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58:再生医療!

 ボクとルイージさんは、この日、マルシェの家に招待された。

 もう八時前だし、悪いって思ったんだけど、マルシェが是非って言うからね。


「女神トオル様にお会いできて光栄です!」

「まさか、お姉ちゃんがトオル様と本当にお友達だったなんて。絶対にブラフかましているって思ってたのにぃ!」


 マルシェの母親と妹は、ボクに会えて喜んでいたみたいだったけど、基本的にボクとマルシェが友人関係にあったことを信じていなかったっぽい。


「ボクが一旦消滅したことは御存じかと思いますけど、その前からマルシェにはお世話になっております」

「いえいえ。絶対にマルシェの方がご迷惑をお掛けしていると思いますので」


 それにしても、とことんマルシェは家族からダメ娘扱いされているような気がする。

 でも、流通センターで働いているってことは、それ相当のレベルの娘なんじゃないかって思うんだけど?

 一般にはエリートじゃないかな?



 ボクとルイージさんは、マルシェの家で夕食を御馳走になった。

 ただ、せっかくなのでボクは、

「出ろ!」

 女神様にいただいたペンダントに頼んでデザートを大量に出してもらった。


 これを見てマルシェの母親も妹も、

「えっ?」

 驚いて一瞬硬直していた。

 まさか、無から食べ物が出て来るとは思っていなかったからだ。



 でも、出てきたモノの存在情報を脳が処理し始めると、

「これって、頂いて宜しいのでしょうか?」

 全身から食べたいオーラが出始めた。


「どうぞ」

「では、喜んでいただきます」


 一応、マルシェの母親も妹も、ボクを前に、それなりに遠慮していたみたいで、食べるペースは遅かったんだけど、一方のマルシェとルイージさんは何回も食べているからね。

 今更、遠慮なんて文字は二人の辞書には載っていないようだ。

 マジでバクバク食べまくっていたよ。



 特にルイージさんは、

「トオル様との出張って、これがいくらでも食べられるから楽しみなのよねぇ。それで護衛役をやれるからって言って、エリカにトオル様との出張を回さないのよね」

 デザート狙いでボクの出張に付きあっていると自白したよ。


 ボクは、デザートに目もくれずにマルシェの母親の手料理を食べたけどね。

 だって、リビダの料理を食べる機会って無いからさ。

 勿論、美味しかったよ!



「ところでトオル様」

 話しかけてきたのはマルシェの母親。


「何でしょう?」

「トオル様に治せない病気とかってあるのでしょうか?」

「たくさんあります」

「えっ? 信じられませんけど」

「以前、カクタス王国に原因不明の奇病で瀕死状態の人がいるって連れて行かれたことがありました。あの時は、ボクが到着した時には、既にお亡くなりになられていましたけど、もし、間に合ったとしても治せなかったと思います」



 あの時の患者は、生水を飲んでいてね。

 アメーバー性髄膜脳炎だったんだ。

 しかも末期でね。だから、ボクが駆けつけた時には死んでいたんだ。


 一応、アメーバー性髄膜脳炎でも感染初期症状であれば、アムホテリシンBの投与で救命できたかも知れない。

 でも、アメーバーに溶かされ、喰われた脳は帰ってこない。

 なので、脳の再生でもできない限り、本当の意味では治ったとは言えないだろう。


「そんな、ご謙遜を」

「いいえ。本当のことです。それから、今回の病気も、足の親指とかが壊死して真っ黒になっていたりしますと、それを元に戻すことは出来ません」

「そ……そうなんですか?」

「はい。今日の患者さんの中には、そこまで酷い症状の方はおりませんでしたけど」

「そうですか……」


 マルシェの母親の表情が曇った。

 これって、イヤな予感がするんだけど?


「まさかとは思いますけど?」

「はい。実を言いますと、私の知人で、まさにその状態の者がおります。でも、本当に治せないんですか?」

「済みません。ボクは出来るのは病気の原因となるモノを除去することと、薬を作ることだけなんです。壊死した部分を元に戻すことは出来ませんし、死人を生き返らせることも出来ません」

「信じたくはありませんけど」

「もし、治癒魔法が与えられていれば違ったのでしょうけど、女神様の方針で治癒魔法だけは与えられていないんです」



 女神フィリフォーリア様は、治癒魔法が存在することの弊害を懸念されていた。

 一つ目は、免疫獲得が出来なくなる可能性だ。

 免疫獲得前に綺麗さっぱり治癒しては困ると言うことだ。


 二つ目は、どんな大怪我でも治ってしまうと、怪我を恐れずムチャする人が大量発生する可能性がある。

 そうすると、怪我では済まない人も結果的に続出するだろう。

 それでボクにも治癒魔法を与えてくださらなかったんだ。


「でも、痛みや血尿を治していますよね?」

「それは、痛みや血尿の原因となる石を転移魔法で除去しているだけです。魔法で診断ができて原因となる石の位置を特定できて、あと、物を三十センチくらい動かせる程度の物質転移魔法が使えれば、ボクでなくても可能なことですよ」

「そうなんですか?」

「はい。ですので、みなさん誤解されているようですけど、ボクの魔法は治癒魔法ではありませんので、怪我を治すことも出来ないんです」

「なんか、みんなが思い描いているイメージとは違いますね。何でも治せる聖女様って思っておりましたけど」

「聖女ではありません。期待に沿えなく申し訳ないです」

「でも、診断魔法が使える人って聞いたことがありません。やはり、それが出来ると言うことは、トオル様は聖女様なのでしょうね」

「いえいえ。ボク以外にも少数ですが使える人はいます」

「そうなんですか?」

「はい」


 例えば、ドロセラ王国に行けばリキスミアさんが使える。

 実際に彼女には、ミサ達にX線結晶構造解析を行ってもらう時に、ミサ達の身体を診断魔法でチェックしてもらったことがあるしね。


 ボクが思うに、多分、他にも診断魔法が使える人っているんじゃないかな?

 単に、それが診断魔法だって自覚がないだけでね。


「ただ、通常の診断魔法とは別の方法で、今回のような石とかの存在を診断できる人を育てられないかなって思っています」

「そんなこと、できるんですか?」

「分かりません。でも、トオル製薬ではボク以外の人でも薬を作れるようになっています。それと同じように伝授できればって思っております」


 そう言いながらも、ボクの中では多少の勝算はあるんだけどね。

 例えば、ミサ達は魔法でX線結晶構造解析やNMR解析をやっている。それを応用してCTやMRIまで魔法を発展できないかって思っているんだ。

 それができれば、異物にもよるけど発見が可能になるだろう。


「たしかに、それができるとイイですね」

「はい。ボク以外の人でもできれば、その知人の方も、壊死する前に石が除去できたかもしれないって思いますし……」

「そうなることを望みます」


 ちょっと雰囲気が暗くなっちゃったな。

 再生魔法とかが使えればイイんだけど、それは与えられていないからね。

 ボクの魔法は、変なところで科学的な根拠が求められるんだ。


 例えば、ボクが出す薬はエリクサーみたいな万能薬じゃない。

 女神様自らが設計した場合を除いて、基本的に地球で効果が確認されているものを出しているに過ぎないんだ。



「それで、トオル様。本日は、うちに泊まって行かれては如何でしょう?」

 こう言ったのはマルシェの妹。

「一応、ウトリキュラリア王国の方で宿を用意してくれていまして、そっちに泊まらなくてはならないんです」

「そうなんですか?」

「ええ。ボクの身に万が一のことがありますと国際問題になるってことで、実は、今もこの家の前には監視がいます」

「えっ?」


 マルシェの妹が、窓を開けて辺りを見回した。

 たしかに、兵士が数人、見張っていた。

 エンドレシーさんも、その中にいたんだけどね。


「残念です。もし、トオル様がうちに泊まって行ったら、一生自慢できるって思ったんですけど」


 完全に芸能人扱いだね。

 たしかに、ボクも前世では有名人と知り合いだったら自慢したいって思ったし、彼女の気持ちも分からなくは無いけど……。

 ただ、ボクが有名人の立場になるとはなぁ。



 この日は、セキュリティ面も考慮し、ボクはウトリキュラリア王国が手配した宿に、ルイージさんと一緒に泊まった。


 …

 …

 …


 翌日も、ボクは大聖殿で患者から結石の摘出を順次行っていった。野菜の説明と再発可能性の説明は、ルイージさんに任せたけどね。


 そして、何例目だろう?

 とうとう、足が壊死した患者と御対面……。


「トオル様。この足を元に戻すことは出来ないでしょうか?」

 そう言いながら、その患者の表情からは期待の念が感じられた。ボクに任せれば何でも治るって妄信しているみたいだ。

 でも、その期待に沿うことは出来ない。



 正直、キツイ。

 本人に直接、

『出来ません』

 の一言を宣告しなくてはならないのか。

 辛いなぁ。



 この時だった。

 辺り一面が強烈な光に覆われ、女神フィリフォーリア様がボクの目の前に姿を現した。

 女神様の姿は、ボクだけじゃなくて、大聖殿にいた人、全員に見えていたようだ。


 この時のフィリフォーリア様の姿は、もの凄い美人顔に、とんでもないワガママボディ。ボクよりも数段美人だった。

 正直、負けたと思ったよ。



 ボクに伝わってくる波動から、このお方は間違いなくフィリフォーリア様って断言できるんだけど、この姿を見るのは、ボクは初めてだった。


 すると、ボクの脳内にフィリフォーリア様の声が響いて来た。

 多分、これはボクにしか聞こえていない。


「トオルを飛び降り自殺に巻き込んだ女性が、別の異世界で生きておりますが、その女性の現在の姿を借りました。私が知っている中で最も美しい姿ですので……」


 つまり、下界の人々を前に最高の美女を演じたいってことだろう。

 意外とフィリフォーリア様は見栄っ張りかもしれないなぁ。


 続いてフィリフォーリア様は、大聖殿内にいる全員に聞こえるよう言葉を発した。


「トオル。この世界には万能な治癒魔法やエリクサーは存在しません。しかし、科学的根拠のある現象でしたら魔法で引き起こすことは可能と定義しています。今から、トオルに新しい能力……再生医療魔法を授けます。トオルは、その知識も得て来ているはずです。それを駆使して患者の治療に当たりなさい」


 そう言うと、フィリフォーリア様は、ボクの頭に右手をかざすと、強力なエネルギー波を発した。

 ボクに新たな魔法を授けてくれたんだ。



 身体の奥底から、新たな力が湧いてくるのをボクは感じた。

 そして、ボクへの魔法の授与を終えると、フィリフォーリア様の身体は徐々に透けて行き、その場から消えた。


 ただ、女神様からは、そう言われたけど、実際のところ、どうなんだろう?

 たしかにボクは、遠野留美時代に、iPS細胞をはじめとする再生医療に関する論文を、興味本位で、いくつか読んだことがある。


 でも、専門外だし、正直言って理解度は今一つだ。

 本当に、再生医療魔法なんてモノが使えるのだろうか?



 ボク自身も半信半疑だったけど、藁をも縋る……と言うか、清水の舞台から飛び降りると言うか、とにかく自信は無いけどヤルしかない。


 それで、ボクは、その患者の足に向けて、

「再生医療魔法発動!」

 その新魔法を放ってみた。



 頭の中で、論文で読んだ内容をイメージし、そこから壊死した部分が再生されることを強く願った。

 すると、その女性の欠損した部分が再生され、元通りの形に戻った。

 これにはボク自身も驚いたよ。

 ここに来て、ボクは超進化を遂げたんだ!


 でも、これで終わりじゃない。

 この患者の体内には結石があるんだ。


 なので、

「転移!」

 ボクは、この患者の体内から結石を除去した。


 その女性は、

「ありがとうございます。本当にありがとうございます!」

 涙を流しながら喜んでいた。

 ただ、これでボクの人外認定は、より強固なものになったんだろうな。

フィリフォーリアは、アキ-108号と同じ容姿を纏っています。女神達の間で、それが流行している設定です。

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