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63:毒物を体内発生させるつもりは無いんだけど?

 時間的に、女王陛下もアクティスも寝てるよね?

 なので、ボクはお城には向かわずに、マイトナー侯爵家のお屋敷に送り届けられた。


 お屋敷に入ると、中は既に真っ暗だった。

 でも、ボクが帰ってきた音でマイトナー侯爵を起こしてしまったみたいだ。

 蝋燭を片手に侯爵が様子を見にボクのところまで来た。


「トオルちゃん?」

「はい。ご心配おかけしました。たった今、戻りました」

「良かった」


 マイトナー侯爵は、蝋燭を近くの棚の上に置くと、ボクを抱き締めた。

 相当心配してくれていたみたいだ。

 ボクのせい……って訳じゃないと思うけど、何だか申し訳ない。


「ルイージさんに送り届けてもらいまして」

「じゃあ、やっぱりワルハラ帝国に?」

「そうです。あと、明日の朝一番で女王陛下に報告したいことがあります」

「勿論、トオルちゃんの無事を知らせるために朝一番で行くけど、何かあったのね?」

「はい。ワルハラ帝国は、イビセラ国に戦争を仕掛ける準備をしています」

「えっ?」

「そのためにボクを誘拐して、軍の食糧調達と治療を命じて来たんです」

「そうだったのね」

「それから、ワルハラ帝国にいた諜報員のルミさんの話ですと、ワルハラ帝国では恐ろしい伝染病が流行り始めているそうです。死者も出ているみたいです」

「じゃあ、その治療も命じられたってことね?」

「いいえ。総統のシアンには都合の悪いことが報告されていないようでして、伝染病のことは把握していないようでした」

「有り得ないことね。なんてことかしら」


 これには、マイトナー侯爵も怒りを露わにした感じだった。

 たしかに領民から税を搾り取るイヤ~な領主は存在する。ドロセラ王国で言えば、バイルシュタイン子爵とかね。


 でも、自分の領地で凶悪な伝染病が流行ったら、この世界の科学力では何ともしようが無いかも知れないけど、普通は何とかしたいって思うだろう。

 それが、報告もされずに放置されているなんて考え難い。

 民を見殺しにする気でいるとしか思えない。



 一先ず、この夜は、ゆっくり休むことにした。

 昼夜が逆転した国からの帰国だけど、特段、あっちの時間に身体が順応していたわけじゃないからね。

 すぐに眠れたよ。


 …

 …

 …


 翌朝、ボクはバイエッタさんの転移魔法でマイトナー侯爵と一緒にお城へと向かった。

 毎度の如く、門番は顔パス。

 そして、今回も会議室に通された。


 既に会議室にはフルオリーネ女王陛下とアクティス、ルビダス、ベリルの姿があった。王宮側にも、随分と御心配をおかけしたようだ。


「無事で良かった」

 第一声はアクティス。


 これでも、一応、ボクの婚約者だからね。

 一番心配してくれていたんじゃないかな?


「ご心配おかけしました」

「ルイージからの報告では、ワルハラ帝国に拉致され、イビセラ国に戦争を仕掛けるため、軍の食糧調達と治療を命じられたと聞いた。それから、ネヒエット村で蔓延している伝染病のことも、その伝染病をシアン総統が把握していないことも」


 さすがルイージさん。

 全部報告済みだ。

 これだと、ボクは基本的に顔見世程度で済みそうだ。


「はい。仰る通りです。ただ、患者達には申し訳ないのですが、その伝染病は放置しております。正式な依頼が無いと動けない立場と認識しておりますので」

「たしかに。しかし、トオルが食料を出せることが、そこまで知れ渡っているとはな」

「ボクも迂闊でした。近しい人達は割と知っていますけど、今回の件は、ドロセラ王国内からの情報ではありません。ウトリキュラリア王国に派遣された時にマルシェの家で食事を御馳走になったのですが、その際にボクの方でデザートを出したところから足が付いたようでして」

「それでか。たしかに迂闊だったかも知れないけど、以前にも製造ラインの娘達にも出しているし、むしろ今までワルハラ帝国に知られていなかった方が不思議なくらいか」

「そうですね」

「ただ、今後は、身近な人間以外でも、トオルに食料をねだるヤツが出て来てもおかしくないな。それだけで済めばイイが……」


 アクティスの言う通りだ。

 それこそ、物乞いがウヨウヨ近付いて来る可能性がある。

 その中にボクを拉致しようとしている人間が紛れて込んでくる可能性も否定できないし、色々面倒になりそうだ。


「済みません。反省しております」

「いや、俺も迂闊だった。ただ、死者も出ているとなると、放置と言う訳にも行かないだろう。陛下。他国と協議の上、その村の者達の救出と、ワルハラ帝国に対し、トオル拉致と戦争の準備に対する糾弾を……」

「そうね。ただ、戦争準備の件だけは、イビセラ国の出方次第になると思うけど?」

「たしかにそうです。ただ、その伝染病の件は急がないと。イビセラ国まで広まったら大変なことになります」

「それはそうだけど。でも、ネヒエット村は、イビセラ国から少し離れているし、ワルハラ帝国はイビセラ国との国境に巨大な壁を築いているから、イビセラ国への感染可能性は低いって思っているのよ。それよりもワルハラ帝国内での感染拡大が問題ね」


 ボクも女王陛下と同じ考えだ。

 でも、そうなると、ワルハラ帝国からの正式な依頼が無いと、ますます動けなくなると思うんだよね。

 ワルハラ帝国側が状況をキチンと理解していない以上、依頼があるとは到底考えられないんだけど……。



 とは言え、悠長にしていたらネヒエット村は全滅する。

 近隣の村や町にも伝染しない保証もない。

 なので、急いで対応しないとイケナイのも事実だ。


 今回ばかりは、ボクが薬の配布や治療を無償で行った前例を作ってはならないことが、大きな足枷になっている気がする。

 勿論、一度でも前例を作ると、それを盾に価格交渉して来る輩が出てくるから、そうさせないようにって配慮なんだけどね。


 そもそも、ワルハラ帝国がマトモな思考の国だったら問題無いんだけど……。

 いずれにしても、今は女王陛下に任せるしかなさそうだ。



 結局、この日、ボクは予想通り顔見世程度でお城を後にした。

 ただ、ルイージさんが護衛として付くことになったけどね。


 その後、ボクはトオル製薬と流通センターに顔を出し、無事の帰還を報告した。

 トオル製薬では、

「無事で良かった!」

 とアリアやミサをはじめ、たくさんの人達がボクの帰還を喜んでくれた。



 ただ、純粋にボクが無事だってことと、薬の供給がストップすると困るから、ボクが帰って来て喜んだってことでイイんだよね?

 ボクが出すスウィーツが食べられなくなると困るから……とかじゃないよね?

 ちょっと自信が無いけど……。


 そして、流通センターでは、真っ先にマルシェが、

「よがっだよー!」

 って大泣きして喜んでくれた。


「マルシェが誘拐現場を目撃して、それで急いで報告してくれたって聞いたよ。だから王国側の対応が早かったわけだし、ありがとう」


 まあ、彼女の妹の件は、今更言っても無意味だし、敢えて言わずに放置しておこう。

 マルシェが変に責任を感じたら可哀そうだからね。


 …

 …

 …


 その日を境に、トオル製薬や流通センター、それからマイトナー侯爵家の周辺の警備が強化された。

 二度と拉致事件が発生しないようにってことだ。


 特にボクの居室がある建物……元々ボクの店だった建物の一階部分には、兵士が常駐することになった。

 そこから、ボクが流通センターやトオル製薬の社屋に移動する際には、必ず兵士が同行する。


 正直言って、ちょっとウザイかも……。

 仕方ないけどね。



 それから、居室の下の階に必ず人がいるから、アクティスがボクの居室でHなことがし難いってボヤいていたけど……。

 もっとも、『し難い』だけで『しない』とは言わないんだけどね。



 あの後、数か国がタッグを組んで、ワルハラ帝国に対してボクを拉致した件について、非を糾弾したそうだ。

 糾弾してくれた国は、ドロセラ王国は勿論、イビセラ国、ディオネア国、オーキッド王国、オレエート国、ウトリキュラリア王国、ビルハルツ王国等と聞いた。

 いずれも、女神フィリフォーリア様が男女比復帰のウイルスを撒いた時以外で、ボクに治療依頼をしてきた国だ。


 特にイビセラ国は、ワルハラ帝国が戦争を仕掛ける予定になっていたからね。

 今まで以上に国境の守りを固めたそうだ。



 また、この時、シアン総統は、フルオリーネ女王陛下から、

『次回は睡眠導入剤ではなく致死毒に襲われることを覚悟するように!』

 って言い渡された……と言うか脅されたらしい。


 ボクは、そんなことをするつもりは無いんだけど、そうでも言わないと再犯防止が出来ないって判断があったらしい。


 お陰でボクは、一部の人達から、

『機嫌を損ねたら殺される』

 と勘違いされるようになったみたいなんだよね。

 完全に危険人物扱いだ。

 人の噂も七十五日とは言うけど、変に恐れられるのも何かイヤだな。



 一応、今回の糾弾を通じて、シアン総統は自国内の伝染病のことを知らされ、正式にボクのところにワルハラ帝国から治療依頼が来た。


 ボクに同行するのはルイージさんと騎士団長のビクトーザさん、それから騎士団の副団長のリベルサスさん。

 精鋭でボクのガードを固めたって感じだ。


 ただ、ルミさんは、今回は敢えて外したそうだ。

 彼女の顔がワルハラ帝国側に割れてしまうと諜報活動に支障が出るからね。



 今回も、ルビダスがボクの稼ぎで何か買ってもらおうと企んでいたみたいなんだけど、さすがに行き先がワルハラ社会主義帝国だからね。


 フルオリーネ女王陛下から、

「却下!」

 と強く言われたらしい。


 危ない国にボクと王女がセットで行くのはリスキーだって判断だ。

 なので、今回、ルビダスは留守番となった。



 でも、

「お土産お願いします。ネックレスとかブローチがイイな」

 ってチャッカリ言われたよ。


 宝石だけだったら物質創製魔法で出せるんだけど、さすがにネックレスとかブローチってなるとボクの魔法じゃ出せない。

 なので、適当なのを見繕って買ってくることにするよ。


 …

 …

 …


 その日の夜、ルイージさんの転移魔法で、ボクとビクトーザさん、リベルサスさん、それからルイージさんの四人はワルハラ帝国の帝都に入った。

 時差があるからね。

 ここは、既に昼だった。

 多分、少しすると時差ボケがマトモに出て来て眠くなるんだろうなぁ。



 現地で諜報員のルミさんを見かけたけど、お互いに敢えて無視。

 彼女がボク達と関係があることを知られないようにするためだ。


 ちなみに、ルミさんはワルハラ帝国には住んでいない。隣国のイビセラ国のワルハラ帝国に近い町パービフローラに住んでいる。


 ワルハラ帝国内で暮らすのは危険って判断だ。

 諜報活動の時にだけ、転移魔法でワルハラ帝国内に入る。



 ボク達は、シアン総統のいる高い建物へと入って行った。

 そして、転移魔法で一気に最上階にあるムダに広い部屋に到着。


 そこの奥の方には、雛壇みたいに何段も高くなったところがあって、その最上段に設置された大きな椅子に、小柄な女性がふんぞり返って座っていたんだけど、ボクの姿が視界に入った途端に、急にかしこまった姿勢に変わった。



 それどころか、その女性……シアン総統の目は、何気に怯えていた。

 彼女は、ボクに睡眠導入剤を体内発生させられているからね。それを毒薬に置き換えられたらどうなるかを考えれば当然の反応だろう。

 元々、そんな感じでフルオリーネ女王陛下に脅されているしね。


「シアン総統。これよりネヒエット村に入ります」

「よ……よろしくお願いする」

「また、終了後には報告に参りますので」

「いや。エミリアを同行させるので、報告には来ないで構わない。エミリアから報告がなされれば、それで良い」


 これは、絶対にボクに会うのを避けているね。

 命が惜しいのは分かるけど、国のトップとしては、やっぱり器が小さい気がするよ。


 シアン総統もボクと顔を合わせたくないだろうし、ボクも彼女のことが視界に入るのが不快だからね。

 さっさと現地に行くことにする。



 でも、その前にボクは、

「出ろ!」

 医療用のサージカルマスクを四つ出した。

 ビクトーザさん、リベルサスさん、ルイージさん、それからエミリアの分だ。


 これは、女神様から頂いたペンダントに願って出してもらったものだけど……、ただ、ペンダントが出せるのは生活必需品と食料だけのはずなんだよね。

 多分、今回は緊急事態ってことで、特例で出してもらえたんだと思う。



 あと、ボクの分が無いけど、ボクは病気に感染しない特殊な身体を女神フィリフォーリア様から授かっているからね。

 マスク着用は不要なんだ。


 そして、その高層建物を出ると、早速、

「転移!」

 ルイージさんの転移魔法で、ボク達五人はネヒエット村へと移動した。

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