル製薬社員と、せめて流通センター職員には、この入浴剤を安く使わせてあげたいとの気持ちはあります。勿論、私も入浴剤入りのお風呂に入りたいです。そこで、私からの勝手な提案ですが、トオル製薬内に銭湯施設を作り、そこに入浴剤を入れ、トオル製薬社員と流通センター職員は安価で入れるようにしては如何でしょう? 例えば100トールで入れるとか?」

「たしかに、イイかも知れませんね、それ」

「でしょう?」


 一瞬でアリアは、オゼンピックさんの案に引き入れられたみたいだね。

 勿論、ボクとしても、この提案はアリだ。


 あと、問題は銭湯施設の建設費用だけど……。

 これは、オゼンピックさんが言い出したくらいだから、経費で何とかなるんだよね?

 もっとも、最悪の場合は、ボクが一度消滅した時に残した遺産を当てればイイと思うけどね。

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