59:えっ? そっち?
その後も、ボクは患者の体内から結石の除去と壊死部位の再生術を順次行っていった。
野菜の説明と再発の可能性についての説明は、引き続きルイージさんにお願い……と言うか丸投げしたけどね。
そして、大聖殿での治療を終えると、ボクは他の寺院へと連れて行かれた。
着いた先にも、既に沢山の患者達が来ていた。
しかも、痛風結節自壊による潰瘍ができている人や、足が壊死して真っ黒になっている人も大聖殿以上に多数いた。
こっちの人達の方が重症だ。
ここでも、ボクがやることは同じだ。
「転移(結石除去)!」
「転移(潰瘍部分の切除)!」
「再生医療魔法発動!」
とにかく治療に専念するだけだ。
ただ、人々には、エクスヒールを発動しているって思われていたみたいだけどね。この世界の人々はiPS細胞なんて知らないから。
それこそ、神々のなせる業って思われていたよ。
ルイージさんまで、
「治癒魔法、凄いですね」
って言って来たくらいだからね。
それで、ボクは、ルイージさんに、
「再生魔法はともかく、結石を除去や潰瘍部分の切除は、物質転移魔法でやっているので、ルイージさんにもできると思うんだけど?」
と言ったんだけど、そうしたら、
「切除はムリですよ! そもそも、転移魔法は、身体全部を移動する魔法であって、一部だけを切り取って送り届ける魔法じゃないですから!」
と言われたよ。
知らなかったけど、もしそうなら、結石はともかく、癌とか潰瘍とかの摘出ってボクじゃなきゃ出来ないってこと?
ますます聖女とか女神扱いされそうだな……。
それは置いといて。
ここでも野菜の問題と、再発の可能性についての説明も行った。
もっとも、その説明は大聖殿の時と同じで、基本的にルイージさんの方で対応してくれたけどね……。
なので、ボクは治療だけに専念できた。
…
…
…
ボクは、王都リビダだけではなく、その周辺の街にも出向いて、ひたすら患者達を治療していった。
そして、一通り治療を終了し、これで今回のシュウ酸事件は一段落着いた。
恐らく、今後は、今回ほど多数の患者が出ることは無いだろう。
と言うか、そうあってくれると信じている。
まだ、患者達のシュウ酸濃度が高いからね。再発する人は出て来るに違いない。
なので、まだ事件が終結したとは思っていない。
でも、全員が再発するとも思っていない。
一応、ルイージさんからの説明をキチンと受け止めてくれる人が、それ相当にいるはずだとも思っているんだ。
多分だけど、過剰に再摂取する人は減ると期待している。
ただ、残念だけど間違いなくシュウ酸を大量に再摂取する人は出てくるだろう。
今までの調理法を全員が変えてくれる保証が無いからね。
まさか、それが再発に繋がる行為だなんて信じられずに……。
いずれにしても、再発患者が出た場合は、またボクは、この地に来るつもりだ。
って言うか、間違いなく来ることになるだろう。
覚悟はしているけどね。
その後、ボクはエンドレシーさんとルイージさんの同行の元、ウトリキュラリア王国のお城に赴き、女王陛下に結果報告を行った。
ただ、女王陛下から、
「まさか、野菜が原因とはね。でも、その悪玉物質が大量混入した野菜は、何処から持ち込まれたモノか分かる?」
と問われてね。
それで、ボクは急いでチャットボット機能を立ち上げた。
本来なら、事前にボクの方で調べておくべきだったんだろうけど、今回は、そこまで頭が回っていなかったんだ。
『Q:今回の野菜の原産地は?』
『A:オキサロ地区』
『Q:オキサロ地区は、何処の国?』
『A:アシッド国』
『Q:アシッド国の位置は?』
『A:中央大陸最南端』
『Q:オキサロ地区では結石患者はいる?』
『A:いない』
『Q:何故、結石患者がいない?』
『A:人が住んでいないため』
居住区域じゃないってことか。
でも、それって、もしかして?
なんか、オチが見えた気がするんだけど?
『Q:何故、人が住んでいない?』
『A:立入禁止区域のため』
やっぱりだよ。
コレラみたいな菌に糸状虫事件、虹色巻貝事件とパターンが同じじゃない?
『Q:何故、立入禁止区域であるオキサロ地区から今回の野菜が持ち出された?』
『A:固有種の巨大クワガタを求めて侵入した者がおり、その者の靴底に種が付着して王都リビダに持ち運ばれた』
『Q:その巨大クワガタの捕獲は趣味?』
『A:王族貴族に販売するため』
『Q:その侵入者は誰?』
『A:ワース商人』
またアイツかよ。
虹色巻貝だけじゃなかったんだ。
恐らくだけど、虹色巻貝が原因で生じた治療費と経済損失は、ビルハルツ王国からワース商人に、全額とは言わないけど請求されるだろう。
ウトリキュラリア王国だって、今回の治療費をワース商人に請求することが十分想定される。
ワース商人は、完全に破産だね。
今まで、どれだけ儲けていたか知らないけどさ。
それにしても、何故、立入禁止区域になっているかを、もっと考えて欲しいものだ。
ボクは、女王陛下に正直に話した。
と言うか、再発防止の意味も含めると話すしかない。
「御使いシリシスが言うには、アシッド国のオキサロ地区に侵入した者がいたようです」
「オキサロ地区?」
「はい。その時に、問題の植物の種が靴底について、それで、王都リビダに持ち込まれてしまったようです」
「ただ、その地区は、たしか立入禁止区域じゃなかった?」
「そうです。そこに生息する巨大クワガタを捕獲して王族貴族に売っていたようです」
「巨大クワガタ? もしかして、それって……」
「お心当たりがあるんですか?」
「購入したことがあるんだけど。たしか、ワースとか言う商人だったかしら……。でも、まさか立入禁止区域のモノを売りつけていたなんて……」
あーあ。
バレちゃったよ。
これは、ウトリキュラリア王国からビルハルツ王国に、ワース商人の身柄引き渡しの要求が来るかも知れないな。
取り調べとか、罪を問うためにね。
「それから、壊死した足の再生や潰瘍となった部分の治療もされたとのことだけど、その治療費はいくらになるの?」
「それは、ボクの一存では決められません。ですので、フルオリーネ女王陛下にボクの方からも報告致しますので、お手数ですが、ご協議頂ければと思います。今後、再生医療の価格を決める上での基準になると思いますので」
「了解。トオル殿に不当労働が課されるのを防ぐって意味合いだと言うことは、こっちも理解しているから」
「よろしくお願いします」
「まあ、ウトリキュラリア王国としては、余り高額ではないことを期待したいけど」
たしかに、その意見にボクも賛成だ。
高額過ぎて誰も受けられないような治療だったら、女神様が再生医療の能力をお与えくださった意味が無くなるからね。
…
…
…
その後、ボクはルイージさんと一緒にドロセラ王国に戻り、フルオリーネ女王陛下に今回の顛末について報告した。
フルオリーネ女王陛下は、
「またワース?」
と言いながら頭を抱えていたけど……。
たしかに、虹色巻貝事件も今回のシュウ酸事件も、実行犯はワース商人だ。
でも、ある意味、珍しいモノを欲しがる王族貴族の存在が、ワース商人の立入禁止区域への侵入を後押ししたと言えるだろう。
世界中の王族貴族が考えを改めない限り、第二第三のワース商人が登場することは必至と言っても過言ではない。
今後の大きな課題だろう。
それから、再生魔法のことを報告すると、
「そんなことも出来るようになったの?」
女王陛下は、ムチャクチャ驚いていた。
事故や怪我は勿論、戦いの中で身体の一部を欠損することは有り得る。
それが元に戻せるって言っているのと同じだからね。
再生魔法が使えるようになったことは、今までのこの世界の常識を覆すことなんだ。
ただ、何か、今まで以上に、こき使われそうな気がするんだけど……。
「それと、再生魔法による治療代の価格設定をしたいんです。まず、大変お手数ですがウトリキュラリア王国と協議していただくことは可能でしょうか?」
「まあ、トオルちゃんが下手に交渉して激安にされちゃ困るからね。アクティスに交渉させることにします」
「ありがとうございます」
「でも、これが知れ渡ると面倒なことになりそうね」
「はい。失った指とか腕とか足を再生して欲しい人は、少なからずおりますから」
「それだけじゃないけど」
「えっ?」
「まあ、トオルちゃんは無縁だからピンと来ないか」
ええと……。
いったい何が言いたいんだろう?
その意味を、ボクは後日、知ることになる。
…
…
…
その数日後、
トルリシティにあるボクの居室に細身の女性が訪れた。
彼女は、トルリシティ在住らしいんだけど、何かボクに相談があるようだ。
見た感じ、健康そのものなんだけど?
「如何致しましたでしょうか?」
「豊胸って出来ますでしょうか?」
「えっ?」
「ウトリキュラリア王国の王都リビダで、失った足を再生したって話を聞きまして、それなら胸を増量することも出来ないかって思いまして」
フルオリーネ女王陛下が言っていたことは、これかぁ!
たしかに、そっちへの転用の可能性はあるよね。
ボクは、全然考えていなかったけど。
ただ、この女性のイントネーションって独特だな。多分、何処かからトルリシティに移住してきたんだろう。
「ええと……。豊胸は、やったことが無いのですが」
「出来ないんですか?」
「少々お待ちください」
多分、可能な気はするけど……。
でも、安易な回答は出来ない。それでボクは、取り急ぎチャットボット機能に相談することにした。
『Q:再生医療魔法で豊胸って可能?』
『A:可能』
そうですか。
可能と言うことが確定したよ。
ただ、これが世間に知れたら、他にも患者が来そうだな。
この女性の気持ちが全く分からないわけじゃない。
なので、急いで豊胸術を施してあげたい気はする。
でも、ウトリキュラリア王国で行った再生医療の価格も、まだ決まっていないからね。
ここでボクが勝手に豊胸魔法の代金を決めることは出来ない。
「豊胸術自体は可能です」
「では、是非お願いしたいのですけど」
「ただ、ボクの医療に関する価格は、ボクの一存で決められないことになっておりますので、少々お待ちください」
「そうですか……」
「価格が決まりましたら、お声がけしますので、お名前と住所を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「分かりました」
申し訳ないけど、その女性、エミリアさんには、一旦、お帰り頂いた。
ボクは、改めて女王陛下に相談させていただきたく、特殊ゲートを使って、一旦、侯爵家のお屋敷に戻った。
そして、転移魔法使いのバイエッタさんにお願いして、お城へと急いだ。
フルオリーネ女王陛下は、ボクが来ることを予想していたらしく、早速、ボクは会議室に通された。
「ワザワザお時間をいただき済みません」
「まあ、私の予想が当たってたってことでしょ?」
「はい。豊胸術の依頼が来ました」
「それで、価格の相談ね。ただ、豊胸は、腕や足の再生よりも安くしてあげた方が良いでしょうね。女性の夢だし。小金貨二枚くらいでどう?」
日本の物価と対比して考えると、小金貨二枚だと、二万円程度になる。
多分、日本の感覚で言えば豊胸術に対する値段として激安だろう。
でも、現実問題として、この世界では小金貨二枚を支払うのが厳しい人も少なくない。
かと言って、これ以上激安にしたら、ムダに患者が殺到するだろうし、そうなったらボクの身動きが取れなくなる。
まあ、良い折衷案かも知れない……と、この時、ボクは思っていた。
「分かりました。では、そうさせていただきます」
「それと、ウトリキュラリアとの再生医療に関する交渉は、もうちょっと待ってもらえるかしら。多分、一人当たり金貨二枚くらいになりそうだけど……」
それイコール、まだ手足の欠損に対する再生医療は受けられないってことだ。
でも、そっちの依頼が、まだ直接ボクの方に来ていなかったことが救いだ。
…
…
…
ただ、ボクの認識が甘かった。
お金はあるところにはあるんだよ。
なので、その後、ボクのところには、
「豊胸をお願いしたいんだけど」
と各国から王族貴族、それから大店商人達が依頼に来たよ。
コイツ等、小金貨二枚くらい屁とも思っていないからね。
それからしばらく、ボクは日中に豊胸術、夜に薬の製造と、今までにないくらい忙しい日々を送ることになる。




