64:体内発生!
ネヒエット村に到着。
何と言うか……もの凄く廃れた感じの村で、悪いけどボクには、こんなところに人が住んでいるってイメージが全然湧かなかった。
それくらい、人の気配が無いと言うか……いや、むしろ廃墟と言う形容こそがふさわしい感じだったんだ。
厳密には、人が住んでいる。
でも、全員がエボラ出血熱みたいな病気に罹患していて、辛うじて生き残っている人達も、既に半死半生状態だったってことだ。
それくらい、この村はヒドイ状態だったんだよ。
それが、今まで放置されていたって言うのも最低な話だ。
既にビクトーザさん、リベルサスさん、ルイージさん、エミリアの四人には、サージカルマスクを着用させていたけど、これだけでは全体的な防御力が足りない。
なので、ボクは、
「出ろ!」
感染防護ガウンに防護手袋、保護メガネ、モブキャップ、シューズカバー、さらには念のためフェイスシールドを女神様から頂いたペンダントにお願いして出してもらった。
これらも、完全に緊急事態ってことで、特例で出してくれたモノと言えるだろう。
少なくとも、これらが生活必需品とは思えないからね。
必要に応じてルールを緩くしてくれて、御使いシリシスには本当に感謝だよ!
ボク達は、端の家から一軒一軒、中を確認して行くことにした。
もう、それしか方法が無いからね。
先ず一軒目。
ここに住んでいたのは成人女性二人。
二人とも既に死にかけていた。
声を出す体力すらなかった状態だ。
薬を飲ませるにも一苦労しそうだよ、これ。
ボクは、
「出ろ!」
今回ばかりは、患者達の血管内に物質創製魔法でリバビリンを発生させた。
これは、かなり強引かつ危険なやり方だと思っている。
一気に血中濃度が上がるから、できれば、やりたく無かったんだけど、緊急事態なので仕方が無い。
一先ず、これで様子を見る。
チャットボット機能からは、
『リバビリン投与と、その後に抗生物質投与』
との回答を貰っている。
今は、それに従うしかない。
さらにボクは、この家の患者達に食料と水、さらに治療のため、リバビリンの錠剤を五日分渡し、
「明日から、一日一錠ずつ飲んでください。また後で来ます」
と言うと、次の家に向かった。
明日には、薬を自力で飲めるくらいには、なっているとイイな。
次の家にも成人女性二人がいたけど、残念ながら片方は既に息を引き取っていた。
ボクは、生きている女性に処置を施したけど、遺体の方は救えない。
申し訳ないけど、遺体は大きなビニール袋に入れさせていただき、家の外に運び出させてもらった。
それから、ここでも患者の体内に必要量のリバビリンを発生させた後、食料と水、それから五日分のリバビリン錠を患者に渡した。
さらに次の家では、成人女性一人と子供が二人いた。
ただ、子供の片方は既に亡くなっていた。
子供の亡骸も、さっきの女性の遺体と同様にビニール袋の中に入れさせてもらい、家の外に運び出した。
生きている二人の体内には、リバビリンを発生させたけどね。
それから、食料と水、五日分のリバビリン錠も忘れずに置いて行った。
そんな作業を、ボク達はひたすら繰り返した。
この村の全ての家の中を確認し終えるまで……。
…
…
…
作業が一段落したので、ボクはチャットボット機能で最新情報をチェックした。
漏れがあるとマズいからね。
『Q:エボラ出血熱みたいな病気の患者は、全員処置出来た?』
『A:一人残っている』
『Q:その患者は何処にいる?』
『A:ネヒエット村と隣町タヒエット町の丁度中間地点の路上』
『Q:何故、そんなところにいる?』
『A:今朝、タヒエット町に救いを求めに出掛けた』
これはマズイ。
もし、その人がタヒエット町に入ったら、今度は、タヒエット町でこの病気が蔓延する可能性が極めて高い。
でも、その女性は、今日、ボクが来るって知らなかったのかな?
「ねえ、エミリア」
「はい?」
「この村の人に、今日、ボクが来ることを知らせておいた?」
「いいえ。さすがに誰も近づけなかったもので……」
それもそうだ。
今、四人が着用しているような感染防護の装備を、この世界の人々が、そもそも考えているとは思えない。
勿論、完全無防備では、この村に近付くことは許されない。
伝達できていなかったとしても仕方が無いことだろう。
エミリア達を怒るわけにも行かないな。
ただ、時は一刻を争う。
ボクは、状況をルイージさんに説明した。
「シリシスからの情報ですと、ネヒエット村と隣町タヒエット町の丁度中間地点の路上に一人患者がいるそうです」
「それって、マズくないですか?」
「マズいです。急いで移動をお願いします」
「承知しました」
ルイージさんの転移魔法で、ボク達は目的地に向けて移動した。
転移先には、たしかに一人の女性が倒れていた。
ここで少し、この患者を探し歩くことになるって予想していたけど、正直、すぐに見つかってラッキーって思ったよ。
でも、静かに家で寝ていて欲しかったなぁ。
多分、今日、ボクが来るって知っていたら、こんな無理はしなかっただろうに。
取り急ぎボクは、
「出ろ!」
その女性の血管内に物質創製魔法でリバビリンを発生させた。
「大丈夫ですか? ボクはトオルです」
「トオ……ル……様……?」
「はい。ネヒエット村を救いに来ました」
「女神……トオル様……。来てくださったのですね」
「とにかく、家に戻りましょう。ボクに掴まってください」
「……」
もう、返事をする元気も無いみたいだね。
でも、安心した表情をしていた。
「ルイージさん。村までお願いします」
「はい」
ネヒエット村に転移した後、その女性に何とか案内してもらって、ボク達は、その女性を家の中に運び入れた。
そして、ボクは、その女性に食料と水とリバビリン錠を渡して、彼女の家を後にした。
取り敢えず、今日やるべきことは終わった……と思う。
なので、ボクは井戸まで行くと、服を脱いで全身をくまなく洗った。
冷たい水で洗い流すしかないけど、今は仕方が無い。
どうせ、ボクは風邪もひかない身体だ。
多少の負荷は問題ない。
それよりも、この後、ボクと接触して付着していた病原体に感染する人が、万が一にも出ては困る。
それで、全身を洗ったんだ。
当然、着ていた服は焼却処分。
ボクはペンダントにお願いしてタオルと新しい服を出してもらい、その服を身に着けた。
ルイージさん達が身に着けていた防護装備も、全て焼却することにした。
ついでに、ルイージさん達には、手をアルコール消毒してもらったけどね。
これで、この日は一旦、帝都に戻った。
一応、帝都内にボク達が宿泊する宿を、ワルハラ帝国側で予約してくれていたんだ。
支払いもワルハラ帝国持ちね。
これは、依頼されて来たんだから当然だよね!
次の日も、ボク達は毎日、患者の家を回って様子を見た。
一応、二日目には、患者全員が自発的に薬を飲めるくらいには回復していたよ。
良い兆候だ。
それから、念のため、毎日チャットボット機能で確認したけど、他の街には感染拡大していないようだ。
ネヒエット村だけで済んだのは不幸中の幸いだろう。
でも、ウイルスを保有するコウモリがいる以上、何らかのルートで、再び誰かしらが感染する可能性はある。
それには、常に目を光らせる必要があるだろう。
特定地域のコウモリを駆除するのが最も手っ取り早く、かつ確実な方法って気がするんだけど……。
一応、それで問題ないかをボクはチャットボット機能で確認した。
地球では、ドリアンの受粉にオオコウモリの一種が関与しているって話を聞いたことがあったんでね。
それで、ちょっと気になったんだ。
『Q:出血熱のウイルスを保有するコウモリの分布は?』
『A:ネヒエット村付近の洞窟のみ』
かなり生息域が狭いね。
これなら駆除しやすいかも。
『Q:その洞窟内のコウモリを駆除して問題は発生する?』
『A:この世界においては、大きな問題は発生しない』
ならOKだね
日本だと、コウモリは鳥獣管理保護法で保護されているから、駆除って言っても殺すんじゃなくて追い払いことしかできない。
でも、この世界……特にワルハラ帝国内では別だ。
後でエミリアにお願いしておこう。
…
…
…
そして、一週間後、一先ずネヒエット村の出血熱は終息した。
念のため、抗生物質を数日分処方したけど、多分、もう問題無いだろう。
なので、もう、ボク達がここに留まる必要はない。
ただ、去る前にワルハラ帝国で対応して欲しいことを、ボクの方からキチンと告げておかなければならないだろう。
「エミリア。お願いしたいことがあるんだけど?」
「何でしょう?」
「御使いシリシスからの情報だと、今回の出血熱は、最初にコウモリから感染しているらしい」
「コウモリですか?」
「そう。たまたま病原体を保有していたコウモリを生焼け状態で食べた人が感染して、そこから人々に伝染していったんだ」
「では、コウモリの完全駆除が必要と言うことでしょうか?」
「この村の近くの洞窟内のコウモリだけでイイけどね。ただ、洞窟から外に出ているコウモリもいるから、それも逃さないように駆除する必要がある」
「では、どうやって?」
まあ、そう言われても、普通は、どうやったらイイかなんてピンと来ないよね?
ボクも以前は思いつかなかったし。
要は、ビルハルツ王国で虹色巻貝を駆除した時と同じ方法を取ればイイってことなんだけど。
「コウモリだけを通さない特殊結界で、コウモリの活動範囲全体を覆って、それから、その結界面積を洞窟に向けて縮小して行けばイイよ」
「たしかに妙案ですね。それで、一点に集めて駆除すればイイ!」
「コウモリが外に出られないように洞窟を塞いでも良いけどね。それから、この方法は別の生物の駆除で、既にビルハイツ王国で実績があるんだ」
「そうなんですか?」
「なので、必要があれば、ビルハイツ王国に相談してもイイと思うし、結界魔法使いの数が足りなければ、他国に派遣を依頼しても良いと思うよ」
「分かりました。アドバイス、ありがとうございます」
こればかりは、再発防止に向けて確実に達成してもらわなければならない。
キチンと成し遂げられることを祈っているよ。
「では、ボク達は、ドロセラ王国に戻ります。シアン総統がボクに会うのを避けているみたいだし、事態終息のこともコウモリ駆除のことも、エミリアの方から総統に報告してもらえるかな?」
「承知しました」
「それから、今回の治療代のことだけど」
「それは、追ってドロセラ王国の方に伺います」
これで、ボク達は、ルイージさんの転移魔法でワルハラ帝国を後にした。
ただ、ドロセラ王国に直接向かったわけじゃないんだよね。
ルビダスからお土産を依頼されていたから。
それで、ボク達は、一旦イビセラ国に向かった。
目指すは首都プロポス。
前にイビセラ国のルテア町に来た時も、帰りにプロポスに寄って、ルビダスにルビーの指輪を買ってあげたんだ。
今回も、同じ宝石店に寄ることにした。
店に入ると、
「いらっしゃいませ。トオル様ですよね? もう何年振りでしょう?」
店長が声をかけてきた。
以前、来たことをしっかりと覚えてくださっていた。
「もう、十年振りくらいでしょうか?」
「あの時は、王女様とご一緒でしたね」
「はい。それで、その時の王女様へのお土産をと思いまして」
「分かりました。赤がお似合いのお方でしたね。それで、今回は、トオル様は、プロポスまで何の御用で?」
少し、店長が怪訝そうな表情をしていた。
もしかすると、『ボクが来る』イコール『とんでもない病気が発生している』って思われているのかも知れないね。
つまり、首都プロポス付近で問題が発生しているんじゃないかって、勝手に誤解されている可能性があるってことだ。
「たまたま、近くの国に来る用事がありましたので、そのついでに寄りました」
「そうですか」
店長は、イビセラ国内の問題じゃないって知って、ちょっと安心したようだ。
対岸の火事なら問題無いってことかな?
まあ、普通は、そう考えてもおかしくない。
「それで、例の王女様に似合いそうなブローチをお願いしたいのですけど」
「では、コチラは如何でしょうか?」
店主が薦めてきたのは、ムチャクチャ巨大なガーネットのブローチだった。
随分ゴテゴテしていて派手と言うか、凄く存在感がある。
しかも、その深紅のガーネットを、たくさんの小さなダイヤモンドで、二重に取り囲んでいる。
ムチャクチャ派手だ。
なんとなくだけど、これならルビダスも気に入りそうな気がした。
「では、これでお願いします」
ボクは、そのブローチをソッコー買いしたよ。
ただ、ルビダスの分だけじゃ第二王女のベリルが可哀そうだよね?
なので、ベリルに似合いそうなエメラルドのブローチも追加で購入した。
…
…
…
土産も買ったし、ボク達はドロセラ王国のお城に転移した。
そして、フルオリーネ女王陛下への結果報告を行った後、ボクは急いでルビダスの部屋へと向かった。
侍女に前室に通されたけど、ルビダスの部屋ってムチャクチャ広いんだよね。
前室だけでも、とんでもない面積だよ。
たまたまだけど、ルビダスの部屋にベリルも来ていた。
これなら都合がイイ。
ルビダスは、ボクと目が合うと、
「お帰りなさい! お土産は?」
と、いきなりお土産の催促かい!
まあ、想定の範囲内だけどね。
早速、お土産のブローチを渡すと、
「凄く綺麗! ありがとうございます!」
とても喜んでくれたけど、なんか、ボクから高額な装飾品のお土産がもらえるのが当たり前って思われていないか不安だな。
って言うか、絶対に思われているよ!
続いて、ボクはベリルにお土産を渡したんだけど、そうしたら、
「高かったでしょう。本当に気を遣わせたみたいで済みません」
って、随分、申し訳なさそうにしていたよ。
妹のベリルの方が、姉のルビダスよりも感性がマトモな気がする。




