66:薬学教室じゃなくて医学部モドキ?
ボクとアクティスは、エリカさんの転移魔法でドロセラ王国のお城まで移動した。
そして、今回の一件についてフルオリーネ女王陛下に報告したんだけど、さすがに女王陛下も、
「嘘でしょ?」
便秘で一人死にかけたとは、にわかに信じ難いようだった。
でも、事実だからね。
今回の件は、ボクのように診断魔法が使えて、しかも体内のモノを物質転移で移動できる人が他にもいれば、もっと早く対応できたかもしれない。
加えて、ウトリキュラリア王国の王都リビダでの結石の件もある。
それで、ボクは、女王陛下に一つ提案することにした。
「実は、診断・摘出の魔法を使える人材の発掘ができれば有難いと考えております」
「それは、私も同じ考えだけどね。ちょっと難しくない?」
「はい。例えば、診断魔法は、リキスミアさんも使えますけど、他には使える人の存在を知りません」
「そうなのよねぇ。診断魔法が使える人って、数か国に一人しかいないって言われているくらいだし」
えっ?
そうだったんだ!
ボクが思っていたよりも数段少ないよ!
たしかに、それじゃマルシェの母親が、
『診断魔法なんて知らない!』
って言ってもおかしくないかも?
だとすると、やっぱり診断魔法の一般化が必要だろう。
そのためにも、診断魔法の発動方法を考えることは絶対に不可欠だ。
「この世界には、万能な治癒魔法は存在しません。でも、科学的根拠のある現象でしたら魔法で引き起こせると女神フィリフォーリア様は定義されています。ですので、魔法で引き起こした科学現象(?)によって、全ての診断はムリでも、一部の診断だけでも可能に出来ないかって考えています。せめて、結石の場所の特定とかですね」
「たしかに、それが出来ると大きいわね」
「本当は、再生医療も学んで欲しいのですけど……」
「いきなり、そこまでは難しいでしょう?」
「はい」
「でも、結石とか、今回の汚物とかの取り出しが出来る人が他にもいれば、救われる人が出るのは確実でしょうね」
「そうなんです」
「寄生虫の取り出しも出来るでしょうし」
「そうですね。ただ、今、ボクが考えている方法ですと、寄生虫に関しましては、部分的にしか対応できない気がしますけど」
「それは残念ね。でも、どうやって人材を発掘するの?」
それなんだよね。
実は、一つ試してみたいことがあるんだ。
ヒントは、X線。
「トオル製薬の製造ラインで原薬を作っているミサ達には、化合物の構造決定のためにラジオ波とかX線の照射をしてもらいましたけど、今回は物質転移できる人を対象にX線を出せる人がいないか、探してみたいと思います」
「ええと、そのX線が診断に使えるってことかしら?」
「そうです」
「どう使うのかは分からないけど、トオルちゃんのことだから、一応、理に適った使い方ができるってことね?」
「そうなります」
「では、ワルハラ帝国を糾弾した時に賛同してくれた国にアナウンスしてみるわね。特にウトリキュラリア王国では、診断・摘出できる人が必要でしょうから」
「ボクもそう思います」
頻度は減ったとは言え、やっぱり結石を患う人はゼロになっていないらしい。
まだ、体内にシュウ酸が残っているからね。
それに、やっぱり、ついつい炒め物とか生で食べてしまう人もいるらしいんだよね。例のシュウ酸の塊とも言える野菜を……。
「それとね、トオルちゃん」
「何でしょう?」
「実は、再生医療のことで、一つ確認したいことがあるの。細かい講釈は必要無いから、イエスかノーで答えて頂戴。もしかして、再生医療を使えば、元の人間のコピーを作り出すことも可能なんじゃない?」
さすが女王陛下だ。
やっぱり、そこに気付いちゃったか。
「可能性としてはイエスです。ボクが前いた世界では、コピー生物のことをクローンと呼んでいました」
「じゃあ、クローン人間を作っていたの?」
「いいえ。さすがに、それは倫理的に禁止事項です。羊とかマウス、サルでは作成されましたけど」
「なるほど。そっちの世界では、そうだったのね」
「はい」
「あのね、トオルちゃん。私が気になったのは、この世界で再生魔法が一般化したら、例えばルイージみたいに戦闘力のある転移魔法使いのクローンを量産して、戦争を仕掛けてくる国が出て来るんじゃないかってことなのよ。あと、トオルちゃんのクローンを作り出して悪用するとか」
たしかに有り得る話だ。
ワルハラ社会主義帝国のシアン総統は、そこまで考えが及んでいなかったみたいだけど、さすがフルオリーネ女王陛下だよ。
でも、他にも気付く人が出てくるだろうな。
ボクは、人を救えるってことばかりに気が行ってしまっていて、クローン戦闘員の可能性までは考えていなかったけど。
あと、ボクのクローンのことも……。
さすがに自分のクローンは作りたくないな。
「十分有り得る話だと思います」
「じゃあ、やっぱり再生魔法はトオルちゃん一代だけで終わりにして頂戴」
「そうですね。ボクも、その方がイイと思います」
「でも、診断と異物の摘出が出来る人を増やすことは必要だから、そっちは声をかけておくわね」
「よろしくお願い致します」
かつて、クローンは、テロメア領域が短くなっているんじゃないかって議論があった。
でも、その後の研究結果から、体細胞クローン動物と通常の動物ではテロメアの長さに差異は無いとされている。
加えて、ボクが再生魔法を発動する時は、テロメア領域に変化が生じないように魔法でコントロールしている。
言ってしまえばテロメラーゼ魔法だ。
例えば、腕を失った人の腕を再生した時に、テロメア領域がジャンジャン減って行ったら、出来上がった腕と元の身体でテロメア領域の長さ……、つまり細胞老化に大きな差が生じてしまう。
一応、女神様としても、それは避けたかったんだろう。
それで、再生魔法を与えてくださった時に、テロメラーゼ魔法もセットでボクに与えてくださっていたんだ。
なので、いずれにしても再生魔法を使ってクローン人間を作り出すことは、決して不可能じゃない。
それが分かった以上、再生魔法は絶対に伝承無しだね。
ボクも女王陛下の意見に賛成だ。
「ああ、でも、トオルちゃんが死ぬ間際に、毎回トオルちゃんのクローンを一体作って、引き継いでもらうとかはアリかも」
「えっ?」
毎回ってことは、ボクのクローンも死ぬ直前に次のクローンを作るって意味だよね?
永久にボクのクローンが生き続けるってことだよね?
いくらなんでも、さすがに、それはちょっと……。
たしかに、クローンはオリジナルと遺伝子が同じだ。
でも、クローンが、必ずしも今のボクのように女神フィリフォーリア様や御使いシリシスの加護を受けられるかどうかは分からない。
つまり、ボクから化合物創製の魔法を取り上げた状態になるかも知れないってことだ。
そうしたら、単なる穀潰しにしかならないような気がするんだけど?
だったら、少なくともボクのクローンは用無しだよね?
この件についてだけは、ボクは女王陛下の意見に賛成できないや。
…
…
…
数日後、フルオリーネ女王陛下の御取り計らいで、物質転移魔法が使える成人女性が世界中から二十名ほど、ドロセラ王国のお城の一室に集められた。
当然のことだけど、この日、ボクは審査員としてお城に呼ばれた。
ボクが行かなければ話にならないからね。
その部屋は、かつてミサ達を試験した部屋だ。
今回も、受講者の机と椅子が人数分置かれていて、その向かい合わせに教卓……つまり、ボクの机が設置されていた。
勿論、今回も教卓は壇上に置かれていたよ。
念のため、ミサ達の時と同様にリキスミアさんにも来ていただいている。
ボクは、早速、壇上に上がって教卓に着いた。
「本日は、遠いところ、ワザワザお越しいただきありがとうございます。皆様には、魔法による診断と摘出にチャレンジしていただきます」
そして、今回もX線魔法を披露した。
つまり、両手を前に出して右掌と左掌を向き合わせると、右掌からX線を発生させて、それを左掌でキャッチしたんだ。
「これって、何をやっているか分かりますか?」
すると、
「右手から左手に向けて何か放たれているような……」
「私も、何か感じますけど……」
たった二人だけだったけど、一応、反応を示してくれた。
この二人のみ合格だ。
「二人には、このまま、この部屋に残っていただきます。お名前と出身国を教えてください」
「ウトリキュラリア王国のカリキフィダ村から来ましたサリナと申します」
「オーキッド王国から来ましたシャルルと言います」
結石患者の多いウトリキュラリア王国と、フィラリア患者がいるオーキッド王国か。
偶然とは思えない、出来過ぎた結果って気がしたよ。
悪いけど、他の人達は、ここで退席していただいた。
ただ、このまま帰れと言うのも酷だからね。一応、トオル製薬と流通センターの見学をしてもらう。
案内役は、既にエリカさんにお願いしてある。
ここからボクは、サリナとシャルルにムチャ振りをかますことになる。
先ず、この二人にもボクと同じようにX線の発生をさせてもらいたい。
「さっきのは、右掌からX線と言うモノを出して、それを左掌でキャッチしていたんです。現在、薬の製造ラインに入っている人の中にも、同じことが出来る人がいます。ですから、ボクにしかできない魔法ではありません。実は、二人にも、これと同じことをやってもらいたいんです」
「えっ?」
「ボクのやっていたことを見よう見まねでやってみてください」
「えぇっ?」
さすがに二人共、自信が無さそうだ。
少し呆然とした表情をしていた。
でも、各国から選ばれてきた以上、国の威信がかかっているからね。
二人共、一応チャレンジしてくれたよ。
たとえ、それがムチャ振りでもね。
サリナとシャルルは、共に両掌を向かい合わせて二十センチくらい離し、気合を入れた。
ミサやロンド達の前例があるからね。
きっと出来るんじゃないかって、ボクは勝手に期待していた。
取り敢えず、二人共、右掌から左掌に向けて、ボクと同じレベルのX線が放たれていた。
多分、これなら何とかなりそうだ。
続いてボクは、針金で作った直径一メートルくらいの輪を両手で持ち、その輪の中にX線を発生させた。
ミサ達とは違って、この二人には、単純X線画像からCT画像まで進化させてもらいたいんだ。
ちなみに針金は、女神様からいただいたペンダントにお願いして出してもらったモノだ。
「これも、やってみてもらえますか?」
「は……はい……」
サリナもシャルルも、ボクがやっていることの理屈は全然分かっていないと思う。
でも、なんとか見よう見まねで同じことをやってくれた。
やっぱり、二人共、女神フィリフォーリア様が用意してくださった存在なんだろう。
もし、そうだとすれば、最後まで行けるはずだ。
続いてボクは、予め用意しておいた小さなダイヤモンドを一つ、
「物質転移!」
ボクの体内に埋め込んだ。
これのある場所を特定してもらう。
「まずサリナさんにお願いします」
「はい?」
「この輪の中にX線を発生させた状態で、ボクの頭から足先まで、ゆっくりと輪にくぐらせてください」
「は……はぁ……」
多分、これが何を意味するのか分からないだろう。
でも、一応、サリナは、ボクに言われた通り、X線を発生させた状態で、先ずボクの頭を輪にくぐらせた。
すると、
「えっ?」
サリナは、ボクの脳みその断面画像をキャッチして驚いていた。
「なんですか? これ?」
「これが頭の中に入っているモノの断面図です。順に、ゆっくり足先まで見て行ってください」
「はい」
サリナは、頭から首、胸と、順次、ボクの断面画像を見ていった。
彼女の表情から察するに、まさに驚きの連続と言ったところだろう。
まさか、人の身体の中が、こんな風になっていたなんて、今まで想像もできなかったことと思う。
そして、丁度ヘソの辺りに来た時だ。
「あっ!」
彼女は異物の存在に気付いた。
「では、その異物を物質転送魔法で取り出してください」
「えっ?」
「それが出来れば、王都リビダで流行っている結石除去をアナタにお願い出来ます。それこそ、アナタが治療代を受け取れる立場になれるんです」
「分かりました。やってみます」
やっぱり、お金の力は凄いね。
今やっていることが、お金になるって分かったら、俄然、サリナは、やる気が出てきたみたいだ。
彼女は、その異物……小さなダイヤモンドに向けて、
「物質転移!」
転移魔法を照射した。
そして、その次の瞬間、そのダイヤモンドは、ボクの身体を抜け出して、サリナの掌の中に納まった。
成功だ。
「もしかして、これって」
「はい。ダイヤモンドです。そのダイヤモンドは記念に差し上げます」
「イイんですか?」
「はい。ただ、今回はダイヤモンドだったからイイですけど、患者の体内から除去するのはダイヤモンドではありません。直接、手で触れたくないモノもあるでしょう。その場合は、転移先は掌の中ってわけには行きませんので、ビンの中とかにしてもらいます」
「そ……そうですね」
「それから、X線は、本来、身体には有害ですので、同じ患者さんに何回も当てないようお願いします。それから、自分自身も浴びないように魔力で防御するようお願いします」
「わ……分かりました」
「では、次はシャルルさん。お願いします」
「はい」
ボクは、再び小さなダイヤモンドを、
「物質転移!」
自身の下腹部に埋め込んだ。
これをシャルルに特定してもらい、さらに物質転移魔法で除去してもらう。
シャルルも、ボクの断面画像を頭から順に見て驚いていた。
そして、下腹部をスキャンした時、
「これでしょうか?」
ダイヤモンドの存在をキャッチした。
「そうです。除去できますか? 今回はサリナさんと同様に掌の中で構いませんので」
「やってみます。物質転移!」
その直後、ダイヤモンドは、ボクの身体からシャルルの掌の中へと瞬間移動した。
シャルルも成功だ。
これで、二人とも第一段階をクリアしたけど、金属の輪を使わないでも診断出来る様になってもらう必要がある。
それこそ、特定部位だけにX線を照射して診断できるようになってもらえないと困るだろう。
他にもX線をラジオ波に変えてMRIを測定するとか、超音波画像診断を行うとか、色々課題がある。
勿論、ウトリキュラリア王国の王都リビダの結石患者達を通じて異物除去の実践も積んでもらいたい。
まだ先は長いけど、何とかなるだろう。
一先ず、導入部分は、ここまでだ。
ここから先は、ボク以外でも、多分対応可能な人材がいる。
今日は、そのために呼んだんだよ!
と言う訳で、あとは悪いけど、ボクは、診断魔法が使えるリキスミアさんに丸投げすることにした。
以前、ラジオ波の発生も見ているし、彼女に原理を教えておけば大丈夫だろう。
「じゃあ、リキスミアさん」
「はい?」
「後は、よろしくお願いします!」
これには、さすがにリキスミアさんも、
「えぇぇぇっ?」
と大声を上げながら、半ば拒否った表情をしていたけどね。
でも、ボクも少しずつ忙しくなってきているし……。
と言うわけで、
「デザート三十日分でどうですか?」
「せめて、その倍は」
「仕方ないですね。承知しました」
リキスミアさんとは、デザート二か月分で手を打った。




