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75:抗ヒスタミン薬!

 それから二時間後。

 アリア達には先に店の外に出てもらい、ボクは一人、支払いカウンターの前にいた。


「合計で70万トールですので、あと40万トール、お願いします」

「……」


 それにしても、何故こんな額になったんだろう?

 これは、どっちにしても経費落としは百パーセントムリだ。

 王族や上級貴族達が食事をする高級店で、キチンと仕事の話をしたのならともかく、大衆酒場での社内接待だからね。

 たった七人で、何を飲み食いしたんだって話になるよ。



 支払いを済ますと、待っていてくれた兵士達の同行の元、ボク達は大衆酒場を後にした。

 向かう先は、トオル製薬の傍にあるボクの家。

 そこにアリア達を全員、連れて行く。


 アリア達は、完全にみんな千鳥足状態だったけど、兵士達のサポートもあって、なんとかボクの家まで辿り着いた。

 その間、みんな順番に、道端にエクトプラズムみたいなモノを口から派手に吐き出していたけどね。


 兵士達も、ボクの家の一階で待機。

 こんな寒空の中、一晩、外にいさせるわけには行かないからね。

 酒場の前で待たせて、本当に申し訳なかった。


 なので、

「出ろ!」

 ボクは、女神様からいただいたペンダントにお願いして、兵士達にスウィーツを出してあげた。


「これが噂の!」

「マジですか?」


 なんだか、一部ではボクの出すスウィーツが伝説になっているらしいんだけど……。

 結構、喜んでもらえて何よりだ。



 一方のアリア達だけど、さすがに階段を使わせるのは怖いので、

「出ろ!」

 ボクは、再び女神様からいただいたペンダントにお願いして、一階部分に人数分の布団を出してもらった。

 一応、生活必需品ってことで、出してもらえたよ。

 兵士達の分も併せてね。


 そして、そのまま全員、眠りについた。

 ただ、兵士達の場合は、ボクを守る立場だから、多分、順番に仮眠をとる程度なのかも知れないけど……。


 …

 …

 …


 翌朝。

 ボクにとっては清々しい朝だったけど、アリア達にとっては最悪のようだ。


「あだまいだいぃぃぃ」

「ぎもぢわるい」


 何気に声に濁点が付いていたよ。

 相当、頭が痛くて気持ち悪いんだろうね。


 なので、早速、

「出ろ!」

 ボクは二日酔いの薬候補……L-オルニチンとクルクミンの合剤を人数分出した。

 予定通り、アリア達には、これを飲んでもらう。


 そして、六人共飲んでくれたんだけど……。

 五分もしないうちに、

「全然治らないよぉ」

「頭が割れるように痛いぃ」

「気持ち悪い」

 と言い出した。

 なんか、ボクの出す薬なら瞬時に治せるって勝手にイメージしていたみたいだ。


 さすがに、それはムリじゃないかな?

 あれだけの量を飲んだからね。

 さっきの合剤程度じゃ、焼け石に水かも知れないなぁ。



 この実験は失敗だ。

 むしろ、二日酔いに効くとか言って販売すると、過剰に期待されるってことだ。

 それが分かっただけでも良しとしよう。


 なので、実験は強制終了。

「物質転移!」

 ボクは、アリア達の体内から、順にアセトアルデヒドを体外除去していった。



「楽になったわ、トオル」

「でも、二日酔いの薬はダメだね。さすがに、あそこまでヒドイのを瞬時に治せるわけじゃないし、もっと軽い症状の酔いから復帰するのが若干早くなる程度だと思うし」

「そうなんだ」

「それにしても、随分、派手に飲み食いしたね、みんな」

「たまにはイイでしょ?」

「そうだけど、でも、全部で70万トールだったし……」

「えっ?」


 さすがに、これにはアリアもマルシェもアイカも、それからソナタも凍り付いた。

 日本円にして、一人十万円だ。

 さすがにアリアも、ここに来て経費落としはムリだと悟ったようだ。



 ただ、超高給取りのミサとロンドは動じていなかったけどね。

 もっとも、ボクがミサ達の百倍は稼いでいるって、二人は知っているからだと思う。

『トオルなら、それくらい屁でもないよね?』

 って顔をしていたよ。


「ええと、支払いは?」

 こう聞いて来たのはマルシェ。


「今回は、ボクの奢りってことで構わないよ」

「でも、さすがに……」


 恐らく、高いお酒をガツンガツン飲んだって自覚だけはあるんだろう。

 この時のマルシェは、もの凄く申し訳なさそうな顔をしていた。


「そもそも、二日酔いの薬を商品化できないかって言い出したのはボクだしね」

「そう言うわけには。一人10万トールずつの割り勘で」

「気にしないでイイって。今回のは、ボクの勉強代ってことにして」

「でも、それじゃ悪いし」

「問題無いから大丈夫。それより、入浴剤って受け取っているよね?」

「ええ」

「それを使った感想をお願い」

「まあ、それくらいのことは、全然構わないんだけど……」



 丁度この時だった。

 ボクの家の扉が開き、アクティスが入ってきた。

 それも、ノックも無しで、いきなりだよ。

 もし、ここで誰かが着替えていたらどうすんのさ!


 幸い、そんなフラグは立っていなかったけど!

 もっとも、アクティスと別の女性にフラグが立ったら困るけどさ。


「なんだ、随分、今日は華やかだな」

「おはようございます、王子。こんな時間に、どうしたんです?」



 この時、アクティスからは、ちょっと不機嫌そうな雰囲気が感じられた。

 ボクは、

『もしかして、昨夜のマルシェとアイカの会話が誰かに聞かれていて、それが街中で噂になって、既にアクティスの耳にも届いているんじゃ?』

 なんて、一瞬思ってしまった。

 まあ、もし噂になっていたとしても、こんなに早くアクティスの耳に入る訳は無いんだけどさ。


「それが、ここ数日、ベリルのヤツがちょっとな。朝起きると、身体のアチコチがかぶれているみたいな感じで。それで気になって」


 これを聞いて、ベリルには悪いけど、ボクは内心少しホッとした。

 少なくとも、マルシェ達の件は関係無さそうだ。


「それって、日中はどうなんですか?」

「一部は残るみたいだけど、ほとんどは数時間以内に消えるみたいだ」

「そうですか」

「ただ、虹色巻貝の件もあったから、ちょっと気になってな」



 アクティスの気持ちも分からなくは無いけどね。

 でも、あの時のは、住血吸虫が経皮感染して起こったかぶれだけど、多分、今回のヤツは全然違うだろう。



「外にエリカを待たせている。至急、城まで来てくれないか?」

「分かりました。じゃあ、アリア。申し訳ないけど、戸締りをお願いしてイイ?」

「了解」

「では、王子。行きましょう」


 アリアは、ボクの専属秘書だからね。

 一応、この家の鍵を持っている数少ない人間なんだ。


 それに、ここにいるメンバーは、マルシェ以外、トオル製薬の社員だし、マルシェも流通センターで働いている人間だからね。

 基本的にボクの家を荒らすなんてことは無いだろう。

 そもそも、化学が分からなければ、ボクの家にある書類を漁ったところで意味不明だろうし、薬を出す能力が無ければ、情報を盗んだところで活かすことは出来ない。



 早速、ボクはアクティスと一緒にエリカさんの転移魔法でお城へと向かった。

 門番は、当然パス。

 そして、そのままボクは、ベリルの部屋へと通された。

 乙女の診断のため、兄妹とは言えアクティスは部屋の外で待機だけどね。

 それと、気を使ったのかエリカさんも入室しなかった。


「おはよう、ベリル」

「おはようございます」

「アクティスから、身体が、かぶれているって聞いたけど?」

「ええ」

「今は?」

「ちょっと、腿と脇腹が残っています」

「見せてくれる?」

「はい」


 ベリルがドレスを脱いだ。

 たしかに脇腹と腿が赤く腫れていたけど、これは恐らく蕁麻疹じゃないかな?

 念のため、チャットボット機能で確認しておこう。


『Q:ベリルのコレは蕁麻疹?』

『A:その通り』


『Q:薬は何がイイ?』

『A:抗ヒスタミン薬』


 やっぱりね!

 と言うわけで、

「出ろ!」

 ボクは抗アレルギー薬を出してベリルに渡した。


「取り敢えずだけど、これを毎晩、夕食後に飲んで様子を見て。足りないようなら朝晩にするから」

「分かりました。でも、これって、変な病気じゃ?」

「大丈夫。ボクが出向した先の世界では、同じ症状の人も、それなりにいたから」

「本当ですか?」

「薬で症状を抑えて、普通に生活できているよ」

「じゃあ、大丈夫なんですね?」

「うん」

「良かったぁ」


 一先ず、これでベリルも安心したようだ。

 余程、不安だったんだね。

 糸状虫とか住血吸虫の件もあったし、その前には全世界的に流行した……女神様が男女比を戻すために意図的にやったヤツだけど……高熱の病気もあった。

 他にも、他の国ではコレラみたいなのとかもあったしね。

 だから、病気に対して過剰反応しているんだと思う。


 それこそ、病気不安症なんてのもあったっけ。

 ベリルには、そうなられても困る。

 安心させることができて良かったよ。



「そうそう。あと、これを使ってみてくれる?」

 ボクは、そう言うと物質創製魔法で、なんちゃって入浴剤を出してベリルに渡した。

 今回の蕁麻疹に効くかどうかは分からないけど。


「これって、何ですか?」

「入浴剤って言うんだけど」

「入浴剤?」

「要は、温泉の元みたいなモノだって思ってもらえればイイよ」

「温泉ですか?」

「一週間分渡しておくから。これを一個、お風呂に入れて溶かして、それで入ってみて。それで使った後の感想とか、いくらくらいなら買うかとかを知りたいんだよ」

「分かりました」


 これで、モニターを新たに一人ゲット!

 いっそのこと、フルオリーネ女王陛下とルビダスにも協力してもらおう!

 まあ、アクティスに渡しておけばイイか。



「じゃあ、一旦、ボクは帰るので。ちょっと、昨日、友達と食事して、そのままお店の方に泊まったから家に帰っていなくてね。義母が心配すると思うから」

「そうですね。では、温泉の元は、使ってみます。それと、薬代ですけど」

「後でアクティスに請求しておくよ。あと、明日もヒドいようなら、また呼んでくれるかな?」

「分かりました」


 一先ず、ボクはこれでベリルの部屋を御暇させてもらった。

 本当に帰らないと、マジでマイトナー侯爵を心配させちゃうだろうからね。



 部屋を出ると、開口一番、アクティスから、

「ベリルは大丈夫か?」

 と聞かれた。


「薬を渡しておきました。多分、これで治まると思いますが、明日の朝の様子を見て、改善していないようでしたら薬を増やします」

「そうか」

「それとですね」


 ボクは、ここでも、なんちゃって入浴剤を出した。

 アクティスとフルオリーネ女王陛下、ルビダス、それからエリカさんの分だ。

 もしかすると、アクティスは興味が薄いかも知れないけど、女性組なら喜んで使ってくれそうな気がするからね。


「これ、入浴剤って言って温泉の元みたいなモノなんですけど」

「温泉?」

「お風呂に入る時に、お風呂にこれを入れて溶かしてもらうだけで、お風呂のお湯が温泉のように変わるんです」

「温泉か。まあ、俺は、余り興味は無いが……」


 やっぱりか。

 男性陣が温泉に興味を持つのは、もうちょっと年が行ってからかな?


「では、ルイージさんにお渡しください。それで、使った人から、感想とか、いくらくらいなら買うかとかを聞きたいんですけど……」

「別に構わないが、商品化を狙っているのか?」

「可能であれば、です」

「分かった。ただ、こう言うのを作るとは意外だった。陛下とルビダス、ルイージには俺の方から渡しておく」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。あと、エリカさんもお願い」

「イイんですか?」

「はい」

「分かりました」


 ボクは、アクティスとエリカさんに入浴剤を渡した。

 アクティスには三人分だから結構な数になったけど、よろしく頼む!



「では、エリカ。トオルを侯爵家の屋敷まで送ってあげてくれ」

「分かりました」

 一先ず、ボクはこれで、エリカさんの転移魔法で侯爵家のお屋敷に戻された。



 お屋敷に着くと、マイトナー侯爵からは、開口一番、

「お帰りなさい。ただ、二日酔いの薬はダメだったんじゃないかしら?」

 と言われた。


「はい。今回は、諦めます。でも、どうしてダメって分かったんですか?」

「トオルちゃんが二日酔いの薬を出すなら、一瞬で頭痛も吐き気も治まるって期待しちゃうから。でも、私が飲んだ時も、瞬時に治ったわけじゃないし、結局はトオルちゃんの物質転移で治してくれたでしょ?」


 つまり、マイトナー侯爵は、アリア達の件を通してボクが理解したことを、既に感じ取られていたってことだ。

 だったら、先に言ってくれれば良かったモノを。


 でも、たまには、あんな飲み会もイイか。

 前世でも前々世でも、ほとんど経験できなかったしね。

 仲間内での飲み会なんて。

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