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70:大地震!

 その晩、ボクは、またもや夢を見ていた。

 夢の中に広がる空間は、過去に何回か来たことがある場所だった。真っ白な空間で、清らかなエネルギーに満ちている。


 ボクの目の前に、神々しく光り輝く球体が降りて来た。

 この波動は、女神フィリフォーリア様で間違いない。女神様がボクを幽体離脱させて、この場所に連れて来たってことだろう。



 女神様には特定の決まった姿は無い。

 老若男女、どの姿を取ることも可能だ。


 なので、会う相手の状況とか好みによって姿を色々と変える。

 相手がリラックスできるようにとの配慮らしい。



 ボクが初めてフィリフォーリア様にお会いした時は、女性の姿をしていた。それで、ボクはフィリフォーリア様のことを女神様と呼んでいる。

 ただ、今のボクと完全に瓜二つの姿だったんだけどね……。


 当時のボクはヲタクな成年男子でね。

 ボクが勝手に理想像だって思っていた女性の容姿になりきることで、女神様はボクの注意を引こうって考えたらしい。

 ただ、まさか、ボクがその姿にされるとは、あの時は思っていなかったけどね。



 その後、ボクに会う時は、女神様の姿は基本的に光の球体になっている。

 ムリに人型を取る必要が無いって思われているのかな?


「トオル。今のうちにお願いしておきたいことがあります」

「何でしょうか?」

「堕天使アルセニコスのことです。アルセニコスは、自身の消滅から丁度400年後に動き出すよう、ある時限装置をセットしていました。今から、約190年後に時限装置が稼働します」

「では、ボクは、その時限装置を停止させてればよろしいのでしょうか?」

「もし、それが可能でしたらお願いしたいところですが、時限装置は、全世界数百か所に仕掛けられております。さすがに、その全てを見つけ出して停止させるのは、実質不可能でしょう」

「それでは、ボクは、いったい何をすればよろしいのでしょう? それに、時限装置って、いったい何を引き起こそうとしていたのです?」

「アルセニコスは、190年後に特殊なウイルスを解き放とうと計画していたのです」

「またウイルスですか?」

「そうです。トオルからすれば、芸が無いと思われるかもしれませんね」

「いえ、別にそう言うつもりはございませんけど……」


 さすがに、新しいウイルスを作り出すなんて、ボクには到底出来ないからね。

 なので、芸がないなどとは思っていない。


 ただ、

『ワンパターンだな』

 とだけは思っていたけどね。


「そのウイルスを、世界各所で一斉に撒き散らそうとしていたわけです。まさに、二百年以上前に、トオルを使って散布した時のように」

「……」


 それを言われると、正直辛いな。

 何も言えなくなってしまうよ。

 過去のボクの過ちを、本当に女神様は許してくれているんだろうか?



 二百年ちょっと前……。

 前々世では、ボクはアルセニコスの手下になっていて、ウイルス散布の実行犯だった。


 現世では、みんながボクのことを聖女様とか御使い様とか女神様とか言ってくれる。

 その言葉には一応慣れたけど、前々世の記憶があるからね。

 だから、心の奥底では、

『そんな大それた人物じゃないってば!』

 って、ボクはホンキで思っているんだよ。


「実は、時限装置の一つがドロセラ王国付近に仕掛けられてあります。そこで、これから私の手で大地震を引き起こし、その時限装置を敢えて破壊し、中に休眠状態で封じ込められているウイルスをドロセラ王国及び近隣諸国内に撒きます」

「では、この辺一帯では再び病気が蔓延すると言うことですか?」

「そうなります。基本的にトオル以外は全員が感染するでしょう。今回も、トオルにはウイルスに対抗する薬を作ってもらいたいのです。構造式は、トオルが目を覚ました後、こちらから提示します」

「でも、どうして190年を待たずに破壊するのですか?」

「190年後のネペンテス世界に、トオルのような者が存在する絶対的保証が無いからです。そこで、今のうちに治療の前例を作り出し、それを記録に残すことで190年後に備えて欲しいのです。全世界にウイルスが解き放たれた時に対処できるように予行演習してもらうことが、今回の目的です」


 言い方を変えれば、この世界の未来の人達への安心材料を作っておいて欲しいってことだろうね。

 たしかに前例があれば、多少なりとも不安を取り除くことができるだろう。


「分かりました。それから、そのウイルスに感染することによる致死率は、どの程度になるのでしょうか?」

「今回のウイルス感染による病状によって患者が死を迎えることはありません」

「そうですか」

「ただ、薬を飲まなければ、一生高熱が治まりませんし、頭痛が激しく、罹患した者は仕事も何も出来なくなります。起き上がることすら厳しい状態となります」

「でも、全員がそうなりますと、産業が全て止まりませんか?」

「完全に停止します。そして、人々は食にありつけなくなり、その結果、死を迎えることになります。それがアルセニコスの狙いなのです」


 それって、長期に渡って苦しんだ上で飢え死にしろってこと?

 なんかムチャクチャ性格悪いよ、アルセニコスのヤツ!


 どうしてボクは、前々世でアルセニコスなんかを崇拝したんだろうって、今更ながらに思うよ。

 まあ、あの頃のボクは、今みたいに恵まれていなかったから、心が病んで、そうなっちゃったんだけどね。


「それと、その地震は、いつ起こるのでしょう?」

「今すぐです」

「えっ?」

「では、よろしくお願いしますよ」


 そう女神様に言われた直後、ボクは目を覚ました。

 なんだか、ドロセラ王国が実験台に使われるみたいで余り嬉しくないなぁ。


 でもマジで、すぐに地震が来るなんて嘘でしょ?

 とか思っていたら、本当にボクの目覚めから数秒後、

『ゴゴゴゴゴゴッ!』

 と大きな地響きが聞こえて来たかと思うと、建物が激しく揺れ始めた。

 本当に女神様は地震を起こしちゃったってことだ。


 やっぱり、さっきの夢は、ボクの妄想じゃなくて現実だったってことか。

 まあ、ある程度の覚悟はしていたけどね。



 でも、あれが現実だったと言うことは、ここドロセラ王国と近隣諸国を舞台に、190年後に引き起こされるであろうパンデミックに備えた訓練が行われるってことに他ならない。

 正直、ちょっと、それだけは勘弁して欲しかったな。



 地震が治まった。

 かなりの揺れだったけど、お屋敷の方は倒壊箇所が無く無事だった。


 ふと、ボクの頭の中に三つの化合物の構造式が流れ込んで来た。今回は、この三種の化合物の同時投与と言うことだ。

 それで完全にウイルスを根絶しろと言うことだね。


 投与量は、全て同じ。

 一日二回の一週間投与か。

 忘れないように、ボクは急いで紙に構造式を記載した。



 丁度、ボクが構造式を描き終えた直後、ボクの部屋のドアが開いた。

 そして、

「トオルちゃん。無事だったのね!」

 と言いながらマイトナー侯爵がボクの方に駆け寄ったかと思うと、ボクの身体を強く抱き締めた。


「はい。侯爵様もご無事で何よりです。他の皆様は大丈夫でしょうか?」


 このお屋敷には、侍女や料理長、お抱え転移魔法使いなども一緒に暮らしている。

 身分の違いはあるけれど、全員家族みたいなものだ。


「全員無事よ」

「それで侯爵様。実は先程、女神フィリフォーリア様から啓示がありまして、この地震をきっかけに堕天使の仕掛けが破壊され、病原体が活動し出すとのことです」

「何ですって?」

「本当は、190年後に全世界で一斉に発動する予定だったのですが、今回の地震でドロセラ王国の近くに仕掛けられたモノだけですが、破壊されて中に保管されていた病原体が流出するらしいんです」

「それって本当なの?」

「ボクも信じたくはありませんでしたが、掲示の中には大地震のことも含まれておりましたので……」

「そうね。信じざるを得ないってことね」

「はい。ドロセラ王国を含め近隣諸国で多くの感染者を出すことと思います。でも、治療薬についても女神様から指示を受けております。その薬で病原体を根絶して、キチンと記録に残すようにとも言われております」

「190年後に、全世界で一斉発動するのに備えての記録ってことね?」

「そうです」

「では、急いで女王陛下に報告しないと」


 このマイトナー侯爵の判断は基本的に正しいと思う。

 国の一大事だからね。

 女王陛下への報告は早いにこしたことは無い。


 でも、今行っても城内はパニックだろうなぁ。

 そこにさらに、パンデミックのネタを大急ぎで話しに行っても、女王陛下やアクティスの不安をムダに煽るだけな気がする。

 それに、今回のウイルスは致死的じゃないし。


「多分、夜が明けてからでもよろしいかと思います」

「でも、またとんでもない病気なんでしょ?」

「たしかにとんでもない病気ですが、今回の病気が原因で直接死亡することは無いそうです」

「そうなの?」

「はい。それに、今すぐお城に出向いても、大地震直後で城内も慌ただしい状態になっているのではないかと思いますので」

「それは、たしかに有り得るわね」


 マイトナー侯爵は、病気が直接の死因にならないと聞いて安心したようだ。

 少しホッとした顔をしているよ。


「ですので、9時くらいに行ければイイかなと思っています。たしかに、女神様からは、御提示された薬を飲まないと、一生高熱と頭痛から逃れることが出来ないと聞かされています。その結果、人々は完全に動けなくなって産業が停止すると予想されます」

「それって、マズくない?」

「そこまで放置したらマズいと思います。そうなってしまったら、食糧調達が出来なくなって全員飢え死にすることになりますので」

「じゃあ、急がないとイケないんじゃない?」

「でも、そこまで到達するには、まだ時間的には結構余裕がありますので」

「そ……そうなの?」


 正直、今、半日程度遅れたところで全然問題ない。

 それよりも今は、薬の事前確保の方が大事だと思う。


「はい。ですので、ボクはトリルシティの方の居室に行って、女神様から御提示いただいた薬の製造を開始します。発症後、すぐにみんなが服用できるように」

「たしかに、それは大事ね」

「では、申し訳ございませんが、9時くらいにボクのところまでバイエッタさんに来ていただくことは可能でしょうか?」

「問題ないわ。ただ、私も一緒について行くわよ」

「ありがとうございます。心強いです」


 ボクは、急いで身支度すると、特殊ゲートを通ってボクの店だった建物へと移動した。

 侯爵家の御屋敷と、その建物の二階……ボクの居室を繋いでいるんだ。


 そして、ボクは一階に降りると、

「こんばんわ」

 その場にいた警備兵達に挨拶した。

 夜間なのに大変だね。


 警備兵達は、ボクが突然湧いて出て来たんで、

「えぇぇ!?」

 って大声を上げて驚いていたけどね。



 一先ず、警備兵達には建物の外で見張ってもらうことにした。

 つまり、建物の中から、ちょっと出てもらったんだ。

 気が散るからね。


 そして、

「三化合物の合剤。出ろ!」

 ボクは、取り急ぎ、女神様から提示された三化合物を全部含んだ合剤を一錠、試作してみた。

 三剤入っているからね。

 今まで作ってきた錠剤の中では比較的大き目の方だ。

 お通じの薬と同じくらいの大きさかな?


 でも、それなら服薬は可能なはず。

 飲めない大きさじゃないってことは、既にお通じの薬を通して立証されている。



 続いてボクは、

「出ろ!」

 14錠入りのPTPシート(プラスチックとアルミで挟んだシート)で、さっきと同じ薬を出してみた。

 1シートで14錠にしたのは、一日二回の一週間投与なので、このシート1枚が一人分ってことで分かり易いからだ。



 今度は、このPTPシートに入った状態のモノを5枚一組でパックされたモノをイメージして出してみた。

 成功!


 さらに今度は、1パックでシート5枚入りのモノを5パックで一箱に入った状態をイメージして作ってみた。

 これも成功!


 次は、この箱が10個入った段ボール箱をイメージして、

「出ろ!」

 製造にチャレンジした。

 このダンボール一箱で250人分になる。

 初めて作る薬だし、合剤ってこともあって、これだけの量を一度に作るとなると、少し時間がかかったけど、何とか成功。


 あとは、このダンボール箱で、一万箱くらい作ればイイってことだ。ちょっとムリすれば、一気に十箱くらい作れそうかな?

 慣れれば、もっとガンガン作れると思うし、今回は全世界分じゃないから、何日もかからずに終わりそうだ。



 とにかく、ボクは必要量確保に向けて大量生産に入った。

 それと、この建物の中に作ったモノが全部入り切るかどうか分からないので、ある程度の量を作ったところで順次アイテムボックスに入れて行ったよ。

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