7:競合店の美魔女達?
開店して一週間が過ぎた。
思惑通り、鎮痛薬がボクの店の主力商品となった。
アリアさんもミサさんも、結構、ボクの店を宣伝してくれたみたいだ。お陰で、客足も随分増えてきた。
効果が高い薬が一つでもあると、皆さん、他の薬にも結構期待してくれるようになるみたいだね。
それで、他の商品も徐々に売れるようになっていった。
ただ、水虫の薬は殆ど売れなかったし、ED治療剤は、まるっきり売れなかった。
そもそも、この世界の靴は地球のものに比べて風通しが良くて、水虫になる人が少ないらしい。
それで、水虫の薬自体に需要が余り無かったっぽい。
ED治療剤に至っては、アリアさんやミサさんみたいに男を毛嫌いしている女性は買うはずが無いし、男を欲しがる女性は薬を買うお金があったら男に貢ぐっぽい。
それで、誰も買ってくれなかったようだ。
一回使ってみれば、考え方が変わると思うんだけどな……。
地球では、画期的な薬だったんだよ、これ。
そして、開店から一ヶ月が過ぎた頃だった。
この日、三人組の女性……と言うかオバサン達がボクの店に来た。
ただ、余り良い顔をしていなかった。
正直、機嫌が悪いのが表に出ていた。
「ええと、どのようなご用件でしょうか?」
ボクがそう言うと、そのオバサン達の一人が、
「私達は、この町の薬屋なんだけどさぁ。客を全部、お宅に取られて、正直困っているんだよね!」
とキツイ口調で言ってきた。
さすがに怒鳴りつけたら営業妨害になると思っているはず。
当然、彼女なりにトーンを抑えているんじゃないかな?
それでもキツさがモロに出ていたけどね。
本当は、相当怒り狂っているんだろうな。
死活問題だからね。
この町には、ボクのところ以外に三軒の薬屋があるとは聞いていた。
なので、町の競合店全部がボクのところに押し寄せてきたってことだ。
でもまあ、ある程度想定していた展開だけどね。
別にボクの使命はお金儲けではない。
今のこの世界の薬よりも、もっと効果の高い薬が存在することを人々に知ってもらうことがボクの今の目標だ。
お金自体は、自分で金貨を出せるし、全然執着していない。
食料も女神様から貰ったペンダントを使って出せるしね。殆どお金を使うことも無い。
製造法とか構造式を教えても良いんだけど、多分、理解できないよね。
有機化学って概念が無いに等しいだろうし……。
もっとも、理解してもらえたところでどうにもならない。
今のこの世界の科学力では製造できる代物ではないからね。
そもそも、設備を造るだけの技術基盤が無いし、製造原料となる化学物質も入手できない。
だからと言って、ボクが女神様に与えられた能力で作り出しているとも言えない。
なので、最初から落としどころは決まっている。
「どの薬を選ぶかは、お客様の自由意志ですけど?」
「でもね、客を独り占めされたら、こっちが生活できないよ!」
「でも、失礼ですが、それは薬の効果が低いからじゃないですか?」
「くっ……」
これは、認めたくないだろうね。
でも、これは事実だし、反論のしようも無いよ。
さすがに、オバサン達の表情が歪んでいる。
ゴメンね、こっちは何世紀も先の科学力で勝負していて。
それにしても、この世界の女性は、結構みんな綺麗なんだよね。
アリアさん然り、ミサさん然り。
このオバサン達だって、地球に行ったら全員が美魔女で十分通じるよ。
やっぱり極端に男性が少ないと、たった200年とは言え、男性の目を惹くように進化するってことなのかな?
それにしては、男嫌いな女性も結構いるけどね。
正直、ボクが男のままだったら、このオバサン達とだったらHしてみたいって思えるレベルだもんね。
別に脱童貞のためなら誰でもイイってわけじゃないよ、一応。
さて、どうしようか。
このオバサン達を、ここで苛めても意味無いし。
どうせならベッドの上で……って言いたかったな、うん。性別が変わっちゃったのがとても残念だよ。
では、早速だけど、こっちの落としどころに持って行きますか。
「まあ、ボクも皆さんの店をつぶす気は毛頭ありません。なので、調合方法を開示することは出来ませんけど、男性の薬(ED治療薬)以外でしたら卸すことは可能ですよ」
「えっ?」
いきなりの展開に、美魔女達が驚いていた。
向こうとしては、この方向に話が進んで欲しかったはずだけど、こっちから直ぐに提案したんで呆気に取られているって感じかな?
あの手この手で、こっちを説得しようって考えていたんだろうな、きっと。
ちなみに、ED治療薬は全然売れていないけど、もし誰かが使ったら、馬鹿みたいな量を使う男性が出てくる可能性がある。
それをやった人が実際に地球には存在するからね。
なので、そうならないようにボクがキチンと説明しなくちゃいけないと思って、今のところED治療薬だけは他店に卸すつもりはなかったんだ。
もっとも、まるっきり売れていない薬だったから、美魔女達も全然興味が無かったみたいだけどね。
「卸価格と販売価格を取り決めれば問題ないですよね?」
「……」
「それで宜しいでしょうか?」
「えっ……えぇ」
「卸す個数と卸価格、販売価格について、各自意見はまとまってますでしょうか?」
「いえ、まだ、それは……」
まだ、具体的なところは何も考えていなかったんだね。
参考までに美魔女達の意見が聞きたかったんだけど、半ば、ボクのところには勢いで来ちゃった部分もあるんだろう。
別にイイけど……。
だったら、一旦出直してもらって意見をまとめてもらうだけだ。
「ボクも、大量生産することで単価を下げる努力はしてみます。でも、ボクも儲け無しで卸すわけには行きませんし、かと言って、ボクのところよりも皆さんのところの方が高値で売っていても意味ありません。それに、売値をボクのところと同じにしても、皆さんの方で儲けが全然出ないようでは意味無いでしょうし」
「まあ、そうだけど……」
「では、明日か明後日か、皆さんのご都合の良い時に、改めて打ち合わせさせていただくことで宜しいでしょうか? ボクの方でも考えてみますので」
「は……はい。では、明後日の夕方に」
これで一旦、オバサン達は引き上げた。
いずれにしても、新しい薬の啓蒙と言う意味では、ボク一人で販売しているだけじゃ限界がある。
これをきっかけに、より広く販売する方向で考えてみよう。
正直、卸値はいくらでもイイんだけどさ。
でも、余り安過ぎるとキチンとしたモノを卸していないんじゃないかって勘繰られるかも知れないしね。
ボクのところも含めて一律値上げって方法もあるけど、これだとお客さん達にしわ寄せが行く。それも避けたい。
それで、一律、今の値段で売るとしたら、彼女達がいくらの仕入れ値ならやって行けるかを知りたかったんだ。
そこから調整して行くしかないよね、きっと。
二日後、美魔女達が改めてボクのところに来た。彼女達も、あれから話し合って意見をまとめておいたっぽい。
「販売価格は、お宅の今の値段で行きたいんだけどね。お宅も私達も全員が価格を統一してさ」
「まあ、それが無難でしょうね。高く設定したらお客さんも買わなくなるでしょうし」
「でね、これを機会に私達も薬以外のモノも売ろうって考えているんだけど、それでも薬の販売をメインにしたいし、薬の方は仕入れ値を販売価格の75%以下にして貰えないと私達も商売が厳しくて……。でも、それって……」
美魔女が口籠ってきたよ。
仕入れ値を販売価格の75%以下にして、それでボクが利益を出すためには、ボク自身がもっともっと安く作れなければならない。
さすがに、それは難しいんじゃないかって思ってくれているんだね。
でも、ボクの薬は原料費ゼロ。
なので、これでOKしても問題ない。
「それくらいなら大量生産することで加工賃を下げれば対応可能と思いますよ」
「本当ですか?」
「では、必要数を教えてください。販売価格の75%で卸しますので」
「助かります」
うーん。嬉しそうな美魔女達。
笑顔がかわいく見えるよ、うん。
「じゃあ、個数は、一先ず各店全商品100個ずつでお願いします。でも、今はお金が無くて……」
つまり、後払いにしたいってことだね。
言い難いんだろうな。声がドンドン小さくなって行くよ。
でもまあ、美魔女だから許してあげよう。
「分かりました」
「イイんですか?」
「はい」
「ただ、ボクからもお願いが有ります。実は、元々売っていた薬の製造も、細々とでも継続して欲しいんです」
「でも、今更そんなの売れないんじゃ」
「薬には各個人で合う合わないもありますので」
「でもねえ」
彼女達は、余り乗り気じゃ無かったみたいだね。
でも、ボクが永遠に薬を供給できるわけじゃない。ちなみに、この世界で前に生きていた時、ボクは25歳で落雷を受けて死んでいるからね。
前世も地球では25歳で死んでいるし。
今世では長生きしたいけど、長生きさせてもらえるか分からないし、長生きできたとしても、いずれは死ぬもんね。
ボクが死んだら既存薬剤に戻してもらわないといけないからさ。
その時のために、現存技術を廃れさせてはダメだってこと。誰かに受け継いでもらう必要があるってことだよ。
結局、美魔女達には分かってもらえなかったけど……。
本当は、ボクが供給する地球の……二十一世紀の薬を目指して、有機化学や薬学が一気に発展してくれればイイんだけどね。
それにしても勿体なかったな。
身体が男のままだったら、美魔女達と楽しめたかもしれないのに!
もう、こんなことばかり考えてるな、ボクは……。
やっぱり男に戻りたいなぁ。