69:本当はエリクサーが出せるとイイんだけど?
アドレア王国に到着。
時差があるからね。
既に現地は日が暮れていた。
先ず、ボクはミランダさんに連れられて王都の居城に足を運んだ。
勿論、ボクの護衛役のルイージさんも同行。
ボク達は、そのまま謁見室に直行した。
もう夜だし、謁見待ちの人は既にいなかった。
と言うか、とっくに謁見時間は過ぎていた。
ボクに会うためだけに、特別に謁見室で女王陛下が待機されているのだろう。
それだけ、ボクに一秒でも早く会いたいって思ってくださっているってことだ。
もし、これが日中だったら、謁見待ちの人達を全員すっ飛ばして完全に横入り状態でボクは謁見室に通されたんじゃないかって気がする。
こんな小娘相手に、そこまで気を遣わせて、いつも申し訳ないって思っています。
謁見室に通された。
「はじめまして、女王陛下。ドロセラ王国より参りましたトオル・マイトナーです」
「遠路はるばるご苦労であった。私はアドレア王国の女王オレアンド。噂通り、たしかに美しい。ドロセラ王国の女王フルオリーネが、行く先々で自慢したくなるのも分かる気がする」
そうなんだ……。なんか恥ずかしいけど。
でも、なんとなく想像できる。
「我が国の王太子の妃に迎えたいくらいだ」
あれっ?
王太子って、アクティスくらいしかいないんじゃなかったっけ?
「王太子様がいらっしゃるのですか?」
「まだ三歳だがな」
「そ……そうですか」
女性しか生まれない奇病を治した後に生まれたってことだね。
たしかに、それなら有り得るけど、まだ三歳なのに、もう王太子に任命されているんだ。
もしかして第一子なのかも。
まあ、細かいことは、後でミランダさんにでも聞こう。
「既にミランダより報告を受けていると思うが、トオル殿には我が国で起きている高熱と激しい咳の治療をお願いしたい」
「承知しました」
「折角、女神と名高いトオル殿とお会いできたので、本当は、もう少し話をさせていただきたいところだが、時は一刻を争う。よろしく頼む」
「心得ております」
ボクは、オレアンド女王陛下にお辞儀をすると謁見室を後にした。
そして、ルイージさんの転移魔法でミランダさんと共に海岸近くの街スカレスタへと急行した。
そこから順に患者達を治して行く。
スカレスタに到着。
王都からは結構な距離があるけど、転移魔法だと一瞬で到着できるから便利だ。
既に空中からは火山灰粒子が殆ど消えていた。
やはり、台風が幸いしたようだ。
これならマスク着用も不要だろう。
「こちらです」
ボクは、ミランダさんの案内で、患者達を集めた施設に通された。
「失礼します」
一歩、施設内に入って感じたことは……、正直言って病人臭いってことだった。
特にウイルスとか病原菌が室内でウヨウヨ浮遊しているわけではない。
ただ、熱が高いし咳がヒドイし、人々はインフルエンザか何かと勝手に勘違いしているようだった。
でも、それなら換気して欲しかったんだけど……。
もっとも、とんでもない病原体に感染しているんじゃないかって思って、患者達を隔離していたみたいだけどね。
そのお陰で、ボクは一軒一軒家を回らずに済んだのは助かったよ。
先ずボクは、
「出ろ!」
物質創製魔法で小ビンを取り出し、
「転移!」
患者の体内から火山灰粒子を、綺麗さっぱり、その小ビンの中に物質転移させた。原因物質を取り除いたってことだ。
でも、炎症が治まったわけではない。
なので、
「出ろ!」
ボクは、抗炎症薬と気管支拡張剤を出して、患者達に順に飲ませて行った。
これで患者達は随分と楽になるはずだ。
ボクは、患者に薬を飲ませる毎に、
「あまり無理をなさらず、ゆっくり休んでください。これで、少ししたら呼吸が楽になりますよ」
と声をかけた。
本当はエリクサーが出せるとイイんだけど、そこまで都合の良い設定を貰えていないからね。
申し訳ないけど、瞬時に効果が出るわけじゃない。
でも、一応、治療法としては間違っていないと思うから大丈夫だよ。
次の患者も、その次の患者も、体内から火山灰粒子を除去し、気管支拡張剤を飲ませて行った。
患者達は、薬を与えられると、
「トオル様、ありがとうございます」
「これできっと楽になります。ありがとうございます」
「聖女様、ありがとうございます」
「御使い様、ありがとうございます」
「女神様、ありがとうございます」
とボクへの感謝の言葉を口にしてくれた。
本当は、声を出すのも辛かっただろうに……。
ただ、台詞がドンドン人外相手のモノに変わって行っている気がするんだけど?
そして、この施設内にいる患者全員の処置が終わると、ボクは次の施設へと移動した。
次の施設でもボクは、
「物質転移!」
患者の体内から転移魔法で火山灰粒子を取り除き、薬を与えた。
とにかく、それを次々と繰り返すだけだ。
さらに、その次の施設でも、そのまた次の施設でも、ただ、同じ処置を繰り返した。
翌日は、隣の街へと移動した。
そこでも、やることは同じ。火山灰粒子を転移魔法で除去し、抗炎症薬と気管支拡張剤を処方する。
そして、こっちに来て三日目で、施設に収容されている患者の処置を全て終えた。
街中には、軽い咳をしている人が、それなりにいたけど、発熱していない人は、ちょっと風邪気味くらいって思っていたようで、普通に働いていた。
なので、ボクに治療を依頼してきたのは、基本的にマトモに気管支炎を発症して高熱を出した人のみだった。
施設に収容されていた患者全員の処置を終えたけど、ボクは経過観察するためにスカレスタの隣の街アプリシアに少し滞在することにした。
そして、こっちに来て五日目の午後、ボクのところに一人の女性が駆け込んで来た。
何があったのかと思ったけど、
「スカレスタの街から来ました。母を助けてくださってありがとうございました!」
ボクにお礼を言うためにワザワザ大急ぎで来てくれたようだ。
「症状の方は?」
「熱も下がり、咳も随分と穏やかになりました。これも、トオル様のお陰です」
「いいえ。ボクは、人々に元々備わっている治癒力が出せるように、ちょっとだけお手伝いをしただけです。治したのは、お母様御自身の力ですよ」
「でも、あのまま熱が下がらなかったらどうしようかって思いましたので」
「症状が治まって良かったですね」
「はい、ありがとうございます」
その女性は、ボクに深々と頭を下げると、両手を合わせてボクを拝んでいた。
完全に人外扱いだけど、もうイイや!
結果的に、アプリシアの街には十日くらいいて、その間、患者達の様子を毎日見て回ったけど、特に問題無し。
全員、症状は大きく改善したよ。
それでボクは、アドレア王国の城に行き、オレアンド女王陛下に原因が火山灰であることを報告した。
火山灰が原因で発熱したってことに女王陛下は驚いていたけどね。
そして、その足でボクはルイージさんと一緒にドロセラ王国へと戻った。
帰国して最初にすべきことは、フルオリーネ女王陛下への報告だ。
お城に着くと、ボクは早速、謁見室へと通された。
「トオル。今回はご苦労でした。ただ、思ったよりも早かったけど?」
「今回の患者達は気管支炎を起こしていたのですが、特に感染するモノでもなく、原因となったモノは幸か不幸か台風の時に振った大雨で空中から洗い流されていたようです。それで、意外と早く終わりました」
「そ……そう……。それで、原因って?」
「火山灰粒子です」
「えっ?」
「海底火山の噴火で細かい火山灰粒子が一部の街に降り注いで、それを吸って胸の中で炎症を起こしておりました」
「火山灰?」
「はい」
「そんなもので高熱が出るの?」
「そうなんです」
「信じられないけど」
「それで、物質転移魔法で火山灰を除去し、あとは抗炎症薬と呼吸を楽にする薬を与えて様子を診ただけです」
「そうだったのね。でも、原因が火山灰って……」
さすがに、フルオリーネ女王陛下も、火山灰で咳き込むのは理解できても、マトモに発熱するのは理解し難い様子だった。
でも、話をしていて、ボクは、女王陛下は聡明な方だって思っている。
この世界よりも何世紀も後の時代の科学を元に、ボクは話をしているけど、それになんだかんだ言いながら付いて行けているからね。
「ただ、火山の噴火では毒ガスが発生することもあります。今回は、毒ガスの発生は無かったようでしたけど」
「それは幸いね」
「そう思います」
「でも、トオルちゃんが来てからと言うもの、今までの私達では分からなかった病気の原因が色々解き明かされて、如何に私達が無知だったかを思い知らされたわ」
「無知だなんて、そんなことは」
少なくとも無知ってことは無いと思う。
ただ、そこまで科学が発達していないだけでね。
だから、知らなくても仕方が無いことだって思っているんだけど……。
でも、女王陛下としては、それじゃ納得できないみたいだね。
「いいえ。病気になる原因が菌だったりウイルスだったり寄生虫だったり……。それらの存在なんて、私達は知らなかったわよ。他にも精神的なモノで病気みたいになったり、さらには今回みたいに火山灰で高熱を出すなんて、今までの私達では到底考えられなかったことでしょう。そこで、トオルちゃんにお願いがあるの」
「何でしょうか?」
「今まで色々あった病気と、その治療の数々を記録に残し、トオル製薬内で情報共有できるようにしてもらいたいの」
「記録の作成でしたら、既に始めております。後の世代の人達のためにと思いまして」
「ホント! さすがトオルちゃんね。いずれは、薬学教室の卒業生を対象に、それらの記録を勉強するコースとかも作る必要があると思っているのよ。その時には、またトオルちゃんに、ひと働きしてもらうことになるかしら?」
「その時には、喜んでお引き受けさせていただきます」
つまり、今の薬学教室が大学だとすれば、大学院ってとこかな?
でも、地球のレベルからすると薬学教室が大学一、二年で、治療記録の勉強が大学三、四年ってとこかも?
もっとも、今の地球の教育体制と同じ土俵で比較はできないけどね。
そもそも論として科学の最先端がボク程度の人間だから……。
ただ、地球とは比べ物にならないくらいレベルは低いけど、少なくとも、今後、医学的根拠のない治療が行われなくなるだけでも大きな進歩になると思う。
それこそ、ボクが来る少し前までは、地球の中世ヨーロッパと同じで、この世界でも瀉血治療が普通に行なわれていたみたいなんだ。
体内に溜まった有害なモノを血液と共に外部に排出すれば健康が取り戻せるって考えのもとに行なわれていたらしい。
それで命を縮めた人も当然いる。
だから、女王陛下は病因を知らなかったことが許せないんだろうね。
ただでさえ、人口が少ない世界だからさ。
実は、地球でも瀉血治療が原因で早死にした人が沢山いるって言われている。
有名どころではモーツアルトとか……。
正直、そんなことは繰り返して欲しくないな。
一先ず、こんなボクでも地球時代に比べれば随分と役に立っているみたいだし、結果的に地球への研究出向は良かったんだと思う。
でも、ボクだけじゃなくて、そろそろ二人目の研究出向者とかいても、イイんじゃないかって思うけど、その辺、女神様は、どう考えているのかな?
或いは、地球での学問知識を持ったまま転生とか転移してくる人とか…………。




